もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
陽芽ちゃんとの掃除が終わって、私たちはバックヤードに戻って着替える。
私が更衣室から出ると純加先輩が着替え終わった果乃子ちゃんに距離近めで絡んでいた。
困り顔で先輩から顔を背けてる果乃子ちゃんを見るのはいつものことなので、特に気にしなかった。
それより2人の密着した絡みを傍観してるのも何か落ち着かないから、適当なこと言ってお喋りに混ざることにする。
「お疲れ様です。2人は相変わらず仲良いですね♪」
「…………」
「そりゃ姉妹だもん。——当然のことよね、果乃子?」
「だから営業中以外はやめてくださいって何度言ったら……」
(ホント、美月ちゃんと陽芽ちゃんの姉妹とは全然違うな。……主に心の距離感が)
顔を寄せてくる純加先輩をグイグイと押しのける果乃子ちゃん。
こんな2人がどうして姉妹なんてやってるのか不思議なくらいだった。
まぁこういう、一方がグイグイいくけどもう片方はツンツン、っていう姉妹もなくはないのかな。
少なくともサロンでは需要あるみたいだし。
良い機会だから前から気になってたことを聞いてみようか、と思ったところに。
着替え終わった陽芽ちゃんが更衣室から出てきて果乃子ちゃんに声をかける。
「果乃子お待たせ! 帰ろっか」
「うん! ……お疲れ様です……」
「ん、ごきげんよー2人とも!」
果乃子ちゃんが陽芽ちゃんへ向ける嬉しそうな笑顔と、一瞬で真顔に戻って私たちにした義務的な挨拶とで温度差が酷いけど。
純加先輩もそれが当たり前みたいに挨拶を返していた。
「お疲れ様でーす! 夏八木さんもお疲れー!」
「……うん! 陽芽ちゃんもね! 果乃子ちゃんもごきげんよう」
陽芽ちゃんから初めて私向けに挨拶してもらえた。
本当に少しは仲良くなれたことを実感して、自然と嬉しい声と笑顔になった私。
2人分のタイムカードをきって裏口のドアを開けて行く陽芽ちゃん。
そして、何故か固まったまま陽芽ちゃんの方を見ている果乃子ちゃん。
……どうかしたのかな?
「かーのこちゃーん? ボーっとしてるけど、大丈夫ー?」
「……大丈夫です」
純加先輩が見かねて声をかけたけど、果乃子ちゃんは一言返して陽芽ちゃんを追うように裏口から出て行った。
2人が出て行くのを見届けてから、純加先輩が期待してた通りに陽芽ちゃんとの仲直りを祝ってくれる。
「やっぱりひめちゃんと上手くいったんだね! 言った通り、分かってくれたでしょ?」
「はい! やっぱり純加先輩は凄いですね………」
「いやいや、どうしてそうなるのさ? そよちゃんが頑張った結果だよ。アタシなんてちょっと話聞いて提案しただけたし」
純加先輩は、私がどれだけ先輩に助けられてるか分かってない。
美月ちゃんのときみたいに謙遜するところも美徳だと思うけど。
今回は思っていることを飲み込んだまま我慢することができず、口を突いて出た。
「でも純加先輩の言う通りにしたから、あんなに避けられてた陽芽ちゃんとも仲良くなれたんですよ? なんだか助けてくれるお姉さんみたいで頼もしいです♪」
「そ、そーかな? まぁ実際リーベじゃずっと上級生やってきて、姉もやってるからかな? 実際は一人っ子なんだけどね」
「そうだったんですか」
(私にこんなお姉ちゃんがいたらなぁ……なんて)
私は学校では同級生や先生の頼み事に応えたり、家では仕事で疲れ果てた母の代わりに家事をしたり。
日常のほとんどは世話を焼く側、頼られる側だった。
こんなに頼りにしてしまう人なんて他にいなくて、先輩の笑顔に憧れてるところもあって。
助けてもらう毎に、この先輩の存在が私の中で大きくなってるのを感じる。
そういえば、丁度姉妹の話をしてることだし。
さっきは聞きそびれたけど、今度こそ聞いておこうかな。
「あの……そもそも
「あー、そういえばそよちゃんにはその辺しっかり説明してなかったっぽいね」
「いい機会です! ここで改めて教えておきましょう!」
キッチンからやってきた店長がイキイキと割り込んできた。
店長はほとんどキッチンにいて話す機会が営業中デシャップでやりとりするくらいだから、店長とこうして雑談気味な会話をすること自体珍しい。
「舞さん、乙女の心臓の話は…」
「かるーく話しましたよ!」
「はい。このお店のコンセプトは、そのお嬢様学校を舞台にした小説を元にしてるんですよね?」
「うん! その小説に
楽しそうに話す店長の説明はだいたいイメージ通りだったけど、クロイツというワードに引っかかる。
そういえば、つい昨日に同じような話を聞いたんだったと思い出す。
(ちょうどクロイツの話が出て店長もいるし、これも流れに乗っかって聞いておこう)
「昨日営業中に美月ちゃんが話してたのはそういうことだったんですね。そういえば、私はいつからクロイツをつけて営業することになるんでしょう?」
「あぁ、説明できてなくてごめんねそよさん。クロイツを営業中につけるのは、お互いのクロイツを交換した姉妹だけなんだよー」
「えっ、そうなんですか?」
みんなつけてるから姉妹設定とか関係なく、校章みたいなものとイメージしてたから素で驚いた。
(じゃあ、私だけつけないっていう疎外感はこれからも続くんだ……。まぁ、みんなと仲良くなれてきてるからそれはもういいか)
そう、別にみんなとお揃いであることに今さら拘ってはいなかった。
それよりも今は、姉妹の証としての意味合いに関心が向いていた。
純加先輩と、クロイツを交換した証を身に着けてるのに不愛想な妹を思い起こして。
ポツリと、疑問を口にした。
「……姉妹になる組み合わせは、店長が指示されるんでしょうか?」
美月ちゃんと陽芽ちゃん。そして純加先輩と果乃子ちゃん。
両方の姉妹を見てきた感じ、薄々そうじゃないんだろうな、と予想はついていた。
でも何故か店長が決めてることに拘って、確認したい自分がいた。
そんなよく分からないジレンマに陥ってる私に純加先輩が答えたのは、残念ながら期待してた方ではなかった。
「ううん、基本は自分たちの意思だよ! まぁひめちゃんと矢野ちゃんは事情もあったから舞さんが提案したんだけど」
「あれは店長としていい仕事をしたなって思いましたね! ……でも、あのときから色々ありましたね、姉妹関係だけでも」
「……そうですねー、懐かしいです!」
「その分売り上げも好調ですし、このままどんどん盛り上げていきたいです!」
「ははは……まぁ厄介な問題が起きなければ、大賛成ですね…」
先輩と店長で話が盛り上がってたけど、ほとんど耳に入ってこなかった。
純加先輩は指示されたからじゃなく、好きで果乃子ちゃんと姉妹やってる。
それは絡んでるところを見てたら納得だけど、果乃子ちゃんは姉妹を断らなかったんだろうか。
純加先輩も無理強いする人じゃなさそうだし、あんな素っ気ない態度するくらい嫌なら——断ればよかったのに。
(……お店の指示じゃないなら、2人はどうして姉妹になったんだろう?)
疑問半分、納得いかない半分で私は2人の関係が気になった。
リーベにいる女の子が姉妹に対して複雑な感情を募らせている頃。
そんな感情を向けられてるとも知らずに。
眼鏡をかけた大人しそうな女の子は、仲良しの友達とリーベから帰っている途中だった。
2人でリーベを出てから、いつもの帰りのバスに乗った
「ねぇ果乃子聞いてよー! 今日夏八木さんと話したんだけどさー…」
私には楽しそうに話すひめちゃんを遮ってでも聞きたいことがあった。
「ひめちゃん。あの人……夏八木さんと仲良くなったの?」
「え? まぁ仲良くっていうか……」
「昨日までそんなことなかったよね? 一昨日はあんなに気に入らない感じだったのに……」
「いや、なんか私の勘違いだったっていうか……ううん、何かそれだけじゃない気がする……」
「ひめちゃん?」
ひめちゃんはうーんと考え込むような顔をして黙ってしまう。
しばらく見守ってると、ひめちゃんはポツリと呟いた。
「……そっか……
「え?」
まるで気を許した理由に今気づいたみたいに、納得した顔をする陽芽ちゃん。
私はよく分からなくてもっと詳しく話して欲しかったけど、私が聞こうとするより早くひめちゃんが口を開いた。
「ううん、結果的に意地悪な態度しちゃって、むしろ私が悪かったんだよ」
「そ、そんなことないよ。ひめちゃんは間違ってないよ?」
「ありがと果乃子。でも夏八木さんはホントにただみんなと仲良くなりたいってだけだと思う。やっぱり矢野が言ってた通りなんだよ」
「……」
「ていうか聞いてよ! その夏八木さんから聞いたんだけど、月ノ森って本当にお嬢様学校なんだよー! まず挨拶がさ……」
ひめちゃんが楽しそうに話してたけど、碌な相槌が打てないほど話が頭に入ってこなかった。
(ひめちゃんまで、あんな人と仲良くしちゃうんだ……あんな、あからさまな
ひめちゃんはああいう子と必要以上に仲良くならないと思っていた。
向こうから来ても、いつもみたいに適当に躱すだろうって。
なのに、わざわざ敬語からタメ口に変える程度には気を許しちゃうんだ。
あんな、何のためにいい子ぶってるか分からない人に。
(……違う、ひめちゃんが悪いんじゃない。あの人が上手く取り入ったんだ。ひめちゃんを毒したんだ……)
突然リーベにやってきたと思ったら、妙に純加さんから構われて。ついでに矢野さんと仲良くなったらしくて。
そこまでなら
ひめちゃんにまで関わって、あげくおかしくしちゃったら。
あの人はもう明確に私の敵だ。やっぱり
(……あなたがみんなと仲良くなるなんて、絶対無理だから)
強く深く敵意と警戒を溜め込みながら、私は心の中で固く決意した。
「純加さん。そよさんの様子ですが、あれからどうですか?」
「舞さん。前言ってた無理してないかってやつですよね? 見てる感じそんなことなさそうですよ」
「そうですか……なら良かったです」
「まぁひめちゃんたちと仲良くなろうとして苦労してはいるんですけどね」
「あー、そうですね……。モニターでその辺も見てましたけどそよさんも、もう少し肩の力を抜くというか……素の部分をさらけ出せたらもっと上手くいくと思うんですけどね~」
「ちょっと分かるかも。そよちゃんってそういう本音みたいなのほとんど見せませんからね。でもその辺も初日よりけっこー変わってきてますよ?」
「そうなんですか?」
「はい、矢野ちゃんを頼るようになりましたし、昨日は私も冗談気味に甘えられましたしね」
「そよさんに……甘えられた……?」
「ひめちゃんと仲直りできなかったら慰めてくださいって。もちろん冗談でしょうけどね」
「……そうですか。ところで、妹の様子はどうですか?」
「果乃子ちゃんですか? いつもと変わらないと思いますけど……あ、でも今日帰るときちょっと変だったっけ?」
「入ったばかりのそよさんも大事ですけど、自分の妹のこともちゃんと見てあげないとダメですよ?」
「それこそだーいじょうぶですって! 私は可愛い妹である可愛い果乃子ちゃんが大好きですから! 任せてくださいってー!」
「……本当に、頼みましたからね……」