もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
「ごきげんよう。お席にご案内致しますね」
あれから営業も始まって、私は出社前とは打って変わって晴れやかな気持ちで仕事していた。
憂鬱だったことを済ませたこともあるんだろうけど、ついにサロン係のみんなと
(まぁ、偽名呼びの陽芽ちゃんはどれだけ心開いてくれてるかよく分からないし。果乃子ちゃんにいたっては……お互い良くは思ってないんだけど)
みんなと仲良し、にはまだまだ程遠かった。
それでも、最初会ったときよりは確実に仲が深まったって言える。
ここを悪くない居場所と思えるくらいには、私は満足していた。
(って、気を抜いてられないくらい今日はお客さんの入りが凄いな)
とにかく忙しかった。ひっきりなしに接客や給仕を繰り返して少し慌て気味になりそう。
今は大量にあったお皿をトレンチに重ねてるところだったけど
「夏八木さん、注文いいですかー!」
私に向かってお客さんが呼びかける。
応対したいけどバッシングもしないといけない、と迷っていると
「……お待たせしました。お伺いします」
「雨宮さん! えっと、おすすめティーの
驚いたことに、果乃子ちゃんが代わりにオーダーを取ってくれた。
言うまでもないけど、こんな風にフォローしてくれるようなことは今までなかった。
(まさか果乃子ちゃんに助けられるとは思わなかったなぁ。後で果乃子ちゃんにお礼を言いに行かなきゃ)
何気に感動したこともあって、暇を見つけ次第すぐ彼女の元に向かいたかった。
人前で絡むのは迷惑そうだから、お客さんから離れてるデシャップ付近でこそっと話しかける。
「果乃子ちゃん、さっきはありがとね」
「いえ……普通にご注文を伺っただけですから」
本当に果乃子ちゃんはそれだけのつもりだったかもしれない。
でもギスギスせずに会話するようになっただけでも、私たちの仲が大きく改善されたのを実感して素直に嬉しかった。
思うところの多い子だけど、それでも良い関係でいられた方がやっぱりいいな。
「雨宮さんが白鷺さんや橘さん以外とお話されるなんて珍しいですね!」
「夏八木さんが入ってから、リーベに新しい風が吹きまくってますね!」
「でも昨日はあまり関係が良くなさそうに見えたのだけど……」
そんな私たちの関係の変化に、来校者様は敏感でいらっしゃる。
目立たず声量も抑えてたつもりだったのにお客さんに反応されてしまって、中には訝しんでる人もいた。
(どうしよう。不仲じゃないですよー、みたいなアピールしておくべきかな……)
私がどう立ち回るか迷っていると、陽芽ちゃんがトテトテと歩きだしたのが見えた。
「果乃子は人見知りしちゃうだけで、いい子なんですよ?」
「白鷺さん!」
陽芽ちゃんが盛り上がっていたお客さんに話しかけていた。
陽芽ちゃんは応対以外でもたまにお客さんに話を振っている。
サロン係の中じゃそういうのはこの子と純加先輩ぐらいだ。
「だからきっかけさえあれば、果乃子は色んな人と仲良くできるって、私は知ってますから!」
「ひめちゃん……!」
大好きな陽芽ちゃんに良く言われて、果乃子ちゃんは顔と声色にいっぱいの嬉しさを表していた。
大変果乃子ちゃんらしいと思います。
「でもよかったー! 果乃子、夏八木さんと仲良くなったんだね!」
「う、うん……」
陽芽ちゃんに私たちの仲のことを触れられ、果乃子ちゃんはモゴモゴと答えづらそうにしていた。
確かに仲良くなったかと言われたら微妙だから、返答に窮するのも分かる。
こういうときアドリブに弱いことは明らかだから、さっきのお礼も兼ねてここは私がフォローしよう。
「そうね、白鷺さん。
「そ、そうですか……仲良くなるのは、いいことですよね!」
あなたたちがグルになって仕向けてくれたんだよね、という遠まわしの牽制がちゃんと効いたみたい。
これ以上陽芽ちゃんも深堀りしないだろうし、果乃子ちゃんも一安心だよね。
ダメ押しの話題転換として、陽芽ちゃんと
「それに私は、白鷺さんとももっと仲良くなりたいと思っているのよ? それこそ……あなたのお姉様との仲に負けないくらいに、ね?」
「そ、そのお気持ちは嬉しいですけど…」
いきなり仕掛けたから、流石に陽芽ちゃんはたじたじな反応になっちゃったな。
といっても、本命はそっちじゃないのだけど。
「——夏八木さん! 陽芽にちょっかいをかけないでくれるかしら!」
「お姉さま…!」
予想通り美月ちゃんが飛んできて陽芽ちゃんを抱き寄せる。
ついでに陽芽ちゃんも少し安堵したような表情になった。
(うんうん、この展開を待っていたんだよね)
「もちろん冗談だよ、美月ちゃん? あなたたち姉妹の仲睦まじい様子を見たかっただけ♪」
満面の笑みで言い切ると、釣り出されたことに気付いた美月ちゃんは顔を真っ赤にする。
うんうん、やっぱりからかうなら美月ちゃんが1番楽しいな。
内心楽しんでいた私は急に悪寒めいたものを横から感じた。
同時に冷たい声が突き刺さる。
「……夏八木さん。戯れがすぎます。リーベ女学園の校訓は『いつでも清楚に、なにごとも美しく』です。そのような冗談は清楚さにも美しさにも欠けますので今後はお気をつけください」
「そ、そうだったわね。以後気を付けるわ……」
「分かってもらえれば結構です」
無表情に睨んでくる果乃子ちゃんに今度は私がタジタジになる番だった。
(しまった、果乃子ちゃんのことを考えるの忘れてた…!)
また果乃子ちゃんとの仲が以前に逆戻りになるかとビクビクしていると、お客さんの歓声が聞こえてきた。
「1年生と2年生、全員の絡みなんて超レアよ!」
「あぁ、今日来れたことを神に感謝……!」
「ふふっ、半年前まででは決して見れない光景ね……。これからのリーベも楽しみだわ」
(もはやお客さんは何でも喜んでくれるんじゃないかな)
心の中で相変わらずな来校者様に呆れながら、ふと思い出したことがある。
初日はこんな風にみんなと小芝居できたらいいな、と思い描いていたんだっけ。
(なんだか思ってたほど充実感、みたいなのはないけど……今思うと初日より随分変わったんだな。色々と)
ここに入る前に期待していたほど、私はみんなにすんなり受け入れてはもらえなかった。
でもそれは私が甘かっただけ。
3人とも仲良くなるのに一筋縄ではいかなかった。
でも苦労した分だけ仲を深められた、ということでもあるはすだから。
(なんだかんだこのお店に、リーベに来てよかった……かな?)
とにもかくにも。
今の心境のいきつくところは、この感想に尽きた。
「橘さん。ゲストの私が言うのも差し出がましいですけど、後輩達が楽しそうにしてるのに混ざらないくていいんですか?」
「——いいんです。今はここで見ていたいんですよ」
「見ているだけでいいんですか?」
「はい。私は噛みしめていたところなんです。5月に本年度のブルーメとして選ばれたとき、宣言したブルーメの決まりを」
「……そうでしたか。素敵な光景ですね」
「はい、みんなが仲良くしているところを私が見守ってる限り、決まりが破られることはありませんから。これからのリーベ女学園も是非お楽しみください」
「もちろんです。これからも楽しみにして通わせて頂きますね」