もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
焼きそばを買った私たちは、みんなとの合流を目指しつつ道中の屋台も回る。
冷やかしに金魚釣りやお面屋も見て回ったりしながら、私は純加さんと2人っきりの夏祭りに没頭していた。
だってこんな風に純加さんを独占する機会、中々ないと思うから。
他のことに気を回す余裕すら惜しんで、純加さんの楽しそうな笑顔やおしゃべりにだけ集中していた。
だから、スピーカーから流れてきたアナウンスで私はようやく我に返った。
『お知らせします。もう間もなく花火の開始時刻となります。御覧になる方は——』
「えっ、もうそんな時間!? ってやば、果乃子ちゃんから連絡来てたの気づいてなかった!」
純加さんがスマホを取り出しながら慌てた声を上げる。
私もまったく気にしてなかったし、そもそもこうなったのは私のせいだしで申し訳ない気持ちが再燃してきた。
「す、すいません! 私すっかり花火のこと忘れてて……」
「それを言うならあたしもだよ。チャット見たけど、果乃子ちゃんたちはもう場所取ってるんだって。あたしたちも急ごっか」
「……はい、行きましょう」
少し、いやかなり口惜しいけど純加さんに同意する。
純加さんの話によると、みんなは人でごった返してるこの道を超えた先にいるらしい。
でもこの人混みはみんな同じ方向に進んでるわけじゃなくて、逆流する人もいたり屋台の列にも邪魔されて中々思うようには進まない。
目的地までまだ半分以上残ってるというのに、それは始まってしまった。
ヒュ~という気の抜けた音が聞こえてそちらを見やると、轟音を響かせながら夜空に大輪の花が煌めいている。
(みんなと合流する前に……純加さんと2人っきりのうちに……)
「うわ、もう花火始まっちゃった! でも全然進まないな……どうにか近道できないか——」
「……純加さん。もう無理に合流しようとしないで、ここで花火見ませんか?」
「えっ?」
驚き顔を向けてくる純加さんに、今思いついた言い訳を並べ始める。
決して狙ってたわけじゃないけど、願ってもないこのシチュエーションをどうしても逃したくなかった。
「えっと……純加さんの言う通り全然進まないから、下手したらみんなと合流する間に花火終わっちゃいます。せっかく見に来たのに楽しめなかったら、もったいなくないですか?」
「それは……まぁ、そうだけど」
「それに実は私、下駄の鼻緒が片方切れそうで……あんまり急げなさそうだから、これ以上急いだら純加さんからはぐれそうなんです。ごめんなさい、文字通り足引っ張っちゃって」
「そうだったの? ごめん気づけなくて……」
「いえいえ! ……そういうのもあって、私としてはこの辺りで純加さんと一緒に花火見れたら嬉しいんですけど、ダメ……ですか?」
上目遣いで伺うように純加さんを見つめる。
そして純加さんから下駄を見られないように片足をさりげなく隠す。
純加さんは最初こそ渋る様子もあったけど、フッと肩の力を抜いた後ニカッと笑う。
「……そうだね。向かってる間に終わっちゃったりしたらしょうもないよね。うん、ここで花火見てよっか?」
「純加さん……ありがとうございます!」
大好きな笑顔に同意してもらって、思わず私も負けないくらいの笑顔になってしまう。
そりゃ仕方ない。
綺麗な花火で彩られるこの空模様に負けないくらい、私の心も盛り上がっているのだから。
「そんなに嬉しそうにしてー。花火、楽しみだったんでしょ?」
「そうですよ? 昨日誘ってもらってからずっとワクワクしてたんですから♪」
「分かる。みんなで行けるってなって、めっちゃ楽しみになったな~。まぁみんな一緒には見れなかったけど、せめて2人でゆっくり楽しもっか!」
「はいっ♪」
それからは道行く人の邪魔にならないよう端に寄って、2人でゆっくり花火を眺めた。
色とりどりの綺麗な光が純加さんの朗らかな顔を輝かせて、いつにも増して惹きつけられる。
最初は純加さんが花火を静かに楽しんでるのを邪魔しちゃいけないと遠慮していたけど。
2人っきりでこんなに素敵なシチュエーションを楽しむ機会はなかなか来ないかもと思ったら、我慢できなくなった。
「……純加さんの浴衣、なんだか大人っぽくでカッコイイですね。素敵ですよ」
「ありがとっ! そよちゃんの浴衣だって、向日葵が綺麗に映えてて可愛いよね。そよちゃんによく似合ってるよ」
「えへへっ。純加さんにそう言ってもらえるの、とっても嬉しいです♪」
「それあたしも。浴衣だーれも褒めてくれなかったから嬉しかったな。やっぱりそよちゃんは優しくていい子だね」
「いや~、先輩の優しさには負けちゃいますよ~」
ようやく待ち望んだことを言ってもらって、私のテンションはうなぎのぼりっぱなしだった。
お気に入りの浴衣を褒めてもらった嬉しさのまま、私は心の制御を忘れたように思っていることを素直に話す。
「ふふっ、浴衣着て、お祭り楽しみながら誰かと見る花火って、すっごく楽しいんですね」
「そうだよね。ってその言い方だとあんまり誰かと花火見に行ったりしなかったの?」
「そうですね……。私の家って結構高層なマンションで。だから、自分の家のバルコニーから花火見るのが手軽で見栄えも良い場所なんです」
「わーお……。久々にそよちゃんのことお嬢様って思っちゃったよ」
「こんな話したんじゃその反応も仕方ないですよね。でも、1人で見ることが多かったから。……あんまり楽しくはなかったんだと思います」
「……そっか」
「だから今は、すっごくすっごく楽しくて、嬉しくて、幸せです♪」
「ははっ、せっかくみんなで楽しめたのに、あたしと2人っきりになっちゃったのは申し訳ないけどね」
「もう。むしろ逆ですよ、純加さん」
「え? もしかして、あたしと2人っきりなのがよかった、とかー?」
悪戯っぽく笑って冗談気味におどける純加さんに、いつもの私なら取り繕ったことを答えたと思う。
でも、この瞬間だけは違った。
私の浴衣に咲き誇っている、憧れの意味を持ち合わせる花が、上空で爆ぜる火花によって照らされる。
まるで今しかないと、向日葵が主張してるみたいだった。
「……そうですよ? 私、純加さんとじゃなかったら今こんなにドキドキしてないんですから」
「へ? いやいやそよちゃん~悪ノリにしては大胆なこと言うんだから……」
「冗談なんかじゃないです。私は本気で純加さんのこと——」
ちょうどそのとき、佳境に入ったのか大きな花火が連続して轟く。
その音に、私の声は完全に掻き消されてたんだろう。
「そよちゃん?」
最後に私が何て言ったのか、きょとんとした顔を向ける純加さんにはまったく聞こえてる様子はない。
私も心のままに口を動かしてたから何言ったのかイマイチ自覚がないし、自分の耳にも届かなかった。
でもどういう類いのことを言おうとしてたかは流石に分かっているから。それ以上は自分自身を欺けない。
普段じゃ冗談的にも言わないようなこと。本気で言うなんてもっての外のこと。
でも——
(……こんな時だから、ずっと秘めていた想いを打ち明けてみても……)
それを打ち明けたらどうなるかなんて碌に考えず、言った後相手がどう思うかなんて想像もせずに。
私は胸の高鳴りに任せて、純加さんに想いをぶつけにかかる。
私がこんなにも特別な意識を向ける人なんて、あなたしかいないんだってことを伝えたい。
(向日葵の花言葉は憧れ、そして有名なのが……)
私の目には純加さんしか映らない。
だから今は純加さんも、私だけを見て欲しい。
「純加さん。私は……純加さんのことが……!」
「——純加さん、見つけましたよっ!!」
なんだか夢を見てるような心地から、聞き慣れた第3者の声でまさしく夢から覚まされたように意識を戻される。
私を興覚めな現実へ引きずり下ろしたのは、少し息を荒くしている果乃子ちゃんだった。
純加さんはいきなり現れた妹に不思議そうな顔で尋ねる。
「あ、果乃子ちゃん。どうしてこんなところにいるの?」
「夏八木さんと合流したってチャット以降返信しないから探しに来てみれば……そっちこそ、どうしてこっちに来ないんですか」
「いやー、この人混みに逆らってそっち行くの大変そうでさー。それで花火見逃したんじゃマヌケじゃん?」
「……そうですか」
半眼で純加さんを睨む果乃子ちゃんから明らかに納得してないオーラを感じる。
私のせいで純加さんが責められるのも心苦しいから、私は胸に渦巻くわだかまりを無視して果乃子ちゃんに謝る。
「果乃子ちゃん。私がはぐれたせいでこうなっちゃったの。迷惑かけてごめんね?」
「……スマホの電源が切れたんですよね? 仕方ないと思うことにします」
「そっか。そう言ってもらえると助かるよ」
文句言われるのも覚悟していたから、少しホッとする。
そこで純加さんが遠慮がちに私に話しかけてきた。
「……えっと、ゴメンねそよちゃん。話の腰折っちゃって」
「……いいんです。要は純加さんに感謝してますって、言いたかっただけですから」
結局、果乃子ちゃんの前であんな本音を言えるはずもなく。
いつもの私らしい誤魔化しでオチがついた。
心のどこかで、私のバカ、という声が聞こえる。
でも言ったところでその先を考えられてなかったんだから、むしろこれでよかったんだ。
そう自分の心に言い聞かせて、それ以上は意識から外した。
「そう? それこそ水臭いな~。大したことしてないんだから気にしなくていいのに~」
「あははっ、助けられてた側はそんなに軽くないんですよ?」
私と純加さんがさっきまでの調子でしゃべっていると、果乃子ちゃんは疎外感でも受けたのか、ぶすっとした表情のままぶすっとした声でまたも私の邪魔をしてくる。
「……私、お邪魔ですか?」
「えっいやいやそんなこと——」
「——その通りだよ」
特大の花火が上がった丁度そのタイミングで、混じり気のない本音を爆音に紛れ込ませる。
直前にヒュ~という音が連続して聞こえていたから、経験則で大きいのが来るのは分かっていた。
表情には出さずにこやかだったのに、声も呟くような小ささだから聞こえるはずもないのに。
果乃子ちゃんは、そいつは何かを察知したように私へ向いた。
「……花火の音でよく聞こえなかったんですけど、何か言いました? 夏八木さん」
「ううん。 そんなことないよって言っただけだから、気にしないで?」
「……そうですか」
「今ので花火も最後だったみたいだね。みんなへのお詫びにお土産も買ったんだ。果乃子ちゃん、案内してくれるかな?」
「……こっちです」
花火の打ち止めを察して、私は果乃子ちゃんに案内をお願いすることで無理やり話を終らせる。
先導する果乃子ちゃんの隣へと、純加さんは駆け寄って行ったのは寂しかったけど。
(……まぁ。十分過ぎるほど独占したから、これ以上は欲張りすぎかな)
「果乃子ちゃん、あたしたちを探しに来てくれてありがと! でも花火は楽しめたの?」
「誰かさんが連絡返さなかったからあんまり楽しめなかったです」
「そ、そういえばそうだった……ゴメンね果乃子ちゃん」
「はぁ~……。この夏祭りだけで何回純加さんのゴメンを聞いたことか……」
「果乃子ちゃん、これについてはそもそも私が悪いからあんまり純加さんを責めないで……」
こんな調子で、仏頂面の果乃子ちゃんに私と純加さんで謝り倒しながら陽芽ちゃんたちの元へ向かった。
あれから陽芽ちゃんたちと合流した後、今度は5人固まって屋台を巡って改めて夏祭りを楽しんだ。
夏祭り終了のアナウンスが流れたら、最初集まった駅へと歩いて向かいそこで解散した。
私は1人電車に揺られながら帰って、家に着いた途端浴衣から着替えてベットに倒れこむ。
寝転びながら、波乱万丈だった夏祭りを思い返した。
(見栄えを気にしすぎて遅刻しそうになって。迷子になって。純加さんに見つけてもらって。2人っきりで夏祭りと、花火を楽しんで。そして……)
純加さんに想いを告白しそうになったことを思い出して、カァ~っと熱くなる顔を伏せて足をバタバタさせた。
果乃子ちゃんに邪魔されたのが幸か不幸か、今となっては微妙なところ。
というか、そのことを考える余裕はもうほとんどなかった。
その後もみんなと色んな屋台を回ったから、結構疲れていた。
そのうち抗い難い眠気が押し寄せてきて、私は逆らわずそのまま寝ることにした。
(……いつか、あの続きを純加さんに伝える日が来るのかな……?)
そんな日を望んでるのか、恐れてるのか分からない心境で。
そんなことを思いながら、私は深い眠りについたのだった。
*後書き*
思いつきの話でも大事なパートがあまり時間かけれなかったことのが悔いですが、イフストーリーは一旦ここまで。
今週の日曜から本編続き上げてきます。