本作は、うたぼオリジナル曲合作企画「うたえぼ2」参加作品『イズレアヤメ』の原案となったSSです。あくまで原案なので動画の方とはかなり乖離してますが、まあ雰囲気は同じです、多分。


うたえぼ2とは、うたぼ投稿者・絵師・ボカロPがチームを組んで、トークソフトが歌うオリジナル曲を制作する企画です。


※うたぼ:歌うボイスロイドの略称。歌ボと表記することも。

ニコ動:https://www.nicovideo.jp/watch/sm42784586

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『抑えきれないの』

「あーっ! また研究室でタバコ吸ってる!」

「…………」

 

研究所のとある一室。貸し与えられた研究室でヤニを補給してるところにかけられる声。

私は手元の資料から目を外し、その声の方へ目を向ける。そこにはダンボール箱を抱えたままこちらにヤジを飛ばす助手の姿があった。

 

「ちゃんと喫煙所で吸ってくださいって!」

「喫煙所じゃ資料が見れなくてな。周りからの視線もあって、いまいち好みではない」

 

灰になったタバコの先端を灰皿に落とす。それに倣って助手も箱を私の側へ降ろした。

 

「てかどっから持ってきたんですかその灰皿。昨日所長直々にタバコ諸共処分されたばかりですよね?」

「…………」

「しかもトバリさん昨日タバコが処分されてからずっと、この部屋から出てないですよね」

「確かに、出ていないな」

「じゃあどっから出てきたんですか、その煙草」

「女には隠し事の一つや二つあるだろう、紲星」

「あくまで隠すつもりなんですね……」

 

答えたくない。助手、というより紲星には尚更。

きっと、更に幻滅してしまうだろうから。

 

「ああ、私の憧れてたトバリさんはどこへ……」

「…………」

 

助手が天を仰ぐ。それをよそに短くなったタバコの先端を灰皿で潰し、それをそのまま灰皿に放り投げる。そのままの勢いで手のひらサイズの紙箱から新しいタバコを取り出す。次にライターの蓋を開き、フリントを擦る。フリントから火花が散ると共に、ライターに火が灯る。

 

「また吸い始めてる! 沢山吸うのは体に──わぷっ」

 

2本目のタバコに火を付けた途端、こちらに詰め寄る助手。その顔目掛けて、煙を吹いた。タバコの煙を相手に吹きかける行為には色んな意味があるが、紲星はそんなこと知らないだろうから大丈夫だろう。

 

「タバコの一本二本くらい良いだろう」

「はあ……。じゃあ、あと一本ですよ?」

 

助手の呆れた顔を見る。

……ふと、疑問が湧いてきた。

 

「ところで紲星」

「はい?」

「何故、私に憧れてるんだ?」

「それは……」

 

おおよその答えなど想像がつくが、もしかしたら違うのでは? と思って問いてみることにした。

 

「一つ目はやっぱり『いつでもクール』なとこですね」

「意識したことないが」

「周りからはそう見えてるってことです」

「そういうものか」

「そうです」

 

私自身、『クールにしている』という自覚は無い。ただ、そこの助手に関しては『クール』とは言い難いため、比較するとそう見えるということだろう。恐らく。

 

「二つ目は『かっこいい』とこですね」

「は?」

「トバリさんが男だったら一言目に告白してるとこでした」

 

なんだそれは。『頭痛が痛い』みたいになってないか?

 

「それはいいが、『クール』とはどう違う?」

「クールは性格、かっこいいは容姿を指してます!」

「……なるほど。紲星の押しが強いってことだけは理解した」

「ホントに分かってます?」

 

もうお腹いっぱいだ。心に響く何かを期待していたが、検討違いだったようだ。

 

「紲星の言いたいことは何となく理解した。もう大丈夫──」

「最後の三つ目はですね」

 

言葉を遮られた。どうやらまだ憧れポイントがあるらしい。私は資料に戻しかけた目線を再び助手へと向ける。心做しか先程より凛としている。

 

「私のこと、キチンと見つめてくれてるところです」

「…………」

 

パサ、と、手に持つタバコの灰が床へ落ちる音が聞こえた。

ダメだ、平常心を保て、夜語トバリ。

取り敢えずタバコを吸う。そしてそのまま紲星へと煙を吹いた。

 

「わぷっ」

「当たり前だろう、紲星。お前は私の助手なんだぞ。博士が助手の面倒見ないでどうするんだ」

「そうじゃなくて──」

 

紲星が何やら高説を垂れているが、私の脳内はそれどころではなかった。

──私のこと、キチンと見つめてくれてるところです。

彼女の言葉が脳で反覆される。裏を返せば、私がいつも目で追いかけているのがバレているということ。

いや、違う、私は……。

 

「他の人のことは『お前』って呼ぶのに、私だけ名前で呼ぶじゃないですか」

「…………」

「だから、ちゃんと私の事気にかけてくれてるんだなって」

「ぐ…………」

 

……彼女になら、言えるのではないか。

脳裏に過ぎる、そんな言葉。人格が二つに分かれているような気分。間違いなく、私の心は揺れている。内なる欲が叫んでいる。少しだけでも解放してくれ、と。誰にも見せたことの無い感情を出せ、と。

 

「やめろ紲星、それ以上褒めるな」

「え?」

「紲星の憧れの言い分はよく分かった。もう充分だ」

「アッハイ」

 

しかし、それを見せたら紲星は離れていってしまうのではないか。憧れの眼差しが侮蔑の眼差しに変わってしまうのではないか。微かに残っている理性が、警鐘を鳴らす。

 

「じゃあ、次はトバリさんが私の事を教えてくれる番ですね!」

「……何?」

 

その理性が警鐘を殴り、警鐘は音を立てて崩れ落ちた。私は今、恐らく過去一番のアホ面をぶら下げていることだろう。周りに人がいる状況じゃないのが救いだったか。

 

「私が褒めてばかりじゃ不公平じゃないですか!」

 

……そうか。もう、いいんじゃないか?

 

「……良いんだな?」

「えっ、は、はい……」

 

何かのはじける音がした。

紲星が了承を口にしたんだ、もう抑える必要は無い。

彼女の『憧れ』から外れようと、それは彼女の自己責任だ。

……いや、憧れられている私とそうでない私の両方を見ることができるんだ。彼女からすれば得なのではないか? 両方の私を見て、甲乙つけ難くなる可能性すらあるのでは?

その思考に辿り着いた私は衝動的にタバコの火を消し、紲星が上目づかいになる距離感まで詰める。

 

「トバリさん……?」

「本当に、教えてほしいんだな?」

「あ、えと、その……」

 

紲星の深い青の瞳は四方八方へと揺らぎ、私を直視できずにいるようだ。

私は彼女の顔に手のひらを添えて、目線を無理矢理こちらへ向ける。彼女の小さな悲鳴が聞こえたが、気のせいだろう。

彼女は観念して、その瞳をこちらへ固定する。私はその瞳をただ見つめる。

 

「と、トバリさん、近い……」

「…………」

 

気付けば、お互いの息遣いが把握できる距離感まで近づいていたらしい。彼女の頬が徐々に朱に染まる。

 

「し、し、仕事に戻りますうう!」

「お、おい紲星!」

 

だが、紲星は素早く後ろへ身を引くと、顔を真っ赤にさせたまま慌ててドアから出ていってしまった。

 

「紲星……」

 

……だが、悪くはなさそうだった。

一人取り残された部屋で、ただ茫然と紲星の出ていったドアを見ていた。

 

「近すぎてもダメ、か……」

 

 




_____________________


<一応簡易的な設定>


紲星あかり:20歳
夜語トバリ:28歳

表感情
紲星(憧れ)→→トバリ

裏感情
紲星→→ ←←←←←←(溺愛)トバリ

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