もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
01. 顔合わせ
※ ※ ※
女の子は広間に佇む儚げな麗人を目にした時、時間が止まったような感覚に陥る。
初対面の人にそうなったのは、女の子にとって生まれて初めてだった。
だから、一瞬とはいえ、その女性に心奪われるほど見惚れたことにも。
無意識ながら、特別な感情が芽生え始めていたことにも。
その時の女の子は分かっていなかった。
そして、そこが全ての始まりだったことに女の子が気付くのはずっと後。
迂闊なドジによって招かれた不測の事態に、起死回生の好機を見出して。
打算と激情にまみれた想いを口にしながら。
女の子はようやく、その想いのきっかけを自覚したのだった。
※ ※ ※
10月2日 月曜 放課後
いつもなら部活かバンド活動をしてる時間帯に。
私は月ノ森の制服を着たまま、とあるカフェのバックヤード(スタッフルームと同義)にいた。
バイトの面接をした日には見かけなかった同年代の女の子たちを前に、珍しく緊張している。
それを表に出さないよう気を張る私の隣に子柴店長が立つ。
いよいよバイト仲間達に自己紹介をする時が来たんだ。
「さて! 新しいサロン係の仲間も到着したことですし、早速挨拶してもらいましょうか。そよさん、お願いします!」
「はい。——長崎そよです。高校1年生です。初めてのバイトで至らないところもあるかもしれませんが、一生懸命頑張ります。よろしくお願いします!」
緊張で余計なことを言って妙な印象にならないよう、短めに挨拶した。
それでも初めての仕事場、初めての同僚相手だから、久々に心臓がバクバクしたけど。なんとか普段通りの笑顔で話せたと思う。
挨拶が短い分、少しでも好印象にとってもらうために笑顔は絶対疎かにできない。それは今後もなんだけど。
今日からついに、『カフェ リーベ』というコンセプトカフェでバイトを始める。
このお店のコンセプトは、簡単に言うと『店員がお嬢様になりきるカフェ』。こういうサブカルチャーに疎く興味も無かった私が挑戦できる、唯一のコンセプトだと思ってる。
そんな希少なお店に無事採用された私は、学校が終わると電車を使って吉羊寺駅近くにある雑居ビルに真っ直ぐ向かった。
ビルの脇にある鉄製の非常階段を上って2階のお店裏口からバックヤードに入ると、既にサロン係(と呼ばれるホールキャスト)は全員揃っていたらしい。そこで店長がみんなに挨拶する場を設けてくれて、今に至る。
「そよさんにはサロンでは夏八木という名字を使ってもらいます。学年は2年生です。ではひめちゃんから挨拶してください!」
店長が補足しながら、私から見て右側にいる子へ挨拶を促した。
バラバラだけどみんな学生服だから、学校や学年はともかく同じ高校生だと分かる。
私にとって一番重要視な、バイト仲間たちの人となりを窺い知る自己紹介。
私は微笑みを保ったまま、どんな人たちなのか期待に胸を膨らませていた。
……視界の左端で、派手過ぎる存在感の1名は除いて。
「白木陽芽です! サロンでは白鷺って名字の1年生です。よろしくお願いします♪」
最初に挨拶したのは三つ編みカチューシャが特徴的なロングヘアーの、小柄で可愛らしい容姿にストロベリーボイスな陽芽ちゃん。
にっこり笑顔なところも含めて人当たりが良さそうで、老若男女問わず好かれそうな印象の子だった。
見た感じ、現実でも私と同じ高校一年生だと思う。
「矢野
陽芽ちゃんとは色々対照的に、綺麗なストレートの長髪でスタイルが良く、落ち着いた声で柔和な微笑みも含めて大人びた印象の矢野さん。
なんとなく普段の私と近い雰囲気を感じて親近感を持った。
サロンでは同学年だけど実際は年上だろうか。
「……間宮、果乃子です。サロンでは雨宮で、1年生です」
暗めの表情で覇気の無いソプラノボイスの、控えめな印象が強い果乃子ちゃんはどこか身構えてる様にさえ見えた。
長めのボブカットで唯一丸眼鏡をかけてるこの子も同い年かな。
ちなみにこの子と陽芽ちゃんは同じ学生服を着てるから、高校も同じなんだろう。
「あたしは知花純加! サロンでは橘って名字ね。あと3年生! バイトの中じゃあたしが一番長いから、何でも気軽に頼ってね! よろしくー♪」
そして……果乃子ちゃんとはこれまた対照的に、明るい表情にハツラツとした声で、フランクに挨拶する知花さん。
髪を耳辺りでくびれができるように巻いていて(くびれヘアと呼ばれるらしい)、リボンでサイドテールまで作ってる
何せオシャレが過ぎて、着崩した制服にピアスやネイル、ルーズソックスと、一目でギャルと分かるぐらいだったから。
今まで関わったことのない人種相手に、申し訳ないけど密かに引いてしまう。
清楚系のお店にこんな人がいて、しかもまさかの古参だったということも含めて、色々衝撃的だった。
「……ありがとうございます。みなさん、よろしくお願いします♪」
そんな内心を表情に出すまいと、私はもう一度挨拶しながら笑顔をキープする。後半はとっつきにくそうな人たちだったけど、前半は仲良くやれそうな人たちだから今はそれで良しとしよう。いや、良しとしなきゃ。
強引に自分を納得させつつ懸命に表情を取り繕う私をよそに、店長が別の話を始めた。
「さて、挨拶が済んだところでこのまま連絡事項をしちゃいます。まず、キッチンの寧々さんがしばらく休むことになりました。お家の人の看病につきっきりになるから、とのことです」
「えっそうだったんだ……。寧々さん、大変そうだな……って舞さん、キッチンはどうするんです?」
知花先輩がネネさんという人を心配をしつつ店長に質問する。
なるほど、こういうところを見ると古参の人っぽいかもしれない。
「キッチンは私が入ることにしました。前の経験もありますし、春子さんもいるから今回は大丈夫だと思います。むしろ拡大したホールでお客さんが上手く回るかどうかの方を気にしていて……」
「この前の演劇イベントが好評だったからこの機にサロンの席数増やすって、舞さん張り切ってましたもんねー」
「そうなんです純加さん! リーベとしては今がまさに張り切り時なんです! そこで、できればみなさんにもできる限りシフトに入って欲しいんですけど……どうですか?」
キッチン担当の休職の話から思わぬ方向に話が転がって、内心で戸惑いながらみんなの様子を伺う。
要は毎日でもシフトに入ってくれ、みたいな要望に聞こえるのだけど。
(流石にそんなブラック気味な要求、みんな断るんじゃ……)
「もちろんあたしはいけますよ! 矢野ちゃんたちはどー?」
「私も問題ありません。陽芽たちは?」
「私も大丈夫ですよー! 果乃子もだよね?」
「うん。私も大丈夫だよ、ひめちゃん」
(と思ったらみんなこの場で快諾しちゃうんだ……)
みんな、それくらいこのお店が気に入ってるってことなんだろう。
それはそれでいい仕事場とは思うけど、でもこの流れはちょっと想定してなかったな。
(店長とは週2,3で話してたけど、ここは……)
「そよさん、初めて出社したばかりでこんな話してごめんね? 急な話だし、無理なら面接のとき話してたシフトでも……」
「いえ、店長。私も都合つけられそうなので大丈夫です」
入ったばかりの私に気を遣ってくださる店長に、明るい笑顔を返した。
考えてみればどうにかできそうだったから。
部活もバンドも、今はそれほど忙しい時期じゃない。後で相談すればきっとなんとかなる。
それに見方を変えれば、毎日シフトがあるということはみんなと早く仲良くなれるチャンスでもあるわけだし。
「みんなホントにありがとー! それじゃ、話はこれでお終いです。今日も一日、よろしくお願いします!」
店長が最後に締めて解散となった。
私以外のみんなは部屋にある更衣室で着替えたり、どこかに行ったり、お喋りしたりで様々だった。
私はというと、店長からロッカーや更衣室などの案内を受けている。
店長の説明に適度に相槌を打ちながら、頭では別のことを考えていた。
(……営業開始までまだ結構時間あるよね。それまでにみんなと挨拶がてら話してみよう)
これから毎日一緒に働く仲間と、少しでも早めに仲良くなっておきたい。
気兼ねなく仕事をこなすためにも。
——自分が思い描いていた理想を現実にするためにも。
(一番話しかけやすいのは……矢野先輩かな?)
挨拶のとき物腰柔らかそうな彼女が一番話しやすそうな印象だった。
そこまで考えたところで矢野先輩がバックヤードから出ていくのが見えた。丁度店長の説明も一区切りつくとこらしく、いいタイミングだ。
「——説明は以上です。そよさん、何か他に聞きたいことはありませんか?」
「いえ、今のところは大丈夫です。ありがとうございます」
店長にきちんとお礼を伝えてから、私は矢野先輩の後を追って部屋から出た。
原作読むまでバックヤードなんて聞いたことなかったから不要かとは思いつつ補足しました。ただ自分が常識を知らなかっただけかもしれないけど。
それはともかく、「もしもMyGoのそよが百合コンカフェでバイト始めたら」本編上げていきます。去年の夏から書いてたので自分的にはようやくです。
「なんでそよがコンカフェなんかでバイトすることになったの?」と気になって頂けたら、下記リンクにその前日譚を載せておきます。よければ見てやってください。
0. 夏八木そよ / 救いを求めるお嬢様
もうこれリンクするの3回目だからしつこいとは思うんですけど。
自分的にはその前提を大事にしてるつもりなので、悪しからず。