連星の輝きが世界を覆い、また一つ伝説を打ち立てた。
そのニュースは日本の中を大いなる祝福と共に駆け巡って、しかしそれが作り出した熱狂も、時が経てば次第に鎮まってゆく。
そこから三、四日ほどお茶の間の話題の中心となり続けた彼女たちの快挙は、その後は余熱ばかりを残して、果たしてこの国の人々は、日常へと回帰していった。
さすればその代わりに国内のトゥインクル・シリーズのファンを沸かせるのは、当然と言うべきか、今年のクラシックについてである。
ただやはり、その話題の中心にあるのはこの年に限ってはトリプルクラウンの方ではない。ティアラの方であった。
ダイワスカーレットはダイナファントムとディープインパクトの二人が日本を発った次の週、阪神レース場の秋華賞前哨戦たるローズステークスを危なげなく逃げ切り勝ちし、次走に備えていた。
そしてもう一人のウマ娘、ウオッカの方は、また一つ型破りなレース選択を強行しようとしていた。
つまり彼女は、ダイワスカーレットのように秋華賞を次走には選択
それだけではない。代わりにウオッカは、あろうことか
しかしこれは、無謀と無鉄砲の産物である、というわけではなかった。つまり、理由があったのである。
事の発端は、今年の夏にまで遡る。実は彼女はそのとき、つまり今年の夏合宿の中で、右脚を軽く傷めてしまっていた。その快復にやや時間がかかった関係で、一時的に彼女は右回りの周回に支障を来していたのだ*2。
そのようなコンディションで、もはやライバルとなったダイワスカーレットに挑むことは難しい。しかしだからとて治療と違和感の解消に専念するからと、この貴重なクラシックの秋シーズンを棒に振ることはできない。
そこで必然的に浮かび上がったのが、逆転の発想――「左回りの大きいところを取る」という選択であった。
そんなウオッカの前には、二つの選択肢があった。即ち秋の左回り、つまるところ府中のGⅠには、二つほどレースがある。一つが秋の天皇賞で、そしてもう一つがジャパンカップであった。
秋の天皇賞はウオッカにとって府中における初めての条件である。翻ってジャパンカップはシニア級との初めての戦いであるとは言え、このコースの二千四百メートル条件を彼女はすでに戦い、そして勝利していた。
そうなると、普通はジャパンカップを選びたくなるのが人情というものである。
しかしなんとウオッカは、それを選ばなかった。彼女は秋の天皇賞のほうを、出走するレースとして選択したのである。
それは偏に、秋に二走を実現したいという要求から来ていた。つまり彼女は、秋天で結果を残したあと、右トモの状態をしっかりと戻して、有馬記念に出走することを明確に目指していた。
何となれば、最後かもしれないからだ。否、間違いなく最後になるからであった。ダイナファントムとディープインパクトの二人、世代を、日本を、そして世界を代表する双子星と競える機会は、もはやそこにしか残っていなかったからである。
現実的に勝利可能なレースを選択するというクレバーさと、その上で夢を追う情熱の、相反する二つを両立させんとするのが、ウオッカのやり方であった。
そういうわけでウオッカは次走に秋天を選び、結果ダイワスカーレットはある種
なれば、もはや彼女には勝利しか期待されていない。「勝って当たり前」、そう言う空気が、確かにダイワスカーレットの周りには存在していた。
そしてダイワスカーレットというウマ娘は、そんなある種不躾とすらも言えるような期待を、しっかりと力に変えることができるウマ娘であった。
当日の京都レース場、予てより磨き上げてきた番手のレースを今回も墨守して、夏の上がりウマ娘として名乗りを上げてきたヒシアスペンを前に置いての道中を、三コーナーで押さえきれないとばかりに速めの仕掛けで先頭に立てば、あとはただ後続との差を広げていくばかりの完璧な押し切り勝ち、横綱相撲で彼女はそのレースを、秋華賞を勝ってみせた。
二着であるレインダンスとの着差は
これもまた、日本のウマ娘レース史に残るべき確固たる功績に相違ない。トゥインクル・シリーズのファンたちは、その一週前に遂げられた快挙と合わせて、この年もまた後世においてエポックメイキングとなるような貴重な光景の目撃者となれたことに、その幸運に、深い感慨を覚えていた。
あるいはそれも、「三女神の思し召し」であろうか、と考える者も決して少なくはなかった。
そして今一人の、つまりウオッカの方であるが、彼女は秋の天皇賞において同じチームに所属する二冠ウマ娘、メイショウサムソン*4とぶつかることになった。
今の奈瀬トレーナーは、そう言う意味では二冠ウマ娘を二人抱えているのである。即ちディープインパクトと、そしてこのメイショウサムソンである。ダービーウマ娘という意味では、ウオッカも含めて三人だ。なんとも豪華なチームであるが、兎も角そのうちの二人が、図らずも錦秋の府中の舞台で激突することになった。
はっきり言って、今年のメイショウサムソンは強い。宝塚記念こそダイナファントムとディープインパクトという、ある種の「災害」の前に敗れ去りはしたが、年の初戦の産経大阪杯からその次の春の天皇賞と立て続けに一着を取ったことで、シニア一年目組の旗手としての存在感を遺憾なく発揮していた。
そんな彼女に真っ向から、チームメイト、というより「後輩」たる立場のウオッカが挑戦状を叩きつけたのが、今の構図である。
無論、それはチーム内での合意を済ませた上でのことではある。しかし、いやそうであるがこその「忖度なし」ともとれる不敵なレース選択と、それがもたらす名門チームメイト同士のマッチメイクは、これはこれでトゥインクル・シリーズのファンたちの心をがっちりと掴んでいた。
そんなざわつく空気を纏いながら時は過ぎて、秋華賞の二週間後の日曜日がやってくる。
その日の府中は、まさに純度百パーセント、まごうことなき真っ向勝負の舞台であった。「メイショウサムソンとウオッカの一騎打ち」の行方こそが、この場に居合わせた数多の観衆の興味の第一に向かう先であった。
そして斯くの如き人々の期待を載せて始まった秋の天皇賞は、一枠一番、最内に入ったメイショウサムソンと、四枠七番*5、丁度真ん中の辺りを配されたウオッカの二人を当然に軸として進んでいく。
その枠の配置を活かすかの如く抜群の飛び出しから結果好位の最内に入れたメイショウサムソンのことを、五分の出から中団に潜り込んだウオッカが完璧にマークする。道中は彼女たちが中団でその存在感を発揮し続け、出走している他のウマ娘たちもそんな彼女たちの動向には気を配らざるを得なかった。前半千メートルが五十九秒六の平均ペースで進んだのも、結局のところは中団前目に居座るメイショウサムソンとウオッカの位置取りを常に意識しながらレースを進めなければならなかった先行勢の事情によるところが大きいと言えた。
そのまま全く緩むことなく迎えた最後の直線、結果全く息を入れることのできなかったコスモバルク含めた先行勢が一斉に外へとヨレつつ退避していく中を、内からロスなく進めたメイショウサムソンとウオッカが抜け出てくる。
バ場のいいところを探して右に斜行しつつ進路を確保しようとするメイショウサムソンに、絶妙なコーナー加速で内をすくったウオッカが一気に襲い掛かる。そのまま二人はあっという間に後続を引き離しつつも壮絶なたたき合いを演じて、観客たちはその理想とも言える終盤の攻防に熱狂の歓声を上げ続けた。
そしてその末で――ウオッカは、ほんの僅差、アタマ差でメイショウサムソンに敗れ、二着となった。
理由としては、やはり経済コースとは言えども内の荒れたバ場で十分な推進力を得られなかったウオッカと、多少のコースロスもいとわず周囲を牽制しながらバ場の三分どころの比較的綺麗な芝の上を走ることのできたメイショウサムソンの、「足元の差」というところになるのであろう。レースの中における一瞬の判断、センスというものは、やはりシニア級のウマ娘の方にこそ一日の長がある。今回の結果が示すのはそう言ったところであった。
しかし同時に、それはウオッカというウマ娘が「未熟」であるはずのクラシックの、更にティアラ路線からそれほどまでにメイショウサムソンを追い詰めた、ということも同時に意味していた。
――さすがは今年のダービーウマ娘、強さは本物である。シニア期以降が、あるいはダイワスカーレットと次にぶつかる時が楽しみだ。
そういう声が、ウオッカの今回の戦いぶりには寄せられることになった。まごうことなく、来年以降のトゥインクル・シリーズの柱石となるべきウマ娘である、と。
とはいえ、それでウオッカというウマ娘が納得するか、それでよしとするかと言えば、全くそんなことはない。
「負けて賞賛されるなど屈辱の極みである」というのが、つまるところの考えであった。彼女自身の言によるならば、「負けたのに褒められるなんてすげーカッコ悪い」といったところである。
ウオッカはそれからというもの、次走の有馬記念に向けての準備に全く余念がなかった。奈瀬トレーナーも、そしてそのまま次走でぶつかるであろう己の先輩、目標とするところのディープインパクトにも物おじすることなく教えを乞うて、右回りのパフォーマンスの回復と、さらなるレース技術の、そして身体能力の向上のために、調整を重ねていった。
斯くの如くに、トゥインクル・シリーズの現況は目まぐるしく移り変わり、新世代の台頭もまた目覚ましく、界隈は絶えず活気に包まれている。
そんな外界の様子をよそに、ダイナファントムとディープインパクト、二人のウマ娘はどこまでも粛々と、来るべき年末、
そうなのだ。彼女たちがファンの前に姿を現す「最後のとき」は、少しずつ、否応なく近づいている。小出しにされる彼女たちのトレセン学園での動向が、年末の大一番を文字通りの「頂点」に据えた二人の仕上げ方が漏れ聞こえてくるたびに、トレセン学園の関係者も、そうではないトゥインクル・シリーズのファンたちも、そう遠からずやってくる「その日」のことを、そろそろ考えざるを得なくなっていた。
それは、一つの時代の終わりだった。二年前の皐月賞、いや三年前のメイクデビュー戦から始まった二人のウマ娘の織り成す協奏曲は、いつしか国すらも飛び越え世界すらも巻き込んで、今や一つの巨大な波となっていた。
まさしく、この二人の存在なくしては、世界のウマ娘レースを語ることはできない。そういう存在へと、彼女たちは至っていたのである。
しかし同時に、この世代は更に多くのウマ娘による海外での活躍が見られた世代でもあった。
一人はシーザリオである。彼女はクラシック期のアメリカンオークス招待ステークス、そしてシニア一年目、脚部靱帯炎を乗り越えた先に再びの遠征で掴んだ同じくアメリカのBCフィリー&メアターフに、明けて今年の春、香港はシャティンレース場での二千メートル戦、クイーンエリザベスⅡ世カップと、海外にて三つのGⅠを獲得していた。国内で獲得したオークスとヴィクトリアマイルに、今年のエリザベス女王杯*6の三つのGⅠタイトルと合わせれば、彼女はその頭に六つの冠を戴いている。ティアラ路線を進んでいるとはいえ、ディープインパクトとダイナファントムの「連星」の時代におけるティアラ路線の総大将としての貫禄が、そこにはあった。
そして――今また一人のウマ娘が、
時は有馬記念の三週間前、場所は香港、シャティンレース場の、国際招待競走の集中開催日である香港国際競走の一つ、香港マイルに、今かのウマ娘は挑んでいた。
その様子は、栗東寮の談話室のテレビに映し出されている。
有馬記念をいよいよ間近に控える国内のウマ娘たちは平日の授業が終わるや連日のトレーニングに忙しく、しかしこの日ばかりは、遠征する日本のウマ娘の応援のためにと誰も彼もがこのテレビの前に集まっていた。
ダイナファントムにディープインパクト、そしてシーザリオの同期三人組に加えて、メイショウサムソンやポップロックと言った一つ世代の下のウマ娘の姿もある。そして当然と言うべきだろうか、ダイワスカーレットとウオッカの二人も、それぞれのチームの先輩に倣うような形で、日本のウマ娘たちの挑戦の様子を見守っていた。
香港スプリント、香港ヴァーズの両競走に日本から挑んだウマ娘はおらず、一方で今映し出されている香港マイルには、今年は二人のウマ娘が日本から参加していた。一人がラインクラフトで、そしてもう一人もまたダイナファントムたちと同世代のウマ娘、コンゴウリキシオーである。
今、テレビの中ではそのコンゴウリキシオーが先頭で隊列を引っ張り、その後ろに残りの十三人のウマ娘が続く形が作られている。二番手には芦毛の毛色が映えるウマ娘、アルカシが続き、その後ろは内にエイブルワン、外にフローラルペガサスの二人がしっかりと張り付いて、そこからすぐ後ろにザデューク、更に背後にヴィジョナリオとクラカドールと、この七人までがほぼ間断なく一つのバ群を形成していた。
そしてその直後、丁度バ群全体としては真ん中の位置にいるのが、ラインクラフトであった。
セントウルステークスで復帰戦を飾ったのち、彼女にとってはこれが二戦目で、そして恐らくは現役最後の戦いである。最低でも、ここに勝てればそうしようと、かのウマ娘は心に決めていた。そのことについて、ダイナファントムは当の本人から聞かされていた。
――続きが走れるだけ、恵まれているって、分かってる。だけど私は、ここを勝ちたい。勝って、戻ってきたことの、来れたことの意味を、証明したいんだ。それを、手向けにしたいんだ。
そんな強い決意こそが、今テレビの中で一心に駆けるウマ娘の、「走るべき理由」となっていたのである。
そして今、その思いを胸に全てをぶつけに来た彼女の透明なる意思が、シャティンのターフの上に描き出されようとしていた。
『さあ最後の直線を向いた、残り四百! 先頭未だコンゴウリキシオー、しかし後ろのウマ娘も広がって一気に襲い掛かる! ラインクラフトもやや外に持ち出して追い込み体勢だがどうか! 残り三百、バ場の真ん中、フローラルペガサスが伸びてくる! 一気にここでコンゴウリキシオーをかわして先頭! そしてその外バ体を併せて、クラカドールと、
ギリギリまで中団でこらえていたラインクラフトが、自らの内から一気の抜け出しを図ろうとするクラカドールに反応して、強く足を踏み出した。画面越しには聞こえないはずの、その蹄鉄がターフの下の土を踏みつけ、抉る音が、確かに聞こえた。
一瞬だけ後続のグッドババの進路をカットしつつ抜け出しを阻み、結果ワンテンポ遅れてのスパートとなった当のグッドババを左斜め後方一バ身に従えて、クラカドールと追い比べるようにしながらも、外目をすさまじい勢いで上がっていく。中団からあっという間に先団に取り付き、残り二百メートルの少し手前で、既に一歩先に抜け出していた内のフローラルペガサスに、クラカドールとラインクラフトは並びかけていた。
内とは手ごたえが、脚色がまるで違う。つまりあとは外から差し込んできた三人による勝負に他ならなかった。それを理解して、テレビの前のウマ娘たちが色めき立つ。目を輝かせて、食い入るように画面を見つめ、手をぎゅっと握り込んでいた。ダイワスカーレットやウオッカも、シーザリオも、そしてダイナファントムもディープインパクトすらも、そうであった。
『クラカドールにラインクラフト、グッドババの脚色がいい! 一気に先頭で残り二百! 三人そろって追い比べ! 内クラカドールに、しかしラインクラフトだ! ラインクラフト伸びる! ラインクラフト伸びている!』
実況の声が熱を帯びる。「行け!」、「差せ!」、そんな叫びが、誰とはなしに上がっていた。
三人一線のまま進むかと思われた競り合いの中、その瞬間に一人だけ、三人の中央から、頭一つ飛び出る影があったのだ。つまりそれこそが、ラインクラフトであった。
遠目にも歯を食いしばる様子が見える。叩きつける蹄鉄が文字通りに芝を切り裂き、削り取るように掘った土の塊が巻き上がる。良バ場であるはずのかの地にそれほどの傷跡をつけて、全てを燃やすが如くに、ラインクラフトはただ前を目指していた。前しか見ていなかった。
並んで競う相手から、一完歩ごとに僅かな差をつけていく。ハナがアタマに、アタマがクビへと、誰の目にも分かるほどの差が、そこにはできていく。
レースの終局までの最後の二十六完歩はだからこそ、ラインクラフトというウマ娘における集大成に他ならなかった。クラシック春の栄誉も、シニア一年目の夏に突然やってきた陥穽も、それを乗り越えた先の今この瞬間にとって必要なものであったと、無駄なものではなかったのだと、それを彼女は今、まさに証明しようとしていたのだ。
その心意気が、意志のありようが、一完歩に命を燃やす今の彼女の姿から、確かに伝わる。だからこそ今ダイナファントムたちのいる栗東寮の談話室は、その瞬間において画面の向こうのシャティンであった。呼吸を忘れて、その熱にうかされるように、わき目も振らず、人目を憚らず、思い思いに声をあげていた。
――行け!
――押し切れ!
――もうすぐ!
――そのまま!
――ラインクラフト!!
『クラカドール! グッドババ! 差し返そうと、しかし譲らない! ラインクラフト抜けている! ラインクラフト抜けている! ラインクラフト今、突き抜けきったゴールイン!』
その瞬間に、談話室が沸いた。皆思い思いに立ち上がって、自分のことでもないのにハイタッチすら交わして、画面の向こう側の勝利をただ喜んでいた。
「連星の時代」、「連星の世代」における四人目の海外GⅠ制覇者である。そしてそれは短距離路線を本場とする香港における、紛れもなく価値ある勝利であった。
『エイシンプレストンが、ハットトリックが刻んだ香港での勝利! 今ラインクラフトが、見事に継いでみせました!』
余力のまま駆け抜けていくターフの上のそのウマ娘に、カメラがズームする。その胸に揺れるペンダントの輝きが、ダイナファントムの目に眩く映った。
それは一年前の夏、失意の中のラインクラフトから譲り受けたものだった。そこに込められていた祈りを、それを受けて己が刻んだ
――つまりそれは、証明だったのだ。
思いを紡ぎ、願いを繋げたその先であれば、不可能をも覆して、奇跡すらも超越することができるのだと。
だからこそ次は、きみの番だろう、と。
そして成就した夢と共に返した「
ダイナファントムが目にしているのは、その終着点に立つ彼女の姿に他ならないのだ。その実感が大いなる感慨を生み、胸を満たしていくのを、ダイナファントムは自覚した。
斯くして繋いだ襷は、祈りの種は、果ての地で大輪の花を咲かせた。
しかしそれは同時に、彼女を含めたこの「世代」のウマ娘たちが、トゥインクル・シリーズの歴史の中で果たすべき役割を、そろそろ終えようとしていることをも意味していた。
ダイナファントムも、そして当然にディープインパクトも、未だ身体能力に衰えはない。本格化はまさにピークの域に達していて、その気になればあと一年……あるいはもう二年ほどの間は、その全力を発揮して走ることも恐らくできるであろう。その自信は、彼女の中にあった。
しかし今、ダイナファントムがこれ以上この国のトゥインクル・シリーズのターフの上に
ダイナファントムとディープインパクトの二人が、二人
その過程においてこの国のレースの質は確かに向上を見せていて、それはある意味においてはダイナファントムの――と言うよりは「シャダイ」の理想の体現ではあったのだろう。
しかし、もはやそれは十分だ。あとは後進が、この国のレースの質を更に高めてゆくべき時なのだ。
故に今、ダイナファントムはこれから来るべき未来について、思いを馳せる。
ダイナファントムが、ディープインパクトが打ち立てた幾つものレコードも、その少なくない数がこれから後世の数多のウマ娘たちによって、塗り替えられていくのだろう。
しかし、それでいい。いや、むしろそうあるべきなのだ。日本の競走ウマ娘のレベル向上を示すその礎になれるのであれば、その価値を示す物差しになれるのであれば、これに勝る名誉はないのだから。嘘偽りなく、ダイナファントムはそう信じていた。
空港に凱旋を果たしたラインクラフトを出迎え、祝福の言葉をいの一番にかけて、それからダイナファントムは自らのキャリアの終着地、暮れの大一番である有馬記念に向けて、最後の攻めウマ*7を進めていく。
ダイナファントムというウマ娘にとっての、トゥインクル・シリーズにおける最後のときは、もうすぐそこにまでやってきていた。