※本文中のあれこれはあくまで私見です。あんま難しく考えないでください。あとこのキヴォトスには税の概念があり、国税庁があり、税務調査もあり、シャーレは公益社団法人です(なんで?)。
先生は今日もシャーレの事務室で仕事をしていた。曜日など関係ない何故なら半期決算が近いからである。
「アトラハシースの決戦とかで忘れてたけどそろそろインボイス制度が始まる頃なんだよな。規約とか作るのソラに頼んどいたけど今どうなっているんだろう。多分もう終わってると思うけど。どれどれ見てみるか楽しみだ」
ナンバリング等して整理しようとは全く考えられていない混沌としたシャーレの共有サーバから目的のファイルを探す。これだけで既に2分が経過しようとしていた。
「お、あったあった。正直インボイス制度とか言われても何も分からんから任せて正解だったな、ただでさえ通常業務で切羽詰まってるんだから」
(目的)
第1条 この規定はS.C.H.A.L.E公益社団法人における適格適格請求書等保存方式(以下インボイス制度)および電子帳簿保存法に対する対応について明確にするための規約である
第2条 インボイス制度に対する対応について、下記に定める
第1項 法に従い処理すること
第3条 電子帳簿保存法改正に対する対応について、下記に定める
第1項 法に従い処理すること
「ひどく小ざっぱりしてる~!?」
スマホを操作する手が汗ばむ。制度開始の10月まであと1週間しかないのだ。
「ちょっとソラちゃん!?頼んどいた規約全然出来てないような……ていうか全然出来てへんでおまんがな!」
『あ、先生、お疲れ様です。規約ならまだまだですよ。だって先生時間ケチって私一人にしか頼んでないじゃないですか』
「いやホント時間ないんだってマジで」
『別にいいですけど、私も私の仕事があるのであと1年はかかりますよ』
「えぇ~!?困るよそれ出来てると思ってユウカにメール出しちゃったよ!?」
「あれ、先生からメール……珍しいわね。何かしら」
件名:【シャーレ】インボイス制度に関して
ミレニアムサイエンススクール
セミナー 会計 早瀬ユウカ様
いつも大変お世話になっております。
この度インボイス制度における対策として規約を作成しましたので
確認の為にも一度シャーレまでお越しくださると幸いです。
お土産があると非常に嬉しいです。いいお土産だと尚嬉しいです。
P・S
シャーレがデカすぎて一人で仕事をしていると、悲しくなってくる。
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S.C.H.A.L.E公益社団法人
代表理事 先生
本社:サンクトゥムタワー
(この半期決算の時期に他所の面倒まで見てられないけど、行かないと先生泣いちゃうだろうな。行ってちょっとみてすぐに帰って来ましょうか。2秒くらい見て)
「あら、ユウカちゃん。お出かけですか?」
「ノア、悪いけど少し出るわ。ついでに何か欲しいものとかある?」
「時間ですかねぇ」
ノアの前には膨大な申請書類の束が積みあがっていた。いつ崩れてもおかしくない。奥の方からはコユキのうめき声も聞こえてくる。
「それはどうしようもないわ。恨むなら会長を恨むことね」
「結局私達には何も指示とか出されませんでしたからね……」
「にはは……先輩方、だべってるなら私にも考えがありますよ!脱出しますよ!」
「コユキ、もう休みなさい。目の下のクマ凄いわよ」
「せ、先輩……ッ!」
コユキはかつて問題児であったが、長所短所関係なく事務仕事を普通に任せれば良いという気付きを得てから超絶優良児へと変貌した。げに恐ろしきかな事務処理フロー。計算仕事だけではどうしようもない世界がそこには存在するのだ。
「じゃあ行ってくるわね。多分午前中には戻れるんじゃないかしら」
「あ、アポロの甘くないやつ買ってきてくれませんか?」
「売ってたらそうするわ」
「今から手を加えるにしても何も分からんしどうすれば良いんだ……アロナは最近おねむだしプラナに任せるのも気が引ける」
鳴り響く据え置き電話。発信元は受付。監視カメラの映像を見るにもうユウカは受付に居るらしい。
「いや、早いな!?……はい、先生です」
『あ、先生。メールの方拝見しました。まさか私以外にあんなメール出してませんよね』
「え!?あ、うん多分……」
『いやビックリするのはこっちですよ!何アレじゃダメだったの的な声出してるんですか!』
「いや今まで何も言われなかったし……」
『モモトークとは勝手が違うんですからもっときちんとした文章を書いてくださいね』
「あーごめん……とりあえずエレベーター乗ってね」
インボイス制度とは全く関係のないポイントで注意されてしまった……と少し先生が意気消沈していたのもつかの間、いよいよユウカの足音が事務室にも聞こえてくる。並みの足音ではない、選ばれし太ももを持つものにしか出せない足音だ。
「先生、今何か失礼な事を考えてませんでしたか……ってなんか歌ってるぅ!?ギターの位置低っ!?」
「あ、ユウカ、よく来たね、待ってたよ。弾き語りしながら」
「いや弾いてませんでしたよね!?」
「実は弾けないんだよ。昔ちょっとやったくらいで」
「それなのにそんなに誇らしげにぶら下げてるんですか!?」
「あぁそうなんだよ何でも形から入る人間でね」
「スーツ着てる時点で形も何もない気がするんですけど……というか規約はどうしたんですか、早く見せてください見たら帰るので」
「あれ、ユウカにしてはすごい塩対応だね。もしかしてそっちも忙しいの?」
「いや半期決算の時期なんですからどこも忙しいですよ、分かってたならメール出さないでください」
「いやでもインボイス制度とか微塵も分からないしユウカに教えて貰おうと思って……」
「何も分からない……?規約の話は?」
恐る恐る先生から渡されたペラッペラな紙を見るユウカ。
「酷く小ざっぱりしてる~!?よくこんなのでメール出して来ましたね制度開始まであと1週間ですよ」
「いや、実はね……」
先生が口を開くたびに青くなるユウカの顔、それを見て冷や汗を流す先生。だだっ広い事務室に先生の弁明だけがこだました。
「いや、先生の着任前からインボイス制度に関しては国税からお達しがあったじゃないですか……それが何でここまで何にも無い状況を作れるんですか」
「いや、最近になってから知ったし……通常業務もあるしよくわかんないから後回しにしてたらこんな事に……」
「しょうがないですね、ある程度は手伝います。今回だけですよ?」
「ユウカ……!」
「あ、これお土産です」
「ユウカ、俺たち結婚しよう」
渡された袋を開けると、草と小石が入っていた。
「……前言撤回で」
「おほん。それじゃあ本題に入りますね」
「草ってユウカ……石ってユウカ……」
「……一応、アポロの甘くないやつもあります」
「え、ホント!?あれ好きなんだよ。なかなかお菓子を見る目があるねユウカ」
「適格請求書等保存方式……いわゆるインボイス制度は、現行の区分記載請求書等保存方式に3つの要件が追加されるといった内容の制度です」
「えらくヌルっと始まったね……」
「具体的には適格請求書発行事業者登録番号……以後インボイス番号としますね。それと税率ごとの合計金額及び、その税額です」
「シャーレのインボイス番号とか私知らないよ……?」
「国税の法人番号公表サイト*1と適格請求書発行事業者公表サイト*2で検索してみてください。法人番号の先頭にTを付けただけですので法人番号が分かればすぐに判別できます」
「なるほど……」
サイトから法人番号を検索する先生。しかしシャーレだけだと複数検索にひっかっかてしまうようだ。
「候補が複数ある場合は、本社の所在地*3で絞り込み検索が出来ます。シャーレの本社はここではなくサンクトゥムタワーなので、こちらの住所で絞らないよう注意してくださいね」
「おぉ、これがシャーレの番号か。とにかくこれを請求書や領収書に書けば良いんだね?」
「そうですね。具体的にどこにという指示はありませんが、基本的には社名の近くに記載した方が良いでしょう」
請求書や領収書のテンプレートを変更していく先生。なかなか手際が良いが段取りは終わっている。
「次は税率ごとの合計金額及び税額ですね。すこしややこしいので集中して聞いてくださいね?今までは明細ごとに税額を計算して、それを合計したものを税額とする事がほとんどだったと思います。が、インボイス制度ではそれが出来なくなります」
「ごめんユウカ、そもそも明細ごとに計算した税額?がよく分からないんだけど」
「そうですね。先生、何か領収書はありますか?」
「それなら朝食のがあるよ」
エンジェル24 シャーレ部室1F店 担当者:ソラ 領収書 おにぎり(鮭) 130(10※) おにぎり(梅) 130(10※) お茶 -106(8※) レジ袋 -----4(0) 合計 --370(28) -23/09/22 |
「これなら教材に丁度良いです。具体的にはこれがこうなります」
エンジェル24 シャーレ部室1F店 T1234567891012 担当者:ソラ 領収書 おにぎり(鮭) ---120※ おにぎり(梅) ---120※ お茶 ----98※ レジ袋 -----4 税率軽8%合計 ---338 税率軽8%税額 ----27 税率10%合計 -----4 合計 ---369(27) -23/09/22 |
「あれ、合計金額が変わってない?」
「その通りです。税率ごとの税抜金額を合計した金額から税額を計算すると、明細ごに計算した場合とは若干ズレが生じます」
「これって今までの計算方法だとどうなっちゃうの?」
「当然ダメです。インボイス制度を満たしていないので税控除対象にはなりません」
「……全部確認しなきゃいけないってこと?」
「まぁその辺は制度が始まってからでないと何とも。ミレニアムではエンジニア部が色々作ってくれたので大丈夫ですが」
「私も頼もうかな……」
「実際良い考えだと思いますよ。リース料は頂きますが」
「あ、そういえばリース料とかって請求書とかないけど、どうするの?」
「そうですね……まずリースにはファイナンスリースとオペレーティングリースがあるのはご存知ですか?」
「いや……今知ったよ」
「大まかに言うと、ファイナンスリースは契約時に消費税の控除を行うので10月までに契約したものは何もしなくて良いです。問題はオペレーティングリースですね。こっちは支払い毎に控除をするので、10月以前に契約して、10月以降も契約が続く場合、追加の資料が必要になります。基本的に家賃以外はファイナンスリースだと思ってください」
「そういえば、よく分からないから放置してたけどこの間不動産からそんな感じの手紙が来てたかもしれない……」
「せ~ん~せ~い?」
「いや、ホント通常業務がヤバくて……」
「はぁ……全くしょうがないですね。先生は一旦休憩してください。顔色悪いしずっとギター弾こうとして腕カサカサさせてるし色々限界なのが丸わかりです。一緒に土日でなんとかしましょう?」
「ユ、ユウカ!」
最終的にはエンジニア部とヴェリタスが何とかした。持つべきものは最強の情シスである。
ユウカ……確定申告もして……