もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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02. バイト仲間たちへの挨拶回り

 

 

 バックヤードから出ると、そこはホールに繋がる店内の通路だった。

 初めて見る店内の様子を観察しながら、改めてここがどういうお店か頭の中で整理してみた。

 

 このお店は『リーベ女学園というお嬢様学校にある、来校者向けの食堂(サロン)で、生徒の中から選りすぐられたサロン係が給仕をする』という設定(コンセプト)でカフェを営業している。

 架空の学校であるリーベ女学園はとある小説がモデルになってるらしく、そこでは清楚で上品な校風として描かれている。

 そんな雰囲気を演出するために、お店の内装も萌えより清楚側に寄せてるだろうことは見てれば分かった。

 通路の脇に観葉植物や本棚、オルガンなどがあるけど目を引くような奇抜な装飾は見受けられないし。

 ホールも事前にネットで見た感じ、木目調の床に真っ白な内壁で、天井に1つ吊るされてるシャンデリアも華美なものじゃなかった。

 つまり、コンセプトカフェなのに普通のカフェとそう変わらない雰囲気のお店なのだ。

 それはコンカフェなんて文化に馴染みのない私にとっては大いに助かることだった。

 

(明らかに変な店って感じだったら抵抗あったから、落ち着いた内装でよかったな……)

 

 店内を観察しながら通路を進んでいくと右手にイスやテーブルが並ぶホールが見えて、そこに探していた人物がいた。

 月ノ森の制服より分かりやすくお嬢様っぽさを主張させてる、緑色の制服を着た矢野先輩はホールで掃除を始めるところらしい。

 

(よし、手伝いながら話してみよう。これで少しは打ち解けるといいな)

 

「あの、矢野先輩……ですよね? 改めまして、長崎そよです! これからよろしくお願いします!」

「よろしくね、長崎さん。あと私も同じ高校1年だから敬語じゃなくて大丈夫よ?」

 

 年上だと思っていた彼女は同い年だったらしい。

 少し驚きはしたものの、同い年の方が気軽に話せて好都合だった。

 変に先輩風を吹かすこともなくタメ口を勧めるところも穏やかな印象通りで安堵する。

 

 (よかった、思った通りこの子とはすぐ仲良くなれそう)

 

「あ、そうだったんだー! 美月ちゃん大人びてるからてっきり年上かと……」

 

 安心し過ぎて気を抜いた私は、口調を崩して気楽におしゃべりしようとしたけど。

 美月ちゃんは優しい微笑みから急に真顔に変わって割り込んできた。

 

 

「——あとここはサロンといって、お客さん相手に営業する場なの。急にお客さんが入ってくるかもしれない所だから、オープン前でもリーベの制服以外でうろついていいところじゃないわ」

「あ……ご、ごめんなさい……」

「いえ、覚えてくれればそれでいいわ」

 スタスタ、サッサッ…

 

 急に雰囲気がガラッと変わった美月ちゃんに、私は狼狽えてしまう。

 それっきり彼女は掃き掃除に戻って、会話もそこで終わった。

 

(美月ちゃんって……思ってた以上に厳しいっていうか、キツイ子だったんだ……)

 

 注意するにしても、もっと柔らかくする子だと思っていた。

 それがお喋りを遮ってまで注意してきたから、心の隙を突かれたみたいで余計ショックだった。

 ショック過ぎてついさっきまで抱いていた柔和で優しい印象も、真面目で堅苦しいものへ180度変わるぐらいに。

 

(もうちょっと、とっつきやすい子に見えたんだけどな…)

 

 せっかく同い年と分かったのに、自己紹介のとき感じた親しみやすさはどこかにいってしまったみたい。

 

(……ううん。今のは不注意な私が悪かったし、今度からはお店の制服に着替えてからここにくれば、きっともう大丈夫!)

 

 実際サロンというものを設定上のものだと曖昧に認識してたところはあった。お客さんから見られるこのホールはサロンと呼称されてることは覚えておこう。

 それに、美月ちゃんが見た目以上に真面目と分かっただけでも会いに行ったことに意義はあった。

 

(美月ちゃんにはまた今度再チャレンジするとして。まだ3人いるんだし、切り替えて次に行こう)

 

 次はやっぱり陽芽ちゃんがいいかな。確かさっきのバックヤードでしゃべってたはず。

 どうせ仕事用の制服に着替えなきゃいけない私は来た道を戻ってバックヤードに向かった。

 

 

 

 バックヤードに戻ると陽芽ちゃんは1人でいて、彼女も緑色の制服を着ていた。やっぱりこれがこの店の制服らしい。

 残り3人の中で一番、というか唯一話しやすそうなのはこの子だけだからだろうか。

 たかが挨拶なのに、自然と前のめりな気持ちになる。

 

(美月ちゃんとはあんな感じで終わっちゃったから、せめてこの子とは仲良くおしゃべりしたいな。……よし!)

 

「白木陽芽さん、ですよね? これからよろしくお願いします!」

「はい、こちらこそよろしくお願いします♪」

 

 自己紹介のときと同じように愛嬌ある笑顔を見て今度こそ上手くいきそう、と思いたかった。

 でもさっきと寸分違わぬ笑顔に見えることに、得体の知れない引っ掛かりを覚える。

 

(気のせい、かな……? とりあえずもう少し話そう)

 

「あの……もしかして同い年、かな?」

「あ、そういえばそうですねー!」

「そっか、よかったら陽芽ちゃんって呼んでいいかな? せっかくだから仲良くして欲しいな」

「はい、仲良くしましょうね、夏八木さん♪」

 

 会話に一区切りついたところで、終始笑顔を崩さなかった陽芽ちゃんはバックヤードから出て行った。

 私の方は、少し話せたおかげでさっきの違和感の正体をほんの少しだけ掴めていた。

 

 (愛想良くしてくれたけど、どうしても表面上の振る舞いに感じちゃうな。偽名の方で呼ぶし、会話も受動的な返しだけだった。愛想の良さに釣り合わない距離を感じて、なんだか素直に接しづらいかも……)

 

 もちろん気のせいというか、考え過ぎかもしれなかった。

 むしろそうであったなら話は簡単だったのだけど、普段接してる子たちと何か違う。

 具体的にどう違うのかはっきりしないけど、なんとなく彼女の「仲良くしましょうね」という言葉を真に受けることができない。

 愛嬌のある笑顔を含めて振る舞い自体は友好的に見えたけど、これ以上一歩も距離を縮めるつもりがないような。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような感じを受けた。

 

(もし本当にそういう子なら、分かりやすくお堅い子よりよっぽど距離縮めるの難しいかも……)

 

 何故こう思うのか、どうして陽芽ちゃんがそんな振る舞いするのかを問われると上手く言葉にできそうにないのだけど。

 いや、言葉にできないというか。考えることを脳が拒否してるような感じだろうか。

 その反応に心が違和感を訴えないから、意識すら向かなくなる。

 そんな本能による防衛反応みたいな感覚に脳死で大人しく従い、陽芽ちゃんのことも今後の課題として置いておくことにした。

 

(全部勘違いで、そのうち仲良くなってるかもしれないしね。うん、きっとそうなる。なってくれると……いいなぁ)

 

 とにもかくにも、比較的話しやすそうな2人と話して残念な結果に終わってしまった。

 落胆しながらも次はまだ絡めそうな果乃子ちゃんを探しに行こうとした丁度そのとき。

 

 シャッというカーテンの音が更衣室から聞こえて、そこから果乃子ちゃんが出てきた。

 お店の制服に着替えた彼女は、さっきと違ってメガネを外し髪を後ろでまとめている。

 可愛らしさが随分増して一瞬見違えたけど、素朴で控えめな雰囲気はそのままなのですぐに果乃子ちゃんだと分かった。

 

(果乃子ちゃんって、仕事のときはコンタクトするんだ。飾り気に興味なさそうな印象だからちょっと意外かも)

 

 若干失礼な感想を抱きながら、それでも一応確認するように私は恐る恐る話しかける。

 

「あの……間宮、果乃子ちゃん、だよね? 仕事前に挨拶したかったの。改めて、よろしくお願いします!」

「……よろしくお願いします」

 ペコリ。スタスタ……

「あっ……」

 

 果乃子ちゃんは一言返すと背を向けて部屋から出て行ってしまった。

 こうして、もう少しぐらいは続くと思っていた会話はなんと向こうの一言と会釈(無表情)であっという間に終わったのだった。

 何もめでたくはないのだけど。 

 

(まさかここで働くような人と、会話のキャッチボールが1回で切られるなんて思わなかったな……)

 

 人付き合いが苦手な人だとこんなものかもしれないけど、そんな人がコンセプトカフェで働くだろうか。

 先の二人と違ってギリギリ印象の範囲内ではあるものの、色んな意味でよく分からない子だった。 

 

(なんにしても、仲良くなるにはあの子もまたシンプルに大変そうだな)

 

 残りはあのギャルな先輩しかいない。

 一番近寄り難くて後回しにしていた人以外がこんな滑り出しで、正直心の中はかなりどんよりしている。

 こんな調子でこの先上手くやっていけるだろうか。

 

(……とりあえず。あの人は部屋には見当たらないし、着替えてから探しに行こ……)

 

 誰の目もない更衣室に入って、ようやく肩の力を抜いて静かに溜息をつく。

 そして支給されたお店の制服に初めて袖を通した。

 緑色のコスプレチックな制服の自分が鏡に映る。

 みんなの制服姿と違って違和感しか湧いてこない。

 この格好であの人たちと笑顔で仕事している自分を、どうしてもイメージできなかった。

 

(こういうお店の人たちとならあの頃に戻れるかも、なんて……やっぱり夢見すぎたのかな……)

 

 初仕事はこれからなのだから気落ちしてる場合じゃない、と分かってるのに。

 どうしても沈んだ気分を切り替えられないまま、着替え終わった私は更衣室から出て行った。

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