もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
前回までのあらすじ
そよはサロン係のみんなと仲良くなる目標に対し、1人目として美月を選ぶ。
しかし数回に及ぶアプローチも失敗続きで落ち込んでいると、陰ながら見守ってた純加から助言をもらう。
不安ながらも勇気を出して実行してみると、美月との仲も段々と良い方向へ変化していった。
今ではお互い下の名前で呼び合うまでになって喜ぶそよだが、その裏で陽芽の不興を買っていたことには気づかず……。
12. 夏八木そよと白鷺陽芽
午後。その日最後の授業中。
女の子は教師の話を聞きながら、バイトの同僚の1人について考えていた。
(次は陽芽ちゃんと仲良くなりたい。だけど……)
可愛らしくて、いつも笑顔で、みんなから好かれそうな子。
でも女の子は何故だか、その子の愛くるしい振る舞いを素直に受け取れないときがあった。
その笑顔が、仮面のように見える。
絶対嫌われようのない言動を、嘘っぽく感じるときがある。
しかし、身勝手極まりない話だが。
どうして彼女のことをそんな風に思うのか。
女の子は深く考えようとはしなかった。
そして考えられない理由も、女の子は自覚することはできない。
なぜならそれは、自分自身を深く見つめることに繋がるからだった。
時を同じくして、また別の高校の授業中。
ちなみに教師の話は全く耳に入ってない。
新人が
そして新人からわざわざ挨拶しに来たときの振る舞いで、女の子は確信した。
彼女は自分と同じ、外面に生きてる人間だと。
だからといって特別に何か思うわけでもなく、他の人相手と同様に一定の距離を保とうとした。
いや、同族の意識が無意識に壁を作っているところも多少はあったが。
それもなんとなくの範疇で、女の子は意識していたわけではなかった。
だが、自分の姉妹ペアと親し気になっているところを見てから明確に疑いの目を向けるようになった。
ただの新人から、何を考えてるか分からない怪しい外面使いへと意識が変わった女の子。
(……なんであの矢野と仲良くなろうとしたんだろ……ちょっと関わればめんどくさいヤツってすぐ分かったはずなのに……)
女の子の姉妹ペアがあそこまで難しい性格をしてることは分かった上で。
同族である新人が、どうして親しくなろうと近づいたのか。
女の子にとっての最大の問題点はそこだった。
外面使いなら絶対に裏がある。女の子はそうとしか思えなかったから。
(矢野はそういうの鈍いから、私が守ってやんなきゃダメなんだ……!)
特別な存在である姉妹ペアを案じる女の子。
しかし自分も同じ穴のムジナなのに棚上げして、新人は怪しいと決めつけてることには気が付かず。
新人が自分の姉妹ペアと仲良くするのが気に入らない理由を、女の子は少しも考えることはなかった。
10月5日 木曜
今日も今日とて学校終わりにバイトへ向かう。
と、その前に。
私は帰りのHRが終わって早々、先生に押し付……頼まれた、クラスメイトからのプリント回収に奔走していた。
上手くクラスメイトたちを動か……お願いして、効率良く済ましにかかる。
みんな素直に従ってくれたおかげでそこまで時間がかからなかったのは幸いだった。
大人である先生に頼られるのは悪い気はしないけど、こうもいきなり頼まれるのは流石に困る。
「先生、クラスのみんなからプリント集めてきました」
「ありがとう。長崎さんがいてくれると助かるわ」
「…………あはは、お役に立てたなら良かったです♪」
(これくらい自分でやればいいのに……)
先生からこういった頼み事をされる度に思うのだけど、やっぱり表に出すことはできなかった。
でもこれでいい。別に自分の本心なんて出す必要ないんだから。
困ってたら助けてあげて、信頼と一緒に丁度いい距離感を保てればいいんだ。
それは先生だけでなく、よく私を頼ってくるクラスメイトに対しても同様だった。
(それにしても、クラスメイトだけじゃなくて先生まで手がかかるんだから。……純加先輩みたいな人が、学校にもいればな……)
助けてくれる人が欲しいのか。褒めてくれる人が欲しいのか。
それともその両方を備える人がいる学校生活に憧れでもあるのか、何なのか。
そんな詮無いことを、何気なく思った。
ふと気づく。
冗談半分でもこんなこと考えたのは初めてだった。
随分あの先輩に気を許してるな、と思いながら。
その人がいるバイト先に急いだ。
リーベに出社して、バックヤードにいた美月ちゃんへ挨拶する。
「ごきげんよう美月ちゃん。今日も早いね」
「ごきげんよう、そよさん。私は学校から近いからいつもこんなものよ」
「そっか。学校からバイト先が近いのはいいよね~」
「そうね、通うのが楽で助かってるわ」
リーベで親しく話せる相手が増えている。
大したことじゃないのは分かっているけど、今の私にとっては心底嬉しい変化だった。
「そうだ、この後営業前に掃除するんだよね? 私も手伝うよ〜」
「そう? それじゃお願いするわ」
「ふふっ、今日は断ろうとしないんだね~?」
「か、からかわないでっ! ……もう」
美月ちゃんをイジりつつ掃除を手伝うことにする。
こういう不器用な子はやっぱりからかいやすいな。
いつもツンツン澄ましてるウチのドラムみたい。
「アハハ! ゴメンゴメン、すぐ着替えるから待って——」
謝りつつ更衣室に向かおうとしたとき、裏口のドアが開いて陽芽ちゃんが入ってきた。
私たちを見て一瞬だけ表情が消えたように見えたけど、陽芽ちゃんの顔はすぐ笑顔に変わったから気のせいだろう。
気のせいと、思いたかった。
「おはようございます! 矢野さんもしかして今から掃除するところですか? 私すぐ着替えて手伝いますから、ちょっと待っててくださいねー!」
「あ、それなら私てつだ——」
私が言い切る前に、私より先に更衣室に入ってしまう陽芽ちゃん。
(……これは……)
明らかに意図的なものを感じとり、どうすべきか考えを巡らす。
「陽芽、そよさんが手伝ってくれるから——」
「何言ってるんですか矢野さん! 夏八木さんは入ったばかりだからなるべく負担を減らしたいって、矢野さん自身が言ったんですよ? ここは私たちでやるべきですよ!」
「確かにそう言ったけど……」
2人のやりとりを見ながら頭の中で計算する。
漠然と導き出された答えは、『上手くいく可能性は低い』だったけど、色々確かめるためにもここはあえて試してみよう。
「それなら、3人でやればいいんじゃない? みんなでやった方が早く楽に終わるでしょ? だから——」
「——ありがとうございます。でもわざわざ3人でやる作業じゃないので。……夏八木さんはバックヤードでゆっくりしていてください♪ 私たち姉妹2人でパッパと済ませちゃいますから!」
どう返してくるかと思っていたけど、言い切る前に遮られてしかも断られるという、にべもない形だった。
予想してた以上に拒絶の色が濃いみたい。
(ここは……無理せず引き下がろう)
「別に二人だけでやらなくちゃいけない決まりも——」
美月ちゃんの様子からは陽芽ちゃんの妙な態度に気づいてないのか、気づいた上で食い下がってるのか分からなかった。
どちらにしてもこのまま押し問答を続けて陽芽ちゃんの機嫌を損なう前に、美月ちゃんに割り込ませてもらおう。
「ううん、私はお言葉に甘えて少し休ませてもらうね? 実はちょっと一息つきたくって……ゴメンね美月ちゃん」
「……いえ、気にしないで。陽芽の言う通り2人で十分間に合うから。営業開始までゆっくりしてて大丈夫よ?」
「うん、ありがとう。……陽芽ちゃんもありがとうね!」
「……いえいえ! 大丈夫ですよ?」
カーテンで隠れて陽芽ちゃんの顔は見えない。
終始彼女の声はいつものように明るく可愛らしい色だった。
でも間違いない。昨日までより、いや昨日までもほとんど会話がなかったけど、確実に壁がある。
その関わりの無さで、いきなり陽芽ちゃんがこうなった理由は分からないけど。
ともかく、仲良くなることへの難易度が上がったことは覚悟した。
(でも美月ちゃんのときだって、難しいって思いながらも諦めずに関わって仲良くなったんだから。まずは同じようにアプローチあるのみだよね)
営業開始前にもう一度話に行くことにした。
そうやって話しながら、急に壁を作られた理由も探ろう。
焦らなければ大丈夫。無難におしゃべりできれば、いずれ上手くいく。
このときの私はそう信じて疑わなかった。
*後書き*
陽芽ストーリーは半日ごとに更新します。