『みんな』幸せのハッピーエンドが見たいだけだ   作:ラトソル

8 / 8
短い


それでも過去は戻らない

「チョコ食べる?」

 

 ────嗚呼、これは夢だ。在りし日の、今は遠き昔の思い出。

 

「ミルク味が良いです!!」

 

 私の、藤丸立香の甘い初恋。彼はいつも大量のチョコレートを常備していて、私が部屋を訪れる度に食べさせてくれて。

 

 けれど、私にとってチョコは彼と話すための口実で。何よりも大切な、かけがえのない二人きりの時間を過ごせる数少ない空間。

 

「えっ、美味しい!!!」

 

 途中からは、チョコレートが美味しすぎて初めの目論見も薄れていっていたけれど。

 

 彼を好きになったキッカケはひとつには絞れない。確かに言えることは、気付けば彼の姿を探していた。その時にはもう、私は彼に恋をしていた。

 

 彼……怜さんは、私と同じ日本人で、カルデア職員の1人だった。

 ドクターのような重役では無くて、ごく一般的な職員だった。ヘルスケアの観点から、ドクターの補佐役を務め、その他雑務が彼の仕事。

 

 けれど彼の存在は皆が知るもので。特別愛想が良いとか、そういうことではなくて、けれど時折見せてくれる笑顔は周りを惹きつけるものを備えていて。

 

「特異点の修復が終わったら何時も俺の所来るけど、俺の部屋そんなに良いか?」

 

「えっ!?」

 

「別に何も無い部屋だし。まあチョコならあるけど。お前のサーヴァントに独占するなって怒られそうだよ。清姫とか」

 

「そ、そんなことはないと、思います……はず」

 

 嘘だ。清姫ならやりかねない。というか殺りかねない。音もなく背後に忍び込んで丸焼きにしそうな予感が凄い。そう考えたら、怜さんの命の危険を感じたために四六時中隣にいなければ、と考え付き、ならお風呂も……と考えた辺りでぼふんっと顔が沸騰する熱を感じる。

 

「こわ……」と横で呟く怜さんの顔を見れない。

 空調は完璧なはずのこの部屋で、それでも私の顔は猛暑日並に熱が籠っていて両手でパタパタと風を扇ぐ。

 

 怜さんからの微妙な視線から逃げるようにチョコレートの包みを三つほど開いてから一気に口に放り込む。少し固い口溶け。蕩けるような舌触りではなくて少しざらついた、けれど不快では無い美味しいチョコレート。

 ビターチョコを手に取ったはずなのに、何故か甘味を感じてしまう。

 

 自然と綻ぶ頬。この空間でだけは、私は人類最後のマスターでは無くて、恋する女の子になれるから。

 

「もう五つも特異点を修復したんだろ? 凄いよ、立香は」

 

「そう……ですかね?」

 

「気難しいサーヴァントと縁を結んで力を貸してもらう。お前だから出来た偉業だよ。普通の魔術師じゃ逆に殺されて終わりだ」

 

 怜さんの手を見る。

 細く、けれどしっかりとしていて、整えられた爪がとても映える。

 私の手なんかよりもよっぽど大きくて。その手の甲にはなんの痕もない、綺麗な手だった。

 

「尊敬してるよ」

 

「ぁ……ありがとう、ございます」

 

 嗚呼。これは夢だ。その事実を再確認する。

 

 彼の目線が私に向けられていて、言葉を掛けられて、表情を見せてくれて。

 

 なんて幸せな夢なのだろうか。なんて残酷な夢なのだろうか。

 

「イシュタル」

 

 いつから彼が私の名前を呼んでいると錯覚していたのか。

 彼の瞳が私にだけ向けられていると思い込んでいたのだろうか。

 

 ────これは『みんな幸せのハッピーエンド』を迎える物語では無い。

 

 どちらかが消え、どちらかが生存する殺し合い。

 

 決して彼は私達側に与することは無く。

 

 彼は彼の世界を、私は私達の世界を守り、取り戻すために戦うのだろう。

 

 夢の景色が回る。

 キャンバスに絵の具をぶちまけたようにぐちゃぐちゃなものになって。

 

「さぁ……根源を見せてやる」

 

 熱を感じて、風を感じて、孤独を感じて、喪失感を得た。

 巡り、廻り、また環る。

 

「俺はカルデアじゃない」

 

 転々と景色が変わる。

 今までの記憶。過去の再生。彼の温度を感じて、けれど視線は向けてくれない彼の姿。

 

 さらに奥へ。彼から逃げるように奥へ、奥へ。

 

 そうして辿り着いた終着地点は、なんてことは無い円卓だった。

 

 顔の見えない誰かが座っている。円卓というものは私も知っているものだ。

 

 けれど、それは私の知るものとはかけ離れたもので。

 

『グランドセイバー、此処に』

 

 その剣は、星の輝きそのものだった。

 

『グランドランサー、此処に』

 

 その槍は、何物よりも鋭く、紅い。

 

『グランドアーチャー、此処に』

 

 その肉体は、万物を弾く鋼となった。

 

『グランドライダー、此処に』

 

 その舟は、世界を運ぶ方舟となった。

 

『グランドアサシン、此処に』

 

 その男/女には、顔が無い/有る。

 

『グランドキャスター、此処に』

 

 その瞳は、万物万象を見通す神の瞳だった。

 

『グランドルーラー、此処に』

 

 その剣は、世界を扇動する旗となった。

 

「────殲滅しろ」

 

 円卓は平等でなくてはならない。

 

 その根底を軽々と覆すかのように、彼は玉座の上から世界を滅する号令を呟く。

 

(嗚呼────)

 

 そんな彼の視線は、もう……私に向けられることはなかった。

 

 そして────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 大西洋異聞帯・オリュンポスにて。

 

「行け」

 

 跡形もなく機体を破壊され、機能を停止した機神を背に、キリシュタリア・ヴォーダイムは人生においての最大級の警戒をその男へと向ける。

 

「何者だい……キミは」

 

 従えたサーヴァントは既に座へと還っていた。全てが蹂躙された。

 

 数ある異聞帯の中でも戦力という面においては頂点に近しい彼の異聞帯は一人の男と、彼に従う三騎のサーヴァントによって以前までの姿は消えてしまっていた。

 

 計画の達成間近で突如乗り込んできた男に、キリシュタリアは問いを投げかけなければならなかった。

 

 なればこそ、その男の返答は決まりきっていたのだろう。

 

「ただのマスターだ」

 

 キリシュタリアが展開した魔術の全てが、その男が従える厳のようなサーヴァントの持つ弓で撃ち落とされる。

 

 目を見張るキリシュタリア。彼の目を焼き焦がすかのような星の輝きが収束していく光景を目にして、キリシュタリアの意識は途絶えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

聞こえるか、この鐘の音が()(作者:首を出せ)(原作:ロクでなし魔術講師と禁忌教典)

それはある信者の剣。▼自身の信念と信仰を捧げ、終わらぬ生涯振り続けたまさに信念の剣。それが振るわれるのは天が告げし鐘。彼のものは、天の告―――その代行者だった。▼身の丈に合わない。まさにその通り。少年はその鐘の音を自らの意思とは関係なく受け継ぐこととなった。自身にその力は重すぎる。そう自覚していても、守りたいもののために彼はその鐘を鳴らす。▼「―――聴くがよ…


総合評価:14346/評価:8.42/完結:24話/更新日時:2017年09月14日(木) 22:20 小説情報

才能無くて首吊ったら美少女に憑依したけどこいつも才能無くて首吊ってた(作者:小中高校道徳の成績5でした)(オリジナル現代/日常)

才能無くて首吊自殺したら同じく才能がなくて首吊り自殺をしようとしていた女子高生菜野乃至(さいのない)に憑依した。▼その世界は顔を売る文化が根強く顔を明かし活動する人達だらけで。彼女もまた、アイドルを目指して活動していた。▼乃至も美少女ではあったものの個性のある美形ばかりで彼女はせいぜい『モブにしては可愛い』程度だった為にどこのアイドル事務所のオーディションに…


総合評価:21536/評価:8.23/連載:33話/更新日時:2023年03月02日(木) 21:03 小説情報

透き通る世界で、月の香りがした。(作者:エヴォルヴ)(原作:ブルーアーカイブ)

 ゲヘナ学園の生徒とも関わりを持つ月見アラヤという少女は、トリニティの中でも有数の異端者であった。何を考えているのか分からない得体の知れなさや、凡人には理解できぬほどの高次元的思考から発される言葉の数々に、誰もが困惑し、恐怖し、目の上のたんこぶや腫れ物のように扱った。▼ だからだろうか。月見アラヤという少女を恐れた権謀策略を巡らせる生徒の手引きにより、殺され…


総合評価:7951/評価:8.33/連載:32話/更新日時:2025年04月29日(火) 22:34 小説情報

最強の盾は橘福福しか見えなくなる。〈旧題:最強の盾〉(作者:カブトムシの相棒)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼大姉弟子に一目惚れをした男を書いてみたくなったんや。


総合評価:1636/評価:9.05/連載:15話/更新日時:2026年05月07日(木) 01:52 小説情報

FGO主要キャラ全員生存縛りRTA(1部)(作者:でち公)(原作:Fate/)

Fate/GrandOrder RPG(架空)にて原作主要キャラ全員生存とトロフィーの『スノードロップ』を目指すRTAとなります。▼最速というわけではありませんがかなりいい記録が出たので残しておきます。▼


総合評価:35889/評価:8.79/連載:81話/更新日時:2024年01月12日(金) 16:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>