もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
美月ちゃんと楽しく絡めた営業時間も終わって、今私はサロンへ来ていた。
懲りずに美月ちゃんの掃除を手伝うつもりで。
でも昨日までとは違う展開になるって確信があったから心配はしてなかった。
「美月ちゃんお疲れ様~。私はこっちから掃除していっちゃうね~」
「あ、長崎さん、ここは私1人で——」
「他のところは人足りてるみたいだったから、こっち来ちゃった。教えてほしいこともあったし。もしかして迷惑だったかな?」
「迷惑というわけじゃ……それじゃあ、お願いするわ」
「うん!」
美月ちゃんにはこれぐらい強引にいった方が良さそうと踏んで、思い切ってみた。
結果上手くいったけど、昨日同じようにやろうとしてもダメだったと思う。
「それで長崎さん、教えて欲しいことっていうのは?」
「えっ、あー、え~っと……」
実はそれは嘘の口実だったので突っ込まれて焦る。
いつもの私なら事前に質問を用意していたのに。
営業前から張り続けていた気が緩んだのか、そんなことも失念していた。
「あ、おすすめティー! あれのことなんだけど……」
「? えぇ」
小芝居するきっかけとなった紅茶のことを咄嗟に思いついた。
私の不自然な様子に美月ちゃんが少し首を傾げてるけど、気にせず押し通す。
「おすすめティーってサロン係みんなの分あるんだよね。そのうち私のもできたりするのかな?」
「そうなんじゃないかしら。今はまだ店長に準備する余裕がなさそうだけど、いずれメニューに加えると思うわ」
「そっか。じゃ私も今日の美月ちゃんみたいに、ちゃんと説明できるように頑張るね」
「今日の営業中といえば、急にその……す、好きなんて言ってくるから、かなり驚いたのよ?」
顔を少し赤くして文句を言う美月ちゃんは、私にはなんだか新鮮に見えた。
この3日間だけでも、色んな美月ちゃんを見てきた。
穏やかで優しそうだったり、真面目にお堅く徹していたり、かと思ったらガミガミ怒ってたり。
そんな彼女が恥ずかしがるところは可愛らしくて面白いので、美月ちゃんの新たな一面が気に入ってしまった。
何となく楽しくなってきて、思っていることをそのまま口にする。
「あははっ、ごめんね? 美月ちゃんと仲良くなれたと思って、仕事中なのについはしゃいじゃった♪」
「仲良く?」
「うん。……実は美月ちゃんとずっと仲良くなりたいって思ってたんだ。昨日は仕事を手伝ってたら自然と仲良くなれるかなって思ってたけど、なかなか上手くいかなかったから」
「それで昨日はあんなに……。……そういえば陽芽も相変わらずって……」
「陽芽ちゃん?」
「い、いえ、気にしないで」
急に陽芽ちゃんが出てきたから何のことかよく分からなかったけど。
そんな私をよそに美月ちゃんはふぅ、と一息つくと今度は申し訳なさそうな顔になった。
「でもそうだったのね。せっかく長崎さんから歩み寄ろうとしてくれていたのに、私は本当にダメね」
「そ、そんなに気にしなくて大丈夫だよ?」
「いいえ。本当にごめんなさい、長崎さん。私は昔から空気を読むのが苦手で。はっきり言葉にしてもらわないと分からないの。おかしいのは、よく分かっているのだけど……」
「美月ちゃん……」
美月ちゃんの告白に、私は少なからず衝撃を受けた。
普通、空気を読めないことなんてこんな真摯に、はっきりと人に明かせない。
もし私が美月ちゃんの立場なら、何があっても言えない。
相手から避けられるようになってもおかしくないから。
(なのにこの子は言えちゃうんだな。本当にどこまでも……生真面目で真っ直ぐな子なんだな)
私にはない美月ちゃんの個性を眩しく思いながらも、あまりに不器用過ぎて込み上げるものを我慢できなかった。
「……ぷっ、アハハッ…」
「ちょ、ちょっと! 人が真剣に謝っているのに笑うなんて…!」
「ゴ、ゴメンね美月ちゃん。でも……フフッ、本当に真面目過ぎて、ちょっとおかしくて……アハハ!」
確かにここで笑っちゃ失礼なのは分かってるのだけど、美月ちゃんの堅すぎる対応だけでなく私に対してもおかしく思って笑っていた。
今更ながら気づいたことがあったのだ。
私は今までの美月ちゃんの対応から、彼女は人とあまり馴れ合わない主義なのかもと、無意識に思っていたらしい。
でも実際は人との関わり方で人並みに悩む、私と変わらない普通の女の子なんだと気づいて。
仲良くなりたい私から勝手に壁を作っていた馬鹿さ加減に、呆れを通り越して笑いをこらえきれなかった。
(実は私のほうこそ不器用に構えてたなんて…… そりゃ上手くいくわけないよね)
とはいえ、私に恨めしげな視線を送る美月ちゃんには当然抗議する権利がある。
「も、もう……私にとって凄く大きな悩みだったのに…」
「そうだよね。でも、もう美月ちゃんが私のために頑張ろうとしてくれたことを知ってるから。美月ちゃんの優しさがよく分かったから、空気が読めないくらい私は気にしないよ。だからこれからも仲良くして欲しいな」
「長崎さん……」
改めて仲良くなりたくて言ったけど、内心で私は照れていた。
ここまでストレートな言葉で歩み寄ることに慣れてなかったから。
こんな言い回しになったのも、きっと美月ちゃんの影響だろう。
でもこれで少しでも気を許してもらえるなら、今はどうってことないって思えた。
「私は長崎さんのことが今日で良く分からなくなったわ。営業中は急にあんな演技するし、今だって人の悩みを笑ってくれるし」
「い、いや本当にゴメンね……」
「でも私も長崎さんを困らせていたのだから、これでおあいこね。こちらこそよろしく……そよさん」
「……! うん! ありがとう、美月ちゃん♪」
下の名前で呼んでくれたことが心の底から嬉しかった。
仲良くなるという目標がこれ以上ない形で達成された、という打算的な喜びじゃない。
美月ちゃんから歩み寄ってくれたことが、純粋に嬉しかった。
私は弾けるような気持ちのままに、紅茶について1つ打ち明けた。
「それにしても私のおすすめティーか~! 楽しみだなー、私紅茶が好きなの!」
「そうだったのね。それが理由でリーベに来たの?」
「ううん、そういう訳じゃなかったけど……紅茶にこだわりのあるお店って知って、前より好きになったのは確かかな?」
「そう。お気に入りの紅茶とかあるの?」
「アールグレーが好きなんだ。あ、もちろんそのままの飲み方でね!」
「? ミルクとか加えないでってこと?」
「あー、そういうのだったらいいんだけどね。知り合いに角砂糖を何個も入れる非常識な人がいたから、つい……」
「それは確かに、冒涜的ですらあるわね……」
私たちは顔を見合わせてふふふっ、と笑いあった。
最初見たときは信じられないと引いた出来事だったけど、こうして話のタネになるぐらいにはあの見栄っ張りギターも役に立つらしい。
「美月ちゃんは? 営業中とか見てると紅茶詳しそうだから好きなのかなって思ったんだけど」
「紅茶に詳しくなったのはこのお店の仕事に必要だったからなの。でも嫌いじゃないわ」
「へぇ。このお店のだったらどれがおすすめとかある? やっぱり
「どれもそれぞれ良さがあって一概におすすめできないわ。でも私個人が好きなのは、
「
「
「へー、それが美月ちゃん的に好みの紅茶なんだー」
「味や香りの問題じゃないの。これは、陽芽との
「?」
なんだかうっとりした顔で微笑む美月ちゃん。
なるほど、紅茶自体よりも設定が理由で思い入れがあるらしい。
(陽芽ちゃんと一緒におすすめしてる紅茶だから好きって、本当に仲良いんだな。設定上ってだけじゃなくて)
「矢野さんっ!」
急に甲高い声が響いたと思ったら、ちょうど名前の挙がった陽芽ちゃんがサロンに来た。
彼女は美月ちゃんへとズンズン迫って手を握る……というより掴んだ。
「いつまでここの掃除をしるんですか!? こっちも手伝ってほしいんですから、ちょっと来てくださいっ!——っということで、夏八木さん、楽しそうにおしゃべりしてたとこ悪いんですけど矢野さん連れていきますねー!」
「ちょ、ちょっと陽芽! まだここの掃除が終わってない……」
「いいよ美月ちゃん。あとちょっとだからこれくらい私一人で十分だよ〜」
引っ張る陽芽ちゃんに抵抗しようとする美月ちゃんを笑顔で送り出す。
話をしてる最中も私たちは掃除を進めていたので、もうほとんど終わりかけだった。
あとは掃いたゴミをちりとりでまとめて捨てるだけなので、呼ばれてるのに引き止める必要もない。
「ごめんなさい
「うん」
「……ふーん」
「陽芽?」
「——早く行きますよ」グイグイ
「そんなに引っ張らなくても行くわよ!」
陽芽ちゃんに手を掴まれたまま美月ちゃんは行ってしまった。
去り際の陽芽ちゃんがいつもとどこか違うように感じなくもなかったけど。
まだ陽芽ちゃんとほとんど関わってもないし、よく分からなかった。
(それにしても、思ってた以上に美月ちゃんと仲良くなれたな。……やっぱり、純加先輩のおかげだよね)
自ら話を聞こうとしてくれて、アドバイスしてくれて。
とっても親身になってくれた先輩を思い浮かべる。
私1人じゃここまで仲良くなれなかったと思う。本当に心から感謝していた。
それに私が誰かに助けてもらうことなんてほとんどないから、新鮮過ぎて今までと違う世界の出来事みたい。
学校にもバンドにも、家ですら。
あまり感じることのない頼もしさを純加先輩に抱いていた。
(うん、早く掃除終わらせて、純加先輩に報告しよう!)
あの人に話したらどんな顔してくれるかな?
そんなことを考えながらウキウキと掃除作業を進めた。
後書き
7月7日は矢野美月の誕生日です。
なのでこの日にこの話を上げました。
本当に友達の少ない(他のサロン係もだけど)彼女に、親しい友人をプレゼントさせて頂きます。
やったね美月ちゃん! 友達が増えたよ!