もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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22. 虫食いだらけの馴れ初め

 

 

 10月9日 月曜 

 

 週が明けて、また学校にバイトにと忙しい1週間が始まった。

 放課後、早速月ノ森から電車を使ってリーベに向かう。

 移動の合間に稼働していたバンドのグループチャットに返信し、リーベに着いたら更衣室で着替える。

 更衣室から出ると、リーベ服の陽芽ちゃんからサロンの掃除を手伝って欲しいと言われたので二つ返事で了承した。

 

「でも珍しいね、陽芽ちゃんからお願いしてくるなんて」

「そ、そうだね! まぁたまには一緒に掃除するのもいいかなって思って♪」

「? うん……」

 

 何気なく思ったことを言っただけなのに、笑顔のまま微妙な反応を返す陽芽ちゃんへ明確に疑念を持ち始める。

 サロンで分担しながら掃除してると、陽芽ちゃんの方からまた話しかけてきた。

 

「ていうかさ、夏八木さんが入ってきて今日で1週間でしょ? もうリーベには慣れた?」

「うん。みんなとも仲良くなってきたし、おかげで楽しくなってきたぐらいだよー?」

「そっか。でもみんなって言っても果乃子とは正直あんまりでしょ?」

「う、うん。まだ他の人たちほど馴染めてない、かなー」

 

 (……陽芽ちゃんのことだし。何かあるかもと思ったけど、()()()()()()かな…)

 

 どこか違和感のある陽芽ちゃんに、私は何が狙いがありそうと勘繰っていた。

 既に大体の当たりをつけていたけど、ひとまず話を聞くことにする。

 

「私は果乃子とは中学からの付き合いだからさ、果乃子のことで何か相談したいことあったら言ってね! できるだけ協力するから!」

 

 そして予想通りあの子との仲をわざわざ取り持とうとしていることを確信して、様子見をやめる。

 どうして陽芽ちゃんがこんなことしてきたかは分からない。

 それでもどう答えるかは変わらなかった。

 

「ありがとう陽芽ちゃん。でも果乃子ちゃんは仲良くしようとするのが迷惑みたいだから、あんまり無理に関わらないようにしようかなって。陽芽ちゃんも、果乃子ちゃんが困るのは嫌だよね?」

「そ、それは……そう、だね……」

 

 陽芽ちゃんにはこう言えば食い下がってこないだろうな、という推測は当たっていた。

 苦笑いを浮かべてすごすご引き下がる陽芽ちゃんにひとまずはこれでいい、と思いたいんだけど。

 本当にこれだけが目的だったのか、私の返事が取りつく島もない感じで気まずくなったのか。

 陽芽ちゃんはそれっきり黙って掃除に戻ってしまった。

 裏の目的があったとはいえ、仲良くなったばかりの陽芽ちゃんから2人でしゃべる機会を作ってくれたのに。

 せっかくの場を微妙な空気で終わらせたことに心がチクリと痛む。

 

 (……1日早かったら大歓迎だったけど。もうあの子と仲良くなりたいと思わないのに、そう言われてもな……)

 

 やっぱり陽芽ちゃんの申し出に素直に従おうとは思えず、でも何か話そうと話題を探っていると、ふと気になったことを聞いていた。

 

「そういえば、陽芽ちゃんは果乃子ちゃんと仲良くなったきっかけとかあったの?」

「……えっ? あー、果乃子と仲良くなったきっかけかー。うーん……」

 

 掃除してる手を止め、難しい顔で言い淀む陽芽ちゃん。端的に言って……

 

(すごく言いづらそう)

 

「急に変なこと聞いてゴメンね? 言いにくかったら無理しなくて大丈夫だから!」

 

 とは言ったものの、あんな子と何があればあそこまで仲良くなるのか微妙に興味があった。

 でもあの子のことで陽芽ちゃんとの仲まで悪くなるなんて御免だったから。

 そうなるくらいなら無理に聞こうとは思わない。

 

「……中学のとき、クラスのみんなで先生の結婚をお祝いする企画をしたことがあってね……」

 

 流そうと思っていたら陽芽ちゃんが答えてくれるみたいだった。

 

「果乃子は看板を作っていたんだけど、その看板が……誰かにボロボロにされちゃって……」

 

 こちらに背を向けながら掃き掃除しつつ、言葉を選ぶみたいにとつとつと話す陽芽ちゃん。

 いつもハキハキ話す彼女がここまで途切れ途切れになるのは珍しい。

 

「……話の流れで、果乃子が犯人にされちゃいそうになって……」

 

(話の流れ、か……)

 

 あまり他人にする内容じゃないのに聞かせてくれてるのは察した。

 でも、看板を作った本人を疑う流れは明らかに違和感がある。

 

「……それ以上犯人捜しを続けるのが嫌だった果乃子は、それを認めようとしたんだ」

「……………………」

 

 でも訳があってこんなおかしな話になっている気がする。

 

(じゃなきゃ、ここまで言いにくそうにしないよね)

 

 私の頭に虫食いパズルのイメージが浮かび上がる。

 穴が空いてる部分にはどんな話が隠されているんだろう。

 

「だから私がみんなと果乃子の間に入って、なんとか説得したんだ。果乃子は犯人じゃないって。みんなも分かってくれて。それからかな? 果乃子と仲良くなったのは」

「そうだったんだ……」

 

(実際誰が犯人だったかは……触れない方が良いんだろうな)

 

 不自然に不透明なところも多いけど、大筋はこんなところなのだろう。

 どうしてあの子が陽芽ちゃんにべったりなのか、最後の部分で少しだけ納得できたし。

 視点次第で随分化けそうな思い出話だったけど、得るものもあったからそっとしておくことにした。

 

「庇ってもらった果乃子ちゃんにとって、陽芽ちゃんはヒーローみたいな存在だったんだね」

「それは言い過ぎだと思うけど……あのとき動けてよかったって思ってるよ。おかげで果乃子と今も一緒にいるから」

「話してくれてありがとうね、陽芽ちゃん。おかげで陽芽ちゃんには心を開いてる理由が分かったよ。それにしても一途すぎるというか、極端だなって思っちゃうけど……」

 

 つい本音が漏れてしまって余計なことを口走ってしまった。

 でも私の方を向いた陽芽ちゃんは気を悪くした様子はなく、困ったように笑う。

 

「私も果乃子には他の人とも仲良くなって欲しいけど、夏八木さんの言う通り無理やりは良くないとも思ってるよ」

 

 あの子にも私にも気を遣った無難な言い回しに、実に陽芽ちゃんらしいなと思った。

 なのに急に口角を落として暗い表情になる彼女に、今度はらしくなさに疑問符を浮かべてしまう。

 いつも隙無く愛想を崩さない陽芽ちゃんは、まだ関係性の薄い私にはこんな表情を見せないと思ってたから。

 

「でも昨日から果乃子がなんか変っていうか……1人で辛そうにしてるのが心配なんだ……」

「……うん」

 

 昨日の営業前や帰り際に、あの子が1人になったことを言ってるんだろう。

 話は分かるのに、素の感情を曝け出してるようにしか見えない陽芽ちゃんがとことんらしくなくて。

 表には出さないけど、戸惑ってばかりの私は碌な相槌も打てない。

 

「だから、もし夏八木さんとの仲が原因ならっ——……」

 

 陽芽ちゃんの顔や声色がどんどん必死なものに強張っていく。

 それだけ本心で言ってるんだろう。

 そんな自分に気付いたのか急に言葉を区切ったと思ったら、ニコッと笑って言い直してきた。

 

「えっと……夏八木さんのできる範囲でいいから、仲良くしてくれたら嬉しいんだ」

 

 最後はいつもの愛想のいい陽芽ちゃんで取り繕ってきたけど。

 途中まで真剣そのものな様子だったから、本気の訴えだったのは疑いようがない。

 私たちの仲がどうだろうと、陽芽ちゃんが不利益を被ったりメリットが生まれるわけじゃないはずなのに。

『夏八木さん』に対して外面をほとんど外すくらい、あの子のためを思っていたんだ。

 

「――――」

 

 そんな陽芽ちゃんに、私は思わず言葉を失ってしまう。

 彼女が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが、ただただ意外だった。

 自分と本当に同族なのか疑うほどに。

 親近感を抱きつつあったからか、どうしてか裏切られたようなショックもあって。

 そんな陽芽ちゃんに劣等感のようなものを抱くしで、色んな感情が混ざって複雑な心境になる。

 でもどうしてそんな心境になるのか、それ以上の思考は心が問答無用で拒絶するから分かろうともしない。

 

 分かりたくもない——

 

 だから拒絶反応に何の疑問も抱かず、むしろ何も思わなかったことにして、一番はっきりしてる思いにだけ目を向けた。

 

(まぁ、この話を聞いたからってあの子と仲良くなろう、とはまだ思えないんだよね……陽芽ちゃんには申し訳ないけど)

 

 だから、ズルいとは思いつつ私は角の立たない返事で逃げることにした。

 

「……私は、果乃子ちゃんと仲良くしたいって思ってるよー?」

「それならよかったー!」

 

 心にもない嘘を笑顔で平然と言う。

 いくらでもしてきたことだった。きっとそれは陽芽ちゃんも同じなはず。

 でも、今私が張り付つかせてる笑顔は。

 誰かのためを思っている陽芽ちゃんのと比べてどうなんだろう。醜かったりしないだろうか。

 少なくとも笑顔を鍔迫り合いのように向け合っているこの状況は、私には苦しかった。

 

「まぁ気が向いたらでいいから、果乃子のことよろしくね! 夏八木さんは悪い人じゃなさそうだから、果乃子とも仲良くなれると思うんだー!」

 

 陽芽ちゃんは掃除用具を片付けながらそう言ってバックヤードに戻っていく。

 気づけば掃除もそこまで済んでいたらしい。

 

 サロンで1人になった私はふぅ、と一息ついて物思いに耽る。

 

(陽芽ちゃんのおかげで、納得できる部分も少しはあったよ)

 

 陽芽ちゃんから助けになろうと関わってくれたことには素直に嬉しいと思ってる。

 

(それでも、向こうがあんな調子なのに仲良くできないよ。悪いけど……)

 

 嬉しい気持ちを昏い嫌悪が塗りつぶす。

 サロンの窓に薄く映る顔が冷たい目をしていた。

 

(もうすぐ営業時間だ。切り替えなきゃ)

 

 いつもの笑顔が窓ガラスに映ったことを確かめてから、私もバックヤードに戻った。

 

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