もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
前話のあらすじ
コンセプトカフェに長くバイトして馴染んできたそよのバースデーイベント。
まずはじめに、陽芽ちゃんと美月ちゃんからお祝いの手紙を贈ってもらった。
少しハプニングがありつつも円満なオチに持っていけた私は満足していた。
美月ちゃん(とアドリブで陽芽ちゃん)によるお祝いの手紙の後は、誕生日定番の歌を歌って終わり。
そういう段取りのはずだった。
「皆様。綾小路さんと白鷺さんの姉妹によるお祝いはいかかだったでしょうか」
一つのプログラムが終わったと思ったら、司会が陽芽ちゃんからバトンタッチされた。
その人は眼鏡をかけて知的
いつも余裕ある態度を崩さずに凛々しい雰囲気を纏っている、いかにも上級生な人。
バイトで唯一年上の先輩だ。
「二人揃って、最後は主役の夏八木さんより目立ってしまって……相変わらず主張の激しい姉妹っぷりに、私も感心しているわ」
皮肉の効いた冗談に、お客さんたちからアハハと暖かい笑いが起こる。
純加さんも陽芽ちゃん以上に機転の利く人で、こういう台本にないトークだってお手の物だった。
なぜこんな場を繋ぐようなトークをしているかというと、陽芽ちゃんと美月ちゃんで私の前に一人分のイスとテーブルを用意していたからだった。
そこまでの意図は読めた。でもそこから先が分からない。
(なんでイスとか用意するんだろう。歌うのに必要なわけないし……なんで?)
イスがあるのだから座ることまでは想像できる。でもテーブルは何に使うんだろう。
この先がまったく分からないからどう動くべきか不安になってしまう。
(何しようとしてるの? こんなの聞いてない……どういうことなんですか?)
助けを求めるように純加さんを見ると、私の視線に気づいて不敵な笑みを浮かべながら説明してくれた。
「この後は、彼女にお給仕をさせて頂きます。――今度は、私たちブルーメ
(お給仕……えっ、大勢のお客さんに見られながら一人で食事するってこと!?)
この店で一番人気な純加さんはブルーメ様と呼ばれていて、妹である果乃子ちゃんとセットでブルーメ姉妹と呼ばれてるのだけど。その二人も台本にはないお祝いをしてくれるらしかった。
何するかは理解できたのだけど、今度は納得ができない。
誕生日の日に、衆人環視の中、一人寂しく飲食する私を想像する。……惨めすぎて涙が出そうだった。
お祝いどころか罰ゲームか何かだろうか。
こんなイジられ方されるくらい、私はみんなに愛されてるんだなぁ。
(……ってなるわけないでしょ! しかも不意打ちみたいに内緒で企画して……)
「――お姉様。ブルーメ姉妹から、とおっしゃるならご自分も手伝ってください」
サロン入口の方から、不満そうな顔をした子が食器を乗せたトレンチを運んで来た。
雨宮果乃子ちゃん。サロン係の中でもとびきり大人しくて恥ずかしがり屋な1年生。
……恥ずかしがり屋が過ぎて、思うところがないわけじゃないのだけど。
「あら、私は可愛い妹のせっかくの活躍を奪わないように配慮してたのよ? サボってるみたいに言わないで頂戴――果乃子?」
「またそんなこと言って……もういいです」
息をするようにもっともらしい言い訳を吐く純加さん。そんな設定上の姉に呆れたように返しつつ、妹役の果乃子ちゃんは配膳する手を止めない。
内向的な彼女はその分、テキパキ業務のできる子であった。
対象的に愛嬌抜群の陽芽ちゃんはその辺が拙い子だから、ある意味バランス取れてる1年生コンビだと思う。
「……夏八木さんも。いつまでも立ってないで座ったらどうですか?」
「そ、そうね……それじゃお言葉に甘えるわ……」
仏頂面のまま睨んでくる果乃子ちゃんから明らかに棘を感じる。
もちろん、心当たりはある。さっき陽芽ちゃんと美月ちゃんを抱き合わせるよう仕向けたことだ。
後がこわいなと思いつつ、テキパキ作業しながら睨んでくる彼女と目を合わせないようにすごすごと座った。
でも黙っているのもなんとなく気まずいので、目の前に置かれた一人分の食器から振る舞われるものをあててみた。
「カップとティーポット……紅茶を淹れてくれるのかしら」
「はい。………………………………お姉様からのご提案です」
「えっ、s……橘様が?」
いつもの呼び方をしかけたぐらい驚いてしまった。
純加さんが紅茶を提案したということは、私が紅茶好きなのを覚えてくれていた証拠だから。
だから驚きだけじゃない。心がパアァと華やぐように、嬉しさがこみ上げてくる。
「ふぅ、種を明かされちゃったわね。――実はこのお給仕自体、夏八木さんには秘密にしていました。紅茶が好きな彼女への、ささやかなサプライズになればと思いましてね」
お客さんにそう説明しながら、純加さんは美月ちゃんからイスを受け取って私の対面に置き、自分も座り始めた。
そのタイミングでもう一つトレンチを持ってきた陽芽ちゃんから果乃子ちゃんが(ここだけ満面の笑顔で)受け取って、そこから純加さんの分の紅茶を用意し始めた。
それまでイスも食器も一人分だったから完全に騙された。最初っから一人で飲ますつもりはなかったらしい。
(……やられた。本当にサプライズ成功されちゃったな)
これから純加さんと二人でお茶会するんだと思うと楽しみ過ぎて、もはやこうして話してるだけで楽しかった。
「もう、橘様も人が悪いです。さっきまで本当に一人で紅茶を楽しむのかと思っていたのですよ?」
「今日の主役で、私達の大切な仲間にそんな寂しい思いはさせないわ。とはいえ、お茶会の相手が私一人なのは申し訳ないのだけど……」
「そ、そんなことないですっ!」
申し訳なさそうな憂いの表情も含めてただの演技だったかもしれないのに、そんなことも考慮せず私は反射的に否定していた。
勢い余って少し声が大きめになったことに恥ずかしく思い、顔が熱くなってくるけどなんとか話し続ける。
「私は橘様にお付き合い頂いて、本当に嬉しいですし……楽しいです!」
「……まだ始まってないのにかしら?」
「あっ……た、楽しみ、の間違いです……」
「ふふっ、あなたが慌ててる姿も珍しくて可愛らしいわね」
「こんなみっともない醜態の私なんて……か、可愛くありませんよっ!」
顔だけでなく耳まで熱くて仕方ない。いつもの私らしからぬ取り乱しっぷりが、さらに恥ずかしさを加速させていた。
でも恥だけじゃなくて。純加さんとこうして話してるのが、私はリーベで一番幸せを感じる時間で――
「――お姉様。本日の主役相手に、お戯れもいい加減になさってください。せっかく淹れた紅茶が冷めますので」
心なしか、さっき以上に不機嫌に感じなくもなかった果乃子ちゃんに諫められ、純加さんは落ち込む……ことはなくキザに返す。
「そうね。せっかく私の妹が私のために淹れてくれた、私達の『
「……これは夏八木さんへのお祝いの紅茶で、どちらかといえばお姉様はついでなのですが」
「そんなつれないことを言わないで頂戴? ……いけないわね、こうして果乃子とお話してるといつまでも始められないのだから」
「あ、あはは……」
途中から主役のはずの私を蚊帳の外にして二人の世界ができあがりつつあったことに、モヤモヤと複雑な感情が湧き上がる。
当然表には出さずに困ったような笑いでこの場に溶け込んでおく。
「それでは皆様。お手元のお飲み物で乾杯にお付き合いください」
座ったまま純加さんがカップを持ち上げ、お客さんもそれに倣う。
私も自分のカップを持ち上げながら、紅茶に浮かんでいる青い花びらの矢車草を見てどうしても目を細めてしまう。
(青い鳥……純加さんと、果乃子ちゃんの、
これはこの店オリジナルの紅茶で、姉妹でおすすめしている紅茶、という設定のもの。
紅茶好きだからか、私にとっては姉妹を象徴する物の中でも大きな存在だった。
私には姉妹がいないから、誰かとおすすめしてる紅茶もなくて。
みんなには用意されている、姉妹ペア専用の紅茶という特別感に憧れがあるんだろう。きっと。
きっとそうだから。羨ましいとか、……妬ましい、みたいな感情が心に渦巻いてるんだ。そうに決まってる。
その感情が、果乃子ちゃんにだけ特に強く昏く向けられる理由については考えない。たぶん一番そりが合わないから、とかだろう。
(……今日は私の誕生日で、純加さんが私のために素敵なサプライズを用意してくれて。私の誕生日に、純加さんと、
嫌な気分を楽しいことで塗り潰して、誕生日の主役にふさわしいニッコリ笑顔を作る。
誰に見られても嫌に思われないように。ここでの『私』を守るために。
でもこの笑顔は普段張り付かせてる笑顔じゃない。
この場所が好きになってきてるからこそ作れる、私の中でも好きな笑顔だ。
だから、今の私は幸せなんだと思う。――ここでバイトを始める前よりも。
「では、夏八木そよさんの誕生日を祝って……乾杯」
「かんぱーい!」
ここに通ってくださるお客さんと、一緒に働いてる仲間たちにお祝いしてもらいながら。
私にとって一番大きな存在である人と一緒に、悔しいけど美味しい紅茶を味わった。
なお、清楚できらびやかを求められるお嬢様学校の設定で、こんな俗っぽい盛り上がりが許されるかについては考えないことにした。