もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
1部と2部の間でサイドストーリー的な短編話になります。
イフみたいな話なので、本編には一切関係がありません。
S1ー1. それはゲームであって遊びじゃなくなっていた
○月×日
お客さんがいなくなった後の閑散としたサロンで、私たちサロン係の5人がテーブルを囲んで座っている。
その中で私は今、1枚のトランプを片手に美月ちゃんと向かい合っていた。
ついさっきまでとは別人みたいに微笑みを保つ美月ちゃんが、物腰柔らかく私に促してくる。
「さぁ。どっちか引いて頂戴、
「う、うん……」
(本気で観察してるのに表情から全然読み取れない……。さっきまでの分かりやすさはどこにいったの?)
ババを含む2枚のトランプを裏向きに差し出してくる彼女の激変ぶりに。
私は半分戦いて、半分引いていた。
たかがトランプ、たかがババ抜きに。
いつもならこんなに本気で臨む私じゃないのに。でも仕方がなかった。
こうなったからには、本気でやらないと今度は私が連敗するかもしれないんだ。
みんな演技力に長けていたり、観察力のある子ばかりだから。
でも私は、このメンツ相手だからこそババ抜きで明確な弱者にはなりたくなかった。
「お姉さま、がんばってください♪」
「ふふ、2年生同士の対戦も中々見ものね。そうは思わないかしら、果乃子?」
「……はぁ。別にどうでもいいです」
営業はとうに終わってるのに、少なくともバイト仲間たちの半分以上がサロン係モードになってるこの状況。
そこまでなりふり構わず本気になられた以上、ここで負けるということは演技で劣ることになる。
その点だけは、簡単には負けられない。
小学校の頃から、自分を守るためにずっと続けてきて。
私をずっと支えて、今の私の大部分を形成してくれたものだから。
私のアイディンティティみたいなもので、譲れないプライドがある。
なんて珍しく熱くなりながらも、頭のどこかではちゃんと冷静な自分もいた。
(あぁ……時間潰しの遊び、のはずだったのになぁ。どうしてこんなことになったんだっけ……?)
時は終業して着替え終わった私たちが帰ろうとするところまで遡る。
陽芽ちゃんと果乃子ちゃんが裏口から出ようとドアを開けた途端、凄まじい雨音が聞こえてきた。
「わっ! すっごい雨!」
「う、うん……傘さしてもずぶ濡れになっちゃいそうだね」
「みなさん、予報によると通り雨みたいですからしばらく雨宿りしていってください」
店長の言葉に甘えて、私たちはバックヤードで雨が弱まるのを待つことにしたのだけど。
スマホを弄っていた純加さんが退屈そうにボヤきだした。
「う~ん、せっかくみんな揃ってヒマしてるんだし、なんかやらない?」
「何かってなんですか純加さん」
「それはねー果乃子ちゃん……何がいいと思う?」
「言い出しておいて何にも考えてないじゃないですか」
にべもない果乃子ちゃんに何も言えず渋い顔をしてる純加さんをフォローしようと、私は口を挟むことにした。
「あはは……みんなで時間潰すようなものでもあればいいんですけどね~」
「時間を潰すって、遊びとか? 夏八木さん、月ノ森でなんかお嬢様みたいなゲームとか流行ってないの?」
「陽芽ちゃん、お嬢様みたいなゲームって何なの~? そんないかにもな遊びしてないって〜」
「でもみんなで遊ぶのは時間潰しにはいいかもしれないわね」
陽芽ちゃんがおかしな茶々を入れ、美月ちゃんが一部擁護する。
すると店長が思い出したように声を上げた。
「あ、そういえば! 私今日トランプ買ったんですよー!」
「へー、舞さんそういうの好きでしたっけ?」
「たまたま入ったお店でリーベの雰囲気に合いそうなのを見つけまして。勢いで買ったんですが、これで遊んでてもいいですよ?」
純加さんが店長から、洒落たデザインのように見えるトランプを受け取る。
ちなみにパッと見た感じ、リーベに似合うかどうかは私には判断がつかなかった。
「いいんですか? その、汚してしまうかもしれないのに……」
「いやいや矢野ちゃん。そこは丁寧に扱えばそこまで心配することじゃないでしょ? そんなに力入れて扱うものじゃないんだし」
「そ、そうですよね……」
「とにかく、ありがとうございます舞さん」
「いえいえ! あ、でも遊ぶならサロンのでやっててくださいね! 私はここで仕事してますから! あと服はそのままでいーですよー」
「はーい」
妙に固くなってような、身構えてる美月ちゃんを純加さんが適当にいなしながらトランプを受け取る。
そうして私たちは珍しく私服のままサロンに移動することになった。
(そういえば前にもこんなことあったな。突然雨に見舞われて、家に押しかけられたと思ったらトランプで遊ぶ流れになったっけ)
あのときは雨のせいでどうしても嫌なことを思い出して、とにかく憂鬱だったのを思い出す。
(今日はそんなテンション低いと空気悪くしちゃいそうだな。どうか気分が沈みませんように……)
最後尾でそんなことを祈りながらみんなについていく。
結果的に言うとそんな余裕は一ミリもなくなるのだけど、当然このときは知る由もなかった。
「トランプといえば、定番はやっぱりババ抜きだよね! 変なローカルルールもないし」
「ろーかるるーる?」
「確かにねひめちゃん! 大富豪とかその辺いっぱいあってわけ分かんなくなるしなー。シンプルな方が気兼ねなく盛り上がっていいかも!」
「そういうものなんですか……?」
いちいち疑問符を浮かべる美月ちゃんが気になって、私は思わず尋ねてしまう。
「美月ちゃん? もしかしてだけど……あんまりトランプで遊んだことない?」
「そ、そんなことないわよ? ババ抜きでしょ、知ってるわ」
「そりゃ誰でも知ってるでしょ。 でもその感じじゃ得意じゃなさそうだし、矢野には負けなさそーかなー?」
「……言うじゃない陽芽。 絶対アンタには負けないんだから」
「はーい、それじゃカード配るよ~。同じ数字が2枚揃ったらテーブルの真ん中に捨ててね~」
「そよさん、さりげなく私にルール説明していない!? 知ってるって言ってるでしょう!」
珍しく勘の良い美月ちゃんを笑顔でスルーしながらカードを配っていく。
今私たちはサロンにあるテーブルを5人で囲むように座ってる。
並び順は美月ちゃん→陽芽ちゃん→果乃子ちゃん→純加さん→私。
ということで陽芽ちゃんから美月ちゃんのカードを引き、続いて果乃子ちゃんが陽芽ちゃんのを引いて、次いで純加さん、私と続いていく。
数周回ったところで、私はある事実を確信していた。
バックヤードではトランプぐらいで大げさなくらい慎重になってたし。
さっきの不審な言動もあって、始める前から大体察していたけど。
それに気づいてるのは、私以外の3人も同様だと思う。
(やっぱり、この中で一番弱いのは……)
数ゲーム後
「美月ちゃーん? そろそろ引いてもいいかな~?」
「もう少し待って! 今シャッフルしてるから…………さぁ勝負よ、そよさん!」
入念にカードを入れ替えて決心ついたらしい美月ちゃんが2枚のカードを私へ突き出す。
私はまず左のカードに指をかけて、美月ちゃんの顔を見る。
「こっちかなー?」
「…………」
そのまま右のカードに手を滑らせると
「……!!」
(顔強張りすぎだよ……引いて欲しくないの丸分かりだって)
ゲームを重ねるごとに悔しそうにする美月ちゃんに申し訳なく思いつつ、正解のカードを引かせてもらうことにした。
「ごめんね美月ちゃん。はい上がり」
「どうして毎回負けるのよぉおお!」
両拳を握って悔しそうに項垂れる、3連敗の美月ちゃん。
まぁ、この4人なら美月ちゃん相手に万が一もないだろうな。
負けっぱなしの美月ちゃんを見かねてか、陽芽ちゃんが気遣わしげに声をかける。
「流石にかわいそうになってきたかも……矢野、別の遊びに——」
「もう一回よ! 次こそ絶対に負けないわ!」
(そう無気になるから余計分かりやすくなっちゃうんだよ……)
そうは思っても瞳に闘志を燃やして無駄に熱くなってる美月ちゃんには言いにくかった。
無気になってどんどんドツボにハマっていく彼女が哀れで、いつもみたいにからかう気も起きない。
そんな中、普通教えてあげたくても飲み込んでしまうようなことを平気で言ってのける人がいた。
「矢野ちゃんはすぐ顔に出るから分かりやすいんだよね。ぶっちゃけ、負ける方が難しい」
「うっ……。分かりやすいって……、それじゃあどうしたら……」
(純加さん、容赦ないなぁ)
真実のナイフでグサッと突き刺され、今度はシュンと落ち込んでしまった美月ちゃん。
流石に不憫で、私はお節介を焼くことにした。
「そーだ美月ちゃん! サロンのときの美月ちゃんでやってみたら?」
「サロンのときの私? 演技するってこと?」
「それを俗に言うポーカーフェイスっていうんだけどね。要はそういうことだよ」
私の提案に純加さんが補足してくれる。
美月ちゃんは目を閉じて考え込むんような顔をした後、優しい顔になった。
「……分かったわ。——それじゃ、もう一度やりましょう、みなさん」
「おぉー、早速お姉さまモードですね、お姉さま!」
「えぇ、今度こそ姉として恥ずかしくない結果を示すわ」
(ババ抜きに姉もへったくれもないと思うけど……まぁいっか)
自分からアドバイスしといてなんだけど、結局美月ちゃんが負け越すんだろうな、と予想していた。
ちょっと演技を意識したくらいで、そうそう簡単にこのメンツ相手に勝てるレベルまで化けないだろうと。
そんな風に余裕かましていた私は、負けない程度には最低限頑張りつつ気楽にババ抜きを楽しむつもりでいた。
見た感じ美月ちゃん以外もたぶんそんな感じだろう。
そもそも雨が弱まるのを待つだけの時間潰しなのだから。
(このままお気楽なお遊びムードで、そのうちお開きかな)
その見通しが甘かったことは、すぐに思い知らされることになる。