もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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14. 馴れ初めを尋ねて

 

 

「お待たせしました。こちら、ご注文のナーハティッシュになります」

 

 サロンでお客さんへ笑顔を向けながら提供しつつ、私は頭の中で陽芽ちゃん対策を模索していた。

 

(さっきは自信のある話題で失敗しちゃったから、次こそは手堅くいきたいんだけど……)

 

 営業前のおしゃべりでは間違いなく陽芽ちゃんの機嫌を損ねたんだろう。

 時間が迫ってるからといってあんな会話の終わらせ方をする子じゃない。

 でもどこがマズかったのか、何度あのときの会話を反芻しても分からなかった。

 このまま私1人で考えていても、陽芽ちゃんとの仲を一向に改善できない気がする。

 

(そうだ、美月ちゃんからヒントをもらえないかな?)

 

 私よりも陽芽ちゃんを知っていて仲良い美月ちゃんから、陽芽ちゃん攻略の糸口を探るのが良さそう。

 

(陽芽ちゃんにバレたら逆効果だから気をつけないと。美月ちゃんはその辺器用じゃなさそうだし、ここは遠まわしに話を聞こう)

 

 陽芽ちゃんに休憩の番が回ってきたときを狙って、昨日までとは違い普段の砕けた口調のまま綾小路の美月ちゃんに話しかけにいく。

 

「美月ちゃん。あなたと白鷺さんは姉妹なんだよね? 姉妹になったきっかけってあったのかな?」

 

 サロンでもこういう話し方にしたのは、同じ2年生の美月ちゃんと雰囲気とか共通点が多いと思ったから。

 なんとなくだけど、話し方だけでも特徴が被ってるより墨分けされてたほうが、個性が立ってお客さんのウケも良いんじゃないかと考えてのことだった。

 

 事前に店長にも相談した結果快くOKをもらえたことだし、営業直前に美月ちゃんとも打ち合わせ済み。

 これからは、2年生として上と下への体裁は守りつつも同級生に対しては気さくな感じになるお嬢様を演出していこうと思う。

 

(…って、ここまでお嬢様を演じることに凝るつもりなかったのに。でもやってみると楽しいところもあるんだよね)

 

 そんなことはさておいて、美月ちゃんが陽芽ちゃんとの関係のきっかけを思い出すためか考え込むような顔をしている。

 

「陽芽と姉妹になったきっかけ……そうね……」

 

 なんだか返答に間があることに、内心マズかったかも、と危惧する。

 本当に仲が良くても姉妹はあくまで設定。

 こんな具体的な話をお客さんの前で聞くのはタブーだったかもしれない。

 でも私の心配は杞憂だったみたいで、そのうち美月ちゃんは話し始めてくれた。

 

「今年の春に陽芽が新しいサロン係としてやってきて、そのとき()()()()()()私をお姉様と呼んだわ。それからね、クロイツを交換して姉妹の契りを交わしたのは」

 

 懐かしいわね、と呟きながらその時を思い出してるのだろう。

 慈しむような表情をしてる美月ちゃんはつくづく姉らしいな、と思う。

 ついでにお客さん的にも周知の話なのか、そのほとんどが懐かしむような顔だっだ。

 ここの来校者様方もつくづく流石だな、とも思った。

 

「出会ったその日に姉として選ばれるなんて、素敵な運命だね~」

 

 口では感動したように言いつつ、内心の私は首をかしげていた。

 

(初対面でお姉様呼び? 陽芽ちゃんて、意外とメルヘンチックなのかな?)

 

 他にもクロイツ交換だの姉妹の契りだの新しいワードに、頭の中で疑問符が飛び交うけど今は流そう。

 姉妹もいないし、クロイツすら未だに身に着けるよう指示されてない私にはどうせ無縁の話だろうし。

 というか、本題はそこじゃない。

 

「それじゃ、2人は会ったその日から仲良しだったの?」

「そうね……姉妹になってからも色々あったのだけど……」

 

 今の私は仲良くなるための情報が欲しいので、仲良くなったきっかけを探りたくてそう聞いたのだけど。

 美月ちゃんは複雑な表情で顔を曇らせてしまった。

 ちなみにお客さん側も『そんな時期もあったな』とでも思ってるのか遠い目をした訳知り顔でいっぱいだった。

 美月ちゃんが言葉を続けられずサロンはシンと静まり返ってしまい、重苦しい雰囲気になりつつある。

 非常にマズい空気だった。

 

(……うん、よくわかんないけど直ぐに話題を変えよう)

 

「特別な関係なんだもの。簡単じゃないよね」

「そうね。大切だからこそ、上手くいかないときもあったわ」

「ふふっ、本当に白鷺さんのことを大事に想ってるんだね」

「そ、それは……当然よ? 大切な、妹なんですもの」

「なんだか羨ましくなるな~。美月ちゃんにそこまで言ってもらえる白鷺さんのことが、ね♪」

「も、もう……またそうやってからかうのだから…」

 

 とりあえず本来の目的を棚上げして空気を変えることに専念した結果、興が乗って()()()っぽくなってしまった。

 

「奥ゆかしく意味深に迫る夏八木さん、いつも優雅なのに恥じらい気味な綾小路さん……。なんて理想の同級生なんでしょう!」

「夏八木さんの話し方が変わってるのもポイントですよ! 同級生というより、もはや友達のような距離感が新鮮で尊いです!」

「確かに、あんなに仲良くなられて……もしかしたらいずれ、綾小路さんを巡って取り合うなんてことも……」

「ちょっと! 滅多なこと言わないで! 綾小路さんと白鷺さんは永久に離れることはないわ!」

 

 なんだか過激派なお客さんも混じっているけど、とりあえずサロンは盛り上がって妙な空気もなくなったし問題はなさそう。

 

「お姉様、随分と楽しそうにされてますね!」

「陽芽?」

 

 このタイミングで休憩から戻ってきたらしい陽芽ちゃん。

 情報収集終了のお時間が来て、結局何も手掛かりを掴んでない私は無念極まりなかった。

 

(というか休憩短くない? 陽芽ちゃんがバックヤードに行ってからそんなに時間経ってたかな?)

 

 体感だといくらなんでも早すぎると思うのだけど。

 今日は休憩なんていらないくらいやる気に満ち溢れてたのだろうか。

 そんな積極的に見える陽芽ちゃんは明らかにシュンとした表情を美月ちゃんに向ける。

 

「私とは最近一緒にお給仕してくれなくなって、教えてもくれなくて。お姉さまは私のことなんてなんとも思わなくなったのでしょうか?」

「そ、そんなわけないじゃない。どうして急にそんな話に——」

「私、寂しかったんですよ? ここ最近お姉さまと一緒にいられなくて。お姉さまもきっと同じ気持ちだと思っていたのですけど……私の片思いだったみたいですね……」

「うっ……ひ、陽芽…」

 

 基本笑顔を絶やさない陽芽ちゃんの見るからに悲しそうな表情に、美月ちゃんもこれまた見るからにタジタジだ。

 でも陽芽ちゃんと比べると、本気で狼狽えてるみたいだった。

 

(これは……たぶん()()なんだろうなー)

 

「……ごめんなさい、陽芽。寂しい思いをさせてしまって……。許してくれないかしら?」

 

 観念したように微笑んだ美月ちゃんは陽芽ちゃんを抱きしめる。

 身長差と大きさ的に、美月ちゃんの胸の中で陽芽ちゃんの顔が完全に埋まっているけど苦しくはないんだろうか。

 

「このお2人定番のハグキマシタワー!」

「何があっても綾小路さんと白鷺さんは必ず仲直りする。……世界の摂理ね」

 

(あ、これもいつものことなんだ…)

 

 お客さんの反応で、また1つこの店のお約束を学んだ。

 少しもありがたい学びではないけれど。

 でもこのお約束に持って行ったのは、抱きしめた側の美月ちゃんじゃない。

 彼女は終始翻弄されてたようにしか見えなかった。

 

(やっぱり陽芽ちゃんは最初から狙って演技してたんだ。美月ちゃんにこうさせるように。いつものお約束に持っていけるように)

 

 どう振る舞えば美月ちゃんは抱きしめてくれるのか、完璧に読みきって確実に実行できる陽芽ちゃんは美月ちゃんとは真逆で器用だった。

 この陽芽ちゃんを見て、私はつい邪推してしまう。

 さっきの演技同様、サロンでいつも可愛らしく愛嬌たっぷりな振る舞いも、全て計算尽くでやってるのだとしたら。

 白木陽芽という女の子は見た目からは想像できないほど、人間関係がとんでもなく巧みなんじゃないかと。

 特に末恐ろしいと思ったのが、それを周りに一切悟らせないぐらい自然にこなしてるところだった。

 それに私が気付けた理由については、あまり考えたくない何かがあった。

 強いて言うなら、親近感というか。

 彼女の振る舞いから、身に覚えのあるものを感じたから、だろうか。

 

 

「さぁお姉さま、さっそく一緒にお給仕しましょう! まずは空いているお皿からお下げしましょうか?」

「ふふっ、急に元気になったわね、陽芽。お給仕を率先してするのはいいことよ」

 

 もともと私と美月ちゃんで話していたのに、気づけば美月ちゃんは陽芽ちゃんと一緒に行ってしまった。

 と、ふいに陽芽ちゃんと目が合う。

 ニコニコ笑顔だった陽芽ちゃんは一瞬で表情を無くして、感情の読めない真顔で私を見てきた。

 表情の落差がゾッするほど激しくて、攻撃的な感情をぶつけられたみたいに私は思わず委縮してしまう。

 そして、後から驚きが強くなってきた。

 

(え……もしかしなくても、陽芽ちゃん私に怒ってる? なんで!?)

 

 さっき階段下で話したときから陽芽ちゃんには何も関わってない。

 なにもしてないのにさっきよりさらに関係が悪化している。

 意味が分からなくて混乱しそうだった。

 

 陽芽ちゃんはすぐに私から視線を外していつもの笑顔に戻ったけど。

 私はというと睨まれたみたいに心がドギマギしっぱなしで、そんな内心を表に出さないよう仕事するのに精一杯だった。

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