もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

34 / 81
EX2 ブルーメ姉妹による不意打ちのお祝い の続きです。

前回のあらすじ。
純加さんと果乃子ちゃんによる、サプライズのお祝いを受けた。
振る舞われたのが純加さんたちの姉妹ティーなのは複雑だったけど、誕生日に純加さんと一緒にお茶ができたのはこれ以上なく嬉しいプレゼントだった。


EX3 嘘の世界と本当の私たち

 

 

 あれから今度こそ誕生日の歌で締めて、イベントは終了となった。

 閉店して、今はホールでサロン係のみんなと後片付けをしている。

 もうみんな、演技の仮面を外した素の姿だから話し方もそれぞれ変わっている。

 陽芽ちゃんは健気で可愛い妹キャラじゃないし、美月ちゃんは柔和で優しい演技をしてないし、果乃子ちゃんは慎ましさを取り繕うこともないし、純加さんは別人みたいに軽くなる。

 

「純加さん。あの乾杯ですけど、リーベのコンセプト的にあれでよかったんですか?」

「矢野ちゃんらしい指摘だねー。……実はあたしも勢いでやっちゃってさー、舞さんに怒られるかな?」

「問題だったとしても純加さんが店長に怒られるだけですから大丈夫です。それよりも……」

「果乃子ちゃん? あたしたち一応姉妹だよ? もはやその冷たさが問題じゃない?」

「夏八木さん。随分楽しそうでしたね。特に手紙のときとか……」

「あっ……私お手洗いに……」

 

 矢野ちゃんというのは美月ちゃんのこと。

 私以外みんな営業外では、陽芽ちゃんですら実の名字で呼んでいる。何故かは分からない。

 でも今そんなことどうでもいい。果乃子ちゃんから凍てつくような目を向けられ私は逃走を試みる。

 

「そうよ! 毎度毎度私達にああいう小芝居させるように誘導して……」

「そうだそうだー! 夏八木さんはからかい過ぎだー!」

 

 しかし、まわりこまれてしまった。

 美月ちゃんが眉を吊り上げて文句をぶつけてきて、陽芽ちゃんがそれに乗っかる。

 でも果乃子ちゃんよりも仲の良いこの二人なら気楽にふざけられるので、逃げるのをやめて楽しくお喋りする方針に変えた。

 

 

「え~、でも二人ともなんだかんだ言って満更じゃないでしょ? 私も好きだな、幸せそうな二人を見るのは♪」

「そんなんじゃないから!」

「誰かに仕向けられるのは恥ずかしいのよ!」

 

 美月ちゃん? 自分たちからやる分には恥ずかしくないって言ってることに気づいてる?

 少なくとも陽芽ちゃんは気づいてるから恥ずかしそうに黙ってるよ?

 

「ふふっ、でも私だってあの紅茶にはビックリしたんだから。純加さんもやってくれますね~」

 

 私はとにかく果乃子ちゃんが怖いので早々に話を変えにいった。

 まだ睨まれてるけど集団における会話が下手な果乃子ちゃんは話題を元に戻せないから黙ってる。

 なんとか逃げ切れたらしい。……いい気味かも。

 

「ゴメンゴメン、せっかくだからサプライズにしたくてさー。気に入ってくれた?」

「はい、とっても嬉しかったです! 本当にありがとうございます、純加さん♪」

「どーいたしまして!」

 

 純加さんの快活な笑顔に、私も心からの笑顔を向ける。

 この笑顔を見る時が、リーベで一番元気を貰える瞬間だった。

 

「……ひめちゃん。私たちはゴミ集めて捨てに行こ?」

「うん、そうだね。行こっか果乃子」

「うん!」

 

 さっきまでと打って変わって、今日一番の愛想を陽芽ちゃんに向ける果乃子ちゃんは二人でホールを後にして行った。

 ただ純加さんとすれ違うとき、横目で睨んでるように見えたけど。当の本人は睨まれてるのに気づいてなかった。

 純加さんも果乃子ちゃんの怒りを買うようなことをしでかしていたんだろうか。

 まぁ果乃子ちゃんは陽芽ちゃん以外には基本冷淡だから、あんな態度なんていちいち気にしても仕方ないのかもしれない。私だって陽芽ちゃん関連ですぐ睨まれるんだし。

 

(……当時からあれだけ露骨だったのに。私も最初の頃はよく気づかなかったな。いつもいつも陽芽ちゃん第一な子だよ……)

 

 あの子と今の距離感になるのに、サロン係みんなを(不本意ながら)巻き込むほどだったからその分色々と思い出深かった。

 まぁその割に仲良いとは決して言えないのだけど。

 

「さ、私たちはここの片付けをとっとと終わらせちゃお!」

「はい」

 

 確かに、いつまでもおしゃべりに興じてたら終わるものも終わらない。

 先輩らしく仕切る先輩に返事して、私たちは片付けに各々集中していった。

 

 

 

(イベント上の演技とはいえ、ここのバイト仲間達に誕生日を祝ってもらうなんて。初日の頃じゃ絶対楽しめなかっただろうな)

 

 片付けをしながら、リーベで働き始めたときのことを思い出す。

 どんな人たちと一緒に働くかが最重要ポイントだった私は、期待に胸を膨らませながらお店に出勤したものだった。

 

 けど顔を合わせてみれば見るからにギャルな人が一人混じっていて、軽薄そうな雰囲気にあまり良い印象を抱けず引いてしまったし。

 他の人たちに一人一人挨拶がてら話してみれば見た目以上に難しい人たちだと思い知った。

 

 なんせ、親睦を深めたいという意図がまるで通じてない様子でお堅く叱ってきた子もいれば。

 愛想は素晴らしい割に全然仲良くする気がなさそうな子もいるし。

 会話のキャッチボールを一回で終わらせる子もいたぐらいだから。

 

 人間関係の良好な職場を作れる未来を思い描けず途方にくれていたのも、今では良い思い出だった。

 だってその後すぐ素敵で奇妙な出会いがあって、その人にたくさん救ってもらったから。

 

(でも、今思い出しても()()()()絶対別人にしか思えないよ。リーベで一番パニックになった出来事だったな……)

 

 あのときの自分の混乱ぷりは我ながらおかしかったからつい一人でに笑ってしまった。

 そこを見ていたらしい美月ちゃんが不思議そうに聞いてくる。

 

「そよさん、急に笑ってどうしたのよ。ちょっと不気味よ?」

「ご、ごめんごめん。ちょっとリーベに入ったばっかりの頃を思い出してたの」

「あー、あの頃からそよちゃんみんなと仲良くなろうと頑張ってたもんねー」

 

 気付けばもう片付けもほぼ終わりがけだったから、純加さんも混じって再びおしゃべりをし始めた。

 

「しっかし、本物のお嬢様学校に通うそよちゃんがバンドしてるって聞いたときは驚いたなー!」

「私はそれに合わせて吹奏楽部にも所属しながらバイトしてることに驚きました。そよさんは本当に頑張り屋ね」

「そんなことないよ。あの頃はどっちも忙しくなかったし、今は毎日シフト入ってるわけじゃないからそんなに負担は大きくないよ?」

「いやいや、だとしてもバイトも部活もバンドも全部やってるなんて凄いよ! 普通どれか一つに絞るものでしょ?」

 

 ゴミ捨てから戻ってきたらしい陽芽ちゃんが会話に混ざってきて、陽芽ちゃんの後についていた果乃子ちゃんが純加さんに報告をする。

 

「ゴミ捨て終わりましたよ純加さん」

「うん、ごくろーさん! こっちももう終わるとこだから」

「あ、思い出した! 結局まだ夏八木さんのバンド見に行ってない!」

「えー、陽芽ちゃんそんなに見に来たいの~?」

 

 いくら仲良くなってきたとはいえ、リーベのみんなにバンドのときの自分は見せたくない私はなるべくこの手の話題を避けていたのだけど。

 MyGOがバンドとして順調過ぎたせいで、陽芽ちゃんみたいなのに突っつかれることになってしまった。

 

「だって割と聞くよ? MyGOの評判! 人気のバンドなら一回見ときたいなって♪」

「あんたのそれはただのミーハーじゃない」

「いいじゃん矢野。ミーハーで何が悪いんだよ」

「確かにひめちゃんって見るからにミーハーっぽそうだし、あたしはらしくていいと思うよ?」

「橘さん、絶対フォローしてないしするつもりもないですよね?」

「大丈夫だよひめちゃん。目についた流行にとりあえず乗っかってこそひめちゃんだよ?」

「果乃子のはむしろ貶してない!? 流石にそこまでじゃないって!」

 

 私を除いた4人で盛り上がってるのを見て、初日の営業終了後を思い出す。そっくり過ぎてデジャブなくらいだ。

 あのときは仲良さそう(に見える)なみんなを眺めてることしかできなかったな。

 でも、あのときとはもう違う。

 今は見てるだけでも寂しくはないし、むしろ楽しい気分だった。

 

「片付けも終わったところで上がろっか! ってそうだ、言い忘れてた!」

 

 純加さんが終了を宣言した、と思ったら私に振り返って笑顔を咲かせた。

 

「誕生日おめでと、そよちゃん!これからも期待してるよー!」

「誕生日おめでとう、そよさん。これからも仲良くしてね?」

「おめでとう夏八木さん! でもあんまり私と矢野をからかうのはやめてね♪」

「……おめでとうございます。ひめちゃんの言う通りなので、くれぐれもお願いします」

 

 純加さんを皮切りに、みんな仕事上の演技ではなく本当の姿でお祝いしてくれた。

 ……後半二人はなんか忠告が入ってたけど、それも今では偽りない本心を話してくれてる証拠だと思ってポジティブに受け取ろう。

 

「みんなありがとう! こちらこそ、これからもよろしく♪」

 

 

 

 こんな()()()たちと、私は楽しくお仕事をしている。

 本音を言えばもっと仲良くなれたらいいなと思ってる。

 

 ――そしたら、ここにいる間だけでも。

   一番幸せだったあの頃の私に戻れると思うから。

 

(……焦らなくてもいいよね。今はこの関係を、この居場所を大事にしていこう)

 

 自然にみんなの輪に入っていきながら、私はこれからも続いていく楽しい日々を思って顔を綻ばせた。




読み切り版、私のお嬢様はお仕事です、を読んで頂き誠にありがとうございます!

このシリーズ自体、去年の8月に思いついて約一年かけて形にしてきました。
なので、もし本編の方が気になって頂けたら6月末アップ予定ですのでどうぞよろしくお願いします。



一応、辻褄合わせというか。自分の中で原作からそよが外れないことを大事にして書いております。
その中でも、CRYCHICの傷を引きずり過ぎて、偽善的な自分との向き合いに疲れた、という設定を大事にしています。
その辺について前日譚である0. 夏八木そよ / 救いを求めるお嬢様で書いてますのでよければ見てやってください。

本来そよってコンカフェなんて欠片も興味が向かない子だと思うんです。
だからこそ、どうしてここで働こうと思ったのかという点について共感してもらえると凄く嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。