ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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「ガンダム狩りのスレッタ」最終決戦後の時間軸のEXでアフターエピソードです。
いわゆるギャグ回なのでキャラ崩壊注意。







オマケ
ミオリネがクソ映画を作って怒られるだけの話


 

 

 

 

 

 

 

「スレッタ、なんか知らないけど……最近の私に対する風評が最悪よ……!」

 

 

 

 それはあの戦いから、ほどほどの月日が経ったある日の昼下がりだった。

 株式会社ガンダムの格納庫、その一部を改装した特設視聴覚室(つまるところホームシアターである)で、二人の少女がだらだらしていた。

 銀髪に白い肌、燃えるような赤毛に褐色の肌――対照的な容姿を持った、同じ学園の生徒である。

 

 一人は我らが株式会社ガンダムの社長にして、今やシン・セー開発公社の同盟者であり、ベネリット・グループ総裁の座も遠くないと噂される若き獅子――ミオリネ・レンブランは、絶賛SNSで炎上していた。

 いつものことだった。

 

 あまりにも慣れっこなので、なんと会社の株価に影響すらしない領域に突入している。ここまで逆風の影響力を無にできるのは、人徳と言えなくもないだろう。

 もう一人の少女スレッタ・マーキュリー(学生。ドミニコス隊はクビになった)は遠くを見た。

 壁しか見えなかったが、何かこう、地平線の果てを眺めてる人みたいに知らんぷりした。

 

 

「あー……平常運転ですね、ミオリネさん」

 

 

「なんで目を逸らしたのよスレッタ! ちょっと友達甲斐がないんじゃない?」

 

 

「ミオリネさんが燃えてない時期の方が珍しいじゃないですか!」

 

 

 ただの正論ではない。

 超ド級の正論、ド正論である。

 しかしそんな正しいだけの言葉に屈するほど、ミオリネは殊勝な性格をしていなかった。最初は炎上してるのに、何故か途中から聴衆の3~4割はミオリネの側についているという嫌すぎる話術の使い手――詐欺師としての才能を開花させた少女は、美麗すぎる顔をほころばせた。

 

 

「いつだって迫害されるのよ、革命をする人間はね……!」

 

 

「ミオリネさん、ミオリネさん。ガソリンをまいてから火をつけて爆発させてるのって迫害なんですか?」

 

 

「爆発で火災を鎮火することってあるわよね――最近はSNS買収してアルゴリズム変えればいいってことに気づいたわ。これってナイスアイデアだと思わない?」

 

 

 ひどい。発想が邪悪すぎる。

 スレッタが親友の唯我独尊過ぎるノリに顔を引きつらせていると、不意にホログラムが展開された。スレッタの携帯端末に搭載されている立体映像の投影機能が働き、一人の少女がぬっと現れた。

 

 それはスレッタにそっくりの特徴を持った幼い少女だった。

 現在の年齢は一〇歳ぐらいだろうか。何年も前にスレッタ・マーキュリーは、きっとこんな容姿だったろうと思わせる姿――最近、心境が変化したのか、年齢設定を弄るようになったエリクト・サマヤ(25歳。10歳児の姿だろうとスレッタの姉だ)である。

 エリクトはスレッタの心境を代弁するように、はっきりと罵声を浴びせた。

 

 

『発想が独裁者(クソ)過ぎるよこの女! ろくでもない大人になる素質ありすぎ!』

 

 

「はぁあ!? 私とスレッタの友情はね、あんたの姉妹愛より深いわよ!?」

 

 

『この間までスレッタを腹違いの妹だと思ってた間抜けのくせに親友面とは笑わせるよね!』

 

 

 不味い。

 五秒も経たずに一線(ライン)を越えた挑発/罵倒が飛び交う空間――ミオリネもエリクトも根本的に口が悪いから、一端、勢いがつくとぽんぽん言葉のドッジボールが始まるのだ。

 ボールの投げ合いが銃撃の応酬に発展するまで三〇秒もかからなそうだった。

 

 

「あ、あわわわわ……」

 

 

 スレッタが慌てていると、意外なところから救い主が現れた。

 ノックの音。誰だろうと振り返りながら、もう誰でもいいからこの状況を終わらせて欲しいと切に願う――「はい、どうぞ!」と応じると、安普請のドアがゆっくりと開かれた。

 

 とても背が高い男の子が三人、やや窮屈そうに扉をくぐって現れた。

 存在感あふれる三人だった。その容姿は三者三様、服装も学園の制服を着崩したり、アレンジしたりで個性的、そして三人全員がとびきり格好いい青年たちだった。

 

 何を隠そう、彼らはベネリット・グループ御三家を代表する面子――グエル・ジェターク(最近、ヘアスタイルを変えたのが印象的)、エラン・フォース(元エラン・ケレスで強化人士四号だった彼)、シャディク・ゼネリ(どことなく胡散臭いがいい人)であった。

 まるで地獄に現れた白馬の王子様×3だった。

 スレッタはキラキラと目を輝かせると、本当に嬉しそうに声を弾ませた。

 

 

「皆さん、来てくださったんですね!」

 

 

 一瞬で状況を察したのか、グエルは眉間にしわを寄せた。

 

 

「……待て、またミオリネがやらかしたのか?」

 

 

「またって何よ、またって!?」

 

 

 ミオリネは即座に噛みついた。黙っていれば宇宙一美しい深窓の令嬢、口を開けば誰かにキレている怒りの化身。

 まさに我らがミオリネ・レンブランだった。

 常日頃から彼女の恐るべき性質を見続けていたせいか、グエルは深々とため息をついた。

 

 

「……言った方がいいのか?」

 

 

「ちっ」

 

 

 舌打ちするミオリネ。

 ぴくぴくとこめかみをひくつかせつつ、激情を制御するグエル――すごい、かつての彼だったならミオリネに対して怒りを返していただろう。

 

 皆さん、なんだかとっても大人っぽくなりましたよね、と遠い目をするスレッタだった。

 そんな風に感心とも諦念ともつかない雰囲気を漂わせる少女を、じっと見つめるエラン/さらにそれを微笑ましそうに見守るシャディク。

 

 つまるところ実にいつもの面子だった。

 そして期待を裏切らないことに、この状況を作り出した張本人はふんすと鼻息荒かった。

 

 

 

「来たわね三バカ――私の作ったベネリット・グループのPR映画の試聴会、気合いを入れなさいよ」

 

 

 

 嫌な予感しかしなかった。

 エランはそれまで温かみのあった無表情からあらゆる温度を喪失させると、氷のような視線をミオリネに浴びせた。

 「何言ってんだこいつ」という気持ちがあふれ出していた。

 

 

「――僕は用事を思いだした」

 

 

 エランはすまし顔で(きびす)を返した。ためらい一つない所作、見惚れそうなぐらいに美しいターンだった。

 そんな彼の肩を掴んで静止したのは、やはり親しい友人であるグエル・ジェタークだった。

 

 

「エラン、顔出ししてからキャンセルは流石に非礼だろ」

 

 

「ミオリネ・レンブラン以上に無礼な人間はいないと思うよ、グエル」

 

 

「それはまあ……そうだが……」

 

 

「グエルさん、そこで否定しないんですか!?」

 

 

 スレッタは思わず突っ込みを入れた。

 絶賛、面倒くさい三角関係を継続中の三人は、それにしたって仲がよすぎる戦友同士でもあった。

 なのでグエルは、極めて気安い感じに振り返るのだった。

 

 

「スレッタ、ミオリネはこう……なんというか……」

 

 

「言葉に詰まる気持ちはわかりますけど!」

 

 

「だよな!?」

 

 

 そういうことになった。

 幸いにもミオリネは、たった今、塩対応の極みを実践しようとしたエランにぶり切れている最中であり――グエルとスレッタの失言×2は聞き逃していた。

 ともあれ元気がよすぎる、いつもの面子らしいやりとりだった。

 そのすべてを愛おしそうに、シャディク・ゼネリが見つめているのは言うまでもあるまい。

 

 

 

 

 

 

「お、お二人とも、助けてください……!」

 

 

 場を収めたのはスレッタの一言だった。

 ぶっちゃけ泣き落としだったが、これがグエルとエランにはすこぶるよく効いた。二人とも少女に好意を持っているので、いい顔をしておきたかったのである。

 

 たとえそれこそが、スレッタを利用したミオリネの邪悪すぎる奸計(かんけい)であろうと――青春を謳歌している若人たちは、基本的にめちゃくちゃ素直だった。

 そういうわけでミオリネ主催、ベネリット・グループのPR映画の試聴会は始まることになった。

 得意げに銀髪の美少女はうなずき、腕組みしながら立体映像の投影を開始。

 SNSの話題を示す棒グラフを表示した。

 

 

「世間は今、クワイエット・ゼロ事変の詳細に関して情報を求めているわ。あまりにも多くの出来事が起こりすぎて、ちょっとした陰謀論まで流行っているぐらいに」

 

 

『ちなみに情報の出自は宇宙議会連合が出資元のフェイクニュースサイトなんだけどね。あーやだやだ、大人はいつでもきな臭い陰謀が好きすぎるよねー』

 

 

 エリクトがぼやいた。

 嘘みたいな話だが、人類存亡を賭けた戦いを制したのは、ここにいる五人+一人だったのである。

 

 デリング・レンブランが目論んだ文明管理計画、そしてヴァナディース機関の遺産ルイ・ファシネータによる人類滅亡計画――真実は突拍子もなさ過ぎて、まだ銀河の彼方から善良な宇宙意思が呼び掛けているとか、スピリチュアルなオカルト話の方が真実味があるだろう。

 

 ともあれ、事実は一つである。

 どうにかして、揺れる世論をベネリット・グループにとって好都合な方向にまとめておきたい。

 そのようにミオリネは喋り始めた。

 

 

「そこで私、考えたのよ――ここでベネリット・グループに好印象を抱かせる感じの映画を出したら……世論戦で勝てるんじゃないかって!」

 

 

「わたし、これ知ってます! プロパガンダですよね!」

 

 

「ええ、わかってるわスレッタ――イメージ戦略よ。企業イメージは大事よね」

 

 

「えっと、プロパガンダですよね?」

 

 

「イメージ戦略って大事よね!」

 

 

 そういうことになった。

 強引すぎる。

 スレッタが「そういえばミオリネさんってこういう人でしたね」とおののいていると、ミオリネは部屋の照明を消してプロジェクターを操作。

 ホームシアターでの上映会の準備が整った。

 

 

「まず最初に言っておくわ。これはあくまでパイロット版だから、予算や制作時間の関係で実写じゃない。ちょっと知り合いの伝手を頼って作ってもらったアニメーションなんだけど……」

 

 

 あれ、アニメってそんな簡単に作れるんでしたっけ――スレッタが首を傾げていると、ミオリネがどかっと据わった。

 大きなお尻がソファーに沈み込んだ。

 流石に男子三人が心得たもので、私語を慎んで静かに画面へ目を向けている。

 次の瞬間、上映前の注意書きが流れる。

 

 

 

『※この映画はフィクションです。実際の人物、事件、団体とは関係ありません。』

 

 

 

『※ベネリット・グループは太陽系すべての発展を応援しています』

 

 

 

 テロップがいきなり矛盾した。

 

 

 

 

『「「「「…………」」」」』

 

 

 

 

 今、スレッタとエリクト、そしてグエル、エラン、シャディクの心は一つになっていた。きっと人間はものすごい新人類なんかにならなくても、わかり合うことができると確信するぐらいに。

 あ、たぶんこの映画はダメなやつだな――そんな悟りを得た五人の心境を余所に、ミオリネ肝いりのプロパガンダ映画は始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――少女は囚われていた。

 

 

 

 長く伸ばされた白銀の髪。銀糸のようなそれを風邪にたなびかせ、物憂げに午後の日差し差し込む温室にたたずむ少女。

 とても儚く知的で美しい少女が、愁いを帯びた表情で、植物の鉢植えを眺めていた。

 そのときである。

 物々しい音と共に、温室の扉を荒々しく開いて、筋肉質な青年が現れた。

 

 

 

 

「ヒャーッハッハッハッハ、ミオリィ(仮)! お前は俺の花嫁なんだよッ!!!」

 

 

 

 

 そう、有名軍事企業の御曹司、グレッグ(仮)だ。

 特徴的なピンク色のメッシュが入った長身の青年は、ギラギラした悪者感あふれる笑顔だった。

 怯えたように少女は後ずさる。

 そう、ミオリ(仮)は籠の中の鳥――何もできず、溺れるようにもがく存在なのだ。

 

 

 

――少女はまだ、自分の運命を知らない。

 

 

 

 

 

 

 グエルが動画の再生を止めた。

 ぷるぷると小刻みに震える青年は、なんかもう海で溺れてる遭難者みたいな感じだった。

 絶句しているスレッタとエランとシャディクを余所に、やっとのことで彼が放ったのは万感の思いを込めた一言だった。

 

 

 

「ちょっと待て……俺はここまでひどくはなかったと思うぞ!!」

 

 

 

 スレッタは目を逸らした。

 

 

 

「…………そ、そうですねグエルさん!」

 

 

 

「スレッタ・マーキュリー、今の間は……ひどくないか!?」

 

 

 そんなこと言われても、スレッタとしては「初対面の頃のグエルさんって……わりとマッチョでしたよね!」ぐらいの苦言は呈せる。

 そう、困ったことに根も葉もない描写でないのだ。

 

 今でこそ気安い悪友に落ち着いているが、かつてのミオリネ・レンブランは籠の中の鳥(トロフィー・ヒロイン)であり、グエルはその名誉を求めて野蛮さを男らしさと勘違いしたような言動をしていた。

 

 恐ろしく態度の悪い犬猿の仲だったと言ってよい。

 その両者にとっての一番気まずい時期を、明らかにモチーフにした映像だった。

 スレッタはだらだらと冷や汗を掻きながら、必死にフォローしようとした。

 

 

「ま、待ってください。たぶんミオリネさんも悪気があってこうしたわけじゃ――」

 

 

「いわゆる黒歴史ってやつね。笑えるわ!」

 

 

 ミオリネは破顔一笑した。

 限りなく純粋な喜悦の感情、悪意の欠片もない清らかな天使のような微笑みである。めちゃくちゃ顔がいい美少女の特権、ビジュアルだけなら宇宙一を名乗れそうである。

 それはそうとして、人間的には最悪だった。

 

 

「こ、この人、悪意なく喧嘩を売ってる!?」

 

 

 スレッタはドン引きした。

 いきなりフルスロットルで喧嘩を売ってる様子がおかしい人である。怖すぎて困る。何が困るってこの人、太陽系最大の企業グループの次期CEO候補でスレッタ・マーキュリーの無二の親友なのだ。

 

 こうもはっきり喧嘩を売ってるのが可視化されると、グエルの側に立っても、ミオリネの側に立っても角が立つ。

 というか間違いなく、スレッタの言葉を開戦の合図にして、ミオリネVSグエルのバカみたいな口論が始まる気がする。

 ここ数ヶ月で社交性が磨き抜かれたスレッタは、頭をフル回転させて――助けを求めた。

 

 

「しゃ、シャディクさん! 幼馴染みとして、こう、いい感じに止められませんか!?」

 

 

 困ったときはシャディク・ゼネリである。いまいち腹の底が読めなくて怖い人だが、それはそうとシャディクは優しくて頭もいい。

 しかもあのミオリネ・レンブランの幼馴染みである。

 紛争の調停者としてこれほど優れた人物もいないだろう。わらにもすがる思いで声をかけたスレッタに、やはりシャディクはそっと微笑みかけた。

 

 

「いや、ミオリネが楽しそうで俺も嬉しいよ」

 

 

「この人、こんなときに惚気(のろけ)てます!!!」

 

 

 スレッタは困惑した。

 どうやらシャディク・ゼネリは浮かれポンチであり、かなり当てにならない状態のようである。

 何というか人生で今が一番楽しい時期ですみたいな顔をしている。たぶん無敵モードだろう、どうしてか知らないけれど。

 

 そしてスレッタは気づいてしまった。

 どうやらミオリネは実在の人物をモチーフにして、面白おかしく脚色した物語を作ったようである。この様子では自分もどんな姿でネタにされているかわかったものではない。

 

 

「ま、待ってください……この流れだと……エランさんも大変なことに……!?」

 

 

 ミオリネは首を横に振った。

 

 

「あ、エラン編はセンシティブだからスキップしたわ」

 

 

「俺と扱いが違いすぎるだろ!?」

 

 

「ええ、反省してるわよ?」

 

 

「その顔で反省は嘘だろ……!」

 

 

 グエルの突っ込みは正当だった。

 それはともかくとして現状、ベネリット・グループにとって元エラン・ケレス――強化人士の人体実験は暗部といってよい。せっかく諸々の事件で風化しつつあるというのに、再び突っつくような藪蛇は避けたかったのだろう。

 そういう理性が働く割に、グエルのことが極限までネタにしている。

 スレッタ・マーキュリーはグエルとミオリネの口論を聞きながら、小首をかしげた。

 

 

「……もしかして、二人とも仲がいいんでしょうか?」

 

 

「水星ちゃん。最大限に好意的な解釈だと思うよ」

 

 

 シャディクは困り顔だった。

 それはそうだろう、元気すぎる幼馴染みが実在の人物、それも親しい友人をネタにして脚色が凶悪すぎるフィクションを作っているなど――いくら何でも所業に品性がなさ過ぎる。

 なまじミオリネと距離が近いから、スレッタもシャディクもコメントに困っていると――エランがすまし顔でコメントした。

 

 

「ミオリネ・レンブラン。君の品性を欠いたアイデアはともかくとして……うん、常識を疑うね」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 スレッタもシャディクも反論はなかった。

 異論はなかった。おおむねその通りであると認識していた。

 

 いっそのこと清々しいぐらいに美化された薄幸のヒロイン・ミオリ(仮)――誰がどう見てもミオリネ自身がモデルだろう――と、陳腐なまでに悪役として演出されたグレッグ(仮)――グエルがモチーフだろう――は、なんというか、痛々しい雰囲気がすごい。

 

 これを堂々と当事者に見せる神経はちょっと真似できない。

 そのような感想を、スレッタとエランとシャディクは共有していた。

 そして、ふと気づいた。

 

 

 

「あれ? エリクトは?」

 

 

 

『は、話しかけないでスレッタ……僕は笑い転げたい気持ちを……抑えてるところだから……』

 

 

 

 スレッタの姉(25歳児)は声もなく爆笑していた。

 姉の笑いのツボはだいぶ最悪だった。

 もう試写会の会場は、怒りと呆れと笑いが入り交じってすごいことになっていた。とにかくさっさと終わって欲しくて、スレッタは動画を再開させた。

 

 

 

 

 

 

――その後、運命の少女スーザン(仮)と出会ったミオリ(仮)は、様々な出会いと冒険を繰り広げて。

 

 

 

――数奇な宿命に翻弄された末、闇に堕ちてダーク・ミオリ(仮)となってMSに乗っていた。

 

 

 

 それは暗黒宇宙要塞クワイエット・ゼロ。

 宇宙に浮かぶ白銀の棺――禍々しく発光するシェルユニットを備えた巨大な人工物の内部で、二機のガンダムが向かい合っていた。

 

 一機は白亜の妖精〈エアリアル〉――スーザン(仮)が駆るMS。

 もう一機は悪魔じみた漆黒のMS〈ダーク・ルブリス〉――ミオリ(仮)が駆るMS。

 宇宙要塞内部、そこに何故か広がっている煮えたぎる溶鉱炉の直上で、運命に翻弄された二人の少女が向かい合いっていた。

 

 その手に握られているのはビームサーベルだった。

 光芒の果ての剣閃、火花が散り、幾度も斬り結ぶ二つの影――ぐつぐつと煮立った金属の海が広がり、絶えず火柱が噴き上がる空間で、二機のガンダムは激しく刃を交わした。

 そして幾度かの攻防の果てに、スーザン(仮)とミオリ(仮)は刃を向け合って。

 

 

 

『あなたの負けです、地の利を得ました!』

 

 

 

 挑発とも取れる言葉だった。

 ビームサーベルを構えた白いガンダムに対して、暗黒のガンダムが飛びかかる。

 

 

 

『私の力を見くびるんじゃないわ……!』

 

 

 

 次の瞬間、刃が閃いた。

 切り裂かれた上半身と下半身が真っ二つに切り裂かれ、〈ダーク・ルブリス〉が地に落ちていく。

 燃え盛る焔の地獄、溶けた金属が流動する灼熱地獄への失墜――ガンダムが、悪魔の金切り声を上げて身もだえした。

 

 

 

あんたが憎い(アイヘイトユー)……!』

 

 

 

 それは、あまりに惨い言葉だった。

 〈エアリアル〉は悲しげに目を伏せると、高熱に包まれていく〈ダーク・ルブリス〉に背を向けた。

 ぐつぐつと煮えたぎる溶鉄の海に沈んでいくミオリ(仮)。

 邪悪なる野望を抱き、父親と親友すべてをあざむいた希代の大悪女の最後だった。

 

 

 

 

 

 

なんでよ!?

 

 

 ミオリネはキレた。

 いい感じの悲劇のヒロインやってたはずのミオリ(仮)がすごい勢いで闇堕ちして、挙げ句の果てに人相まで悪くなった果てに親友の手で切り捨てられたのだ。

 

 いっそのこと清々しいぐらいの悪役(ヴィラン)だった。

 お話のジャンルが変わりすぎて唖然としている他の面子――エリクトはゲラゲラ笑いながら悶絶している――を余所に、何故かミオリネまでぶちキレ始めていた。

 なんでこの映画を作らせたはずの当事者が、知らない内容に怒っているのだろう。

 

 

 

――ひょっとして脚本を書いたのは、ミオリネさんじゃない?

 

 

 

 スレッタの直感が告げていた。

 そして次の瞬間、わなわなと悔しさに震えるミオリネがこぼしたのは、とんでもない一言だった。

 

 

「シン・セー開発公社に抗議のメールを送るときが来たようね……」

 

 

「うえっ!?」

 

 

 何故か実家(スレッタはシン・セー開発公社の先代社長の令嬢である。表向きにはそういう感じ)の話題が出てきた。

 ギギギ、と油を差し損ねたブリキの人形みたいにぎこちない動きになって、スレッタは率直な疑問を漏らした。

 

 

「あのっ、ミオリネさん……どういうことです?」

 

 

「えっ、あんたの兄貴のクソAIに作らせた動画だけど……」

 

 

「何やってるんですかミオリネさん!?」

 

 

 いきなり身内の話が出てきた。

 そして知らないところで彼――ヴァナディース機関の遺産であるパーメットAIルイ・ファシネータが、ミオリネにこき使われていたことを察する。

 銀髪の美少女は、切れ長の綺麗な目にちょっとした諧謔(ユーモア)すらにじませて、しれっとこう言ってのけた。

 

 

「何って……過去の名作映画のエッセンスを取り込んで、痛快娯楽活劇に仕上げるように命令しただけだけよ? プロットも映像もあいつに作らせて、ええ、ちょっとダメ出しはしたけど」

 

 

「清々しいまでにパワハラ……! AIに対するハラスメントを感じます……!」

 

 

 たぶんこのアニメーションの内容が全体的にアレな感じなのは、作っているAIが全力で嫌がっていたからだろう。

 何を言うべきか迷った末に、スレッタは視線をさまよわせて、見知った男子三人とアイコンタクト。

 深々とうなずく彼らの意思に後押しされる。

 ため息をついた末、スレッタは今日一番のお説教を始めることにした。

 

 

 

 

「――ミオリネさん。正座。できますか?」

 

 

 

「えっ、スレッタ、何を――」

 

 

 

「正座。できますよね?」

 

 

 

「…………くっ……!」

 

 

 

 ミオリネは床に正座した。

 ぷるぷると恥辱で震え始めた少女を、生暖かい視線で見守る男子三人――紆余曲折(うよきょくせつ)あった末、制裁を加えられるミオリネを眺めて、エリクトはやれやれと肩をすくめるのだった。

 

 

 

 

 

『バカみたいな青春だね、ここまで来ると僕も感動しちゃうよ』

 

 

 

 

 皮肉たっぷりにそう呟きつつ、エリクトは楽しげに笑う。

 かつて自分が過ごしたような温かな日々が、妹の行く先に広がっていることを――いつまでも、いつまでも願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-了-

 

 

 

 

 

 




どっかで見たことある名作映画の有名シーンのパク…オマージュを雑にやってる(クソ映画あるある)


そんな感じで決戦のあとも、彼らは楽しくやってますみたいなお話。
与太話です。







あと現在、「機甲猟兵エルフリーデ」というオリジナル連載してます。
https://syosetu.org/novel/352585/
おすすめです(面白いので)



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