イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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夢を見て、目が覚めた。
次は叶えにいく番だ。





254枚目 『繋がったミライ』

 

 

 

 

 

 奏が目覚めた後、黒い欠片のことを話してからその場を解散することになった。

 話の内容は大体、奴から聞いていたことと同じだったのでほぼ知っていた話だ。

 

 

(何はともあれ、数年ぐらい普通に活動してたせいか今日はどっと疲れたわ)

 

 

 そんな内心を顔に出ないようにしつつ、セカイから戻るという久しぶり過ぎる行為を行う。

 そうすれば見慣れているような、懐かしさもある自室に帰ってきた。

 

 夢の時間軸から今へ戻るために部屋を出て、いつも通りの行動をしてみる。

 ご飯を食べて、ぼーっとして。テレビかスマホで時間を潰し、お風呂に入ったら何とか感覚が戻ってきた気がするので、自分の部屋に戻った。

 

 

(それにしても……もしもあぁだったならを再現したセカイ、か)

 

 

 日記を並べた棚から数冊抜き取ってから、椅子に座る。

 ペラペラと流し見してみると、所々、描かなきゃ良かったと書いている日が目に入った。

 

 

(あんな出来事、後悔しない方がおかしいよね)

 

 

 やっぱりあの黒い欠片による私のIF(もしも)は『スケッチブックに絵を描かなかった場合の私』なのだろう。

 記憶が無くなった上に、あんなに苦しめられたのだ。あれで後悔しない人間がいたら正気を疑う。

 

 

(後悔はしたけど、無かったことにしたいかというと『それはそれ、これはこれ』だし)

 

 

 スケッチブックがなかったということは、今まで苦しかったことも何もかも無かったということで。

 それはそれで私はきっと、別のことに苦しみながら進んだのだろうけど……今の私には至らない。

 

 奇跡的にニーゴの皆と出会えたとしても、今みたいに瑞希とのことも、まふゆや奏の家庭環境が改善して、順調に見えるようになってるかも不明。

 絵の感性や技術力だって奴との経験ありきだし、スケッチブックという特異な体験がない私の絵とはやはり、別物だろう。

 

 

「やっぱり、アイツの因縁があったからこその私なんだよね……」

 

 

 出した言葉が部屋の中に溶ける。

 

 ここまで乗り越えた生き残りのバイアスだって言われたらその通りだけれども、過去を無かったことにするのは違う。

 認めたくないし、受け入れるのは難しいし、不本意だけれども……今となっては奴も含めて『私』となったのだ。

 

 

(苦しまないで済むなら嬉しいけど、散々苦しんで手に入れた報酬()を奪われるのもムカつくし)

 

 

 落ち着いてから改めて考えてみても、あのセカイでの結論と変わらない。

 苦しいことも変な出来事に巻き込まれたことも一概に良かったとは言えないけれど、改めて自覚できたことだけは評価してもいいかもしれない。

 

 ピロン、と。

 

 そう結論付けて日記を棚に戻すと、今日は静かだろうと思っていたナイトコードの音が鳴った。

 送信主はK。内容は『あの場所でのことを曲にしてみたから、少し聴いてみてほしいな』というもので。

 

 

(帰って早々曲を作ったの? 早いなぁ)

 

 

 椅子に座ってデモを聴くためにイヤホンを取り出していると、もうボイチャに皆集まっている。

 あの夢の場所では見られなかった景色だ。そう思うと自然と口角があがった。

 

 

(うん、やっぱりこっちで皆と作業ができる方がいいや)

 

 

 それが苦しくて辛い現実であっても。

 

 

「もう、皆揃って何してるのよ」

 

『あ、えななんじゃん。ボクは何となく参加しただけ~』

 

『私も』

 

『わたしは感想が聞けるかなって思ったんだ。それで、よかったら皆の感想を聞かせてくれないかな?』

 

 

 皆とナイトコードで作業する時間を無くさなければ、今はそれでよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それから、月日が流れて。

 

 

 ──。

 

 ──♪

 

 

『──♪』

 

 

 歌声が聴こえた気がして、目が覚めた。

 

 

「ミク……?」

 

 

 そう思ったけれど、最後の記憶は自室のベッドに沈んだ自分の姿のみ。

 スマホからミクが遊びにきていない限り、私の部屋でミクが歌ってるはずはない。

 

 

(……っていうか。どこよ、ここ?)

 

 

 ぐるりと周囲を見渡すと、寝る為に暗くしていた自室の対局にありそうなぐらい、白くて明るい場所にいた。

 

 広々とした廊下の床は綺麗に掃除されているらしいフローリングで、壁は汚れ1つない白。

 少し先の方には不規則的に額縁が飾っていて、中を覗き込めば幼い子が描いたような絵が飾られていた。

 

 天井は見えないぐらいに高く、雰囲気はどこかセカイに似ている。

 それなのにこの空間を見ていると、何故か「あ、夢だな」と確信する不思議な雰囲気を感じた。

 

 

(こういうことをできるのなんて、アイツだけでしょ)

 

 

 大体、犯人は察した。

 元凶を発見するために先の見えない廊下を進んでみよう。

 

 

(それにしても……この絵、なーんか見覚えがあるのよね)

 

 

 廊下を歩く絵は最初は乳幼児が描いたようなものだったけれど、今では小学生が描いたような絵になっている。

 どこかの幼稚園や学校等の手伝いで見た程度だったにしては、既視感のある絵達。

 

 悶々としながらも歩を進めていると、ふと、違和感の答えになる絵が目に飛び込んできた。

 

 

「あれって、初めて賞を取った時の絵じゃん」

 

 

 小学生向けの小さなコンクールだったけれど、初めて賞を取った時の絵だったので思い出した。

 今となってはどこにあるのかわからない絵のことをお父さんに報告して、そうかって言いながら頭を撫でられたことははっきりと覚えている。

 

 1度自覚すると点と点が線で繋がるように、壁に飾られた絵の全てが記憶と結びつく。

 記憶を失っていたらわからなかった繋がりにちょっとだけ楽しくなりながら廊下を歩くと、今度はスケッチブックの束が隅に積み重ねられたゾーンが出てきた。

 

 

(スケッチか)

 

 

 1冊手に取って中を見ると、歪んだ線のスケッチがページを占拠している。

 ひと目みたらわかる。これは中学の……記憶を無くして、とにかく手を動かして描いていた時の絵だ。

 

 

(ということは)

 

 

 額縁の中身は案の定、とにかく賞を取ることだけを狙っていた時の絵。

 南雲先生辺りがみたら『媚びていてつまんない絵だねー』と評価されるだろう、とにかく評価されようという気持ちが見えてしまう絵達が並んでいる。

 

 この頃は今思うと、露骨で中学生にしてみれば上手い方という程度。

 まだまだ線が歪んでいたり、パースや構図がおかしかったりと矛盾が多い。

 

 

(懐かしいな。雪平先生に雑巾みたいにしごかれてたもんね)

 

 

 炎上騒ぎの時の絵は大荒れだし、先に行くほどスランプだったことを思い出す絵になっていて、苦しみと抵抗が伝わってくる。

 

 親友や家族といったたまの癒しがあれど、やっぱり苦しそうな中学時代の絵を通り過ぎれば──

 

 

(高校生、と。やっぱりここからは違うな)

 

 

 ニーゴとして活動し始めた高校生。

 スランプから抜け出した絵は翼を貰った鳥みたいに少しずつ、自由になっていく。

 

 

(ちょっと前のことなのに、こんなに懐かしいなんて……それだけ濃い日々だったのかな)

 

 

 日記や思い出の為に描いた絵も額の中に入っていて、懐かしいなと思って歩く、ほんの少し先の額の中。

 高校1年生、2年生と思い出らしい絵の中を進んでいると、額縁の中に知らない絵が混ざり始めた。

 

 

(これは……奏?)

 

 

 何度か行ったことのある奏の家の中で、奏と奏のお父さんが笑顔でパソコンに向き合っている。

 

 他の絵も割合、奏が多い。

 偶に部屋の中で倒れていて心配になるものも混ざっていたが、大体描かれている絵は作曲中らしい絵だった。

 

 

(そういえば、奏は結局、大学に行かずにフリーの作曲家として活動するんだっけ)

 

 

 お父さんとも話して、考えて、悩んだ末に出た結論が『高校に行ってないのならともかく、大学ならいいか』というものだったらしい。

 

 勉強よりも経験だということで、ニーゴのアカウントはそのままに作曲家名義のアカウントを1から作成。

 ニーゴも少なくなりながらも作曲しつつ、今はそっちのアカウントを優先して動かしているようだ。

 

 

(サムネ用に描いた絵も飾ってるし……うん、我ながらよく表現できてる)

 

 

 ほんの少し自画自賛しながら前に進むと、今度はまふゆのゾーンに突入したらしい。

 

 

(これは看護大学の入学式の絵? 見てない状況だから、反応に困るわ)

 

 

 涙を溜めながらも笑みを浮かべるまふゆのお母さんと、満更でもなさそうなまふゆのツーショット写真みたいな絵。

 受験に受かったという報告は聞いたけれど、この絵を見た感じでは親子関係もまずまずな様子。

 

 最終的に「こっちの方がいいと思う」と決めたまふゆは、ニーゴの活動を減らして受験への道を走り切った。

 まだまだ山も谷もあるだろうけれど、きっとまふゆならば乗り越えてくれるだろう。

 

 そんな予感が、今見ている絵から伝わってきた。

 

 

(……で、次はやっぱり瑞希か。暇そうな顔してるなぁ)

 

 

 ぼーっと学校の窓から外を眺めているらしい瑞希の絵は、夢に向かって内申点稼ぎに奔走している今の瑞希にぴったりの状況だ。

 もしものセカイを体験した夢の内容に影響されたのか、一度だけ奏を連れて海外に行ってからというものの、長期の休みの時には単身でお姉さんの元に転がり込むびっくり仰天な行動力を見せた。

 

 そんな行動力の結果が、この絵なのだろうか。

 飛行機に乗ってる絵や異国の町らしい場所を歩く瑞希の絵は、夢の出来事を現実にしようとする強い意志を感じる。

 

 

(瑞希はこれから受験とか色々とあるんだろうけど、何やかんや乗り越えそうだよね)

 

 

 唯一心配なのは「学校に受かるための内申、大丈夫かな」と冷や汗をかいていたことぐらいだが……まぁ、そこも頑張れとエールを送っておこう。

 

 

(っと、終点か。ここにあいつがいるはずだけど)

 

 

 廊下を抜けると、広めの空間に出た。

 壁の周りは大学受験に描いた課題の絵や最近の私を描いたらしい絵が飾られていて、部屋の真ん中には真っ白なキャンバスと1人の少女が立っている。

 

 

「──♪」

 

 

 少女は白毛と黒毛交じりではあるものの、青緑色のツインテールを揺らして歌っている。

 

 誰もいないセカイのミクのように原型のない髪色ではないらしい。

 スケッチブックから人っぽい姿をしただけのホラー的存在を経過したことを考えると、原形を取り戻したようである。

 

 ……それはそれとして、だ。

 

 

「今度こそはあんたが原因でしょ。ほら、一体何を企んでるかとっとと吐きなさいよ」

 

「ち、ちょっと待って、落ち着いてこっちの言い分も聞いてほしいっていうか。本当に、純粋に入学のお祝いしたいだけなの。何も企んでません、嘘もついてません! だから許してーっ」

 

 

 ズカズカと近寄ってみると、情けない声で命乞いをしてきたのでとりあえず言い分を聞く。

 

 

「本当でしょうね?」

 

「今日のわたしは入学式前の夢に入り込んだだけだから、嘘なんてこれっぽっちもついてないよ。というわけで、第一志望合格おめでとう~」

 

「あぁ、うん。ありがとう?」

 

 

 パパパンッと、クラッカーを持ってない状態なのに、どこからともなくそれっぽい中身と音が飛び出てくる。

 予想外の出来事に思わず流されてしまった私は軌道修正するチャンスもなく、そのまま流されてしまう。

 

 

「東美受験をするにあたって何度も折れかけてたけど、ちゃんと走り切ったよね。呪いの強制力もないのに本当にすごいと思うよ」

 

「それが普通だから褒められたことじゃないけれど、確かにこの1年は呪いの強さを思い知ったわ」

 

 

 南雲先生に最終的な進路を伝えた結果、雪平先生も混ざった『特別メニュー』とやらでしごかれたのだが、その試練がとんでもなく厳しくて心折(しんせつ)設計なものだった。

 今までは呪い補正もあったのか絵をやめる結論に至らなかったけれど、この1年は何度やめようと悩んだことか。

 

 もう1度、精神的なダメージを乗り越えることになったので、悔しいがこいつの力は認めなくてはいけないだろう。

 本当に、本当に不本意だし、悔しいんだけれども!

 

 

「それでも、乗り越えてここまで来たんだからいいじゃん」

 

「結果的には良かったんだろうけど、気持ち的には良くないっての」

 

「ははは。ま、何やかんやわたしに描いた夢にまた1歩、進んだわけだけど……次の()の構図はもう考えてる?」

 

「んー、一応?」

 

「なるほど、ちょっとぼんやりしてるっぽいね。じゃあさ、ここで絵を描いてまとめてみない?」

 

 

 そう言って指し示される指の先にはさっき見た真っ白なキャンバスがあった。

 

 

「念の為に聞きたいんだけど……」

 

「記憶を取らないし取る力も残ってないよ。ダメなら素直に諦めるし、信じるかどうかはお任せだね」

 

「……はぁ。何もないなら描いてもいいけど」

 

「ホント? ありがとう、時間制限は夢の中だからどうとでもなるし、心置きなく集中してね!」

 

「それ、目覚まし時計が鳴っても起きなくて寝過ごした~って展開にならないの?」

 

「その辺もどうにかなるから大丈夫!」

 

 

 そこはかとなく不安だが、子供みたいに私の絵を期待している様子を見て悪い気分にはならない。

 まだ気分は乗ってないけど、パパッと描いてしまおうか……

 

 

 

 

 

………

 

 

……

 

 

……って。

 

 

 

 

 

 

 

(何やってんのよ私ーっ!)

 

 

 気がついたらとんでもなく集中していて、時間なんて全く気にせずに絵を描いてしまっていた。

 これで本当にどうにかなってなければ、楽しそうにキャンバスを見ている相手を恨んでしまいそうだ。

 

 

「わぁ、やっぱり素敵な絵を描くなぁ」

 

「はいはい、ありがとう」

 

「全然有り難そうじゃないけど、本心だよ? 夢も希望も、現実も苦境も余すことなく詰め込んだ世界観が好きなんだよね」

 

 

 本当に、こいつはタチが悪い。

 許さない気持ちも消えてないのに、ミクと同じ顔でそんなことを言われると気持ちが軟化してしまいそうになる。

 

 

「お祝いもしたし、我儘にも付き合わせちゃったから、もうお別れの時間かなぁ」

 

 

 そんなこっちの葛藤も知らずに、あいつはこっちに振り返って絵を指差す。

 

 

「さて、未来の画家サマ。この絵のタイトルを教えてもらってもいい?」

 

 

 何故か急に意識がふわふわしてきたけれど、本当に夢から覚めかけているのだろうか?

 だとしたら、この絵を描いた人として、最後にちゃんと伝えなければ。

 

 

「未来の画家サマって何よ、もう……でも、そうね。この絵の名前は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ──fin.







……というわけで、これにて後日談と本作完全完結です。
揃えに揃えましたので、もう詐欺はありません。

東雲絵名さんが記憶喪失で本作の主人公であるえななんと化し、なんやかんやあってスケッチブックとの因縁を燃やした本編。
後日談ではその過去も含めて自分だと再度認識したので、これまでもこれからも抱えてえななんは進んでいくことでしょう。

まさかの200話を軽く超えた本作ですが、ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
一重にここまで進めたのは読んでくださった皆様のおかげですので、お礼申し上げます。


それでは、この辺で。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!

(また別のお話でご縁がありましたら、よろしくお願いします)
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