もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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side2-2. 予期せぬトラブル

 

 

 夏祭りの会場に着くと、既に人で道が埋め尽くされるくらい盛況していた。

 これから私たちは、花火の時間まで屋台を回ってお祭りを楽しむ予定となっている。

 陽芽ちゃんがテンション高めな感じでキョロキョロと屋台を見回す。

 

「夏祭りと言えばやっぱりかき氷だよね! あ、わたあめもいーなー。むっ、ベビーカステラも捨て難い……あれおいしいよねー。他には~……」

「あんた、そんなに食べれるの? 残したらダメよ」

「分かってるよー……。あ、じゃあさ矢野、私の半分こする? そしたら色んなの食べれるんじゃない?」

「それならいいわよ。陽芽と半分こ、ね……ふふっ」

「えっ何? 今笑うところあった?」

 

 急に破顔一笑した美月ちゃんを理解できないみたいな顔で見る陽芽ちゃん。

 私は微笑ましい気持ちになって、横から口を挟むことにした。

 

「美月ちゃんは嬉しいんだよ。陽芽ちゃんと夏祭りを一緒に回って、同じものを共有できることが、ね♪」

「きゅ、急にこっ恥ずかしいこと言うね夏八木さん! そんな風にからかったら矢野がいつもみたいに怒って……」

「べ、別に怒らないわよ。あんたと一緒のお祭りは嬉しいのは本当だから……。花火まであんたと一緒に見れると思うと……」

「なんでこんな時に限ってそんな素直なの!? 調子狂うな~!」

「旅行のときを思い出したのよ。滅多にない機会はあのときみたいに自分の気持ちを言おうと思って。というかあんたはどうなのよ」

「へっ!? 私は……まぁ、その~……」

「美月ちゃん? 相手の気持ちを聞くときは時と場合を考えてあげないと。こんな人の多いところで急に聞かれたら誰でも言いにくいと思うよ?」

「うっ……。ごめんなさい、陽芽。つい舞い上がってしまって……」

 

 美月ちゃんが行き過ぎて2人の仲がぎくしゃくしないよう、私はコントロールしてあげる。

 少し気落ちしたような美月ちゃんには申し訳ないけど、せっかくのお祭りを円満に楽しむためだから致し方ない。

 でも陽芽ちゃんは美月ちゃんの顔を見て、顔を紅潮させながらも意を決したように口を開いた。

 

「わ、わたしだって……矢野とこうして遊べるのは嬉しいし、楽しいよ。()にもできなかったことが今こうしてできると思うと、余計に……」

「陽芽……」

「というかさ、滅多な機会なんかじゃないよ。これからいくらでも増やしていけるでしょ?」

「……そうね。これからもっとあんたと一緒の思い出を増やしたいわ」

「~~~~っ! もう今日はそういう恥ずかしいこというの禁止な!」

「なんでよ! 別にあんたに無理やり言わせてるわけでもないし、というか何も恥ずかしいことなんて言ってないでしょ!」

「言われてる私が恥ずかしいってことに気づけー!」

 

 リーベにいる調子でギャイギャイ騒いでる2人は今や通行人の注目を集めるほどに目立ってきた。

 このままじゃ一緒にいる私たちが恥ずかしい。

 大至急このイチャイチャを止めて衆人環視の目から逃れよう。

 

「あ、2人ともベビーカステラの屋台空いてるよ! あれ私も好きなんだ~さぁほら買いに行こーねー」

「あ、夏八木さんちょっと! って力つよ!」

「腕組まなくても自分で歩くから! そよさん引っ張らないで!」

 

 悪目立ちしてることに気付いてない2人を腕組む体で引きずりながら、この場から一目散に退散した。

 

 

 

「…………」拳ギリギリ

(あぁ……早くフォローしてあげないと。さっきの挽回も含めてひめちゃんといい感じにしてあげないと、妹が爆発するっ!)

 

 

 

 落ち着いた陽芽ちゃん美月ちゃんのスイーツ巡りに付き合う私たち。

 いくつか回ってもう満足したのか、陽芽ちゃんは若干苦しそうな顔をしていた。

 

「食べた食べた~。もうしばらく食べ物はいいや」

「見た目通り小食ね。まだ3つくらいしか食べてないわよ?」

「じゃさ、ひめちゃん。腹ごなしに射的とか、遊ぶ系の屋台行かない?」

「いいですね橘さん!」

 

 ということで、今度はゲームの屋台を目指すことに。

 みんなでキョロキョロ見回しながら歩いていると、目当ての射的屋台を見つける。

 でも流石に定番どころで人気なのか、少し並ばないといけなかった。

 

「う~ん、ここで5人全員で並んで待つのももったいないな~……そうだ!」

 

 純加さんが思いついたように声を上げる。

 遊ぶ系の屋台を勧めたのも純加さんだったな、と思ったら何か裏を感じなくもない。

 

「あたし焼きそばとかフランクフルトとか食べたかったんだよね~。みんなの分も合わせて買ってくるよ!」

「人数分買うなら1人じゃ大変ですし、私も行きます」

 

 率先して手伝いを申し出る美月ちゃんによって、自然に射的の列に並ぶグループか、食べ物を買いにいくグループに分かれる流れとなった。

 私は陽芽ちゃんと果乃子ちゃん、美月ちゃんと純加さんのどちらにつくか考える。

 

(もし純加さんが何かを意図して言い出したなら、丸いのは……)

 

「純加さん。私もついていっていいですか? 私も他に食べたいのがあって……」

「いいよ! じゃあ3人でいこっか! ってことでひめちゃんたちちょっと行ってくるねー」

「いいですけど、私たちだけ遊んでていいんですか?」

「いいっていいって! あたしたちも後でテキトーに遊ぶし! あ、果乃子ちゃん。何かあったら連絡するかもしれないから、スマホときどき見ててねー」

「……分かりました」

 

 こうして私たちは二手に分かれることになった。

 別れ際にチラリと果乃子ちゃんを盗み見ると、頬を赤く染めながらも困ったように眉を寄せるという、良く分からない顔をしている。

 素直に顔には出してないけど、果乃子ちゃん的に嬉しいシチュエーションのはず。

 そしてそれを姉である純加さんが分からないはずがない。

 果乃子ちゃんに気を遣ってわざとこの流れを作った、ということなんだろう。

 

(ちょっとモヤッとするけど……私は純加さんと一緒に回れるんだし、細かいことはいっか)

 

 思い直して前に向き直ると、思ってた以上に純加さんたちが離れていた。

 追いつくために早足で歩きたかったけど、この人込みは前の人を追い越すためのスペースがないくらい混んでるから、純加さんたちとの距離が縮まらない。

 それどころか人とぶつかってしまって、歩くのさえ邪魔されてしまう。

 慌てて謝りつつ純加さんたちを視界に捉えようと探すけど

 

(あ、あれ? そう遠くないはずなのに、見つからない!?)

 

 たくさんの人に紛れこんだように、純加さんたちを見失ってしまう。

 とにかく進んでればそのうち追いつくか、とがむしゃらに進んでみるけど、突き当りまで行っても見つけることはなかった。

 もちろん周りの屋台にも気を配ってたつもりだけど、2人の姿は見当たらない。

 

(……落ち着いて、こういうときはスマホで連絡すれば——)

 

 状況が悪くなる一方の展開に嫌な動悸を覚えつつ、巾着袋からスマホを取り出して電話をかける。

 けどコール音の途中で電話が切れてしまい、何事かと思ってスマホを見ると電源が切れていた。

 

(ウソ……充電するの、すっかり忘れてた……)

 

 昨日の夜からずっと夏祭りのことで頭がいっぱいで、こんなことすら怠っていたなんて。

 ほとんどしたことない失敗に、自分が自分で信じられなかった。

 いや、スマホが使えないことは最悪どうでもいい。

 みんなとはぐれてさいなければ、何も困らなかったのに。

 

(どうしよう……陽芽ちゃんたちがいた屋台に戻る? でももし2人が移動してたら意味ないか……)

 

 無難な方針が思いつかず、孤立した状況に心細くなって、思考が焦りと不安に侵食されていく。

 このままはぐれたまま誰とも合流できなかったら。

 せっかく好きな浴衣を着てきたのに、1人寂しくこの雑踏の中を彷徨うことになる。

 誰もが誰かと楽しそうにしてる中、私1人だけ独りで。

 すごく楽しみにしてただけに、そんな惨めな思いは耐えられなかった。

 その焦燥感のままに、とにかくサロン係の誰かを見つけようと当てどなく回る。

 でも一向に見つからず、それでも慣れない浴衣で歩き続けることに心も体も疲れてきた。

 

(……なんで私、この年になってホントに迷子になってるんだろう……)

 

 この私が、バンド名の由来通りになってるみたいでこの上なく納得いかない。

 でも現にそうなっている事実が、更なる精神的ダメージとなって余計追い詰められる。

 それでもみんなを探して歩き続けていると、純加さんたちとはぐれたところに一周して戻って来たことに気付く。

 迷路にはまったような感覚がとどめとなって、ついに心が折れた私は立ち止まって俯いてしまう。

 

(せっかくみんなと……純加さんと、お祭りや花火楽しめると思ったのに……このままはぐれたまま終わるなんて……)

 

「すみかさん……」

 

 耐え切れず私の大切な拠り所である人の名前を零したときだった。

 

「見つけたっそよちゃん!」

「純加さんッ!」

 

 今一番欲していた声が後ろから聞こえて、反射的に振り返りながらその両腕にしがみつく。

 

「すいませんっ、はぐれちゃって……スマホの電源も切れちゃって、連絡できなくて……!」

「気づいたらいなくなってたから焦ったよ。でも見つけられて良かった。どこかケガしたとかない?」

「は、はい……。探してくれてありがとうございます。純加さん」

 

 心配そうに私の様子を伺う純加さんに笑顔で応えようとするけど心底安心したせいか、気が抜けたような情けない笑みになってしまう。

 

「あの、もしかしてみんなも……」

「うん、手分けして探してた。今合流したって連絡しとくよ」

「何から何まですみません……」

「まぁこんなときもあるよ。なんせ道が人で埋め尽くされるくらいだからね」

 

 スマホをフリックしながら純加さんは慰めてくれるけど、申し訳なくなってしょうがない。

 なんとかみんなに迷惑かけたお詫びしなきゃと考えるけど、下手な気遣いはまず純加さんに通らないだろう。

 かといって『まぁいっか』、と開き直る方が無理だから必死に頭を回す。

 そして私は、近くにあった屋台を指さしながら思いついた口上を述べた。

 

「純加さん。実は私散々歩き回ってお腹空いちゃってまして。焼きそば、買ってもいいですか? あ、私だけ買うのも悪いですから、みんなにもお土産がてら持っていきたいです」

「……まぁそよちゃんの性格的に気にしちゃうよね。分かった、いいよ。その代わり、先輩としての見栄もあるから半分出させてね」

 

 お騒がせしたお詫びにさりげなくご馳走するつもりが、純加さんにあっさり見破られてしまった。

 本当は丁重にお断りしたかったけど、気遣い屋さんな純加さんには返って煩わしいかもしれない。

 

「……すっごく気が引けますけど、お言葉に甘えますね。本当にありがとうございます、純加さん」

「いいんだよ。そうやってみんなを気に掛けちゃうそよちゃんが、私は好きだからね」

 

 セットした髪が乱れないよう繊細に頭をポンポンしてくれる純加さん。

 私は嬉しい気持ちと申し訳なさがないまぜになった複雑な気持ちではにかんだ。

 

 そうしてやきそばの屋台で並ぶ私たち。

 待ってる間、純加さんが私に聞いてきた。

 

「そいうえばそよちゃん、他に食べたいのあるとか言ってなかったっけ?」

 

 さっきの、射的に並ぶ陽芽ちゃんたちと別れるときの会話を思い出す。

 そういえば私はそんなこと言ってたんだった。

 

「……そ~ですね~……焼きトウモロコシ、とか」

「あー、あれもお祭り定番のヤツだよね! 夏にピッタリだし」

「はい、そうなんです♪」

 

 あのときは純加さんについていくために適当なこと言ったのだけど。

 今回もまた適当な思いつきで会話を成立させる。

 私はせっかくなので、そのときの純加さんの魂胆を突いてみた。

 

「純加さんは私にも優しいですけど、さっきは妹のために気を利かせてましたね」

「え? 何のことかな~……って、バレバレだった?」

「そこまであからさまじゃないと思いますけど。でも純加さんならたぶんこういうことかなって思ったんです」

「う~ん、そよちゃんには隠し事はむずかしーねー」

「はい、私だって周りに気を遣う方ですから。純加さんと同じで♪」

「ははっ、それじゃせっかく似た者同士でいるんだし、みんなのとこに戻りながらグルメ巡りと行きますか!」

「はいっ♪」

 

 迷子になった棚ぼたで、純加さんとしばらく2人っきり。

 さっきまでの苦しい心境が嘘のように、今では華やいだ気持ちで溢れていた。

 純加さん1人の存在で地獄から天国まで激変する私の世界に、我ながら単純だなと呆れながら。

 私は純加さんとのおしゃべりに夢中で楽しんだ。

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