夏休みモノ?そういうのもあるのか……。
※pixivにも投稿しています。

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(週刊バンパイアハンター掲載広告「吸血鬼も写るカメラCCV」より抜粋)

――改めて、コウCCV-Ⅵ発売おめでとうございます。その名の通り吸血鬼を写すことに特化したCCVシリーズ、今製品ではついに非協力撮影が可能になったそうですが?

 

 ありがとうございます。その通り、ナンバリング6にしてようやく、吸血鬼の完全な非協力撮影機能を搭載することができました。CCVは「思い出の中にみんないる(アルバムの中に吸血鬼もいる)」をコンセプトに開発されたシリーズです。ようやく念願を果たすことができました。

 

――非協力撮影によって、やはり吸血鬼を被写体とする撮影は大きく変わるのでしょうか?

 

 もちろんです。今までの要協力撮影では被写体となる吸血鬼が構えてなければなりませんでした。吸血鬼の写真に写る際のコツとして、お尻に力を入れる、なんて聞いたことはありませんか。つまり、今までのカメラではそれが限界だったんです。自然な状態を撮ることはできませんし、意思の疎通が難しい下等吸血鬼はそもそもほぼ写せません。

 CCV-Ⅵでは、吸血鬼がカメラを意識していなくとも撮影することができます。ふとした一瞬を切り取ることがやっと可能になったとも言えますね。

 

――具体的にはどのような撮影が考えられるでしょうか?

 

 しっかり構えて撮る記念撮影なんかは今までのCCVシリーズでも可能でした。CCV-VIでは、なんでもない家族の団らんや、遊んでいるとき、寝ているときなどの写真も撮ることができるようになります。また、吸血鬼化したペットなどの撮影も可能です。コンセプトから離れた例ではありますが、吸対やVRCでの導入も既にお声がけいただいています。

 

――なるほど、吸血鬼の意思に関係なく撮影ができるんですから、そのような使用も考えられますね。CCVシリーズの開発に発足当時から携わっていらっしゃるそうですが、CCV-Ⅵで撮りたいものはありますか?

 

 はい、古い友人をぜひ撮りたいと思っています。とはいっても、長らく会っていないものですから、忘れられているかもしれませんが。

 

――吸血鬼のご友人がいらっしゃるんですね。

 

 ええ。私が吸血鬼も写るカメラの開発を志すきっかけになった友人です。

 

 


 

ある夏の回想

 

 昔から写真を撮るのが好きだった。

 ひとの記憶なんてものは曖昧で、わりとテキトーなところがある。その点、写真はそのままを切り取れるのが良い。私が残したいと思った一瞬を、そのまま歪めずとっておける。

 だからあの夏も、私はカメラ片手に走り回っていた。

 これは、まだほんの少女だった私の、後の人生を決定づける出会いの話だ。

 

 

 その頃の夏休みは毎年、祖母の家で過ごしていた。家は埼玉のイナカで、遊べるようなところは何も無いが、自然豊かで被写体には困らない。口うるさい両親がいないのも魅力的だ。

 それに、少し変わったものがある。西洋風の大きな城だ。間違ってもラブホなんかの安っぽいものではない、立派な城がポツンと建っている。なんでもすごい吸血鬼が住んでいるとかいないとか。詳しいことは知らないが、近所にひまわりの花畑もあり、ロケーションはバッチリ。以前から日本の田舎にあるあの城とひまわりの、チグハグで面白い風景が好きだった。だから、初めて自分のカメラを手に入れた(といってレンズ付きフィルムだが)私はこれは撮らねばと思って、夏休み中足繁く城の周辺に通っていたのだ。

 限られたフィルムを慎重に使っていたある日、次は折角だから時間帯を変えてみようと思い立つ。吸血鬼の城らしいし、夜に撮ってみたい。使い捨てカメラで夜景は無謀だろうが、一枚くらいそういう写真があってもいいだろう、と。

 懐中電灯とカメラだけ持って、祖母の家を抜け出す。当時は外灯がまだまだ少なく、夜の田舎道は真っ暗だった。恐怖心と興奮に急き立てられるまま、早足に進んだのを覚えている。いざ城近くのひまわり畑まで着けば、その景色は予想以上に雰囲気があった。

 私の背丈を超えるひまわりの群れは、視界を遮り何かが隠れている気がしてしまうし、それそのものに生き物のような威圧感がある。城はもっと最悪で、灯りのない重厚なそれはおどろおどろしく、完全にホラー映画のワンシーンだ。今からこの中で人間が大変な目に合います、のカットである。

 来た以上は一枚だけでも写真を撮ろうとカメラを構えたとき、ひまわりがガサガサと音を立て揺れ動いた。音は城の方向からこちらに向かって近付いてくる。私はか細く悲鳴をあげ、懐中電灯を握り締める。暑さのせいだけでない汗がじっとりと背を伝う感触さえ鮮明なくせ、身じろぐことさえ出来なかった。

 ひまわりを掻き分け、なにかはすぐそこまで迫っている。息を呑む私の前に現れたのは、見たことのない生き物だった。

 

「ヌー!」

 

 それはダンゴムシを哺乳類にしたような姿で、可愛らしい鳴き声をあげている。とても危害を加えるようなものには見えなかった。

 

「ビックリした……」

 

 私は思わず、脱力して土の上に座り込んだ。大袈裟に溜息をつき、空を見上げる。夏のぬるい夜風が心地よかった。

 膝に重みを感じて見れば、先程の生き物がTシャツの裾を引いている。何かを訴えているようだが、ヌーヌーとしか聞こえない。

 

「なになに?どうしたの」

「ヌヌ!」

 

 必死な様子でひまわり畑のほうを指さしている。困っているのはなんとなく分かった。

 

「着いてけばいい?」

 

 私が問うと、その生き物は頷いた。言葉はわりとしっかり分かっているらしい。

 土を払って立ち上がり、懐中電灯とカメラを抱え直す。

 

「分かった、行こ」

 

 見通しの悪い中を不思議な生き物の後を追って進む。私はきっと笑っていたと思う。なにかすごいことが待ち受けているような、漠然とした期待が胸を高鳴らせていた。

 ひまわり畑を抜ければ、もうすぐ目の前に城があった。入口と思わしき扉が少し開いていて、生き物は真っ直ぐそこに駆けていく。

 

「え、入るの!?」

 

 私の声に振り向きはしたものの、立ち止まらずに進んで行った。中から早くと急かすような鳴き声がする。一瞬戸惑いはしたものの好奇心が勝り、私はついに吸血鬼の城らしいそこに足を踏み入れたのだ。

 城の中は灯りがなく、私は相変わらず懐中電灯を頼りに生き物を追いかける。この辺りに多い木造の日本家屋とは異なる石造りの床は、踏みしめる度に硬い音がした。

 小さな背を見失わない程度に辺りを見渡すと、意外と普通、というと語弊があるが、荒れた様子はなかった。埃っぽくないし、きちんとひとの手が入っているのが窺える。お化け屋敷に入るつもりが、外国かテレビの中にでも来たようだった。

 閉じられた扉の前をいくつか通り過ぎ、ひとつ開いたままのそれに生き物が入る。私もためらうことなく追えば、そこは書斎のようだった。いくつもの大きな本棚と立派な書き物机がひとつある。本棚のひとつが倒れていて、生き物はそこで足を止めていた。

 

「ヌヌヌヌヌヌ!」

 

 生き物は悲しげな声をあげ、小さな手を本棚に掛けている。持ち上げたいようだが、しっかりした作りのそれは重さも伴っているらしく、ちっとも動かない。

 

「これ持ち上げればいい?」

「ヌ!」

 

 本棚は幸い書斎にある中では小さいほうで、私でもなんとかなりそうだった。持ち物をその場に置き、散らばった本をどけて、本棚に手を掛ける。

 なにかこぼしたのか、ここだけジャリジャリしていて滑るのが困りものだった。苦戦している私を見て、生き物は足元で応援をしてくれている。どうにか本棚を起こしきると、嬉しげな声があがった。

 

「よし!これでいい?」

「ヌヌヌヌヌ」

「どういたしまして」

 

 雰囲気でお礼を言われているのだろうと微笑ましく思いながら返事をしていると、声を掛けられた。

 

「お嬢さん、本当にどうもありがとう!この部屋窓もあるし、このまま日が昇ったらどうしようかと……」

「えっ!?」

 

 振り向けば、そこには痩身の男性が、月明かりに照らされていた。

 黒いスーツとマントを着た、顔色の悪いいかにもな風貌だ。

 

「ヌヌヌヌヌヌー!」

「ジョンもありがとう。助かったよ」

 

 あの生き物が男性に抱き上げられている。名前はジョンというらしい。突然の登場に驚きはしたが、和やかに会話しているところを見ると恐怖なかった。非日常に浮かされ、全体的に夢見心地だったところもある。

 

「えっと、この家の方ですか?」

「いかにも。私こそこの城の主、吸血鬼ドラルクだとも。こっちはアルマジロのジョン」

「へぇー、やっぱり吸血鬼なんだ……。私はじめて会いました。あ、ごめんなさい、土足で入ってきちゃった」

「あぁ、構わないよ。ここは元々靴脱がないで上がる様式だから」

「そうなんですか、外国みたい!」

 

 そんなわけで、私は気の抜けた受け答えをしていた。どうにも現実感がなかったのだ。

 

「そうだ、お嬢さん!ぜひお礼をさせてくれたまえ。君は命の恩人だ。そうでなくとも久しぶりの客人、用意もなくささやかだが、もてなさせて欲しい」

「えー、そんな悪いですよ」

「アップルパイはお好きかな?今日のおやつの予定なんだが」

「うーん、じゃ、ちょっとだけ……」

 

 命の恩人ってなんだ?と思いはしたのだが、この城でされるおもてなしにかなり心惹かれてあまり気に留めなかった。言い訳させてもらえば、浮かれていただけで普段はもう少ししっかりしている。知らない怪しい男性の家で暢気にお茶したことなんて、後にも先にもこの時だけだ。

 ドラルクの案内で城の中を歩く。私が懐中電灯を使っているのを見て、これは失敬と彼は灯りをつけた。電気は通っているようだ。吸血鬼は夜目が利くから失念していたらしい。明るくなれば、ますます外国の城に来たようで、私の気分は鰻登りだった。

 少々煌びやかさには欠けるが、ドアの装飾、窓の形、家具ひとつとっても違う。柔らかいソファに腰掛け、綺麗なティーカップで紅茶を飲み、大きくカットされたアップルパイを頬張る。対面には愛らしい動物と、随分年上のはずなのに楽しく話してくれる男のひと。少女には過剰な刺激だ。私はすっかりこの場所を気に入っていた。

 

「ねぇ、ドラルクさん」

「なにかね」

「お礼してくれるんでしょ?」

 

 私がすっかりアップルパイを平らげて上機嫌に言うと、彼は少し引き攣った顔をした。

 

「うん、確かにそう言ったけれど。なかなか図々しいな君」

「子供のうちから遠慮なんかするもんじゃないって、おばあちゃんも言ってたから!」

 

 私がにっこり笑うと、ますます顔色を悪くして警戒する。酷いものだ。そう常識知らずでもないのだがら、法外な要求などしない。……きっと私はそう見えなかったのだろうが。

 

「写真、撮らせてほしいんです」

「写真?」

「そう!ドラルクさんとジョンと、このお城の写真。私とっても楽しいから、ちゃんと覚えておきたいの」

「ううーん、それは……」

「駄目なの?」

「いや駄目ではないのだが……」

「じゃあ撮ろ!」

 

 ジョンと顔を見合わせて悩む様子のドラルクの腕を引く。たいそうご機嫌だった私は、何か言いたげな彼らを気にしなかった。というか、反対されるのが嫌で押し切ったのだ。

 そうして、テーブル越しのドラルクとジョンを撮ったのが、ここでの写真の一枚目になった。両者ともなんとも微妙な顔をしていたが、一応笑顔は取り繕ってくれていた。

 後になって思えば、私があまりに強引で言い出し損ねたのだろう。それがよほど気まずかったのか、それとも私と過ごすのを楽しいと思ってくれたのか、はたまた世辞だったのか。ドラルクは帰り際になって、またぜひともおいでと私を誘った。

 もちろん私は、夏休み中ドラルク城に通い詰めることにしたのだ。

 

 

 それから私は何度もドラルク城に遊びに行った。

 通い詰めるなんていっても、夜中の外出なんて許されるわけもない。毎度バレないようこっそり抜け出して、同じように帰ってくる。祖母ひとり欺ければいいとはいえ、毎日とはいかない。夏休みで昼寝し放題とはいえ、夜寝ないわけにもいかない。週に2、3度、数時間をドラルク城で過ごした。

 ただお喋りに終始する日もあれば、将棋やトランプをする日もあった。チェスやTRPGなんかの新しい遊びもいくつか覚えた。うちにないファミコンが吸血鬼の城にあるのは驚いたものだが。ちなみに何やってもドラルクはおろかジョンにもほぼ勝てなかったので、運の要素が大きい遊びをすることが段々増えていった。

 本の貸し借りをして感想を言い合ったり、宿題を手伝ってもらったりもした。夏らしいこともしようと手持ち花火を持ち込んで城の前でやったときは、事故でドラルクのマントを少し焦がした。当然慌てて謝ったが、彼は笑っていた。

 毎回ドラルクお手製のおやつ付きで、どれもこれも美味しかった。名前のよく分からないものもよく出てきたし、いくつかはそもそも創作した変なもの食べさせられていた気もする。私が知らなくても、ジョンが「えっ」という顔をするから分かる。

 ドラルクがそれはもうよく死ぬ吸血鬼であるというのは早々に理解した。はじめて塵になった瞬間を見たときは流石に驚いたが、同時に腑に落ちもした。初対面のとき一体どこから現れたのかと思っていたが、本棚の下敷きにでもなっていたのだろう。

 つまり、私はドラルクとジョンと過ごしたこの夏休みを大いに楽しんでいたのである。

 楽しいことがあると写真を撮りたくなるものだから、私のカメラはどんどんフィルムが減って、同時に夏休みが終わって現像するのが楽しみになっていった。写真の度、ひとりといっぴきは微妙な顔をしていたが、なんだかんだ撮らせてくれた。

 

 

 

 そして、夏休みも数えるところあと三日となり、両親が明日には迎えに来るという日のこと。ドラルク城に行ける最終日。

 私はいつも通り祖母の隙を見計らって家を抜け出し、そして、城にたどり着くことなく母に見つかった。両親が予定を早め祖母の家に来ていたのだ。

 それはもう怒られた。日も沈んだ時間に黙って外出しようとすれば当然だ。幸いそれまでのことはバレなかったので、咄嗟に夜のひまわり畑の写真を撮りたかったと嘘をついた。

 嘘をついて、ドラルクたちのことを隠そうとした自分に驚いた。私たちは間違いなく友達のはずで、夏の間に山ほど楽しいことがあった。歳も離れているし、ちょっと変わっているけれど、素晴らしい友人であると。

 思い出の分だけ写真を積み重ねて、安っぽいこのカメラが何より宝物になったと思っていた。

 それなのに、きっと親に叱られると、それだけの理由で隠してしまった。胸を張って友達だと言えなかった。大切なものに自分で泥を塗って貶めた気がして、愕然とした。

 私はいてもたってもいられず、ドラルク城に向けて駆け出した。驚く両親を振り切って、通い慣れた夜道を進む。虫の声に耳を貸さず、畦道を踏みしめ、ひまわりを掻き分ける。

 何度も叩いた扉に飛び込んで、おそらく私を待っていたのだろうドラルクに飛びかかった。

 

「わーーー!!なにごと!?」

 

 彼に私を受け止め切れるはずもなく、しかし、避けられもしなかったのでふたりして床に倒れ込んだ。塵がクッションになったので怪我はない。ジョンが突然の死に驚き悲しんでいるのは申し訳なかった。

 

「ごめんなさい!ドラルクさん」

 

 私の下で再生した彼に謝る。

 

「君、今のは本当に危ないよ。怪我はしてない?」

「ちが、そうじゃないの。お父さんとお母さんが、私友達なのに……」

 

 昂った感情のせいで視界が滲み出す。私の下から這い出たドラルクは驚き、ジョンも慌てて私を慰めようとしている。

 

「ヌェ!?ヌヌヌヌヌ?」

「ちゃんと聞く!聞くから落ち着いて!どうしたの?」

 

 城の玄関にへたりと座り込んだまま私は泣いた。その床がひんやりと心地よかったことまで鮮明に覚えている。ドラルクは意外とある上背を丸めてしゃがみこみ、ジョンは私の膝の上に乗り上げていた。

 ハンカチで涙を拭われながら、私はしどろもどろに何があってどう思ったのか話した。要領を得ないそれをドラルクたちは静かに聞いてくれたのだ。

 

「それで、ここまで走ってきたと。あぁもう、そう泣かないで。私は全く怒ってなんかいないから」

「でもぉ」

「私も悪かったよ。人間の、それも子供が夜中に出歩くのは、そりゃ良くないよね。君、私のこと怖がらないけど、吸血鬼のもとに通ってるわけだし」

「吸血鬼、関係なくない……?」

「えぇ?仮にも人間の血が主食なんだけど」

「ドラルクさんすぐ死ぬじゃん」

「この小娘め、言いよる」

「それに、血くらいいくらでもあげるよ」

 

 私がさも当然のように言うと、ドラルクは瞠目した。何度か瞬いて状況を咀嚼するようにしたあと、眉を寄せて頭を悩ませる。結論が出たのか、立ち上がってにぱっと笑った。

 

「そう!それはいいことを聞いた。今まで遊んでやったかいもあったってものかな」

「えっ?」

「君が誰にもここにいることを言っていないのも都合が良い。安心したまえ、本当に私は全く怒っていないよ。だって、そもそも君と私は友達なんかではないのだから」

「は?」

「いやぁ、君みたいな子供の相手をするのは面倒だったけど、貴重な若い女性の生き血だしね」

「まって、なにそれ、うそでしょ……?」

「うん」

「そうだよね、急にへんなこと言わないでよ」

「今までの全部、嘘さ。愚かなお嬢さん。こういうの、鴨が葱を背負って来たって言うんだっけ?」

 

 ドラルクは軽薄に捲し立て、笑顔のまま私を覗き込む。私は目の前の顔に向かって思いっきり勢いをつけ、自分の頭を打ち付た。

 

「ドラルクさんのバカ!!」

 

 呆気ない灰の山を置いて、開いたままの扉から出て駆け出す。行きと同じように走って、しかし、帰り道は悲しくはなかった。驚きはしたし腹も立つが、ドラルクが本心から言っていないことくらい分かる。

 いつからか前もってつけられるようになった灯り、どこからか香る焼きたての菓子の匂い、私の定位置に増えたクッション、そういうひとつひとつに気付いていたのだから。だいたい、どのゲームでもコテンパンに負かしておいて、接待プレイは無理がありすぎる。

 それに何より、酷いこと言ったほうが自分で傷付いた顔してちゃ世話ないのだ。ジョンも驚いていたし。

 私は怒って祖母の家に帰り、そしてすっかり忘れていた両親に見つかって泣かれた。私を案じる家族を見て、やっとドラルクが追い返すために突き放したことに気が付いた。

 そして、夏が終わった。

 

 

 

 二学期がはじまり、幾分高くなった空を見上げる。好きなだけ寝ていられた夏休みを思って、寝惚け眼を擦る。

ドラルクに手紙を書こうと何度かペンを取ったが、白紙のままだ。書くべき言葉が分からない。

 そんな中、夏休みに撮った写真の現像が終わり受け取りに行った。写真の中に答えを探そうとして、しかし一目見てそれどころではなくなった。あれだけ撮った写真のどれにも、ドラルクは写っていないのだ。ひまわりも、城も、ジョンもいるのに、ドラルクだけがいない。

 欠片も忘れたくないと切り取った中から、ひとりだけキレイさっぱり欠けている。私はそれを許せないと思った。これからどうすればよいかは依然分からない。来年の夏を今年と同じように過ごすのは駄目なのだろう。しかし、それが友達をやめることには全くならない。

 これから先のことはともかく、思い出の中からも消えようとしているようなこれは、到底許容できるものではなかった。

 奇しくも、手紙の内容は決まった。

 私はドラルクがいるはずの写真の裏へ、激情任せに一文だけ書き添え、手紙にした。次は必ず、私の大切な友達が写るカメラを持って遊びに行きます、と。

 

 それがまさか、こうも長く掛かるとは思いもしなかったが。

 




まさか城が吹き飛んでいるとは、もっと思いもしなかったが!!

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