もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
リーベではお客さんのことを『来校者』と呼んでいます。
そよもこれについては認知しています。
この辺を本編で説明するタイミングが上手いこと見つけられなかったので前書きを利用しました。
よろしくお願いします。
リーベの営業が始まってからしばらくして。早速そのときがきた。
初めて来店されたお客さんからオーダー取りをしていると、メニューを指して質問された。
「すみません、このおすすめティーというのはどういうものですか?」
「はい、それについては……」
(おすすめティーがどういうものか、か……)
でもおすすめティーなるものをどう説明すべきか、きちんと教わってはいなかった。
(メニューからの情報、あとこの店で勧める側の人なんて限られてくる。十中八九、サロン係がおすすめする紅茶ってことだろうし、そう答えるのが無難なんだけど……)
いつもならこの程度、誰かに頼らずとも切り抜けられる。
でも、いい機会だと思った。
「あ、あの……」
「失礼いたしました。少々お待ち頂いてもよろしいでしょうか?」
「は、はい」
私からの反応がなくて不安そうに声をかけるお客さんに一礼して、私は美月ちゃんのところに向かう。
大勢のお客さんに見られると思うと、妙な見栄が働い私の邪魔をしてくる。
それを払拭するために、営業前の美月ちゃんと交わしたやりとりを思い出す。
あのときの彼女を頼りに、サロンでの言葉遣いを意識しながら助けを求めた。
「綾小路さん。申し訳ないんだけど、あちらのご来校者様におすすめティーについて説明して欲しいの。……お願いしても、いいかしら?」
「もちろんよ、夏八木さん。今行くわ」
笑顔で即答してくれた美月ちゃんはすぐに先ほどのお客さんへ向かった。
この状況で頼ることへの抵抗もあるけど、正直に言えば。
この期に及んで、どうしても断られる恐れが頭をよぎっていた。
でも実際は信じていた通りの反応を即返してくれて、なんだか拍子抜けした気分だった。
(営業前もそうだったけど、いざ頼ってみるとこんなにあっさり応えてくれるんだ。なんだかあんなに不安がってたのが馬鹿らしかったかも)
相手が美月ちゃんだったから、というのもあるかもしれない。
だとしても頼ることへの忌避が薄れたのは間違いなかった。
「お待たせしました、おすすめティーについてですが……」
美月ちゃんがおすすめティーについて説明を始めて、私も今後のために耳を傾ける。
私の予想通りサロン係がおすすめしている紅茶で合っていたのだけど、想定できてなかったところもあった。
「紅茶の内容は、生徒それぞれにご確認ください」
(あぁ、そうだったんだ)
足りてなかった部分が分かって、ためになった。
やっぱり頼って正解だったな。
その感謝の気持ちを早速伝えたくて、説明を終えた美月ちゃんに近寄る。
サロンの中心辺りだから自然とお客さんたちの注目を浴びる形になったのは少しだけ気恥ずかしさがあるけど。
それよりもお礼したいという気持ちが勝っていた。
「ありがとう綾小路さん。勉強にもなって、とても助かったわ」
「気にしないでいいのよ。ご来校者様はもちろん、夏八木さんのお役にも立てたならよかったわ」
そう言う美月ちゃんの笑顔は、心なしかいつもより晴れやかに感じた。
もしかしたら、私に頼ってもらったことが本当に嬉しいのかもしれない。
(そう思うと……なんだか美月ちゃんに親近感が湧くかな。頼られて嬉しい気持ちはよく分かるから)
これで美月ちゃんの用は終わってしまったのだけど、ここで会話を途切れさせるのはなんだかもったいないな。
私は何か話題はないかと思案して、せっかくだからこのおすすめティーの話を引っ張ろうと考えた。
「そうだわ! せっかくだから綾小路さんおすすめの紅茶について、内容を教えてくれないかしら?」
と聞いといてなんだけど、お客さんがならともかく店員側である私が聞くのは何か違うのかもしれなかった。
余計なことしてまた注意されるかもと不安に駆られたけど、そんなこともなく美月ちゃんは笑顔でスラスラ説明してくれた。
「えぇ、私のおすすめは
「へぇ……」
簡潔で分かりやすい説明にどんな紅茶か容易に想像できた。
聞いてるだけで高貴な気分になれそうなところも良い。
そして、何より気に入ったのが……
「薔薇の香り……いいわね、特に綾小路さんのイメージに合っているところが」
「そ、そうかしら? 私自身がそこまで上品だなんて驕れないのだけど……」
「そんなことないわ。いつも穏やかで柔和な振る舞いから上品さが溢れているもの」
少し照れてそうな美月ちゃんに、サロン係としてそれっぽい語句を心掛けつつサロンでの印象を口にする。
思いつきで深堀りした話が思いのほか盛り上がったし、なんだか親し気な雰囲気になってきた感じもする。
(……今なら、お客さんご待望の『お仕事』に挑戦できるかな)
私はとびきりの笑顔を作って、恥ずかしさに負けないようはっきり口を動かした。
「そんな綾小路さんが好きよ、私は」
「すっ……!? あ、ありがとう夏八木さん。あなたにそう言ってもらえると、なんだかくすぐったいけど嬉しいわ」
「ふふっ、ならよかったわ」
最初は驚いてたけど、恥ずかしそうに微笑みながら私の小芝居に応えてくれた。
さすがにスキンシップのような距離の近い振る舞いまでは無理だったけど、悪くはなかったらしい。
「おぉ! 夏八木さんがあんなにも直接的な言葉を、同学年の綾小路さんに……!」
「白鷺さん以外に照れている綾小路さんも、なんだか久しぶりですね!」
「昨日より2人の距離が明らかに縮まってますね……これは新しい始まりの予感です!」
「えぇ、今後も注視する必要がありそうですねぇ……色々な意味で!」
やはり大きな盛り上がりを見せる、リーベ女学園への来校者たち。本当にこういうのが好きなんだな。
初日私たちに向けられたときより大きな歓声を浴びながら、私は色んな感情の混ざった笑顔になっていた。
(なんとか求められてる『お仕事』ができたけど、何度見ても変だなぁ……)
ようやくこのお店で求められることを成し遂げられた達成感はあるんだけど。
お客さん自身とサロン係が絡むよりも、サロン係同士の絡みをより喜ぶ嗜好が理解できなくて。
やっぱりここのお客さんにはついていけないな、という呆れも混ざっていた。
自分で小芝居を仕掛けといて難だけど。
それでも今の私の笑顔は、作り物ではなく心のままに笑った表情だった。
(まぁいっか。美月ちゃんと親しくできて、それにお客さんも好ましく思ってるなら、みんな幸せで良いこと尽くめだよね)
こうして笑えてるのも、たぶん達成感とか呆れだけじゃなくて。
美月ちゃんとの仲が確かに良くなったという手応えが大きいんだろうな。
お客さんを含めてみんなが笑顔で、嬉しさも
「綾小路さん。また何かあったときは頼るかもしれないけれど、その時はよろしくお願いするわ」
「えぇ。遠慮せず頼って頂戴、夏八木さん」
私は晴れやかな気持ちで美月ちゃんと別れ、仕事に戻る。
やっとこの店に、リーベに打ち解け始めた気がした。
(昨日アドバイスしたときはしっくりきてなさそうだったけど。頑張ってるね、そよちゃん。この調子で他の2人とも仲良くなれたらいいんだけどなぁー……)
「………………」
「ひめちゃん…」
「果乃子……なんでもないから、心配そうな顔しないで」スタスタ…
「……そうは、見えなかったよ」