普通に仕事と私生活が忙しくて投稿が遅れました。
(ただの言い訳)
「うーん・・・」
昼下がりの喫茶リコリコ。そこの座席で俺はパソコンの画面を見て唸る声を出す。
画面に映してあるのは現金出納帳ソフト。俺とみずほが支部外で使用する現金の流れを細かく記入している。
今俺が悩んでいるのは今現在の現金残高、これから予定される出費、本部から支給されるお金をどう計算しても年末にはキツくなってしまうからだった。
任務中やみずほの無駄使いによって発生する予想外の出費はよくあること。しかし、それが何回も続けば、年越しそばはカップ麺やPBの格安袋蕎麦どころか麺つゆを混ぜた公園の水になりかねない。さすがに公園の水だけは避けたい。
「結衣〜、どったの?」
悩んでいる俺の姿を見た千束が俺の机に寄ってくる。
「ん?ああ。今生活費の計算をしてたんだ」
「ははーん。頭を抱えてたってことはお金に困ってるんでしょ」
ニヤニヤしながら顎に手をやる千束。ムカつくが正解している。
「御明答だ」
「じゃあ、そんな結衣にはいい仕事を斡旋しようじゃないか」
「一応聞いてみよう」
多分、リコリコで働けといった内容だろう。俺たちリコリスには戸籍がないためリコリス以外の仕事先はほぼない。千束がスグに思いつく内容なら
「時給1250円週1勤務可、制服貸与、賄いあり、任務で急に休んでもシフト分は給料支給!さらにさらに
そう言いながら千束は笑い、腰に手を当てる。
「どうでっしゃろ?どうでっしゃろぉ〜?」
千束は多分自身の仕事を放り投げてでも俺の横に座って勧誘してくる。えらく上機嫌だな。
「いやどす」
「ええええー!?」
・・・表向きは断ったのだが、金欠の今の俺にとって追加収入があることはありがたい。だが、俺は原作リコリコには居ない存在。リコリコ入ることでどのような影響があるかは計り知れない。
事実、真島に殺されるはずだったサードリコリスを助けたことで真島に目をつけられてしまい、襲撃された。サードリコリスを助けたのは、知りながら見捨てるのは気分が良くなかったからだったのだが、同時に原作に無い行動を起こすと必ず良い方向に行くとは限らないということを身をもって知ってしまった。
今後は身の安全のためになるべくリコリコ内部に関わらないようにしたい。が、今の俺は財産が尽きそうな状況。プライドや先の事よりも目先の生活の方が大切だ。
後に死にそうな要素を除去した結果、今飢えで死んでしまったら本末転倒だ。
そもそも俺がリコリコに出入りし、千束達と関係性を持っていて真島から目をつけられている時点で世界は変わっているのかもしれない。
そう考えた俺は、少しだけ思いとどまりながらも千束にこう提案することにした。
「なあ、特別手当だけ貰うってできるか・・・?」
そう、任務だけをこなすなら問題ないはずだしお金も貰える。我ながら良い案である。
「一応できるけど・・・、リコリコでは?」
「働きたくない」
「アッハイ」
どうしても俺をリコリコで働かせたかったのか、千束が聞いてくるが即却下した。これは無理だと悟ったのか、千束は諦めてよっこいしょ、と言いながら立ち上がった。
「せんせー。今なんか良い任務ない?」
「特に無いな」
「うーん・・・」
まさかのコレだよ。でもリコリコでは働きたくないから、なるべく任務が欲しい。
千束がしばらく唸りながら考えていると、正面のドアが開いた。
来店してきたのは、少しぽっちゃりした体型に橙色のスーツ、そして黄色のネクタイを締めた中年男性。
「こんにちは」
「あっ、阿部さん!」
警視庁押上警察署の阿部刑事だった。
阿部は千束を見つけるやいなや、すぐに寄ってきた。何やら千束に用事があるらしい。もしかして依頼か?もしかしなくても依頼なのか?
「千束ちゃん。見つけて欲しいことがあるんだけど、ちょっと良いかな?」
コレは絶対に依頼だ。俺は心の中でガッツポーズをした。
阿部から依頼を貰って数時間後。一向に買い出しから帰ってこないたきなを無視して俺と千束は一緒に押上警察署を訪れていた。
「まさか、ユイちゃんも2人と同じ学校だったなんて」
「まあ、ほとんど制服でリコリコ来ることありませんでしたからね」
俺の言葉に、阿部は後頭部を掻く。今の俺の服はファーストリコリスの制服。リコリコに来る時はだいたい私服であり、制服の時はだいたい常連さんは居ないため、驚かれることは想定していた。
「で、阿部さん。見つけたいってのは・・・」
千束が本題に戻すと、阿部は背広の内ポケットから1枚の写真を出した。
「この子だ」
写真には、1匹の茶色い毛並みの猫がいた。
死闘を何度も潜り抜けるような任務をこなしてきた俺たちにとっては、猫1匹見つけることは肉体的には大変なのだが、気分的には欠伸の出るような楽な任務だった。
警察署から出た俺は、虫取り網片手に街路を歩きながらボソッと呟く。
「迷い猫ねぇ・・・。見つかるのか・・・?」
「端っから諦めムードじゃん」
俺の呟きに少し呆れながら答える千束。千束にとっては日常の任務だと思っているのだろうが、俺にとってはこれが初任務。しかも初っ端から難易度が高いと思っているため、こう呟くのも仕方のないことだと考えていた。
「そもそもリコリコの仕事手伝うのコレが初めてだからな。俺はノウハウなんてちっとも知らん」
「そんなこと言わないでよ〜。手取り足取り教えてあげるからぁ〜」
手をワシワシ動かしながらこちらを向いてくる千束。
正直言ってドン引きだ。
「キモっ・・・」
「ちょーっと傷つくなぁ」
俺の言葉と引くような動作に千束は少し悲しそうな顔をし、ハハ。と笑った。
気まずくなった俺たちはそのまま、無言で数分歩く。
角を4つすぎた辺りだろうか。千束が急にハッとして俺の方を向いた。
「そういや、さ。ユイ」
「ん?どした?」
「ユイってたまに〝俺〟って言うよね?」
千束は、俺がたまに一人称が〝私〟から〝俺〟に変わっていることに気がついたのか、そんなことを言ってきた。
「ああ、昔からの癖なんだ」
「ふーん・・・。ずっと〝私〟の方が良いよ?」
まあ、容姿からすればそうだろう。俺もせっかく女子になったのだから一人称を〝私〟にしようとしている最中だが、結構な頻度で出てしまうがこれも個性だ。
「多様性の時代だ。別に〝俺〟って言ってもいいだろ?東京支部内にも俺っ子は居るぞ?」
「それもそうなんだけどさぁ・・・」
俺の言葉に千束は腕を組んで唸り始めた。どうしても治す気がない俺は千束を無視し、何か気をそらせるものはないかと、辺りを見回す。
「あっ・・・」
視界に入ったのは、阿部さんから頼まれた探し猫と同じ猫。
・・・間違いない、あの猫だ。
うんうん唸る千束を横目に虫取り網の柄を握る。
────猫と千束の目線が合う。
「いたぞぉぉぉ、いたぞーぉぉぉぉぉ!」
「あっ、ちょっ!?そんな大声出したら!?」
大声を出して駆け出すと猫も驚いて反対方向に逃げ出す。当然といえば当然だ。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!出てこいクソッタレぇぇぇぇ!!!」
「逃げちゃう!逃げちゃうから!!」
墨田区の路地で俺と猫の追いかけっこが開催され始めた。もちろん、千束は必死に叫びながら俺と猫を追う。
「化け猫めぇぇぇぇぇぇ!」
「急にプレデター始めないで!」
本当はチェーンガンをバッグから出したかったのだが、そんなの出したら街中パニックになるし探し猫はミンチ猫になってしまう。
・・・そもそもチェーンガンなんて持ってないし、そもそもそんなの持ってる女子校生なんて居ない。ハンドガンとサブマシンガン(没収済)持ってるのならここに居るけど。
小さな角を2、3度曲がり、広い通りにもう少しで出てしまい、追跡困難になってしまいそうになった時、目の前にリコリコの和装制服に食品類でいっぱいになったエコバッグを両手に持ったたきなの姿が・・・。
「あ!たきな!その猫捕まえて!」
「え?あ、はい・・・」
必死に走る2人と1匹、そして千束の叫びに少し疑問を感じながらもたきなはエコバッグを下ろして猫の前に立ちはだかった────
その後、俺たちは要冷蔵の物を多くリコリコに持ち帰る必要があるたきなから猫を受け取り、阿部さんに依頼してきた依頼主に猫を渡しに向かった。
依頼主は初老の女性で、猫と一緒に暮らしているのだという。猫が居なく寂しかったのか、猫を受け渡した時にはたいそう喜んでいた。
本当に嬉しかったのか、お茶を無理矢理ご馳走になり長話をしたため(本当は断れなかったのだが)すっかり辺りは暗くなっていた。
「捕まえられたな」
「ほぼたきなの手柄じゃん・・・」
千束はムスッとしながらずっと俺を見ている。依頼主の家を出てからこの調子だ。
「捕まえられたから、ヨシ!」
「全然ヨシじゃないが?」
俺の答えに千束はニッコリしながら答える。これは怒ってますなぁ?もしかしなくても怒ってますなぁ?
しばらく歩くと右に行くとリコリコ、左に行くと警察署に向かえる角に出た。ここで別れて交互に報告するのが最良だろう。
「千束はこの後リコリコ戻る?良ければ私が阿部さんに伝えてくるから」
「そうだね。じゃあ阿部さんへの報告はユイにお願いしよっかな」
「おけ!」
じゃーねー、とお互いに言ってから千束は右で俺は左に曲がる。去り際に〝・・・覚えてろよ。仕返しに絶対に
夜の押上警察署は待合室の椅子に市民の姿は無く、辺りに居る人といえばカウンター越しの当直室に6人ほどの警官が居るだけで、昼間とは異なりがらんとしていた。
俺は迷わず当直室のカウンターに向かい、こんな時間に女子高生が?と、思っていそうな顔をしながらも対応してもらった女性警官にこう伝えた。
「すみません、
「少々お待ちを─────」
色々語弊はあるのだが、リコリコ所属にしてしまえば1番相手にはわかるだろう。そう思う俺を前に女性警官は内線電話を手に取った。
押上警察署内、刑事課からほど近い自販機のある休憩スペースに2人で報告ついでに缶コーヒー片手にベンチに座っていた。もちろん、缶コーヒーは阿部さんの奢りだ。
「すまないね。こんな遅くにわざわざ報告に来てくれて」
「いえ、帰り道の途中ですから」
申し訳なさそうに頭を搔く阿部に俺は軽く微笑む。
「しっかし、早く見つかったね」
「たきなが捕まえてくれたんですよ」
「たきなちゃんが?へぇー・・・」
思いがけない人が捕まえてたことを知り、阿部は少し驚きながらもコーヒーを口にした。
どちらもコーヒーを飲み終わり、もう少しで帰れそうだな・・・と思った時、階下から連続した銃声が鳴り響く。
この時期に、そしてこの押上警察署を襲うのは1つの集団しかない。
───真島達だ
「ん?何だ?」
「阿部さん!隠れよう!」
阿部は様子を見に行こうとするが、基本的に警察署内に居る警官、特に刑事は拳銃を持っていない。行ったら無事では済まない。
「まさか・・・、今日なんて・・・」
阿部と近くの男子更衣室に隠れた俺はそう呟いたのだった。