もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
CRYCHICを引きずり過ぎたそよが偶然目についたコンセプトカフェでバイトを始めて、馴染んだ後の設定です。
長編となる本編を執筆してる途中ですが、そよの誕おめついでに読み切り的な話になればいいなと思って書いてみました。
「なんでそよがコンカフェなんかでバイトしてんだ?」と気になって頂けたら、下記リンクにその前日譚を載せておきます。よければ見てやってください。
0. 夏八木そよ / 救いを求めるお嬢様
EX1 凸凹姉妹によるお祝いの手紙
5月27日
学校終わりの夕方。
月ノ森の吹奏楽部でコントラバスを弾いてるわけでもなく、ライブハウスでベースを弾くわけでもなく。
私は今、吉羊寺駅近くにある雑居ビル2階のカフェにいる。
お店のホールは
店の名前は『カフェ リーベ』。普通の喫茶店ではなく、コンセプトカフェである。
ここのコンセプトは簡単に言うとお嬢様学校で、店員は”リーベ女学園”の生徒として来校者向けサロンで給仕する、という設定でお嬢様を演じている。
私はそんな店でバイトを続けていた。
バイトを始めたきっかけは、バンド資金ぐらい自立しようと考えたから。
そこからなぜコンセプトカフェなんて1ミリも馴染みのなかった店を選んだかについては、長くなるので割愛する。
ともかく今はお店の営業中で、私はサロン係と呼ばれるホールスタッフ……元いキャストとして仕事をしている真っ最中だった。
まぁ、今日だけはいつもと少し違う仕事内容になるのだけど。
「皆様。本日は夏八木そよさんの誕生日会にお越し頂き、誠にありがとうございます!」
この店ではみんな、店長から偽の名字をつけられて働いてる。
だから、『夏八木そよ』というのは私のことだった。
ちなみに、リーベ女学園2年生の設定である。
そして今日のメインのお仕事は、自分への誕生日祝いに、
きらびやか、がこの店のモットーらしいから。
「これより2年生の夏八木さんへのお祝いの手紙を、私のお姉さまであり夏八木さんと同学年でいらっしゃる綾小路お姉さまからお贈りします!」
カンペを手に可愛らしい声で元気に司会を務めてるのは白鷺陽芽ちゃん。
1年生の設定らしく可愛らしい振る舞いが印象的な女の子。
その陽芽ちゃんに紹介されて私の前に清楚な所作で歩いてきた女の子が、綾小路
陽芽ちゃんと
この姉妹の設定を結んでいる子同士の絡みが、コンセプトカフェとして一番の売りポイントであり、お客さんもこれを楽しみに通っている。
ちなみに私は誰とも結んでいない。
結んでいたらその相手が自動的に手紙を朗読するポジションに収まるのだけど、今回は設定上同学年で営業中も比較的絡むことの多い美月ちゃんが無難に選ばれた。
実際仲は悪くない。本人も快く引き受けてくれたぐらいだし。
「ではお姉さま、お祝いの言葉をお願いします♪」
「えぇ。任せて頂戴、陽芽」
ニコニコ笑顔な妹の陽芽ちゃんに優しく微笑む姉らしい美月ちゃんを見て、いつものことながらほっこりする。
小柄でキュートさ全振りな陽芽ちゃんと、長身かつスタイル抜群の大人びた美月ちゃんは、姉妹としてもお似合いだった。
手紙を開いた美月ちゃんは、微笑みながらスピーチを始める。
「夏八木さん。いつも私に親しくしてくれてありがとう。今日はその感謝とそのお返しをしたいと思い、この手紙をしたためているわ」
柔和で思いやりがこもった声から、本当に感謝しているように感じて少し気恥ずかしい。
でも微笑みを少しも崩さない本人は言ってて全く照れた様子はない。度が過ぎるほど真っすぐな美月ちゃんらしい。
なんて和んでいる私に、予想のななめ上をいく展開が待っていた。
「……夏八木さん。あなたはいつも私をからかい過ぎてると思うの。あまり戯れが過ぎるのは上品とは言えないわ。そのような人が橘様以外にも増えてしまったらリーベ女学園の生徒として、ひいてはサロン係としての品格に関わる――」
「ちょ、ちょっと美月ちゃん!? ……お祝いしてくれると思ってたのに、どうしてお説教が始まってるのかな~?」
真面目な顔になったと思ったらツラツラとお小言を並べ始めた美月ちゃんを慌てて遮る。
どうしても笑顔がひきつりそうなんだけど、それはおかしな方向に話を持って行こうとする向こうが悪いはず。悪い、よね?
店で自分のバースデーイベントをするなんて初めてだから、自分の感性に自信が持ちきれない。
(まぁ美月ちゃんだし。サロンの空気無視して悪気なく、頓珍漢な方向でのお礼を真面目に考えちゃったんだろうけど……)
「どうしてって……あなたもあまりサロン係の規範から外れた振る舞いをするのは本意ではないでしょう? 良い機会だから普段あなたがどう見られてるか伝えて、少しでも役に立てたらと思ったの。それで続きだけど……」
不思議そうな顔で予想通り純粋な善意を伝えてくる美月ちゃん。
そして彼女は平然とお小言に戻ってしまい、私はにこやかな笑顔を保つのが苦しかった。
視界に映るお客さんの顔も苦笑いが多い。
本人の名誉のために断っておくと、普段から毎度こんなことをする子じゃない。
こういう少しズレた行動に走るのは営業外では見ても、営業中はほとんどなかった。
(美月ちゃんは純粋に私を思って言ってるみたい。でもこのまま説教じみた小芝居で終わったらお客さん的には微妙だし、私も美月ちゃんがこういう子だって思われるのはちょっと嫌だな……)
誕生日祝いとは言えこれはお店の歴としたイベント。つまりお客さんにお遊びという言い訳が通用しない、立派な仕事なんだ。
それでも美月ちゃんの優しさを誤解されて悪印象を抱かれるのは納得いかない。でも私の立場でどうコントロールすればいいか咄嗟には思いつかなくて。
私は笑顔のまま、状況を好転させるために必死に頭を回転させていた。
「――お姉さま、また不器用になってますよ?」
「陽芽……?」
そこへ司会担当の陽芽ちゃんが割り込んできた。
驚いてる美月ちゃんの様子から、完全に陽芽ちゃんのアドリブなんだと察する。
この子は咄嗟にそれができる子だから。
「夏八木さんは、ご指摘を頂くよりも純粋な『ありがとう、おめでとう』を貰った方が喜ばれると思いますよ?」
「……そう、なのね。いつも私と仲良くしてくれる友人の夏八木さんに、今日くらい力になれたらって考えたのだけど。私は肝心なときにいつもダメね、あなたにも迷惑をかけて……」
美月ちゃんがこの考えから『サロン係としてどうか』という話をしたのにもちゃんと経緯があるから、私には素直に納得できる話だったし、嬉しくも思う。
落ち込んだ顔で少し顔を伏せる彼女の隙をついて、陽芽ちゃんは私に目配せしてきた。
自分でなんとでも立て直せるだろうに。今日に限ってわざわざお膳立てした上でパスしてきたのは、陽芽ちゃんなりに花を持たせてくれたんだろう。
(……陽芽ちゃんのせっかくのフォローを無駄にするわけにいかないよね)
「美月ちゃん。私は分かってたよ? たぶんそんなこと考えてくれてたんだろうなって。もちろん、あなたの妹も、他のサロン係のみんなも、ここにいらっしゃる来校者様たちも」
「夏八木さん……」
美月ちゃんの右手をとって、前半は本当に思っていることを伝える。後半はでっちあげだけど無粋な茶々入れる人はいないから大丈夫。
素直に受け取ってくれるか心配だったけど、顔を上げた美月ちゃんは少し明るい表情に戻ったから安心した。
ちなみに来校者というのはこのホールにいるお客さんのことを指している。
「でも白鷺さんの言う通りかな。できれば今日は美月ちゃんから純粋にお祝いされたいな。ゴメンね? せっかく私のために考えてきてくれたのに……」
「――いいえ、夏八木さんが謝ることなんてないわ」
美月ちゃんは左手で私の手を下から支える。美月ちゃんの両手で私の手が包み込まれる形になった。
そして優しい笑顔を取り戻して、改めてお祝いの言葉を贈ってくれた。
「夏八木さん。あなたがサロン係になってくれたから、仲良くなって、友達にもなれたわ。他の人には普通のことかもしれないけど、私にとっては凄く大きなことなの。 私の大切な友人さん、誕生日おめでとう。これからも、仲良くしてくれると嬉しいわ」
「ふふっ、ありがとう美月ちゃん。そんなこと言われちゃったら、もうあなたが嫌がっても仲良くしにいくんだから。こちらこそ、これからもよろしくね?」
お客さんから大きな歓声と拍手を頂きながら、私たちは軽くハグをした。
そのあと陽芽ちゃんが準備していた花束を美月ちゃんも支えるように手を添え、二人で私に渡してくれた。
本来ならここで終わりの流れなんだけど。
こんなまっすぐ友愛を伝えてくれた美月ちゃんと、その美月ちゃんとサロンの空気のために機転を利かせてくれた陽芽ちゃんの二人に。
素直に感激した私はお返しをしたい気分になった。
「でも、確かに私は美月ちゃんの大切な友人なんだろうけど、一番大切な人ではないんだろうな~」
「なっ!? また急に戯れて……!」
「でも、あんな素敵な言葉を聞いてたら不安になっちゃう人もいるかもしれないでしょ? あなたを一番大切に思って、あなたに一番大切に思われてると信じてた子に、ね?」
顔を赤くする美月ちゃんをからかいながら、彼女にとって一番大切だろう子の方へ顔を向ける。
「も、もう夏八木さん! 今はあなたをお祝いする時間なんですから、あまりお姉さまをからかわないであげてください?」
陽芽ちゃんは完璧に笑顔を保っていたけど、絶対本心は穏やかじゃないはず。
この子の裏表の温度差を思い知ったときは恐怖すら覚えたものだった。
(あのときのことを思い出すと、二度と怒らせたくないな。……まぁ今は地雷原が分かってるからよっぽど大丈夫だけど)
陽芽ちゃんのことも昔よりよく分かってるから、狙った展開に誘導することだって難しくはなかった。
お店の設定上1年生の陽芽ちゃんは私の下級生にあたるから、上級生らしさを演出するために口調を変える。
「そうね、白鷺さん。でも私は仲睦まじい綾小路さんたちを見るのが本当に好きなの。だから、自分のせいで少しでもひびが入ったらと思うと心配で……」
「別に、こんなことで私とお姉さまの関係にひびなんて……」
「あら、私は綾小路さんの一番があなたなんて一言も言ってなかったのだけど?」
「~~~~ッ!」
姉とお揃いの色に染まる妹を見て満足した私は、もう一度美月ちゃんに向き直って背中を押す。
「さ。向こうもあなたの一番を信じていたのだから、はっきり言ってあげないと本当に不安がっちゃうよ?」
「……別に今言わなくてもいいでしょう? 陽芽の言う通り今はあなたをお祝いしたいのだから……」
「そうだ! なら私への誕生日プレゼントに、二人の仲睦まじいところを見せて? そうしてくれたら私も、私のお祝いに駆けつけてくださった来校者様も喜ばれるよ?」
「……ズルイわよ……」
ダメ押しにお客さんを盾にして強引にその流れに持っていった。
そんな私に恨みがましい顔になった美月ちゃんは、お客さんには聞こえないよう小声で文句を言って陽芽ちゃんの方に向いた。
その隙にお客さんを見回すと、表情から心なしか私への賛辞を感じる。
色んな意味で良いことをしたと確信して、私もスッキリいい気分になっちゃうな。
「陽芽。その……誤解してないと思うのだけど。この際だからはっきり言うわね?」
「………………………………はぃ……」
美月ちゃんは言うとなったらスッといつもの柔和な表情に戻ったんだけど。
美月ちゃんよりもずっと器用な陽芽ちゃんの方が意外にも顔を赤くしたままどこかぎこちなかった。
こういうのを見る度に、二人がどういう関係なのか勘ぐるのだけど。
イマイチ掴みきれないのでもう流すことにしている。
「私はあなたが一番大切よ? あなたのことが一番好きだから、憶えていて頂戴ね——陽芽」
「ありがとうございます。私も……――ぁん、好きです、お姉さま……」
リーベ定番である二人の熱い抱擁に、さっき以上の歓声がホール中に響き渡る。
身長差からいつも陽芽ちゃんは美月ちゃんの豊満な胸に顔を埋めるかたちになるのだけど。
(うん、やっぱりハグするならこの二人でないとね♪)
恥ずかしがりながらもお互い満更じゃなさそうな