中央氷原某所、企業からもルビコニアンからも見捨てられた何もない極寒地帯。どこもかしこも一面白色に染まったその場所に、しかし一点だけポツンと“黒”があった。
氷原に作られた、深々としたクレーター。その中央に突き刺さった、黒いコンテナ。今でこそあらゆる音が雪に吸われ、しんとした全くの無音状態となっている。
だが、周囲に飛び散った巨大な氷塊の数々が、このコンテナがどれほどの勢いでここに着弾したのかを物語っていた。
早く中央氷原に行きたいという621の思いを汲み取ったカーラは、カーゴランチャーの出力を最大にまで高めていた。その結果がこのクレーター。いくら621と言えども、これほどの衝撃では――
バァン!!
静寂を塗りつぶす、爆発音。コンテナの蓋が、突然内側から吹き飛ばされる。そして、空いた穴から黒い腕が這い出てくる。
「全く、なんで開いてくれなかったんだ? 海越えのときはちゃんと開いてくれたってのに」
中から出てきた人型の正体は言うまでもない。LEAPER4だ。海越えの以上の衝撃を食らったはずなのに、621はピンピンしていた。
『ビジター、中央氷原には無事到着したかい?』
「ああ。でもコンテナの蓋が開かなくてショットガンで壊しちゃった。すまん」
『別にいいんだよ。所詮放置されてた中古品だ。これ以外に碌な使い道があるわけでもないし』
621の足取りに、淀みはない。これは、今までの激戦を経てカーゴランチャーのGにすら耐えうるほどに621が成長したということなのか。あるいは、「みんなを助け、コーラルエンボディを成し遂げる」という強い使命感が、彼にカーゴランチャーの衝撃を食らってなお意識を保たせることを許したのか。
いずれにせよLEAPER4は、その二本の足でしっかりと氷原を踏みしめ、ぶれることなく直立していた。
『先にも伝えた通り、間もなくフレディと六文銭がそこに着く。合流してくれ』
「ああ、分かって――」
「「きゅう……」」
「っ!」
突然背後から聞こえた声に、621は即座にクイックターンで振り返りショットガンを構える。そこにあったのは自分が乗ってきたコンテナだけ。
(コンテナから声……? 俺以外の誰かが、このコンテナに乗っていた? いや、そんなはずは……)
混乱する621。それも当然だろう。だって論理的に考えて、自分以外がこれに乗るメリットなどないのだから。
ルビコニアンならば、他にいくらでも海を渡る手段があるだろう。確かに最速はコレだが、好き好んで乗りたがる馬鹿がいるとは思えない。
アーキバスやオールマインド陣営は、もっとあり得ない。621に気付かれずにコンテナに乗れる力があるなら、それ以前にコンテナを破壊するだけで彼らの目的は達成される。一緒に乗るメリットがない。
どの陣営も、乗る意味がない。であるならば、今コンテナの中から聞こえた声は? あまりにも不可解。621の額に、汗が伝う。
「っ!! 動いた!!」
コンテナの、自分が乗っていたのとは反対側。そこの蓋がゆっくりと開いていく。カーゴランチャーのコンテナは一つで前後二つの領域に分割されており、だから621は同乗者の存在に気付かなかったのだ。
だが今となっては、どうして相乗りに気付かなかったのかなど些末な問題でしかない。相乗りしたその人が、今姿を現そうとしているのだから。
(来るなら来い!)
かつてない不可解さに、頭部スキャンを使うことすら忘れて銃を向ける。何が出てきても即座に撃てるように。
そして、コンテナから赤い腕が飛び出した。血のように赤いそれらは、だらんと雪原の上に伸びていた。
かと思ったら突然、雪を掴み、縋るように引っ掻き始めた。何度も何度も、必死に。雪に無数の跡をつけ、それでも引っ掻き続けている。コンテナから出ようと、足掻いているのだろうか。
(っ! 一体なんなんだよ! 赤いWRECKER腕なんてまるで……!
少年としての621が恐怖する一方で、傭兵としての621が冷静に、この腕部は
コンテナに乗っていたのはWRECKER腕を搭載したAC? そういえばそんなACを直前で見たような気が……。
「まさか……」
脳裏に過った一つの可能性。思えば、
さっきまでの怯えようはどこへやら、621はさっとコンテナの傍まで行きしゃがみ込む。そこで彼が目にしたものとは――
「う、うう……なぜ、私が……こんな目に……」
「イン、ビンシブル、だ……俺は、無敵、なん、だ……」
「……なんで?」
――ぐったりと倒れ伏す、インフェルノピカクス。中には当然、ダナムとラミーの二人。ベリウス地方に残るはずの二人が、何故かこちらに来ていたのだ。
「ホントになんでコンテナに乗ってんの?」
「私は……乗るつもりは、なかったんだ……ただ、ラミー君が、目を覚まして……カーゴランチャーを、敵と誤認して……ACの、コントロールを、奪って……突っ込んで、いったんだ……」
「馬鹿かよ……」
621の口から思わず飛び切り冷たい声が漏れてしまったのも、仕方のないことだろう。
カーゴランチャーを敵と誤認する? 一体どういう了見なのだろうか? 発射用カタパルトに電流が走る様を、何かの兵器にでも間違えたというのだろうか? 流石ドーザー。ドン・キホーテもびっくりである。
「カーラ、フラットウェル……なんかダナムとラミーがこっちに来てんだけど……」
『はあ!? 何がどうなってそんなことになってんだ!?』
『……なぜ? 本当になぜ……?』
指揮官二人ですらこの反応。予想外という言葉では表せないほどの予想外であった。
621は思う。この戦いが終わったら、全ドーザーからコーラルを抜いて社会復帰させる必要があるのではないか? こんな予測不能なならず者を放置していたら、せっかく守った星がコイツら自身の手で滅ぼされることすらあるかもしれない。
そんなの、あまりにも本末転倒過ぎる。エンボディしたら終わりというわけではないのだ。
(エンボディを果たしたら、カーラとかウォルターあたりに相談しよ)
621は、先のことも考えられる賢い傭兵なのであった。
『ビジター、その二人は放っておきな。後で回収させるから』
『クソッ、どうしてこうもプラン通りにいかない……! 敵にプランを崩されるならまだしも、どうして味方に崩されなくちゃあならない……!!』
「も、申し訳、ございません……! 帥叔……!」
「い、イン、ビンシブル、だ……! 俺は、い、インビンシブル、だ……!」
「……」
呆れるカーラに、キレるフラットウェル。平謝りするダナムに、相変わらず支離滅裂なラミー。
621は何も言わない。あるいは言えない。だって、何を言っても火に油を注ぐだけな気がするから。
正直、ラミーに巻き込まれただけのダナムを可哀想だと思わなくもない。だが、だからといって助ける方法がどこにあるというのか。なんというか、本当に居た堪れない。
だが、そんな居た堪れない空気は、唐突な部外者の登場によって破壊された。
『こちらはチャティ・スティックだ。ボス、盛り上がっているところ悪いが、そろそろ
『ええ? もうなのかい? 本当に良くやったよ、チャティ。これで盤石だ。あとは
「え? エアさえって、それって――」
思わず聞き返す621。それも当然だろう。カーラの言葉を額面通りに受け取れば、それは即ち――
『すまないねえ、ビジター。グリッドに向かうアンタが割とマジで忙しそうだったから、伝えるタイミングがなかったんだよ。まあつまり、お察しの通りさ』
LEAPER4のレーダーは、こちらに向かってくる
だが、残りのもう二つ。それらは、チャティのAC“サーカス”と拠点ヘリ。621にとっては、予定にない来客だ。
カーラの言が正しければ、チャティが護衛していたのはこの拠点ヘリで、ということは拠点ヘリに乗っているのはもしかして――
「621!」
「っ!! ウォルター!?」
着陸した拠点ヘリから降りてきたのは、杖を突いた初老の男。それは間違いなくウォルターであった。
「ウォルター!!」
621は即座にLEAPER4を膝立ちさせ、コックピットを開放。次の瞬間にはLEAPER4を飛び出し、その表面を一気に滑り降りる。着地してそのまま体勢も整わぬうちに走り出し、一息にウォルターの傍まで駆けよっていく。
「ウォルター!!! よかった!! 本当に、良かった……!!」
「621……お前こそ、無事で本当に良かった……!」
621は全力でウォルターに抱き着き、ウォルターもその背に腕を回す。お互いがお互いを離すまいと、強く抱き止めている。それは、正しく親子の抱擁であった。
彼らを知らぬ者が今の二人を見たら、間違いなく親子だと錯覚していただろう。それほどまでに二人は親子であった。
「……621、すまない」
「ウォルター?」
だが、それでもウォルターは抱きしめる腕を緩めた。621の肩に手を置き、そして引き剥がす。空いた距離の中で、621とウォルターの視線が交差した。
「すまなかった、621。俺のせいで……俺のせいで……!」
「ウォルターのせいなんかじゃない! 悪いのは全部オールマインドだ! ウォルターはずっと俺を助けてくれた!」
「いいや、俺はスッラとの因縁にお前を、このルビコンを巻き込んでしまった。それさえなければ、今頃コーラルエンボディは達成されていたはずだったのに……」
罪の意識がウォルターを咎める。自分のような罪人が、どうして621の親面をできるというのだ? 今ここで起きている戦いの原因そのものである、この自分が?
本来なら、コーラルエンボディは既に達成されていたはずだった。アイビスを落とした時点でもはや障害は無く、後は消化試合となるはずだった。予定通りに進んでいたなら、アーキバスに手を出される隙すらなかったはずだったのだ。
それが、実際はどうなった? チャティに運ばれる中で、ウォルターは聞いた。ルビコンで戦うものたちの、無数の鬨と悲鳴を。勝とうが負けようが、少なくない命が消えてゆく。本来起こらなかったはずの、この
この悲惨な状況はどうして生まれた? その答えを、ウォルターは確信している。即ち、自分のせい。自分が
少なくとも、ウォルターは本気でそう思っていた。
「621、お前は俺と一緒にいるべきではない」
「っ!? なに言ってんだよ! ウォルター!」
だからウォルターは621を突き放す。これ以上621を巻き込まないために。
「分かってくれ、621。それがお前のため……いや、皆のためなんだ。今までも、これからも、俺がいるせいで事態が悪化する。俺さえいなければ――」
「イヤだ!!」
「っ!!」
だが、そんなものは親の理屈だ。巻き込みたくない? 一緒にいると不幸になる? それがどうした。いつの時代だって、子が親に望むことはただ一つ。
「俺はウォルターと一緒がいいんだ!」
「……っ」
「因縁とかなんだとか、それがなんだってんだよ! 今更そんなんで離れられるかよ!」
ウォルターがどう思おうと、二人の関係は既に損得を超えたところにあるというのに。でなければ、どうして猟犬たちは命を投げ出せようか。
「俺は大切な人たちを守りたくて戦ってるのに……その大切な人の中にアンタがいるって、なんで分からないんだよ! 分かれよ!!」
「…………」
ウォルターは、ただ俯いて唇を嚙み締めることしかできない。
ウォルターとて鈍感ではない。621がどれだけ自分を慕っているかなんて、今までの生活の中で薄々気付いていた。だが、それを認めるわけにはいかなかった。幾人もの猟犬を死なせてきた自分には、621の愛に応える資格などないと思っていたから。
しかし、621からすれば、そして
だから、カーラは口を開いた。
『ウォルター、コイツはアンタの責任だよ』
「カーラ……だが……」
『
「……何を言う、カーラ。俺は……お、俺は…………」
否定しようとして、言葉に詰まる。「俺は、621を愛してなんかいない」と、ただそう言うだけでいいはずなのに。
実際、ウォルターには621を、猟犬たちを愛しているという意識はなかった。自分はただ、猟犬たちを死地へ送らざるを得ないことに苦しみ、せめてもの救いをとできることをしただけ。だから
だから、カーラの言葉を否定することなど容易いはずなのだ。「愛していない」と言えばいいだけなのだ。なのに――
「俺、は…………」
――その一言が、どうしても言えなかった。それがどれほど621を傷つけることになるか、ウォルターにはわかっていたから。
そして同時に、気付いてしまう。「傷つけたくない」。まさにその感情こそが愛なのではないのか? 今になってウォルターは漸く気付く。自分はそうと気付かぬまま、猟犬たちを愛してしまっていたのだと。
「ウォルター」
621に呼ばれて、ウォルターは顔を上げる。二人の視線が再び重なり、そしてウォルターは気付く。621の目には、涙が堪えられていた。
「勝手に消えるなんて絶対に許さない」
「……」
「アンタがなんと言おうと、アンタは俺を愛してくれたんだ。だから俺は一生を賭けてその恩を返させてもらう。それが終わるまで、居なくなるなんて絶っ対に許さない」
「621……」
ウォルターの脳裏に、ナガイ教授の姿が過る。遂に生きているうちに恩返しができなかった、父親代わりのその男の姿が。
今までウォルターは、きっと天国にいるだろうその人に報いようとして生きてきた。オーバーシアーとしての活動も、その一環だ。二度と会うことが叶わないのなら、せめて自分が彼の生きてきた証を遺さなければ。その一心でウォルターは戦ってきたのだ。
だが、ふとした瞬間にどうしようもない寂しさに襲われるのもまた、事実であった。どれだけ頭で「もう二度とあの人には会えない」と分かっていても、どれだけ今生きている中でできることをするしかないと知っていても。それでも、会いたいと願ってしまう。直接会って、自分はこんなに頑張ったんだよと、そう報告したいと思ってしまう。だって、「子」にとって「親」はそれだけ大きな存在だから。
(ああ、そうか)
今になって漸く、自分が何をしようとしていたのかに気付く。このどうしようもなく冷たい寂しさを、自分は621に押し付けようとしていたというのか? 621はこれだけ無邪気に自分を「親」として慕ってくれているのに?
(そんなこと、許していいわけがない)
親を失う寂しさは、誰よりも知っていたはずなのに。何が「俺さえいなければ」だ。ほんのついさっきの自分自身を殴りたくなる。だからウォルターは、覚悟を決めた。
「621」
三度、目線を合わせる。もう、逃げない。621を置いて逃げたくなんかない。
「さっきも言った通り、俺には因縁に塗れている。もう既に手も汚れ切っている。そんな俺に……俺に、本当に、親でいて欲しいのか?」
「さっきも言っただろ。俺はウォルターと一緒がいいんだ。そうじゃなきゃ駄目なんだ」
「……そうか」
質問は形式的なものだった。だって、「ナガイ教授の子」として、「子」がこの手の問いになんて答えるかは分かり切っていたから。
飽くまで質問に求めたのは、最後の勇気。自分が「親」となるための最後の一押し。それを得られた今、ウォルターの答えも決まっていた。
「分かった。621、お前が望む限り俺はお前と一緒にいよう」
「! ウォルター!!」
621の顔がパアッと明るくなる。そして、ウォルターは気付く。そのことに心底安心している自分がいることに。やはり、自分は無自覚に621を愛していたのだろう。本人以外からすれば今更過ぎる結論に、漸くウォルターは達したのだった。
◆◆◆◆◆◆
『さて、親子の仲直りは済んだかい?』
「俺たちは親子では――」
「ああ。もう大丈夫だ」
ウォルターは気恥ずかしさと罪悪感から否定しようとしたが、それよりも前に621が返事した。
ウォルターは飽くまで621に親として見られ、彼と共にいることを了承しただけだ。能動的に自分が親だと認められるようになるまでは、まだ時間がかかるということだろう。
(ま、ビジターのことだ。そう遠くないうちに認めさせるだろうさ)
最高に「笑える」未来が来そうなことに内心ご満悦なカーラ。だが、いつまでも楽しんでいるわけにはいかない。今はルビコンの未来を賭けた決戦の真っ只中なのだ。休憩はもう十分。次の指示を出すにはちょうどいいタイミングだろう。
『じゃあ、ブリーフィングを始めるよ。さっさとACに乗りな』
「分かった。ウォルター、オペレートお願い」
「あ、ああ。任せてくれ」
ウォルターは拠点ヘリの方へ向かい、621はLEAPER4へ走る。結局、この役割分担が一番落ち着くなと、そう621は走りながら思う。エアやカーラのオペレートに不満があるわけではない。だが、621にとって、オペレーターとはやはりウォルターであった。またあるべき形に戻ってきたのだと、そう強く実感する。
『ビジター、乗りながらでいいから聞きな。エアの居場所はもう分かっている。アイツはコーラルの「女王」だ。だから、コーラルはどこに居ようと大なり小なりアイツの影響を受ける。その動きから逆算すれば、居場所が特定できるって寸法さ』
「流石カーラだ。本当にありがとう」
LEAPER4をよじ登り、なんとかコックピットに入った621。そこで目にしたのは、モニターに表示された一つの施設。それは、かつて技研が管理していた研究施設。アイビスの火で放棄されたはずのその場所は、しかしオールマインドの手で密かに再建され、今ではエアの檻となっているらしい。
621の拳が、強く握りしめられる。それこそ、爪が食い込まんとするほどに。
『感謝するにはまだ早いよ。オールマインドにとって、エアは一番重要なキーだ。アイツがいなけりゃ、コーラルリリースは絶対にできない。奪われてもまだリカバリーが効くアンタやウォルターと違って、エアは何が何でも奪われちゃいけない最重要防衛目標なのさ』
「防衛戦力は今までの比じゃない。そう言いたいわけだ」
『相変わらず話が早くて助かるよ。だからこその、そこの二人ってわけだ。アンタとフレディと六文銭、この三人で防衛網を食い破る。悪者の城からお姫様を救い出すんだ。多少強引な方がちょうどいいだろう?』
「フフ、違いない。……チャティは一緒に来ないのか?」
「俺はやらなければならない仕事がある。ビジター、また後でザイレムで会おう」
「ああ、またな」
会話しながらも淀みなくLEAPER4を拠点ヘリのガレージに入れ、アセンブル開始。恐らく、求められるのは対応力。であるならば――
R-ARM UNIT:
L-ARM UNIT:
R-BACK UNIT:
L-BACK UNIT:
HEAD:HC-2000/BC SHADE EYE
CORE:07-061 MIND ALPHA
ARMS:AA-J-123 BASHO
LEGS:IB-C03L: HAL 826
BOOSTER:FLUEGEL/21Z
FCS:FC-008 TALBOT
GENERATOR:AG-T-005 HOKUSHI
EXPANSION:ASSAULT ARMOR
「よし」
出来上がったのは
「621、準備はできたか?」
「ああ、バッチリだ」
ウォルターがガレージのハッチを開き、意匠を新たにしたLEAPER4が歩み出る。それを迎えるのは、二機のAC。乗っているのはフレディと六文銭。皆、準備は万端なようだ。
「すまない、待たせた」
「いえ、謝罪は不要です。あなた方
フレディのAC、キャンドルリングが静かに首を横に振る。それは、キャンドルリングの中の人も同じ動きをしているからであろう。
本当は「どうして私ではなく貴方が帥父の救いとなったんだ」とか、「貴方ほどの腕の持ち主がどうして帥父をお守りできなかったんだ」とか、言いたいことは山ほどあったはずだ。だが、それも先の親子の遣り取りを見て全てどこかへ行ってしまった。
(帥父殿……貴方がこの方に未来を託した理由も、今なら何となく分かる気がします)
フレディの心に、もはや迷いはなかった。亡き帥父のため、ただ自らをレイヴンの刃と為すだけだ。
「同志レイヴンよ、案ずるには及ばぬ。親子の情に先だつもの、如何でか有らむか!」
「え? あ、ああ……ありがとう?」
一方、六文銭はこの調子だ。完全にいつも通り。これには621もこの反応。一度共闘しようが何だろうが、621がコレに慣れることは永久にないのかもしれない。
だが、これでも六文銭は人情家だし、腕も確かだ。これからの戦いで大いに役立ってくれることだろう。
『役者は揃ったみたいだね。ならさっさと始めな! 囚われのお姫様をあんまり待たせるんじゃないよ! ほらウォルター! 号令!』
「ああ。……各員、準備はいいな? ミッション開始だ」
「「了解!」」
「応!」
ここからのオペレートは、カーラではなくウォルターの仕事だ。というのも、こういう少数のオペレートはウォルターの方が優れているし、カーラはこれからより大きな盤面のオペレートに勤しまなければならないし、何より――
「621、仕事の時間だ」
――621のオペレーターは、ウォルター以外あり得ないからだ。目標は旧技研研究施設。三機のACが、雪原を一斉に発った。
◆◆◆◆◆◆
「そういえば六文銭、今更気付いたんだけどさ」
「同志レイヴンよ、何用か?」
「お前のAC『シノビ』、イメチェンした?」
「否、『シノビ』にあらず。今の拙者は『オオシノビ』に候。『
「……ア、ソッスカ」
621
間違いなくウォルターの子。四度目にして、漸くウォルターに心の内を明かせました。
ウォルター
本人としては本当に猟犬を「愛した」という意識はないんだろうなって。当たり前のように他人を気遣い、結果として猟犬たちの脳を焼く男。大人しく猟犬の親を自認してもろて。
カーラ
何気に621とウォルターの関係進展において名アシストを決めた今回のMVP。おまけにエアの居場所まで特定して、有能過ぎないか?
フラットウェル
なんで味方に胃を破壊されてんですかねえ?
ダナム、ラミー
何故か621と共に中央氷原入り。激戦区のこっちで役に立つかと言うと……いやでも囮役とかならワンチャン……。
チャティ
一旦離脱。RaDのシステム担当は仕事が多い。
リング・フレディ
四度目の彼は帥父の遺志を継ぎ、621には敬語で話しかけます。決してそうしなきゃ誰が喋ってるのか分かんなくなっちゃうからとかいう作劇上の都合ではないんだからね!
六文銭
久々の登場で何も変わってないルビコニアンニンジャ。AC『オオシノビ』の詳細は次回……と言っても、シノビから変わったのは1パーツだけなのですが。でも、シノビって一個パーツ変えるだけで大幅に強く、そしてキモく(ここ重要)なるんですよね。
ということで親子仲直り回。半年も放置して本っ当にすみません! 今ちょっと色々不安定なので、次の更新もこれくらい遅れるかもしれないし、何かの間違いで早くなる可能性もないことはないかもしれません。何一つとして確定的なことを言えてない!
あ、でもエタるつもりはないってのは確定してます。これだけは自信を持って言える。なので、今後も気長に更新を待っていただけると幸いです。
次回はエアちゃん救出回。六文銭がいる時点で多分碌なことにはならない。