「じゃあそろそろ行こっか」
「そうだね。家の近くにも扉、あるかなあ」
「あるわよ、きっと。それに、もし無くても私と一緒に来れば良いわよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はじまりはきっと、子どもの頃に本で読んだ1冊の本。
何でもできる銀髪のエルフと必死について行く魔法使いの二人組が世界中を旅する話。
海中に咲く薔薇を探したり、黒竜から全力で逃げたり、いろんなお話があって、何度も何度も読んで憧れた。
何度も読みすぎて、お父様からいい加減飽きないのかと呆れられたこともある。
それくらいには気に入っている本。
それは今でも変わらなくて、創作だってわかっていながら本で読んだ物を見たいと思ってトレジャーハンターになった。
たまに獣を狩ったりするのは大変だったけど、冒険は楽しかったし、友だちも出来た。
必死に探したお宝が金貨1枚の価値だった時は友だちと一緒にお酒飲んで笑い合った。
その友だちが暫く暗号解読するっていうから一時的に別れて、憧れを探そうと手がかりを探すと、海中に咲く薔薇の情報が入ってきた。
曰く、どこぞの将軍様が20年過ごした無人島に似たものが咲くらしい
思い立ったが吉日。すぐに出発した。
航海のやり方を勉強しておいてよかった。
「まさか最初に掴んだ手がかりが海中の薔薇だなんて」
最初は順調だった。大きな嵐もなく、羅針盤と星を頼りに進む。
何度か港に寄って補給をしてさらに進む。
そうやって1ヶ月ほどが経った時、嵐に見舞われ転覆。
遭難した。
目が覚めたら無人島の砂浜に流れ着いていて、船は大破していた。
一応、友だちには3ヶ月で戻ると伝えてあるから、いつか探してくれるだろう。
問題は、最低でも4ヶ月は生き延びないといけない事。
幸運にも島に生態系はあるし、食事に困ることはないと思う。
探検していたら洞窟があったから寝床にした。
食事には島に住んでいる獣を狩った。あんまり多く狩ると生態系を壊してしまうし、大きな獣を1体だけ。採れた肉は極力全て食べる。
本当は野菜も食べたいけど、植物の知識はないし贅沢は言えない。
毒にあたったら助かる保証無いし。
獣を狩って、食べて、海岸線を眺めて、夜になったら洞窟で眠る。
そんな生活を続けて7日目の朝。
「お腹減った......な」
薄暗い洞窟で7本の数が無数に刻まれた壁を背中に、膝を抱えて丸くなる。
まさかこんなことになるなんて、思わなかった。
最初に狩った獣で作った干し肉も無くなった。
また狩らないとなぁ......なんて思っていた矢先、私以外誰もいない洞窟に突如扉が現れた。
猫が描かれた豪奢な黒い扉だ。猫の下には何か書かれているけど......知らない言葉だ。
魔法......だろうか。私に魔法は扱えないから今ひとつわからない。
もしかしてどこかに繋がっていたりするのかな?
......開けてみよう。危なそうだったらすぐに閉めよう。
どこに繋がっているかわからないけど、扉を潜らなければ大丈夫なはず。
扉を開くとベルの音が響く。
おそるおそる覗いてみると、熱の感じない灯りに照らされ上品な調度品に囲まれた空間が広がっており、いろんな人が食事をしていた。
貴族に魔族、あれってリザードマン?それに獣人やエルフ、ラミアまでいる。
しかも友だちが銀髪のエルフさんと同じ机で何かを食べているし。
「あら、ディアじゃない。あなたも扉、見つけたのね。ねぇ"おにぎり"、あの子も相席していい?」
──いいよ。ご飯美味しいから。
「ふふ。ありがと」
おにぎりさん?は何も言ってないと思うんだけど......本当にいいの?
おそるおそる空いている席に近づくと、奥から給仕であろう2人が料理を持って出てきた。
金髪で黒いツノを持った少女と全体的に黒いエルフの少女だ。
「いらっしゃいませ!」
──いらっしゃいませ。
!頭に直接!?
なんか妙な感じ。エルフってこんなこともできるんだ.......。
「あ、うん。ねぇ、ここって......」
「ここはねこや。7日に一度開店する異世界食堂よ」
「異世界......?」
そういえば、何を食べているんだろうか。
サラの前にあるお皿には茶色くて丸い何かと刻んだ野菜がある。
おにぎりさんの方には白い三角形があった。
「ま、とにかく食べてみなさいよ。メンチカツなんて最高よ?」
サラがここまで言うなんて珍しい。
そこまで言うならと寄ってきた金髪の給仕にメンチカツとやらを注文する。というか、サラと同じものを注文した。
私の注文に合わせてサラもおかわりを注文していた。
「それで、見つかったの?憧れのお宝」
「目的地まで行けなかったのよ。その......遭難......しちゃって」
「うそ!?大丈夫なの?」
「ちょっと助けて欲しいかも......。無人島だし」
「助けてあげたいのは山々だけど、島がわからないと......なにか手がかりはないの?」
「そうね──」
とりあえず思い当たる事を手当たり次第に話す。
手がかりらしいものはないけど、サラは私より博識だ。
何か知ってるかもしれない。
「──後は、7ずつ数えた跡が無数にある洞窟があるくらいかな。扉もその洞窟に出たの」
「うーん......誰かが扉を使ってたのかしら。
「すまない、お嬢さん方。盗み聞きするつもりはなかったのだが、お困りのようだったのでな。もしかしたらその島はワシが過ごしていた島かもしれん」
サラが難しい顔していると隣の机で食事をしていたおじさまが声をかけてきた。
「"カレーライス"。その場所ってわかる?」
「うむ。調べるのは造作もないが、
よくわからないけど、4ヶ月の遭難期間が短くなるかもしれない!
「全然助かるわ。ありがとう!カレーライスさん」
「なに、構わんよ。ここは食事を楽しむ場だ。それを邪魔するものは無い方が良い」
そう言うとカレーライスさんは食事に戻っていった。
そして、入れ違うように給仕さんがやってきた。
「お待たせしました!メンチカツです。お好みでソースとレモンを使ってお召し上がりください」
「ありがとう」
よく見たら給仕の子、サラが雇ってる家政婦の子ね。
たしか、アレッサだったっけ。
「ほら、食べてみて」
「急かさないでよ」
その日、私史上一番美味しい料理が更新された。
さくりと軽い衣に塩と胡椒が絶妙に効いた肉。それらがたっぷりの肉汁と混ざり合い、口の中でほどけていく。
噛めばしっかりと肉の味が広がり、確かな満足感を得ることができる。
レモンをかければ口の中に残る脂の味が消え、すっきりとした味になる。
ソオスには色んな野菜が使われているのだろうか、野菜や果物特有の風味が混ざり、より一層深い味になる。
刻まれた野菜はおそらく葉の野菜で、水分が多く含まれており、どうしても残る口の中の脂を洗い流してくれる。野菜自体も柔らかく野菜特有の甘さを感じる上質なものだ。
定食と言って共に出されたパンとスープも質が高かった。
パンはあり得ないほど柔らかくて香り高く、それだけで銀貨1枚払う価値がある。
スープは
正直、パンとスープだけで十分ご馳走だった。
サラがおかわりをするのも頷ける。これは美味しい。
好物の
遭難中でなければ私もお腹いっぱいなるまで食べていただろう。
「ふぅ......美味しかった」
思わず漏らした感想を聞いたサラがニマニマと嬉しそうに笑っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
2ヶ月過ごした無人島を振り返る。
海中に咲く薔薇は無かったけど、また別のお宝は手に入った。
遭難はもうコリゴリだけどね。
「本当にありがとう、サラ」
「良いわよ。私が遭難したら助けてもらうから」
ディア
ショートに整えられた灰髪と黄色の瞳を持つ女性。
冒険譚に憧れてトレジャーハンターになった。
無いとは思いながら憧れの冒険譚に出てくる宝や場所を探している。
その一環で冒険に出たがあえなく遭難。
あわやと言うところで幸運にも扉を見つけた。助けてくれたサラとカレーライスさんには頭が上がらない。
既に常連になっていたサラ・ゴールドと相席しメンチカツの美味しさを知った。
なお後日、気まぐれに頼んだコロッケにハマる。
コロッケにハマって以降は"コロッケ"と呼ばれるようになる。
メンチカツにハマっていた頃は"メンチカツの白い方"とか呼ばれていた。
サラ
メンチカツ大好きトレジャーハンター。
最近常連になった"おにぎり"と相席している時に相棒が来店した。
遭難したと聞いた時はいっぱい心配したが、無事助けることができて安心した。
アルフォンス
カレーライス大好き貴族。
自分が20年過ごしていた島に遭難したと聞いて居ても立っても居られなかった。
無事助けることが出来たと聞いて安心した。
吸血姫
おにぎり大好き吸血鬼。
席がなかったため"メンチカツ"と相席してた。
食事に夢中で相席が増えたことは気にしていない。
過去の話が本になっていたりいなかったりする。
作者
メンチカツの描写が原作にあるため少しサボった。