もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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S1-2. お婆様抜き、始まる

 

 

 それは美月ちゃんがサロンモードになった直後のゲームだった。

 美月ちゃんと陽芽ちゃんが最後まで残って、どちらかがあと1組揃えば終わりの状況で。

 直前のゲームまで鬼気迫る顔で前のめりだった美月ちゃんは、今は慈愛に満ち溢れた聖母のような微笑みで悠然と構えている。

 

「陽芽? あなたが引く番よ?」

「わ、わかってるから! ……こっち、かな?」

「どうかしら?」

「それともこっち?」

「それは引いてからのお楽しみね」

「……分からん! もうこれで……あっ!」

「ふふっ、じゃあ私はこれを引いて……あら、揃ったわ。私の勝ちね」

「あの矢野に……私が、負けた? そんな、バカな……」

「覚えておくことね、陽芽。姉より優れた妹など存在しないのよ?」

 

 なんだか映画かドラマに出てきそうな決め言葉を放ちながら微笑む美月ちゃん。

 そんな彼女に聞こえないくらいの小声で私たち3人はヒソヒソ話す。

 

(ウソでしょ!? 今までババに対して絶対顔に出てた矢野ちゃんが!?)

(ひめちゃん相手にポーカーフェイスで読ませないなんて……)

(しかも陽芽ちゃんに勝ってる……。まぁ最後の引きは完全に運任せみたいだったけど……)

 

 私の助言通り、綾小路モードになった美月ちゃんは常に微笑みを崩さないポーカーフェイスを形成していた。

 勝つためにやってるというより、サロンでやってる演技を貫くことに一心になってるように見受けたけど。

 結果的に鉄壁の仮面を身に着けた彼女からは、ババを持ってるかどうかの情報がほとんど読めなかった。

 それこそ、他のみんなと遜色ないくらいに。

 とはいっても、無双するほど強いわけでもない。

 なぜならカードを引くときは特に考える素振りもなくスッと引いてるので、引きが強いわけではなかったから。

 相手の情報を読むことについてはハナから捨てて、その分自分の演技に集中してるんだろう。

 

「は、ははは……」

「ひ、ひめちゃん? どうかしたの?」

 

 一皮剥けたとはいえ、それでも美月ちゃんに負けたことが余程ショックだったのか。

 陽芽ちゃん乾いた笑いを漏らし出す。

 おかしくなったんじゃないかと、果乃子ちゃんが心配そうに声をかけるくらい不気味だった。 

 

「あの矢野に、この私がババ抜きで負けるなんてね……面白いじゃん。——私も見せてやるよ、全力の演技(ソトヅラ)……!」

「ひ、陽芽ちゃんまでやる気満々になっちゃったね~」

「——はい、夏八木さん! 私もお姉さまの妹として全力でお相手させて頂きます!」

 

 本気宣言の陽芽ちゃんに引きながら適当に相槌打つと、陽芽ちゃんは完全に妹キャラの白鷺モードとなって満面の笑顔を装着していた。

 冗談なんかじゃない。あの笑顔は本当に本気でババ抜きするつもり戦顔だ。

 そしてこのサロンモードというのは伝染するものなのか、陽芽ちゃんだけじゃ終わらなかった。

 

「へぇ、あのひめちゃんのマジ中のマジか。——これは、上級生として、ブルーメとしては負けてられないわね」

「純加さんまで小芝居しなくても……」

「あら、果乃子? あなたはお姉様の勝利を応援してくれないのかしら?」

「応援しませんし、何度も言いますけど営業時間外は——」

 

 こういうとき悪ノリしそうな純加さんまで橘様モードで果乃子ちゃんといつものノリをかます。

 半分以上がサロンモードになった以上、伝染(うつ)ったわけじゃないけど私も考えが変わってきた。

 

(……果乃子ちゃんと同じノリ悪い組になるのは癪かな。このメンバー相手だし、たまには本気でやってみるのもちょっと面白そう)

 

 営業中の自分をイメージして笑顔を作る。

 スイッチが切り替わったような感覚の後、純加さんにニコッと笑いかける。

 

「——橘様。僭越ながら妹である雨宮さんの代わりに、私が応援させて頂きますね」

「あら、可愛い後輩っぷりを見せてくれるじゃない、夏八木さん? でもせっかくだからあなたとも本気でやってみたいわね」

「あははっ。では応援しつつ、本気でお相手させて頂きます♪」

 

 橘様と小芝居をしていると、一人だけ素で居心地が悪いのか不機嫌そうな果乃子ちゃんがボヤく。

 

「……どっちなんですか、もう……。さっさと始めましょう………………………………お姉様

 

 果乃子ちゃんがそっぽ向きながら最後ゴニョゴニョ言ってたのは、私には聞き取れなかったのだけど。

 姉にはちゃんと届いてたようで、不敵な笑みで応えていた。

 

「——えぇ。ふふっ、妹のいじらしいところも見せてもらったところで。ここからがリーベ女学園のお婆様抜きの始まりよ」

(上品に言い換えてもダサい! 全然美しくないですよ!)

 

 名前はともかく、リーベが誇る嘘つきたちが本気になった以上。

 純加さんの言う通り、ここからが本番であることは間違いなかったのだ。

 

 

 

 

 

 (……っていう流れで、本気のババ抜きをやってるんだっけ?)

 

 回想から意識を戻して美月ちゃんとの勝負に集中する。

 思い返せば果乃子ちゃんと同類になりたくなくて雰囲気に乗っかったのに、気づけばプライドを賭けた真剣勝負になっていた。

 今は美月ちゃんが引く番。その後があれば、私がババじゃない方を引ければ勝ちだ。

 

「夏八木さんもどっちがお婆様か全く顔に出さないのだから、流石ね」ピラッ

「仮にも美月ちゃんと同学年だからね〜、簡単に負けたら面目たたないよ〜……!?」

 

(美月ちゃん、あからまさに片方を引きやすいようにズラしてきた……ついさっきポーカーフェイスを覚えたと思ったら、もうこんな小細工を?)

 

「どうかしたのかしら?」

「う、ううん。何でもないよ〜」

 

(この子、戦いの中で成長してるっていうの? ……ふふっ)

 

 陽芽ちゃんの言う通り、ちょっと面白いかも。

 でも私も美月ちゃんのことは、仲良くなった分だけよく知ったつもりだから。

 彼女がどこまで考えてるか、私には見切れる自信があった。

 

「こっちのあからさまな方がお婆様、と見せかけて実は反対側じゃないかな? うん、アタリ♪」

「あら、バレバレだったかしら?」

「まぁ美月ちゃんならこう考えるかなって。でも次は当てれないかも」

「ふふっ、そうね。この負けは次に活かして、今度こそあなたに勝ってみせるわ」

「私だって、次も負けないんだから♪」

 

「はいはーいお姉さま方、さっさと次始めるんですから早くカードをまとめてくださーい!」

 

 陽芽ちゃんが笑顔のまま急かしてくるので、このゲームの敗者である美月ちゃんが「はいはい」と微笑みながらトランプを集め出す。

 

 

 

 女の子たちはみんな、一番最初に上がることよりも敗者にならないことに重きを置くらしく。

 こんな感じで、最後の2人が2枚対1枚になると、緊張感のある戦いが繰り広げられていった。

 以降は2人の女の子たちによる、最後の局面の記録である。

 

 

 

 白鷺陽芽 VS  夏八木そよ

 

陽芽、そよ(同族が相手、か……)

白鷺「夏八木さんっておっとり穏やかそうに見えて意外と演技派っぽそうですよね!」ニッコリ

夏八木「そう? それを言うなら白鷺さんこそ、可愛らしい振る舞いに計算高いものを感じるわ」ニコニコ

白鷺「えー、そんなことないですよぉー? 私はみんなが笑顔になってくれればいいなって思ってるだけですから! ——夏八木さんは違うんですか?」ニッコリ

そよ(私が、外面やってる理由……)

夏八木「……」ニコニコ

白鷺「それはそれとして……お婆様はこちらですか?」

そよ「……どうかな〜?」ニコニコ

白鷺「なるほど……では反対の方を引きます! あっやったぁ、揃いました! 私の勝ち、ですね♪」ニッコリ

夏八木「……ふふっ、完敗ね。参ったわ、白鷺陽芽さん」

白鷺「いえいえ! 運が良かっただけですよ〜、夏八木そよさん♪」

そよ(嘘つき。完全に見破って引いたくせに。本当に完敗だよ、陽芽ちゃん。なんとなく分かってたけど、外面使いとしてはあっちが上か……)

陽芽(()()で崩れるんだから、そんなもんか。まぁ私の方が格上だけど、やっぱり夏八木さんって私と同族なんだな。……けどまぁ、嫌いにはなれないよね)

 

 

 

 雨宮果乃子 VS 綾小路美月

 

果乃子「………………」

美月「………………」

そよ(2人とも一言もしゃべらないで真剣だな……。いや、真剣過ぎて、見てるこっちが……)

純加(……重い。この空気重過ぎるよ。絶対2人とも対抗心燃やして勝ちにいってるよ! ここで勝っても何も変わらないのに!)

白鷺「お姉さまも果乃子も真剣だなー。どっちもがんばれ〜♪」

4人(なんか1人だけ空気無視して軽いな……)

 

雨宮「……じゃあ、こっちを引きます」指をかけて引こうとする

美月(……勝った!)

雨宮「……やっばりこっちで」引く寸前にもう一枚に変える

美月(! フェイント!? 笑顔は保っていたはずなのに……勝ちを意識して、気づかずに崩れてた?)

果乃子「終わりです。……私の勝ち、ですね」

綾小路「……そうね。あくまでお婆様抜きでは、だけど」

果乃子「……」

陽芽「2人ともー? 勝負終わったのになんでまだ一発触発みたいな雰囲気出してるのー?」

純加(ひめちゃんが原因なんだけどね!)

そよ(うーん……この2人は仲良くなることは、やっぱりなさそうだな……)

 

  

 

 白鷺陽芽 VS 綾小路美月

 

白鷺「お姉さま、リベンジさせて頂きますね!」

綾小路「ふふっ。かかってらっしゃい、陽芽」

陽芽(とは言えさっきは本気で分からなかったんだけどな……いや、もっと良く見たら何か分かるかも!)

白鷺「お姉さま、こっちがお婆様ですか?」ジィー……

綾小路「それを教えたらゲームにならないでしょう?」ニコニコ

白鷺「(うーん……)じゃあこっちですか?」ジィィィーー……

綾小路「頑張って当てて御覧なさい?」ニッコニッコ

 

そよ(美月ちゃんの笑顔、なんか演技じゃなくて素で笑ってない? 妙に楽しそうっていうか……。)

果乃子「……」イライラ

純加(果乃子ちゃんイライラしてるなー。まぁしょうがないか)

 

陽芽(えーい、なんか嬉しそうにしてることしか分からん! 勘で……1枚目がババか? ならこっち!)ピラッ

陽芽「あ、当たった! アガった! 矢野に、お姉さまに勝った~!」

綾小路「あら? もう負けてしまったのね。残念だわ……ふふっ」

陽芽「ちょっと矢野、負けたのになんで笑ってんのさ?」

美月「いえ、あなたがあんまりにも見つめてくるから……なんだか幸せだったの。すぐに終わってしまったのが惜しいくらい」

陽芽「な、何こっぱずかしいこと言ってんの!?」

美月「それに勝ったのを無邪気に喜ぶ陽芽は、いつもと違う可愛らしさがあってなんだかほっこりしたわ」

陽芽「う、うるせー! 負けたくせに好き放題言いやがって~……。チクショウ、せっかく矢野に勝ったのに~!」

 

そよ(うん。なんだかんだ仲良い2人の空気、やっぱり好きだな。真っ当に姉妹しつつ揺るがない友情って感じ、かな?)

 

果乃子「……純加さん、さっさと次始めましょう。早くトランプシャッフルしてください」

純加「果乃子ちゃーん、負けた人がする流れだったはずだけど……まぁいいや」

そよ(なんかこっちはこっちでとばっちり受けてるけど。にしても純加さん何にも悪くないのにな……)

そよ「純加さん、私がやりますから!」

純加「ありがとそよちゃん! そよちゃんは優しいね~」

果乃子(……嫌な感じ……)

 

 

 

 白鷺陽芽 VS 雨宮果乃子 

 

果乃子(……運よくひめちゃんと最後の2人になったけど……)

陽芽(果乃子も見てる感じあんまり表に出してなかったんだよね。今度もまた良く見て……)

 

白鷺「ジー……」

果乃子「うっ……」

白鷺「ジィー……」

果乃子(ダメ、こんなにひめちゃんに見つめられたら恥ずかしいよ……)

白鷺「うーん、こっちかな?」

果乃子(あっ、そっち引かれたら終わっちゃう!)グッ……

白鷺「か、果乃子? そんなに力入れたらそっちがお婆様じゃないって言ってるようなものだよ?」

雨宮「ち、違うよ? こっちはバ……お、お婆様、だよ?」

白鷺「いや騙されるわけないでしょ。 観念してね、果乃子!」ピッ

雨宮「あっ……終わっちゃった」

陽芽「うーん……果乃子もっと手強いと思ったのに、なんかちょっと拍子抜けかも」

果乃子「ううん、ひめちゃんにババ抜きじゃ敵わないよ」

果乃子(恥ずかしかったけど……、でももっと続いて欲しかったな……)

 

そよ(まぁ陽芽ちゃん相手じゃ流石の果乃子ちゃんも本気出しきれないよね)

純加(果乃子ちゃんらしいっちゃらしいけど……まぁいっか)

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