話は俺が龍神オルステッドとラノアの北の荒れ地と化しつつある北の森で向き合う数時間前まで遡る。俺はルディと一緒に廃村に向かっていた。
「それじゃ具体的な戦略の擦り合わせといこうか。ルディはどうするつもりだ?」
「ナナホシが呼び出す予定の小部屋にいくつか罠を仕掛ける。そして動けなくなったところで雷光をぶつけようと思う」
普通の相手ならそれだけでオーバーキルだ。戸籍すら残らないだろう。
「それでも倒すには至らないだろうから、そのあとは徹底的に岩砲弾をぶつけまくる作戦でいこうと思う」
ルディの武器はこれまでの岩砲弾に加え、魔導鎧に取り付けられているガトリング砲だ。最高クラスの岩砲弾を10連発まで発射できる代物で、全て避けるのは困難だ。
「接近戦は?」
「する前に殺す。というか、近づけたらほぼ勝ち目がないからな」
ルディは剣術もできるとはいえ、さすがにオルステッド相手だと戦いにならないレベルだろう。
(…てことは、オルステッドは間違いなく近づいての勝負を仕掛けてくるな)
オルステッドが素直にルディの有利な土俵で戦い続けてくれるとも思えない。接近戦ならむしろ俺の方が戦いやすいだろう。
「なら、俺はオルステッドがルディを攻めるまで隠れて様子を見ておこう。安易に正面から近づいても勝負にならないからな」
彼の死角から攻め込んでも対応が間に合ってしまうだろう。それでもルディに近づく瞬間だけは彼の意識は俺には向いてこないはずだ。
(その瞬間、どのくらいあるかわからない一瞬で奴を後手に回させる)
その後は相手に攻撃する隙を与えない。とはいえ、長時間は俺も戦えないだろうから、そこはルディの出番だ。
「俺がオルステッドと戦ってる時も遠距離から魔法をぶち込んでくれ」
「いやでもそんなことしたら、お前も巻き添えに…」
「大丈夫だ、ならない。というか、むしろルディが攻撃し続けてくれた方が奴が俺に意識を集中しない。俺は避けれるし問題ない」
そのためにこれまでトレーニングしてきたのだ。ルディの攻撃もオルステッドの攻撃も上手いこと移動すればどちらも避けられるだろう。
ここで俺はルディと別れる。彼はオルステッドを呼びつける小屋に罠を仕掛けに向かう。そこにルディは雷光をぶつけて小屋ごとオルステッドを殺すつもりなのだろう。
(まあ、そんなに簡単にはいかないだろうけどな…)
それで死ぬようなら七代列強などと呼ばれていない。一方、俺はルディも視界に含められる位置で潜伏する。小屋に行くまでにオルステッドが気づくかどうかは運次第だが、戦いが始まったら、さすがにルディに意識は向くと思う。
こうして隠れること数分、銀髪の大柄な男が小屋に向かっていくのが見えた。オルステッドだ。実際に見てみると改めて恐ろしいという感覚を抱かざるを得ない。
オルステッドが小屋に入った。中ではルディが仕掛けた幾つかの小細工が発動していることだろう。その中にはオルステッドが中に入ったことを知らせる発信機のような魔道具もある。それを見逃さなかったルディがついに魔術を唱える。
青白い雷光が天から落ち、オルステッドのいる小屋を轟音と共に貫いた。しかし、ルディの魔法はまだ終わらない。キュムロニンバスを唱えて雷雨を起こす。そしてフロストノヴァでその雨粒を凍りつかせる。堆積した氷の粒が氷山のようになったところでルディのお家芸とも言うべき岩砲弾放たれる。隕石のようなサイズのそれが突き刺さって轟音とともに地面が揺れる。
普通の相手ならもう生きてはいないだろう。しかし、岩石を砕いて恐ろしい殺気がルディの方に近づいてくる。
(予定通りだ。俺の方に意識は向いてない)
ルディとオルステッドの戦闘が始まる。今のところ攻撃してるのはルディだけで、オルステッドは回避に徹している。もっとも大量の岩砲弾と核爆破のような大規模魔術はさすがのオルステッドといえども全部躱すのは困難だったようで、多少喰らってはいるが。
オルステッドが少しずつルディに近づいていく。魔導鎧を着用しているとはいえ、接近戦になったら攻撃の手段が乏しいルディはかなり不利だ。
(そこで俺の出番ってわけだよな…)
接近戦で俺が向きあいオルステッドを足止めする。そしてその間ルディが遠距離から攻撃する。ルディがオルステッドと戦うことが決まった時から想定していたプランだ。
現状、剣が振れない俺だが攻撃方法はある。ルディが散らした氷や岩の欠片がまさにそれだ。俺はそれを掴み、苦無のように扱うことにした。とても鋭利だし、途中で折れたところで無数に落ちてるので替えはいくらでも効く。
オルステッドは鋭い眼光でルディの元へ歩みを進める。しかし、そんな彼の腕に銀色の影が突き刺さった。
「これ以上は通行止めだ」
俺が間に入って岩砲弾の欠片を突き刺したのだ。オルステッドは思わずといった感じで顔を顰める。
「…邪魔だ」
彼は流れるような動きで払い除けようとする。剣すら抜いていないはずのその一撃は俺の命を刈り取るには十分なものだ。
(でも、当たってやらねぇよ)
続けてくる攻撃も身体強化魔法の効果で完全に見切る。速いし、的確だが、だからこそ今の俺なら躱せる。まあ、ルディの援護射撃のおかげで攻撃パターンがだいぶ絞りやすいのもあるが。
以前戦ったときの手刀でこちらを斬りつけてくる。が、あのときと違って格段に遅く見えていた。その連撃を全部躱せば当然龍神といえども隙が生まれる。
(体勢悪いなぁ! これを避けれるのかよ!)
俺は偽苦無を持っていない方の手で岩砲弾を作り上げる。ルディのガトリングほどの出力は出せないが、それでも聖級を上回るほどの威力は出せる。彼と再会して魔法の方も多少鍛えてきたのだ。
「ムッ!」
オルステッドは警戒したように身体を左に動かす。俺がこれまで戦闘中に岩砲弾を使ってきたことはない。彼からすれば威力はわからないし、それ故の警戒だろう。
しかし、それはこの状況では悪手だ。一対一ならすぐにまた攻撃するだけだが、ルディが控えている。俺を遥かに上回る凄まじい威力の岩砲弾がオルステッドの脇腹を貫いていた。
(俺とルディの双方が上手く連携すればオルステッドとて崩せる…)
オルステッドはそのまま独特の構えを取る。光の太刀だ。彼は剣を抜くことなくそれを放つことができるようだ。いくらなんでもぶっ壊れスペックがすぎるだろう。
(なんたってあの龍神の光の太刀だ。普通なら反応することすらできないんだが…。今の俺には遅えよ)
威力もスピードも凄まじいが当たらなければどうということはない。そのままカウンターに持ち込んだが、さすがオルステッドだ。俺の苦無は空を切った。
ある程度互いに距離ができたところで俺は声をかける。
「それにしてもさっきから剣も魔法も使わないな。何か条件があるのか?」
オルステッドは表情を変えずに答える。
「それを貴様に言う必要はない」
「そうかい。なら、勝手に分析するけど、もしかして魔力が足りないとか?」
「どうだろうな」
再び斬り合いに発展する。未だに俺はほぼ無傷だが、オルステッドはルディの岩砲弾を中心とした攻撃によりそれなりにダメージを受けているようで、普段から恐ろしい顔がより一層恐ろしくなっている。
(このまま押し切れる…。いや、待て!)
斬り合いの最中オルステッドが一瞬の間合いで何かを取り出す。その何かが不気味に光ったのち、俺の身体は袈裟に斬られていた。身体を動かして回避を試みるが、その刃は臓腑まで届いている。
「…半歩引いたか。見事だ」
吹き飛んでいく俺に静かな声でオルステッドが呟く。半歩引けたとはいえ、まともに食らってしまった。衝撃もあって俺はルディの後方まで吹き飛び、動けなくなる。
オルステッドは凄まじいスピードでルディに詰め寄る。ルディもありったけの魔法をぶつけたり、魔導鎧に装着された剣をぶつけることで抵抗を試みるが、刀を抜いたらしいオルステッドには通用しなかった。
(一撃で寝てんじゃねぇよ! 動けよ、クソがあああああ!)
血反吐を吐きながら俺はルディの元へ向かおうと身体を起こそうとするが、意思に反して動かない。血が止まらない俺が地面に横たわっているうちにルディの両腕が切り落とされる。そして、オルステッドはついに彼にトドメを刺そうとする。
(頼む、誰か…!)
もはや神頼みに近い叫びを唱えるが、ルディの命乞いも虚しく、彼の命は風前の灯だ。
しかし、諦めかけたその瞬間目の前に真紅の光が走っていた。
「待たせたわね、ルーデウス」
オルステッドとルディの間に割って入ったエリス・グレイラットによって、戦況はより混沌としていくのだった。
次回、記念すべき100話に決着!