もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
「まさか夏八木さんから小芝居してくるなんて……それにもうちょっと違う方向なら良かったのにー」
「ふふっ、ごめんね陽芽ちゃん。一度くらい陽芽ちゃんとも絡んでみたかったの」
「叶ってよかったですね。じゃ、ひめちゃんも困ってるみたいだから2度としないでください」
「か、果乃子ちゃん……それは厳しすぎじゃない〜?」
「そうね。妹が姉以外と頻繁に絡むのは姉妹のイメージに関わるし、控えた方がいいと思うわ」
「いや美月ちゃんはただ妹を取られたくないってだけじゃない?」
「ち、違うわよ! 私はただリーベのコンセプトを守るために……」
営業が終わった後、サロンで同い年組とおしゃべりしている。
初日は外から遠巻きに見てるしかできなかったけど、こうして輪に入ってみんなで話せるようになったことに、万感の思いだった。
(長かったようで、まだ8日目なんだよね。そんな短い期間にたくさん悩んだけど、頑張ってよかったな)
「みんな今日もお疲れー! このまま別れて掃除しちゃおっかー!」
「あ、じゃ純加先輩。たまには私とサロンの掃除しませんか?」
「お、そーいえばそよちゃんとここの掃除したことなかったねー。一緒に掃除しよっか!」
「はい、お願いします♪」
後片付けを促す純加先輩にすかさず声をかける。
今日だけは先輩に付き合ってもらいたかった。
残った3人のうち陽芽ちゃんが話を進めていく。
「じゃ矢野、私たちはゴミまとめて捨てにいこっか!」
「そうね」
「果乃子はどうする?」
「……」
(? 果乃子ちゃん私をチラっと見てきた? まさか純加先輩誘ったの気に入らなかった、とか?)
「ひめちゃん、私もそっち手伝うよ」
「そっか、じゃ3人でやろー」
「早く終わったら営業前に言われた作業を先に始めてもいいものね」
こうして掃除の分担も決まった陽芽ちゃんたち3人はサロンから去っていった。
一瞬私を見てきた果乃子ちゃんが気になったけど、純加先輩との関係はただの設定なんだしやっぱり杞憂みたい。
「じゃあたしたちも始めよっか!」
「そうですね」
純加先輩と2人っきりになった私は、一緒に箒を用意して掃きだした。
掃除中に、私は純加先輩に営業前果乃子ちゃんと話せて少しはマシな仲になれたことを報告した。
「うんうん! あたしの妹とも、少しでも仲良くなってくれたなんて嬉しーなー!」
「仲良く……はちょっと自信ないですけど。でも、純加先輩のおかげて少しは良い関係になれました」
「あたしは今回は昨日サロンで話した程度だよ? おかげってほどでも…」
そのことを言ってるわけじゃないのだけど、予想通りはぐらかしてきたので私からネタばらしすることにした。
「美月ちゃんに教えてもらいましたよ? 先輩が美月ちゃんと陽芽ちゃんの2人に、私と果乃子ちゃんの仲を取り持つようお願いしたって」
「……矢野ちゃん口軽いなー」
「私から聞き出したんです。たぶんそういうことじゃないかって思って。だから美月ちゃんを責めないであげてください?」
あのときは私もほぼ確信して言い当てたから、美月ちゃんも誤魔化せないと思ったんだろう。
何にしても、私はいつもいつもこの人に支えられてばっかりだ。
それを言葉にせずにはいられなかった。
「純加先輩はいつも私を気遣ってくれますよね」
「そよちゃんが良い子だからね。お節介だろうけど、手を借したかったんだ。しかもちゃんとみんなと仲良くなって嬉しかったよ? 偉いね、そよちゃん」
そう言いつつ私の頭をポンポンして労ってくれる純加先輩。
スキンシップされるのに慣れてないからか、私はそれだけで顔が熱くなって落ち着かない。
「い、いえ……そ、そうだ! 果乃子ちゃんが決まりを守るために何をしたのか教えてください!」
「え!? え~っとぉ〜……」
「いいじゃないですか〜。みんなと仲良くなれたご褒美ってことで、お願いします♪」
照れ隠しに何か話そうと思って、昨日の営業中秘密にされた話を思い出す。
各々と仲を深めてリーベに馴染んできたのだし、教えてもらってもいいはず。
(ていうか、すんごいナチュラルに甘えたようなこと言ったな私。……まぁ先輩にならいいかな)
心の中で開き直る私に、純加先輩は「しょうがないなー」とぼやきながらも話してくれた。
「……前にリーベで1人が辞めそうになってね。みんなも動揺して、バラバラになりかけたんだ。あたしは悩むばっかで動けなかったのに、一番最初に動いたのが果乃子ちゃんだったんだ」
「……果乃子ちゃんが、ですか?」
話し始めから想像以上に重い話で面食らったけど。
そんな何もできなくても仕方ない状況で真っ先に行動を起こせたのが、なんとあの果乃子ちゃんらしい。
「ちょっと信じらんないよね? でもこれはホントの話。でも他の人に聞かないであげてね。この話、本ッッッ当にメンドくさいから!」
「そ、そこまでなんですね……。それにしても意外です。凄いですね、果乃子ちゃん」
(いや、もし仮に陽芽ちゃんがそれに関わっていたら。それに昨日の美月ちゃんの喧嘩したって話…)
仮説を立てて今まで見聞きした情報を繋ぎ合わせると、話が見えてきそうだった。
でも私の興味を引いていたのはそこじゃなかったので、それ以上考えるのをやめる。
(何よりも、果乃子ちゃんがそこまでできる子だったなんて思わなかったな……)
果乃子ちゃんなら陽芽ちゃんのために
でも、せいぜい自己満を満たす範囲内のことしかできないとも思っていた。
バイトをやめるなんて
想像しかできないけど、似たような経験があるから分かることがある。
離れていく人を繋ぎとめることが、どれほど難しいことか。
(……そっか。果乃子ちゃんは守れる子なんだ……私と違って)
敗北感で目線が床に固定されたまま上がらない。
どうしたってCRYCHICのことと比較してしまう。
心の中が燻って、嫌な感情が広がっていく。
鋭いところもあるけど、基本受け身で生きてそうなあの子は所詮それに見合ったことしかできないだろう。
そう、心のどこかで見下していた。
間違っても劣ると思わなかった相手に、自分にできないことを成し遂げられた悔しさ。
それを認めたくない拒絶。
あんな子と自分とで何が違うのか分からず、劣等感に苛まれる。
ドロドロな感情が渦巻いて呑まれそうになるのを、密かに歯噛みして耐えようとするけれど。
やるせ無さが悪感情を加速させて、負の連鎖が止まらなかった。
「でもホントにスゴイね、そよちゃんは。1週間でみんなと、果乃子ちゃんとまで仲良くなるんだもん」
昏い気分に飲み込まれそうな私を、明るい声が掬い上げてくれる。
どす黒い世界に光が差し込んだように感じて、私は思わず顔を上げて声の方へ向く。
純加先輩が笑っている。いつも元気をくれたこの素敵な笑顔が、今日は一段と眩しかった。
眩しすぎて、自分の影をより濃く感じてしまうほどに。
その影が自分の心にさしてきて、適当に取り繕う気分になれなかった。そんな心境に危機感を抱く。
(まずい……なんとか気持ちを切り換えて笑顔で話をあわせなきゃ……)
そう思ってもいつものように上手く笑えず
「……そんなことないですよ。少なくとも純加先輩と比べると全然ですし」
気持ちを整理するどころか、ずっと抱えてきたものが少しずつ溢してしまっていた。
「? そりゃあたしは年上だし、みんなとも半年近くの付き合いだから……」
「そういうことじゃ……ないんです」
きょとんとする純加先輩に、私はかぶりを振る。
違う、私が憧れたものにきっと年や付き合いの長さなんて関係無い。
初日に見た、みんなの中心で充実そうにしてる先輩の笑顔は今でも脳に焼き付いて消えそうにない。
あんな風に私も笑えるようになりたいと、みんなと仲良くなろうとした。
でも助けてもらう度に先輩の懐の深さや魅力を知って、ただみんなと仲良いからあんな風に笑えてる訳じゃないと改めて思い知って。
いつからか先輩のような笑顔よりも、先輩自身に近づきたい気持ちの方が強くなっいた。
この人みたいになりたい。
この人にもっと頼ったり褒められたりしながら、一緒にいたい。
この人をもっと知って……私のことも、知って欲しい。
先輩への憧れがいつの間にかそんな形に変わっていて、私にどうしようもなく干渉していた。
(……止めなきゃ。これ以上変なこと言わないように)
理性が危険を訴えているのに遠く感じて制止にならず、一度吐き出し始めたものは止めれそうにない。
それが醜い
相手に疎ましいとしか思われないだろうに。
分かっているのに。
どうして、こんなにも先輩に寄りかかりたがってるんだろう。
「私、純加先輩みたいになりたかったんです」
「……そよちゃん?」
「先輩みたいな人になれたら、もう昔みたいに大切な居場所を失う思いをせずに済むだろうから…」
先輩への憧れを一部溢す私は、相当脈絡のないおかしなことを言ってるんだろう。
心配そうに声をかけてくれる先輩に顔を見られないよう背を向けて、誰にも言わないと思っていたことをついに話し始めてしまう。
「……私、去年からバンドやってるって言いましたよね? でも本当は、そのときのバンドと今のバンドは別物なんです」
「……それって、前のバンドと別れたか……解散した、ってこと?」
言いにくいことを言って相槌打ってくれた純加先輩に、背を向けたまま頷いて話を続けた。
「前のはCRYCHICっていうバンドで、凄く大切に想っていた居場所でした。1人が突然集めたメンバーだから、ほとんどが初対面だったし気が合わないところもありましたけど。それでも時間をかけて仲良しになって、初ライブも大成功して。あのときはみんなとの絆は永遠だって、ずっと運命共同体だって本気で思ってたんです」
「……いいグループ、だったんだね」
箒を動かしながら思い出を垂れ流す私の話に、純加先輩はなんとかついていこうとしてくれてるみたいだった。
そんな先輩が、聞いてもない話にどんな表情をしてるか確かめるのが怖くて顔を見れない。
「でも、ある日突然そのバンドが……私にとって初めてできた、大切な居場所が……壊れてしまったんです。そうなった原因も碌に分からず、みんなを繋ぎとめることもできずに。何もできないまま大切な宝物が崩れてくのに、私は耐えられませんでした」
ここまできてようやく頭に警鐘が響く。
この先は本当に取返しのつかない話だからやめろと、本能が制御してくれた。
多少意味不明な文脈になろうがお構いなしに、この自己満極まりない語りを畳にかかる。
「……だから、私がリーベのみんなと仲良くなろうとしたのはきっと、あのときのことから解放されたいからなんです。もう、あの頃の……独りぼっちの私じゃないって思いたいからなんです」
「…………」
いつもの私ならここまで自分を曝け出すなんてありえないのに。
この人に私の重荷を聞いて欲しい、分かって欲しいという、身勝手なわがままを我慢できなかった。
それでも絶対表には出せないところはぼかすから、私の話は不透明過ぎて要領を得なかった。聞いててわけが分からないだろうな。
こうなるって半ば分かってたのに、やめておくべきだったのに。
ついには私の話に相槌すら打たなくなった純加先輩の反応に、私はもはや不安や恐れすら通り越したように諦めていた。
(バカだな、私……。こんな意味不明な話を急にしてくる人なんて、誰でも嫌に思うって、分かってたのにな……)
今、一番手放したくない関係だったのに。
先輩なら受け止めてくれるんじゃないかという期待を捨てきれなくて。
そんな夢を見たせいで、せっかく築いた大切な関係を自分の手で崩してしまったことを。
私は絶望に近い心境で受け入れようとした。
※後書き※
次話と次々話は半日置きに上げます。