もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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20. お嬢様はバンドマン

 

 

 いつもより長い営業時間も終わって、後片付け等も済ませた。

 目標の人物と仲良くなれなかったのに、妙にすっきりした気分の私は悠々とバックヤードに戻る。

 部屋に入ると陽芽ちゃんと美月ちゃんが話してるみたいだけど、なんだか陽芽ちゃんの表情が浮かないものに見えた。

 私は何かあったのかと心配になる。

 

「2人ともお疲れ様。……陽芽ちゃん、どうかしたの?」

「夏八木さん……お疲れ様! 別にどうもしてないよ?」

「そうね、今回のアンタもなんだかよく分かってないみたいだし。そよさんは気にしなくていいわ」

「うぐぐ……そりゃそうだけどさ……」

 

 美月ちゃんからなかなか辛辣に流されて、苦虫を噛み潰したような顔になる陽芽ちゃん。

 最初は陽芽ちゃんにはぐらかされて余計気になったし、除け者扱いされたのかと不安になったけど。

 正直な美月ちゃん曰く聞いてもしょうがないことらしいから、詮索しない方がいい雰囲気を察してスルーすることにした。

 信用の問題で私にだけ話せない、とかでなければ別に知らなくてもいいかな。

 

「お疲れー3人とも!」

「お疲れ様です」

 

 純加先輩が元気に挨拶しながら入ってきた。

 私たちは揃って挨拶を返す。

 

「そういえばそよちゃんは日曜のシフト初めてだったね。昼からだったし、いつもより長めで大変じゃなかった?」

「いえ、慣れてきたのもあって疲れとかは大してないです。みんなと仲良くなって緊張しなくなったのもあると思います♪」

 

 そしてさりげなく私への気遣いもしてくれる。

 そんな先輩に私も心からの笑顔で答えた。

 どこかの誰かさんと違って、私は助けられてる分応えたいからね。

 

「そ、そうだね! 私も夏八木さんと仲良くなれてよかったなぁー!」

(……? 陽芽ちゃん何かぎこちない? 何か引け目でもあるのかな?)

「そうね、私もそよさんがいると心強いわ」

「……どうせ私は夏八木さん程頼りにならないよ……」

「? 急にいじけてなんなのよ?」

 

 急にいじけ出した、珍しく分かりやすい陽芽ちゃんを見ていると流石に察してくる。

 陽芽ちゃんは美月ちゃんのことになるとやきもちを焼くことがあるみたい。

 そういえば仲直りのとき冗談的にやきもち焼いたとか言ってたけど、あれは冗談じゃなくて本当な気がしてきた。

 だとしたら、ここは陽芽ちゃんの味方になった方が良さそう。

 

「ふふっ、そうは言ってくれても、美月ちゃんの一番は私じゃないんだろうな~」

 

 見てたら丸わかりだけど、美月ちゃんが一番好きなのは陽芽ちゃんだって確信していた。

 サロンでは仲睦まじい姉妹ペアとして。普段は遠慮なく言いたいことを言いあえる友達として。

 美月ちゃんにとって陽芽ちゃんは特別なんだと思う。

 

「なっ、何よそよさんまで急に!? ……まぁ確かに私の一番は——」

「わぁああ矢野! わざわざ言わなくていいから!」

 

 意外だったのは、無気になって否定すると思ってた美月ちゃんは自ら素直に言おうとしてることだった。

 やきもちを焼いていた陽芽ちゃんは、喜ぶどころか逆に恥ずかしがって大声で遮ろうとするし。

 恥ずかし気もなく言おうとする美月ちゃんも大概だけど、陽芽ちゃんもこんな冗談話にそこまで必死にならなくてもいいのに。

 

 そんな2人の、予想と違った反応も気になるけど。

 私にはもう1つ、改めて感じ入ることがあった。

 

(……陽芽ちゃんって、相手と状況次第で随分振る舞い変えるんだなぁ。……なんか、凄く分かる)

 

 一番分かりやすいのは、仲良くなる前までは私の前で『矢野さん』に敬語だったのに。

 実際はここまで遠慮のないタメ口で『矢野』と話していることだった。

 こんな風に、周りの友好関係次第でここまで振る舞いを使い分けるような複雑な人は心当たりがない。

 ……私以外には。

 

 いつだったか、雨の日に私のバンドメンバーと母さんが家にいる状況を思い出す。

 あのときは他人であるバンドメンバーに対して無遠慮に素っ気なく、実の母親に対して普段の優しい外面で接していた。

 外面に生きてる人間の、器用過ぎるが故の歪みを感じてシンパシーを感じてしまう。

 

 

「そ、そういえば矢野、夏八木さんって吹奏楽部でコントラバスやってるんだってー! 知ってた?」

「どうしたのよ急に?」

 

 密かに親しみを抱いていると、陽芽ちゃんが無理矢理話を変えてきた。

 器用な立ち回りをする彼女らしからぬ不自然さだったけど、からかうのも不憫に思うからそっとしておこう。

 ちなみに部活のことは、昨日陽芽ちゃんと掃除してたときに話していた。

 

「しかも家に自分用のコントラバスがあるんだって! すごいよね!」

「そうね。吹奏楽部なのは知らなかったけど、家でも練習してるってことよね。立派だと思うわ」

「それもそうだけど、そんな高そうなものを部活のためにって理由で買えちゃうところがすごいってことだよ! 流石お嬢様は違うな〜、憧れるな〜!」

「あはは……」

 

 嫌味で言ってるのかと疑ったけど、陽芽ちゃんは心から憧れてるかのように目を輝かせていたから毒気を抜かされる。

 

(……もしかして陽芽ちゃんって、本当にお嬢様に憧れてるのかな? それとも単純にお金持ちになりたいだけ?)

 

 どっちにしても、すっかり私のイメージがお嬢様で定着しつつあるらしい。

 月ノ森に通ってることを公言した時点でもう受け入れざる得なかったのかも。

 

「ひめちゃんひめちゃん。そよちゃんって実は単なるお嬢様ってわけじゃないんだよー?」

「えっ、どういうことですか?」

 

 純加先輩がイタズラっぽい顔してもったいぶる。

 バンドのことを言ってるんだろう。

 

(……純加先輩だけ知っててもよかったけど、まぁいっか。この2人とも仲良くなってきてるしね)

 

 話すついでに私のお嬢様イメージ払拭を試みよう。

 

「私、実はバンドやってるの。担当はベースなんだ~」

「夏八木さんが……バンド!? バンドって、頭振り回すやつでしょ!? 夏八木さん頭振り回すの!?」

「陽芽、流石に偏見が過ぎるわよ。そよさんが頭振り回してるところなんて想像できないでしょう?」

「たしかに!」

(……なんだかなぁ)

 

 陽芽ちゃんのバンドに対するイメージは偏りが酷かったし、美月ちゃんも微妙にズレた嗜め方をする。

 全部指摘するのも面倒だったので、要点だけ言っておこう。

 

「まぁだから、私だってお嬢様学校通ってるってだけの、普通の女子高生なんだよ? 親も普通だから別にお嬢様として育ってきたわけじゃないし。あと頭振り回すのって高校生バンドじゃほとんどないよ?」

「そっか……月ノ森の生徒って、みんな立派な家柄のお嬢様ってイメージあったけど、別にそういうわけでも無いんだ。あ、バンド名とかある? いつからやってるの!?」

 

 自分の先入観を正しながら、バンドのことを質問攻めしてきた陽芽ちゃん。

 バンドが珍しいのかな?

 

「えーっと……去年から始めて、バンド名はMyGo(マイゴ)っていうの」

迷子(マイゴ)? みんな方向音痴だから?」

「もちろん違うよ? 書くとこんな感じ」

 

 私は近くにあったメモに『MyGo!!!!!』と書いてみんなに見せた。

 ……わざわざ正式な方で書いてしまって若干後悔する。

 

「へぇー、なんか深そうでいいね! ……なんでビックリマークがそんなにあるのかはよく分かんないけど」

「一応、5人でやってるから……ってことらしいですよ?」

「あぁ、だから5つもあるのね。今納得いったわ」

「あははは……」

「って夏八木さん、なんで自分のバンド名なのにそんな曖昧な言い方なの?」

 

 純加先輩と美月ちゃんの正直な感想に乾いた笑いを返してしまう。

 私たちだってそれは余計だって思いましたよ純加先輩。

 そのときのしこりがまだ残ってるからこんな言い方になっちゃったんだよ陽芽ちゃん。突っ込まないで。

 

「でも去年からってことは中学からその人たちとやってたんだ。高校になっても続けるんだから、仲良いんだね」

「……そうですね」

 

 純加先輩が何気なく言っただろう台詞でも、私の中では矛盾があるからどうしても気のない返事になってしまう。

 しかもその矛盾は、心の古傷を絶妙に甘く引っ掻いてくる。

 

(……あのとき解散してなければ……もしくは再結成が上手くいってたら……本当に、その通りに……)

 

 今更な妄想に片足突っ込みかけたところでマズイと思い直す。

 笑顔を作ることに意識を集中して現実に逃げようとするけど、繕う分だけ胸のわだかまりは膨れあがった。

 その中でも一際強く主張しているのは、CRYCHICのことを誤魔化すことへの反発だった。

 

(……でも、ダメだよね。CRYCHICのこと話したって、あんな話面倒にしか思われないよ……)

 

 下手に話したら嫌われるリスクを自覚してるのに、1人で抱え続けることに限界を感じていた。

 どうにか話変えれないかと考えてると、急にカーテンの開く音がして誰かが出て来た。

 

「あ、果乃子お疲れ! 私もすぐ着替える——」

「ひめちゃんゴメン。さっき親から連絡きて、急いで帰らないといけなくなったから先帰るよ。また明日ね」

 

 陽芽ちゃんにことわりながらタイムカードを切って、言い終わった頃には裏口から出ようとしていたところだった。

 スピーディーな退社に誰も挨拶ができなかった。

 

(というか、あの子のことすっかり忘れてたな。いつの間にか更衣室にいたんだ)

 

 窮地を救われたような安堵を覚えつつ、素でそんなことを思った。

 普段から自己主張しないし、存在を忘れかけても仕方ないよね。

 そこで、真剣な表情になっていた陽芽ちゃんが恐る恐るといった感じで私に話しかけてきた。

 

「……夏八木さん、この前果乃子とも仲良くなりたいって言ってたでしょ? 最近果乃子と何か話したりした?」

 

 話したと言えば話したけど、流石にありのままぶっちゃける気にもなれなかった。

 ここは適当に無難な返しをしておこう。

 

「んー、話そうとしたけどあんまり上手くいかなくて。これから少しずつでも仲良くなれたらいいなって思ってるよ?」

 

 学校や、リーベのお客さん相手に散々張り付かせてきた笑顔で答える。

 すると陽芽ちゃんも()()()()()()()()「そっか、よろしくね!」と相槌をうち、それ以上は何も聞かないでくれた。

 チラっと他の2人の顔も伺う。美月ちゃんは予想通り何も気づいてなさそうな顔をしている。

 純加先輩は……よく分からなかった。

 察しは悪くなさそうなのだけど、普段の顔をしていて表情から判断がつかなかった。

 

(まぁ変に深入りされない雰囲気だけど、念のため私もとっとと着替えて帰ろう)

 

 決断するや否や、私は着替える旨を3人に告げ更衣室に入る。

 着替え終わった私は無駄話をせずそのまま退社した。

 

 

 

(あたしだけじゃなく、この2人とも仲良くなった今なら……)

「あのさ2人とも。ちょっとお願いがあるんだけどー」

「何ですか純加さん?」

(うげっ、なんか嫌な予感がするなー……)

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