もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
営業が終わって、今は美月ちゃんとサロンの掃除をしている。
私から誘ったんじゃなくて、美月ちゃんからお誘いがあったのだ。
——この流れも予想の範疇だったのだけど。
(今日は陽芽ちゃんと、純加先輩から果乃子ちゃんの話を振られた。もしかしたらと思ってたけど……)
みんな、私たちの仲をとりもとうとしてくる。
本来なら私にとっての理想の居場所のために、すごく嬉しいことなのだけど。
仲良くなりたくない相手のときに限ってこうなると、素直に喜べない。
「そよさんは、間宮さんとも仲良くなろうとしているの?」
私が黙っている、というより待っていると美月ちゃんがいきなり本題に入ってきた。
彼女には流れもへったくれもないんだろう。
清々しいくらいこういうことに向いてなかった。
(相変わらず不器用だなぁ。話が早くていいか)
「そのつもりだったけど、果乃子ちゃんが嫌がってるみたいだから。今はあんまり無理しないようにしてるんだ〜」
「そう……」
「あの子って美月ちゃんもあんまり話さないよね。もしかして、仲悪い……とか?」
聞いていいかどうか迷ったけど、聞くならこのタイミングしかないと思い切ってみた。
たぶんこの子なら気を悪くしないと思って。
「仲は……確かに良いとは言えないわね。私達が仲良くなるのは難しいと思うわ」
「そうなんだ……」
「それでも、前よりは話をすることが増えた方なのよ」
「えっそうなの?」
渋い顔から苦笑いに変わった美月ちゃんに、私は驚きと疑問が混ざったような声を返す。
(あれで、増えた? 話してるところなんてほとんど見てないけど?)
増えたという認識の美月ちゃんがおかしいのか、それともその以前というのがよっぽどひどかったのか。
よくわからないけど、とりあえずその転換期について聞いて見よう。
「何かきっかけがあったの?」
「間宮さんと喧嘩したの」
「け、喧嘩……」
苦笑いの美月ちゃんは予想の斜め上の回答をしてきた。
しかもあまり参考にしたくない。
(喧嘩にはいい思い出がないんだけどな……)
バンド絡みで嫌というほどしてきた。もう2度とあんなのは御免こうむりたい。
というか、私はそんなことになりえない居場所を求めていたんだ。
「前に初めてまともに話す機会があったのだけど。お互い言いたいことを言って、喧嘩になって。それがきっかけで、私は間宮さんのことを知ろうとしたの」
初めて会話したと思ったら喧嘩した。
相当相性が悪いのかなんなのか。
(というか、喧嘩した相手に興味を持つなんて。美月ちゃんは本当に変わってるな)
その話を聞いて、改めて私が美月ちゃんに興味を持ったぐらいだった。
「営業中に間宮さんと話して、私と間宮さんの違いが分かって。そのとき悩んでたことに答えが出せたと思ったら、間宮さんもその悩みに協力してくれることになったの」
「……それだけ聞くと、仲良くなったというより通じ合ったみたいだね」
「そうね……。確かに、私達の関係にはその表現が正しいのかもしれないわ」
1人すっきりした顔で納得する美月ちゃん。
私にあの子と仲良くなれるよう話をしていたはずなのに、結果的に自分の認識に整理がついたみたい。
(美月ちゃんは人と関わるとき、計算なんてしないんだろうな。それが美月ちゃんの強さに繋がってる気がする)
なりたいとは思わないけど、美月ちゃんの在り方には一本筋通った格好良さがあって嫌いじゃなかった。
「もし間宮さんと仲良くなるのに悩んでいたら、あなたもいっそ喧嘩するつもりでぶつかったらどうかしら?」
「そ、それは流石に遠慮したいなー、あはは……」
意地悪な冗談とかじゃなく、純粋に勧めてくる美月ちゃんに愛想笑いしながらしっかり否定しておく。
(でも、本気であの子と深い関係になろうと思ったら、喧嘩も覚悟するくらいじゃないといけないのかもしれないな)
それはそれとして。
もうそろそろネタばらししてもらってもいい頃合いだろう。
「——美月ちゃん。1つ、確認しておきたいことがあるんだけど?」
「何かしら?」
3人ともあの子の話をしてきた。
偶然ではなく、3人グルになっていると見るのが妥当だった。そこまでは分かりきっている。
気になっていたのは、『どうしてそうなったか』だった。
美月ちゃんも陽芽ちゃんも、人の交友関係に自分から首を突っ込むタイプじゃないと思っていたから。
そこで1つ、仮説を立てて考えてみると諸々辻褄が合う。
私はその仮説を美月ちゃんに話した。
そして美月ちゃんはバレたか、というような顔をしつつ。
私の推察が正しいことを認めたのだった。
着替え終わって退勤した私は、今日はひめちゃんと一緒にバスで帰れている。
本当だったら嬉しいはずだけど、今日だけは素直に喜べない。
私の予想が正しければ、ひめちゃんもあの人の話をしてくるだろうから。
「果乃子もなんだかんだ橘先輩や矢野とか、私以外の人ともいつの間にか話せるようになってるよね」
明るい顔のひめちゃんは、本当にそのことを良い事だと思ってそうだった。
ひめちゃんが私のことで喜んでくれるのは嬉しいけど、話はこれで終わりじゃないんだろうな。
だから、私はつい否定するようなことを言ってしまう。
「……別に、矢野さんとは話してないよ?」
「でも私が辞めてるときに話したんでしょ?」
「…………」
俯いて黙る私が、ひめちゃんの言いたいことを察していることに気付いたんだと思う。
ひめちゃんは小さく嘆息する。
そして面倒な駆け引きは終わりと言わんばかりに、1番言いたかったであろうことを切り出した。
「夏八木さんのことだけどさ、1人で仲良くしなくていいから。私と一緒に仲良くしよ?」
「……ひめちゃん」
(そんなこと言われたら絶対断れないよ……ズルいな、ひめちゃんは……)
優しい言い方と声色から、無理やりにならないよう私に気遣ってくれてるのが分かる。
予想していた流れで、ひめちゃん相手だろうと今回は抗うつもりだったのに。
私は結局、ひめちゃんから差し出される手をとってしまうのだった。
——でも、
「……ひめちゃん、1つだけ聞きたいんだけど」
「な、何?」
「1つだけだから、正直に答えて?」
「も、もちろん! 果乃子に嘘はつかないって~!」
「ありがとうひめちゃん。嘘ついても他の人から聞き出せば分かることなんだけどね」
「ちょっと果乃子! 笑顔なのが逆に怖いってー!」
笑顔で迫る私に怯えたような顔をするひめちゃん。
おかしいな、表情には出してなかったはずなのにな。
文句を言いたい相手はひめちゃんじゃないのに、その人への恨みがにじみ出てしまったなら仕方ないことだった。
ひめちゃんと別れてバスを降りた後、家まで歩いて帰る。
歩きながら考える。というより、気持ちの準備を試みるのだけど。
(……やっぱり、仲良くするなんて嫌だよ……ひめちゃんのこと抜きでも……)
どうしても消せない嫌悪感につい足を止めて俯く。
何のためにいい子ぶってるか分からないあの新人が生理的に受け付けない。
ある意味、矢野さんより関わりたくないかもしれないくらいだった。
そんな新人が当初の予想に反してひめちゃんと仲良くなって。
おまけにあの人にはずっと構われて味方されてることが、より拒絶を強くさせていた。
でも。それでも、やめにしようとは思えない。
ひめちゃんに気遣われたことは理由としてもちろん大きかった。
でも、そうしてもらえたのはあの人の仕業でもあって。
何より、あの人が望んでいることだから。
私は、他ならぬ私が無視しちゃいけない。
今日はつい避けてしまったけど。断じて、嫌ってるわけじゃない。
今回の恨み節は後で必ずぶつけると心に決めてるのは置いといて。
間違ってもあの新人のためじゃなくて、主にひめちゃんのためと。
ついでに、仕方なく、あの人のために。
最低限の落し処へ持っていくために、どうすれば新人への反発心を軽減できるのか。
顔を上げて夜空を眺めながら、私は考えに耽る。
(……なんのためにいい子ぶってるか分かれば、少しはマシに思えるのかな?)
1つ気づきを得て、その分だけ明日への覚悟を決めれた私は再び帰路を歩み始めた。