もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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女の子は何を思っていて、どうしてその店をバイトとして選んだのか。
本編が始まる前の前日譚のようなものです。



以下、MyGo!!!!!のアニメを見てない人向けに、これまでの経緯。


・女の子は昔、豊川祥子(とがわさきこ)という同級生に誘われ、CRYCHICというバンドに所属していた。

・しかし初ライブの後、祥子が突然脱退を表明。当然メンバー内で揉めるがとあるメンバーの一言が決め手となり、祥子に続くように他メンバーも去っていった。

・事実上の解散という現実を受け入れられなかった女の子は、CRYCHIC復活を目指しメンバーたちの行方を捜す。約1年後、CRYCHICのメンバーと知り合いらしき人物と偶然出会い、上手く利用して二人のメンバーと再会しバンドを再度組むことに成功。

・CRYCHIC復活を水面下で謀りつつ、CRYCHICとは無関係の人間を仕方なく混ぜたまま初ライブが行われるが、不幸な偶然が重なり女の子はバンドメンバーと喧嘩してしまう。

・精神的に追い詰められていた女の子は強硬手段をとって、唯一話せてなかった豊川祥子に直接会って話す。そのやりとりで、CRYCHIC復活は無理なのだと思い知ることになった。

・CRYCHIC復活が無理ならバンドに関わる理由もない、と現バンドメンバーを突き放す女の子だったが現バンドと色々あってCRYCHICに固執し諦められなかった自分との決別に至る。

・その後もう一度行われたライブを通して、現バンド『MyGo!!!!!』のメンバーとしてバンドを続けていくことを決意する。



プロローグ
0. 救いを求めるお嬢様(夏八木そよ)


 

 

 再結成した今のバンドでライブをした7月のあの日。

 流されるまま参加していた私は、改めて自分の意思でバンドを続けると決意した。

 ——決意したはずなのに、気づいたらCRYCHICをなくした心傷にばかり意識が向いていた。

 

 やっぱり忘れられなかった。去年の春、羽沢珈琲店で初めて集まった日から。カラオケでみんなとはしゃいだことも。練習を繰り返してバンドが形になっていったことも。大成功だった初ライブの感動を、みんなで分かち合っていたことも。その後急にバラバラに壊れて、結局独りになったことまで。鮮明過ぎるほどに覚えている。

 

 なのに今。私はあの頃のメンバーが三人しか揃ってない、しかも他のメンバーが混ざって完全に別物となったバンドにいる。紆曲曲折経て。

 いっそ忘れてしまえれば楽なのに、いつまでも引きずり続ける辛さに気が参るときがある。

 

 悩んでることは他にもあった。昔から考えないようにしてきた、偽善的な自分と向き合うようになったこと。

 きっかけは燈ちゃんの、剥き出しの心をぶつけてくるような歌詞。最近になって、それは私の叫びでもあるんだと気づいたから。

 そういう自分と向き合うのは死にたくなるほど嫌だったけど、それでも自己嫌悪に抗いながら自分の振る舞いを顧みた。

 

 でも、答えを得ることはなく、むしろ疑問が湧いてくる。

 例え自分を受け入れてもらうためだとしても、人に優しくしようとすることってそんなに悪いことなのだろうか。普段から私は、祥ちゃんの言う通り『おためごかし』でしかなかったんだろうか。

 私の優しさが、自分のための嘘だとしても。相手のためになろうとすることの何が問題なのか分からない。責められる謂れを理解できない。

 それでも必死で向き合いながら考えて、でも結局納得いく答えが出せずどうしようもなく昏い気分になる。一生この問題に悩んでそうだ。

 バンドに復帰しただけでこんな苦痛に苛まれるなんて、自分でもおかしく思うのだけど。

 

 そのバンドにいるときだけは、以前ほど優しい人であろうとはしなくなった。

 しなくてよくなったんじゃない。できなくなった。

 私の裏側を知る人たちなんて初めてだから、どう振る舞ったらいいか分からなくて素っ気なくなってしまうだけ。

 気遣いしなくて楽に思うときもある。でも、そんな澄まし顔で愛想のない私を好きになれない。落ち着かない。

 ずっと続けてきた、笑顔を振りまいて親切に接する自分でありたい。その自分にすっかり慣れてしまったから。

 だから、どうしても居心地悪く感じることが多かった。

 

 

 

 大好きだったバンドを思い出して辛くなっても。

 

 バンド活動を通して自分と向き合うことに苦しんでも。

 

 バンドでの自分が好きになれなくても。

 

 

 それでもバンドを辞めたいとは思わなかった。でもこのバンドにいる限りこの苦しみはきっと一生付き纏うんだろう。

 そこで私が強く思ったことは、バンドを続けつつこの悩みから解放される新しい居場所が欲しい、という願望だった。

 偽善だろうが人に優しくする自分を、無条件に肯定してくれる居場所が欲しい。

 バンドメンバーみたいに私の本性を知らない人たちに、受け入れて欲しい。

 そんな居場所に巡り合えたら、すごく幸せなんだろうな、と妄想する。

 そこでなら私は、あの頃のように心から楽しいと思えるはずだから。

 

 とどのつまり。CRYCHICの代わりを求める程度には、私はまだあの頃に執着しているらしい。

 

 でも、かつて執着した余りやってきたことを思い出すと、軽々しく行動に移せなかった。

 もしあの時と似た状況にでもなったら、今度はより躊躇わない気がする。

 もう二度と、大切な居場所を理不尽に奪われるような思いはしたくないから。

 あのときの自分になる可能性が少しでもあるなら、流石に踏み出せない。

 

 色々考える度に想像して、でも最後には怖気づいて。

 結局、理想の居場所なんて都合よく見つかりはしないのだと諦めて。

 そうやって、何度も叶わない夢を思い描いては振り払ってきた。

 

 どんなに振り払っても、胸の奥に感じる疼きまで消えはしなかったけど。

 

 

 

 

 

 そんな気の滅入る日々を送りながら月日は流れて、夏休みが終わった九月頃。

 なんとなく、親の金に頼らずバンド活動しようと思い立って自室でバイトの求人雑誌をパラパラとめくる。

 そこで一件、目を引くものがあった。

 

「コンセプトカフェ? ……お嬢様を演じながら給仕するバイト、か……」

 

 メイドカフェをまずイメージしたけど、スマホでお店について調べると萌え系というより清楚系を売りにしているみたいだった。お嬢様カフェと言い換えた方が近そう。

 この手の店の接客は事務的ではなく、お店の方針に則りながらお客さんを喜ばせるような振る舞いが求められる。そういうサブカルチャーがあるのは知ってはいたけど、興味どころか自分が関わるなんて考えたこともなかった。

 

 ――今までは。

 

 

 

「演じるってことは、嘘でいいんだ」

 

 

 

 コンセプトカフェはコスプレとか萌えとかが好きな人たちの居場所だと思っていた。

 でも今は別の視点で見ている。冷静に考えればお店だけでなく、客すらもコンセプトという設定を嘘として楽しんでるのだろう。嘘を嘘として楽しむ仕組み上、偽善的な外面が受け入れやすい場所なのだと思う。

 

 そんな場所なら。受け入れてもらうために優しくしようとする私は適してるのではないか。それにこのお店で働く店員さんたちとならきっと居心地もよさそう。

 なんといっても、嘘の演技でお客さんを喜ばせてる人たちなのだから。通じ合えるところがあるかもしれない。

 

(ここでなら、偽善で優しくする私ごと受け入れてくれるかもしれない。そしたら、もう自分と向き合って苦しむこともなくなるかもしれない)

 

 このお店で働くところをイメージすると、これからの生活に一筋の光が差すように感じた。

 新しい居場所としてだけじゃない。このお店の仕事に対しても自信があるからこそ希望を持てた。

 

 

 

 そもそも私が人に優しくするのは、相手に頼られることで受け入れてもらいたいから。

 そのために自然と本音を誤魔化すようになって、ずっとそんな風に生きてきた。

 

 自分の本心を棚上げして、人当たりの良い振る舞いで相手に喜ばれる行動をとったり、時に自分に都合の良い展開へさりげなく誘導することを演技というなら。こういったお店での接客にも活かせると思う。こんなことなら昔から日常的にやってきた。

 四年前、母の勧めで月ノ森女子学園に通うことに決めたときから。

 

 

 

 中学校選びのとき。それまで平凡な小学校に通っていた私が母の勧めでいきなり名門お嬢様学校に通うことになった。

 本心ではあまり乗り気ではなかったけど、それでも母の希望に応えるために入学した。

 一緒に進学した友達など一人もいない状況で、本物のお嬢様たちばかりの学校へ飛び込んで。

 心細い中なんとか周りに合わせてきて三年と少し。お嬢様学校の生徒らしい最低限の所作は自然と覚えた。

 その経緯を思えば、今さらお嬢様らしい演技をすることなんて大して苦に思わない。

 募集要項を読む限り、お店の根幹らしいその一点さえクリアできればあとはそこまで難しい業務じゃなさそうだった。

 それで他の接客業より割高な給料だし、好条件だと思う。

 

 ――正直、金銭面はどうでもよかった。

 こんな自分のままでも受け入れてもらえそうな場所に飛び込んでみたかった。

 そして、いずれCRYCHICのときぐらい楽しく思えて、偽善的な自分とかの悩みも忘れられる居場所になって。

 そんな都合の良いバイト先をイメージして、私は期待を抑えられなかった。

 

「とりあえず、普段の感じで面接受けてみようかな」

 

 

 

 

 

 ――かくして、その女の子は本来開くことのなかった扉を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 九月末。女の子はお店に応募し面接まで済ませて、つい先ほどスマホに届いた採用通知のメールを確認する。

 

「……ってことは、普段の私のままでいいってことだよね」 

 

 女の子はそう認識して、安堵の表情を浮かべてた。

 

 晴れて十月頭から、カフェリーベというお店でバイトが始まる。

 

「初めてのバイト。上手く馴染めるといいな。……今度は、独りにならないといいな」

 

 期待と不安が入り混じった心境で、バイトする未来の自分に思いを馳せる長崎——

 

「あ、たしか…」

 

 女の子は採用通知のメールに追伸があったことを思い出す。

 このお店ではサロンと呼ばれるホールで給仕する際、偽名を使うとのことだった。

 そしてあてがわれた名前は・・・

 

「夏八木。このお店じゃ、私は――夏八木そよ。……高一にして三つ目の名字なんて、我ながらおかしいね」

 

 偽名、夏八木そよ。本名――長崎そよ。本物のお嬢様学校に通い、亡くした居場所の代わりを渇望している迷子の女の子が、救われたい一心でリーベ女学園のサロン係へ新たに加わろうとしていた。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

自分の文章が下手というか、分かりにくい文になってる自覚はあります。
ただ、どう分かりにくいのか気づけず悩んでいます。

厚かましいお願いではあるのですが、もしよければコメントで指摘頂けると幸いです。
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