もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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16. 類は友を呼ぶ?(私と陽芽ちゃん)

 

 

 10月6日 金曜日

 

 リーベに出社してから陽芽ちゃんと話す機会もないまま営業時間を迎え、現在仕事の真っ最中。

 

「お待たせしました。ご注文を承ります」

 

 私はお客さんに愛想よく接客しながら、頭の中では仕事と全く関係ないことを考えていた。

 

(陽芽ちゃん相手に素直になる、か……。イメージすら上手くできないな…)

 

 純加先輩を心の支えにしてるけど、それでも準備完了とはならないのかまだ迷いがある。

 だから陽芽ちゃんと話す前に、まず自分の中で整理をつけたかった。

 

「——ご注文を承りました。少々お待ちください」

(まずは仲良くなりたい理由をはっきりさせよう。なんで私って、ここまで仲良くなろうとしてるんだっけ……?)

 

 理由を思い起こすと純加先輩の存在が強く主張してくる。

 昨日、先輩からあんなに応援してもらったことは当然大きいけれど。

 そもそもみんなと仲良くなるという目標を持ったのは、初日の営業後のとき。

 みんなに囲まれながら笑顔でいる先輩が、今思い出しても眩しかったから。

 

(——でも私は、純加先輩に会う前から、というよりバイトを始まる前から、バイト仲間と仲良くなりたかったんだよね? どうしてだっけ……)

「お待たせしました。ご注文の生徒おすすめティー天使(エンゲル)になります」

 

 リーベの求人応募を見つけたときの、ここが理想の居場所になることを期待していた私を思い出す。

 CRYCHICのような、心から楽しいと思える居場所を手に入れるために。

 バンド絡みの苦痛を忘れられる場所と見込んで、そこで働く仲間たちと仲良くなりたかったんだ。

 

 バイトを始める前まで遡って、仲良くなりたい理由を整理したはずだけど。

 それでも何か足りない気がした。

 

(……そっか。単純に、陽芽ちゃんとの仲が今のまま続くのは嫌なんだ)

「失礼します。空いているお皿をお下げ致します」

 

 純加先輩とか居場所作りとか関係なく、仲良しなのが良いに決まってる。

 仲が良ければ、喧嘩したりバラバラになったりしないはずだし。

 ——離れ離れになることも、ないはずだから。

 

 CRYCHICの解散と、それよりもっと昔の頃の事。

 思い出したくもない記憶が頭によぎって嫌になる。

 今まで意識したことなかったけど、できるだけみんなと仲良しでありたいのはあんなことがあったからだと思う。

 

 あのときみたいな思いはもう御免だから。あの頃のことを忘れていたいから。

 だから、できるなら誰も彼もと仲良くありたいぐらいだった。

 今は少なくとも一人だけ、どうしても許せない同級生がいるから例外はあるのだけど。

 

(理想の居場所のために、そして嫌な思いをしないために、か……。こんなこと、馬鹿正直には話せないけど……)

「お待たせ致しました。こちら、お冷とおしぼりになります。ご注文はお決まりでしょうか?」

 

 全部を曝け出せないからこそ、少しでも誠実に伝えよう。

 頭も心も、ここまで整理できたらあとは伝えるだけなんだけど。

 昨日の無表情を向けてきた陽芽ちゃんを思い出すと、どうしても拒絶される未来を想像して怖気づく。

 だから、ハードルを下げることで歩み寄る勇気を得ようとした。

 

(今日で仲直りできなくてもいいから……せめて、今のままじゃ嫌だって気持ち、素直に伝えられたらいいな……)

「それではお気をつけて。ごきげんよう」

 

 なんとなく、それくらいならできそうな気がして。

 ひとまず大方の方針を定めて安心した私は、営業終了まで目の前の仕事に集中することにした。

 

 

 

 

「そよちゃん、今日はサロンの掃除しといてくれる?」

「わかりました」

 

 閉店後、デシャップにお皿等を持っていき後片付けしてると、純加先輩がやってきてそう指示された。

 こうやって指示してくるのも珍しいな、と思いつつサロンに戻り掃き掃除を始める。

 

(どう言えば伝わるんだろう……どう言えば陽芽ちゃんが素直に受け取ってくれるのかな……)

 

 営業中は落ち着いてたのに、終業して陽芽ちゃんと話せる時間になると私は逆に悩み始めていた。

 単純に、仲直りをしようとする特有の不安と緊張に襲われたんだ。

 話し掛けるタイミングも図りたいし、声のかけ方から迷ってくる。

 あーでもないこーでもないとウジウジ考え込みながら掃除してると足音が聞こえた。

 

 美月ちゃんが手伝いに来てくれたかな、と思って顔を向けると驚き顔の陽芽ちゃんと目が合った。

 もちろん私も驚いた。私たちは鏡合わせみたいに同じ顔をしていたに違いない。

 

「……陽芽ちゃん、どうかしたの?」

「……橘先輩からここの掃除をするよう言われたんです」

「あぁ……そうなんだ〜」

 

 お互い仕組まれたことを察する。

 でも陽芽ちゃんも言われた仕事を放棄するような子じゃないらしい。

 箒を用意して私の反対側から掃き始めた。

 

「………………………………」

 

 背を向け合って会話もないまま、私たちは掃除をしている。

 気まずい。でも話を切り出すこともできず、掃除に集中して気を紛らわそうとする逃げ腰な自分がいた。

 

(って逃げてたらダメだよね。せっかくこの状況を作ってくれたのに意味が無くなっちゃう)

 

 今がうってつけの状況なんだ。このまま逃げたら先輩の厚意を無駄にしてしまう。

 そう考えると、今度はそっちの方に強い抵抗を覚えた。

 その勢いのまま、陽芽ちゃんの方を向いて声を上げる。

 

「ひ……陽芽ちゃん! 聞いて欲しいことがあるの!」

 

 勢いが強すぎて、シンと静まっていたサロンに私の声が響き渡った。

 陽芽ちゃんは私の大声に体をビクっとさせておそるおそるこっちに振り向く。

 私自身が大袈裟すぎた声量に驚き焦ったぐらいだから、向こうはもっと驚いたはず。

 

「ビ、ビックリした……急にどうしたんですか?」

 

 この反応も当然で、弁解のしようもなかった。

 話の入り方から大事にしたかったのに。

 時を巻き戻してやり直したい。

 

「ご、ゴメンね、急に大きな声だしちゃって……」

 

 落ち着くために一息つく。覚悟を決めて一息吸う。

 ここまできて、ついさっきまであれこれ考えていた話し方や台詞が頭から飛んでいることに気づく。

 情けなく思いながらも、私は営業中に整理した気持ちを思い出して言葉にしていく。

 

「私、陽芽ちゃんと仲良くなりたいの!」

「え……」

「あ、あはは……突然こんなこと言われたら困っちゃうよね? ゴメンね。でも昨日から陽芽ちゃんに避けられてるように感じてて。その、こういう関係が続くのは嫌だったから……それだけは伝えたいなって思って……」

 

 恥ずかしさと緊張で上がり気味に1人しゃべっている。

 ちゃんと伝わるように話せているか不安で、さりげなく爪を触らるのをやめられない。

 そんな落ち着かない私とは対照的に、陽芽ちゃんはぽかんとした顔をしていた。

 

「……意外ですね」

「え?」

「夏八木さんって、こんな不器用な形でくる人ってイメージなかったです」

「それは……私自身もそう思ってた、かな? だからこういうのは慣れてなくって…」

「……もしかしてですけど……矢野さんとも、ただ仲良くしたいってだけで……」

「美月ちゃん? それはそうだけど……あ、2人だけじゃなくて、果乃子ちゃんとも仲良くなれたらなって思ってるよ?」

 

 今は一番難しそうなあの子のことまで考える余裕ないけど。

 

「そういえば昨日、営業前に話しかけてきたのも……」

「う、うん。美月ちゃんの話したら陽芽ちゃんと仲良くなれないかなーって……。あのときは間が悪かったよね、ごめんね?」

「………のこと言えないじゃん」

「陽芽ちゃん?」

 

 俯いてぼそっと呟く陽芽ちゃん。

 表情は見えないけど、声色は今まで聞いてきたものとは違って、素の部分を感じた。

 その後顔を上げた陽芽ちゃんは、いつものニコニコ可愛らしい笑顔に切り替わっていた。

 

「いえ、みんなと仲良くしようとするのはいいことですよね! 立派だと思います♪」

「立派、かな……」

 

 作られたような態度で取り繕ったようなことを言われ、モヤっとする。

 昨日みたいに避けられたり睨まれたりしない分、マシなのかもしれないけど。

 

(今ここで言わないと、この先ずっとこんな余所余所しい仲かもしれないな……)

 

「……不仲っていうのが、すっごく苦手なだけなの。昔の嫌なこと思い出しそうで……」

「…………」

「あ、不仲ってほどあからさまな態度じゃなかったよね、ごめんね? 私が言いたかったのは、できれば仲良しでいたいっていうか……今のままじゃ嫌だなーていうか……えっと……」

 

 本音が過ぎたかもと、今度は私が取り繕った言葉で機嫌を伺う。

 途中からはさっきと同じ事言ってることに気づいて、ついに何が言いたいのか分からなくなってしまった。

 しどろもどろな私に陽芽ちゃんはニコニコ顔を崩して嘆息しながら割り込んできた。

 

「言いたいことは大体わかりましたよ。なんとなくですけど」

「ご、ごめんね、要領得なくて……」

「いえ、気持ちは伝わりましたから。……というか、そんな必死なところ見てたら思ってたような裏なんて無さそうだし……」

「……ウラ?」

「いえ、気にしないでください。——お姉さまをとられて、やきもち焼いちゃいました。それで嫌な態度とってしまったんだと思うんです。ごめんなさい、夏八木さん」

「う、ううん。こちらこそごめんなさい」

 

 再びさっきの愛想のいい笑顔に戻る陽芽ちゃんに、私も笑顔を向けつつ心の中では落胆していた。

 

(そういう偽名で呼んだり、他所行きの外面みたいな話し方をできればやめて欲しいんだけど。流石にそれは言いにくいな)

 

 元に戻っただけでも御の字、と思うしかないのかな。

 

「……あと、同い年なのに敬語っていうのが変だったよね。改めてこれからもよろしくね、夏八木さん♪」

 

(…………まぁ、半歩前進、かな?)

 

 でも前進は前進だよね。

 他の人相手と比べると相変わらず取り繕ってる感じがするけど、最後は陽芽ちゃんから歩み寄ってくれたのだし。

 そういう意味では少しだとしても、確かに親しくなれたと思う。

 

「うん、ありがとう陽芽ちゃん。そっちの方が話しやすくていいかな~」

「ならよかったー。あ、そういえば! 夏八木さんって月ノ森に通ってるんだよね? ごきげんようとかお嬢様言葉が自然だなーって思ってたけど、普段から使ってるの?」

「うん、挨拶が基本ごきげんようだよ。中学生から言ってるから慣れちゃって」

「ほ、ほんとにそうなんだ……じゃあ、リーベみたいなサロンもあったり!?」

「さすがにそこまでじゃないよ~」

 

 早速おしゃべりになった陽芽ちゃんと学校の話で盛り上がる。

 砕けた感じで歓談していても、きっと向こうはまだ『夏八木さん』にそこまで気を許してない。

 でもぶっちゃけてしまえば、私だって人の事をそこまで言えなかった。

 

(陽芽ちゃんにみんなと仲良くなりたい理由は言いたくなかったし、それに……何か親近感みたいなのもあるんだよね)

 

 初めて話したときから薄々直感してたけど、無意識に気づいてないフリをしていた。

 思っていることをほとんど言わない私も大概外面で生きていて、私と陽芽ちゃんは同じような生き方をしていることに。

 そんな似た者同士の私たちはお互い適度に外面を張り付かせながら、それでもこの場の雰囲気はいいものだった。

 少なくとも私がそう思えてるってことは、陽芽ちゃんとの仲はひとまずこれでいいんだと思う。

 

(……あとで、純加先輩にお礼言いにいかなきゃ。また、喜んでくれるかな?)

 

 笑顔の先輩に会うのを楽しみにしながら、私は陽芽ちゃんと喋りつつ掃除を進めた。

 




*後書き*

白木陽芽の誕生日は2月14日です。
つまり、前の美月誕と違ってこの話には投稿日に意味はありません。
蛇足とは思いつつ一応書いときました。
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