もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
前回までのあらすじ
美月に続いて陽芽とも仲良くなろうとするそよ。
だがなぜか陽芽からは話し掛けても途中で逃げられ、何もしてないのに睨まれたり避けられるようになってしまう。
理由が分からなくて途方にくれると、またも純加が相談に乗ってくれた。
仲良くなるための助言をもらい、不安な心を励ましてもらったそよは純加の存在を支えに陽芽に直球でぶつかっていく。
そよの打算のない思いが決定打となって、陽芽はそよへの誤解を解き敬語からタメ口へと変える程度には歩み寄ったのだった。
その後姉妹について具体的な話を聞き、最近特別な存在になりつつある純加の疑似妹へ複雑な感情を抱くそよ。
そして、そのそよに特別な友達である陽芽が絆されたことにショックを受けた果乃子は。
何かと気に入らなかったそよに対し、決定的に敵とみなすようになって・・・
18. 何を考えてるか分からない女の子
(間宮果乃子ちゃん、か……)
今日は土曜日。学校も部活も、バイトもない。
でもバンド活動の予定はあったから、女の子は時間まで自室でゆっくりしている。
紅茶を飲みながら考えていることは、まだほとんど話したことのない同僚のことだった。
(一見大人しくて、閉鎖的で。陽芽ちゃんとは仲良いけど、それ以外の人とは設定上の姉である純加先輩にすら素っ気ない子…)
受け身がちで、唯一仲良い子以外に話しかけているところを仕事以外ほとんど見ない。
なら仕事中はキャラを切り替えてるのかというと、そうでもなく普段とさして変わらなかった。
(正直、どうしてコンカフェなんて社交性が要る店で働いてるのか疑問なくらいだけど……)
性格的に向いているとは思えない。
お嬢様が好きとか、お店に気に入っている部分があるわけでもなさそう。
そう推測できるのは、楽しそうにしているところを滅多に見ないから。
他の人たちと比べると、客観的に見てリーベで働くのはただ辛いだけのように思う。
(ただ見た目通りの女の子なら、って話だけどね)
一度、別角度から考え直してみる。
改めて、彼女は人見知り気味で奥手で、自分から主張することはほとんどない。
一言で片づけるなら、それは臆病と言えるかもしれない。
でも彼女を臆病と表現することに女の子は違和感を覚える。
(臆病な子が、あんなにも自然体でいられるものかな……)
ただ臆病な子であるなら彼女の姉役に、本当は思いっきりギャルな人にあんな態度でいられないんじゃないか。
もっとおっかなびっくりして、露骨に避ける気がする。
でも彼女が姉役の先輩を邪険に扱うことはあっても、怯えてるところは見た記憶は無い。
一定の恐れがあるなら、あんな雑にあしらわないだろう。
昨日に彼女と唯一仲良い同僚から聞いた話だと、彼女はもう半年近くリーベで働き続けているらしい。
楽しそうでもないのにそれほど長く仕事を続けれるのも、見方を変えれば自分の中の芯を貫けているからじゃないか。
目的や信念のような軸となるものも無いのに、あの性格でコンカフェのバイトなんて続かないように思う。
いくら仲良しの子がいるからって。
しかも無理してる風にも見えず、淡々とこなしてる印象だった。
ここまで考えて、やはり彼女にはリーベにいる目的があるのでは、と女の子は推測していた。
ならどんな目的かと言われると何も思いつかないのだけど。
今までほとんど彼女に関わってないから分からないだけかもしれない。
でも、もしそれなりに関わっても彼女の目的が見えなければ。
それだけ彼女が、大人しそうに見せて実は達者ということになる。
(だとしたら……そんな子はやっぱり臆病なんかじゃない。普段は大人しくても、きっと必要なときは流されずに動く子だと思う)
大人しく控えめなのは装っているわけではない。あれはあれで素の一面だと思う。
でもそれは怯えるように身構えてるのではなく、ただ周りに一切の興味関心がないだけで。
だから、いざというときには想像以上の行動力を躊躇いなく発揮してもおかしくはなかった。
例えば。大切なものが守れるなら、それ以外がどうなろうが頓着せず何でもするような。
それはつまり、自分の大事なものだけしか見えてないような、そのためだけに生きてるような視野の狭さで。
喧嘩のとき加減を考えられない子どものように、一線を躊躇いなく越えそうなイメージをしてしまう。
飛躍している自覚は当然あった。
けれど彼女の社交性に欠ける性格や、仲良しの子とそれ以外で対応が全く違うところなんかが、この推測の裏付けになってるから否定しきれない。
昔の自分が思い出される。
たった1つの居場所だけが救いで、それを取り戻せるなら他がどうなろうが関係ないと振り切っていた頃の自分を。
(……全部、そんな気がするってだけなんだけどね)
そこまで考えておいて、女の子はいき過ぎた想像を恥じるように嘆息する。
最後の推測だって、多少の説得力はあっても実際にそんなシーンを見たわけでもないから完全に憶測だ。
女の子はカップに残っていた紅茶を飲み切り、根拠のない推察をやめる。
きっとそんな子じゃない。自分の思い過ごしだから。
すぐには難しそうだけど、無理のない範囲で少しずつでも仲良くなっていこう。
そう、自分に言い聞かせていた。
でも。
もしも、思い過ごしでなかったとしたら……
10月8日 日曜
昨日はお店が休みだったので、1日置いてリーべに出社した。
今日は日曜なので初めて昼からの長いシフトだけど、今の私は全く憂いてなかった。
いつものように裏口からバックヤードに入るとリーベ制服の陽芽ちゃん美月ちゃん、それに果乃子ちゃんがいた。
いつも純加先輩は早いから今日は私が最後かもしれない。
「ごきげんよう、3人とも。今日は私が最後かな?」
「ごきげんよう、そよさん。確かにそうね、でも全然遅くないわよ?」
「おはよう夏八木さん。相変わらずナチュラルなお嬢様挨拶だね! いや、今日は最後だからお嬢様出勤でもあるかー」
「いや陽芽ちゃん、重役出勤みたいに言わないでよ~。この挨拶だって学校で癖づいちゃってるだけだよ〜?」
「でも確かに、そよさんの挨拶は板についてるわね」
「そうかな~? まぁ3年以上毎日使ってるからね。きっと誰でも馴染むものじゃない?」
美月ちゃんだけじゃなくて陽芽ちゃんとも挨拶から自然に雑談してる。
初日だと1人とまともにしゃべることすら難しかったのに。
(っていうか、陽芽ちゃんが昨日より親しげな気がする……。私が思ってたより距離縮まってるのかな? 相変わらず偽名呼びだけど、それはもういいか)
陽芽ちゃんの態度は良くも悪くも知らないうちに変わるものなのかもしれない。
今回は良くなってるんだから、深く考えずに良いことだと思うことにした。
「…………」
1人会話に参加していなかった果乃子ちゃんがバックヤードから出て行こうとする。
それに気づいた陽芽ちゃんが声をかけた。
「果乃子?」
「——ひめちゃん、私お手洗いに行ってくるね」
陽芽ちゃんに返事するときだけ笑顔になった果乃子ちゃんはそのまま部屋から出て行った。
(私が来た途端だったな……)
トイレに行くにしてもタイミングが不自然すぎる。
流石に気づかないのに無理があった。
「私、果乃子ちゃんに避けられてる、よね……」
私の呟きにやはり陽芽ちゃんが即反応した。
「そんなことないんじゃないかなー! さっきのだって偶然だよ!……たぶん」
「間宮さんね……。私もあまり仲良くはないから、なんとも言えないわ」
「そう、なんだ……」
仲の良い陽芽ちゃんは当然庇うように偶然を主張するけど、その笑顔も含めてだいぶ苦しい擁護だった。
美月ちゃんは誤魔化してる、というより本音で言ってる感じがする。
実際2人がしゃべってるところなんて全くと言っていいほど見たことなかった。
(というより陽芽ちゃん以外とまともに話してるの見たことないんだよね。純加先輩は設定もあるから置いといて)
私の知らない果乃子ちゃんが気になって、陽芽ちゃんに聞いてみる。
「陽芽ちゃんは果乃子ちゃんと学校同じだよね? リーベ以外でもあんな感じなの?」
「う~ん……。まぁ確かに、私以外の人とはあんまりしゃべらないかなー」
「……そっか~」
言いづらそうにする陽芽ちゃんは嘘をついてるように見えなかったし、果乃子ちゃんには悪いけど予想の範疇だった。
そこで純加先輩がキッチンからやってきた。
「ごきげんよーう! 3人とも来てたんだね。ってあれ? ひめちゃん、今日は果乃子ちゃんとは一緒に来なかったの?」
「いえ。さっきまで一緒にいたんですけど、今はお手洗いに行ってますよ?」
「……そっか。なるほどねー」
「アハハ……」
陽芽ちゃんは、果乃子ちゃんが私を避けてるようなニュアンスを一切醸し出さず自然に話した。
でも純加先輩にはすぐに察したみたいに苦笑いを私に向ける。
その鋭さに私は乾いた愛想笑いを漏らしてしまう。
妹役の何気ない行動でも察してしまうところは流石姉役、ということかな。
「ちなみに純加先輩は果乃子ちゃんとは最初っから今みたいな仲だったんですか?」
せっかくなので私は純加先輩にも質問する。
特に、この人と果乃子ちゃんの経緯が気になっていた。
「私なんて酷いもんだったよ。最初はひめちゃんが間に入らないとまともな会話にすらならなかったし、大したことしてないのに睨まれたりもしたし。姉妹になったのだって果乃子ちゃんが入って1か月以上経った頃だよ」
そんな時期もあったなー、とボヤきながらしみじみする純加先輩。
避けられてる私も酷いものだと思うのだけど、どうやら私だけじゃなかったと知って安堵する。
それにしてもさっきみたいに露骨なことは今までなかったな。どこかで怒りを買ったのかもしれない。
……またしても。
(陽芽ちゃんのときといい、最近こういうこと続くなぁ)
もしかしてこれも純加先輩の言う、深入りすると余計こじれるやつなのだろうか。
……面倒くさい。
「陽芽ちゃん以外の人がそんな感じなら、私も同じかもしれないですね。アハハ…」
若干苦しい愛想笑いを交えつつ、自信なさげに言う。
事実、純加先輩でそんなに時間かかったなら入って数日の私じゃうまくいくわけないんだろう。
(……でも、まずは関わってみないと何も変わらないよね)
せっかく美月ちゃんや陽芽ちゃんと仲良くなれたのだから、このまま果乃子ちゃんとも仲良くなるよう頑張りたい。
正直今までで一番気が乗らないのだけど、とにかく一度話してみよう。
私は弱気な心に鞭を打つように気合を入れた。
※後書き※
この作品のタイトルを『私のお嬢様はお仕事です』から変更しました。
いつも読んでくださっていて、混乱された方いらっしゃいましたら申し訳ございません。
作品タイトル変えた理由は、そっちの方が分かりやすいと思ったからです。
でも元のタイトルも愛着があったのでどこかで使いたいなぁ、と思ってます。