もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
サロンで純加先輩と抱き合いながら、私は久しく感じてなかった幸せに浸っていた。
そんな1秒でも長く続いて欲しかった時間は、無粋にも横から冷たい水がさされて終わってしまう。
「何してるんですか」
果乃子ちゃんがいつの間にかサロンに来ていた。
また先輩を呼びにきたんだろうか。機嫌が悪いのか半眼で純加先輩を睨んでいる。
純加先輩は私からスッと離れてしまいながら、果乃子ちゃんへキザに返す。
「あぁ、——無事仲良くなったみたいでお姉様は安心したわ、果乃子?」
「いつまで営業してるつもりですか。それより今日は5人で作業するって話でしたよね。ひめちゃんたちと待ってるんですから、油売ってないでさっさと来てください」
「あっそうだった! ゴメン、もう大体終わったからすぐ行くよー」
小芝居的に絡む純加先輩に、果乃子ちゃんは慣れた様子できつめにあしらう。
なんだかんだいっても2人の空気感があることに、見せつけられてるように感じて私は一気に面白くなくなった。
(さっきまであんなに幸せな気分だったのに。果乃子ちゃんが混ざるくらいでこんなにつまらなくなるのもおかしい、のかな……)
「はぁ……。夏八木さんも、純加さんがこれ以上長話しないよう気をつけといてください」スタスタ……
純加先輩への信用がないのか、うんざりした顔で私に言い残した果乃子ちゃんは先にバックヤードへ戻って行く。
(……向こうは前より私に話してくれるようになったんだし。いちいち嫌に思うのもよくないよね)
さっきから情緒が激しく移り変わって我ながら心配になるけど、たぶん今だけだろうと思うことにする。
せっかくあんなに難しそうだった果乃子ちゃんと少しでも話せる仲になったのだから、今はそれを素直に喜ぼう。
「我が妹は相も変わらないなぁ」
「それでも2人は本当に姉妹みたいだなって思うときもありますよ? さっきのも少しそれっぽかったですし」
「そ、そうかな? まぁ……私にとって果乃子ちゃんは大切な……」
「……純加先輩?」
珍しく表情に陰りが見えて、歯切れも悪い純加先輩に私はつい呼びかける。
「あぁゴメン、大切な可愛い妹ってだけだよ。ほら、待たせてるから行こっか!」
掃除も粗方終わってるので用具を片付け、バックヤードに戻ろうとする純加先輩。
さっきの純加先輩は少し気になる様子だったけど、急ぐのも仕方なかった。
営業直前に店長から言われていたのだけど、今日はこれから5人で作業することがあるらしい。
だから、もうその作業に移ってるらしい3人をこれ以上待たせるのは確かに心苦しいものがある。
だけど、私には先輩と2人でいる今のうちにやりたいことがあった。
「あの、最後に1つだけ! ……みんなと仲良くなれてよかったです。 これからもよろしくお願いしますね! す……純加さん♪」
「あはは! こっちこそこれからもよろしくね、そよちゃん♪」
もっとみんなと仲良くなって、CRYCHIC以上の居場所にしていくつもりではいる。
でもひとまずみんなと打ち解け始めた区切りとして、この人への呼び方を変えてみたかった。
(他のみんなとの仲を考えると理想にはまだ遠いけど。今は不思議とCRYCHICの頃以上の幸せを感じるな…)
どうしてそうなのか、原因となる人物は明らかなのだけど。
(やっぱり純加さんはすごいな。この人と一緒なら、私は……)
純加さんがさっき言ってくれた、自分自身を受け入れるというのは、すぐには難しいと思う。
それでも純加さんが私のことを見てくれて、認めてくれて。
好きって、言ってくれるなら。
少しずつでも頑張ってみたい。それこそ、純加さんに応えるために。
純加さんさえいてくれれば、私は迷いなく頑張っていけると思うから。
(この、心が弾むような……抱きしめたくなるような幸福感。CRYCHICのみんなと撮った写真をSNSに上げたときのこと、思い出しちゃうな)
リーベに入る前に思い描いていた形とは随分違うけれど。
あの頃のような手放したくない拠り所を見つけたみたいで、私はこれからの生活に明るい希望を感じていた。
私は純加さんの隣に駆け寄って、2人で掃除の終わったサロンを後にした。
リーベから
数コール後に、呑気な声がスマホから聞こえてきた。
「もしもし? 果乃子ちゃんどうしたの?」
「どうしたの? じゃありません。ついにひめちゃんまで使って妙な画策しましたね?」
「う、う~ん……なんのことやら……」
「じゃ、やっぱり夏八木さんとは今まで通りで良いということで」
「ま、待った! 嘘、冗談! ごめんて果乃子ちゃん~」
「昨日の営業中の小芝居も、私がサロンから出ていくよう狙ってやったんですよね?」
「いやー流石我が妹! お姉様のことよく分かってる♪ ……ていうか、分かってたのにそよちゃんと仲良くなろうとしてくれたんだ?」
「……ひめちゃんが言うから、仕方なくですよ。というかあの2人も巻き込むなんて汚すぎます」
「まぁ……確かにね。それを含めて、果乃子ちゃんにはあれもこれも嫌がられるだろうなって分かってたよ。最悪嫌われるかもって思ってたぐらいだし」
「そこまで分かってて結局やったんですね」
「——果乃子ちゃん聞いて。果乃子ちゃんはこれからもずっとひめちゃんの隣に居続けるんだよね? それなら今回みたいなこと、これからいくらでも起きるよ。果乃子ちゃんが気に入らない相手と、ひめちゃんが仲良くなる度に嫉妬してたんじゃ——」
「……なんとなく、分かりました」
「果乃子ちゃん?」
「昨日ひめちゃんと話したとき、すごく気を遣わせてました。そもそも矢野さんっていう例もあるくらいだったのに」
「……」
「その矢野さんから言われました。あなたが孤立しないようにって。ひめちゃんもそれを心配してくれたのかなって……」
「……心配してたのが2人だけってわけじゃないと思うけどなー」
「純加さんは前からずっと夏八木さんの味方してたじゃないですか。ずっと……さっきだってあんなことして——」
「それは違うよ。確かにひめちゃんとの仲までは肩持ったりもしたけど……今回あたしが1番心配してたのは、果乃子ちゃんだよ? 一昨日1人であんな無理やり帰るの見て、あたしが何にも思わないわけないでしょ!」
「それは……」
「ぶっちゃけそよちゃんと仲良く、なんておまけ程度にしか思ってないよ。あたしにとって果乃子ちゃんが一番大切なんだってこと、知ってるでしょ? もっと私の『好き』を信じてよ、果乃子ちゃん……」
「……………………ごめんなさい、純加さん」
これは昨日の小芝居のとき避けたことも含めて謝ったつもりだったけど、伝わっただろうか。
「いいよ。果乃子ちゃんが辛くならないように、あたしがいつでも、いくらでも守るから」
「純加さん……」
「……なーんてね! この前演劇やったばっかでまだカッコイイ姉役が抜けてないっぽい!」
「……そんなキザ過ぎる役じゃなかったはずですけど」
「そーだっけ? まぁとにかく果乃子ちゃん的にも丸く収まったならよかったよ。おやすみ! また明日ね! 夜更かしして寝坊しちゃダメだぞ、可愛い妹よ!」
「夏の旅行じゃ朝弱かったのは純加さんでしょう」
プチン
まったく、しょうがない人なんだから。
……私の姉は。
※後書き※
7月30日は間宮果乃子の誕生日です。
作中トップクラスでぶっ飛んでる女ですが、その分わたゆりファンから愛されてる(?)子、だと思ってます。
ということで、ある意味ロックな果乃子にはお姉様との仲直りをプレゼントさせて頂きました。
これにて第一部完、ということになります。
今後の予定としては今週末にサイドストーリー的な小話回を上げて、
本編の続きは8月11日から上げていきます。
以下、個人的な自己満語りになるので無視で構いません。
初めて長編物書いてみたけど、悔いが多かったです。
そよの純加に対する呼び方っていう大事なところがチェック漏れでミスっていたし。
プロローグで上げたテーマがどれだけ拾えてるか、ブレてないかは自信がないし。
タイトルで妙なルビ振りたがる中二病精神治しておくべきだったし。(なお、このままいけば最終話まで治らない模様)
もっと他の作品読んで勉強しておくべきだったし。
そもそも基礎的な文章力が……はぁ。
それでもこんな、ハーメルンの流行とかセオリー的なものをガン無視して書いた2次小説を読んでくれたりお気に入りしてくれる人がいたことが支えになってました。本当にありがとうございます。
まぁ、もう最終話まで出来上がってるからどんな数字だろうと意地でも走りきるんですが。
あと気になっていたんですが、この創作物を読んでくださってる方の中で、わたゆりとmygoの両方を履修してるか、片方だけ履修してる人とかってどれくらいいるんでしょう。
元を知ってる人知らない人でどういう印象なのかも気になるところです。
……知るのが怖くもあるけど。
さて、少しだけ小休止を挟んだら物語を本番へと運んでいかないといけません。
今まで以上に気が重い作業になりそうですが、少しでも納得できる出来を目指して頑張ります。
以上。もしよろしければ、今後もよろしくお願いします。