もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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※前書き※

アニメアヴェムジカ3話直後の話、という設定。
モーティスモーティスみんなうるさいから、自分なりに死を意味する偽善者をぶん殴るための話。
オチがかなりやっつけなのは流してください。


サイドストーリー3 
人が変わったあの子


 

 

  ○月×日

 

 リーベの営業時間が終わって、今は後片付け中。

 今日は陽芽ちゃんと2人でサロンの掃除をしていた。

 いつも通りおしゃべりしながら明るい雰囲気を作り上げてる。

 ……と思っていた。

 いきなり陽芽ちゃんがこんなことを言い出してくるまでは。

 

「夏八木さん、なんか元気無さそうだね」

 

 気掛かりがあるせいで気分が沈み気味の自覚はあった。

 だから営業前から意識していつも通りの自分を塗り直していたはずだったのに。

 外面使いという同族としての直感か、何なのか。

 

「……えー、全然そんなことないよ〜?」

 

 鋭く指摘してきた彼女に、反射でやんわり否定する。

 踏み込まれると困る事だったから。

 ただ、この返答が誤魔化しになってないことは口にしながら分かっていた。

 事実、陽芽ちゃんは下手な三文芝居をどう気遣おうか困ってるように見える。

 

「……昔さ。私と仲良くなりたいって言ってくれたよね」

「……うん」

 

 私がリーベを初めて間もない頃。まだ陽芽ちゃんが外面で突き放してきたときの話だ。

 頑なに壁を作る彼女と少しでも打ち解けたら、と体当たりしたのだった。

 

「今は私も、本心から夏八木さんと仲良くなれたらいいって思ってるよ。だから、言える範囲でいいから何か吐き出したいことあったら言ってね!」

 

 いつもの外面スマイル。でも自他共に認める陽芽ちゃんらしさ。

 作ってるはずなのに本音を伝えてくる同族の歩み寄りに、内心参ったと溜息ついた。

 

「……例えばの話なんだけどね。陽芽ちゃんの友達に、物静かであまり感情を出さない子がいたとして」

「それって……果乃子的な?」

「そうだね……例えば。あくまで例えば、果乃子ちゃんだとして」

 

 あまり好意的ではないとはいえ、この例え話に果乃子ちゃんを当てはめるのは少し心苦しかった。

 

「ある日突然、陽芽ちゃんみたいに明るい笑顔で、それも大勢の人を前に楽しそうにおしゃべりしてたら……別人みたいになったら、どう思う?」

「……」

 

 テレビで見た睦ちゃんが、正にそんな感じだった。

 いつも無表情で、口数少なすぎるぐらいしゃべらないのに。

 それが、私の知ってきた若葉睦なのに。

 饒舌に、にこやかに。

 しかも元々そうだっかのような自然さで、人受けする愛嬌を完璧に振る舞う。

 スームアップで映ってるワンショットの彼女が睦ちゃんだと認識するのに、酷く難儀した。

 難儀したというか、今ですら認識できてるかあやふやなのだけど。

 

「果乃子がもしそうなったら……何か変だから、とりあえず話を聞く!」

「そうだよね。陽芽ちゃんと果乃子ちゃんは仲良しの友達だもんね」

「夏八木さんとその子は違うの?」

「…………」

 

 仲良くはない。昔はともかく、今は間違いない。

 そうはっきり思うのだけど。

 じゃあどうして仲良くもない、元バンドメンバーってだけのあの子を心配してるんだろう。

 そういう話になってくる。

 

「……もしかして……仲悪いの? 夏八木さんでも、そういう相手作るの?」

「仲悪いっていうか……仲違い、って感じかな」

 

 仲悪い、という表現にほとんど意味の無い抵抗をしてしまう。

 前まで私から近づいていたのにある機会を境にパッタリかかわらなくなったこと。

 せっかく差し入れしてくれたのに突き返したこと。

 私以外とバンド組んでると聞いて、恨みがましい怒りをぶつけたこと。

 それが仲違いで済むはずがない、だろうか。やっぱり私たちはもう『仲悪くなった』のだろうか。

 

「仲違いしたまま、かぁ。夏八木さんにとって、それだけ重要な人なんだね」

「重要? そこまでじゃないかな」

「でも間違いなくどうでもよくないでしょ? そうだったらいつもの調子崩してまで気にしないでしょ」

「……そうかもね」

「話してみたら? 喧嘩したままじゃ気が重いだろうけど、ずっとそのモヤモヤ抱えたままじゃ自分が辛いだけでしょ」

「もう、そういう間柄じゃないんだよね。大した用もないのに、話しかけるような関係じゃないんだ……」

「そう言われちゃうとなぁ……」

 

 何も言えなくなって掃除で間を取る陽芽ちゃんは、私の意識からほとんど外れていた。

 本音は分かってる。気になって仕方ないのだ。

 特に左目から流していた涙。あれはテレビ用の演技か、それとも……

 

「どうして……」

 

 どうしてこんなに距離が開いたんだろう。

 どうして運命を共同していたはずの相手に、何もできないんだろう。

 どうして……終わった関係にここまで悩まされなきゃいけないんだろう。

 

「夏八木さん」

 

 肩をポンと叩かれて正気に戻る。自分が思わず嘆いた一言も思い出した。

 いくら仲良くなったとはいえ、素の部分に呑み込まれてるところを晒すなんて。

 

「私がその子の立場だったら。たぶん、夏八木さんには放っておいて欲しいと思う。踏み込まれても拒絶して、突き放したと思う」

 

 クルっと私に背を向けながら明るい調子で、現実的で冷徹なことを言う陽芽ちゃんの意図が読めない。

 

「でもさ。私には何度も何度も傷つけて拒絶して突き放したのに、何度でも向き合って踏み込んでくるヤツがいたから。だから、今の私がいるわけ」

 

 今度の陽芽ちゃんは微妙な表情だった。

 笑顔は笑顔だけど、困ったような苦笑い。

 つまり、外面で隠すべき嫌な本音を全て晒したような、そんな風に見えた。

 と思ったら、急にまた外面笑顔に戻った。

 わざとらしいタイミングの作り笑いが、発するセリフに違和感を持たせる。

 

「『時には愚直にぶつかることが必要なときもあるよ』」

「?」

「『あなたは自分の心と向き合って道を選びなさい。人のためではなく、自分が望む道を選ぶのよ』」

「……」

「『自分が良いと思ったことをやって欲しい』」

「……何かの、セリフ?」

「そうだね。逃げようと必死だった女の子に向けた、お節介な人たちのセリフ。何の作品かは秘密♪」

 

 くっくっと笑う陽芽ちゃん。

 なんだか自分がぶつけられて参ったセリフを誰かにぶつけたように清々した笑みだ。

 自分の心と向き合って、自分が良いと思ったことを、愚直に……。

 

「……ありがとう、陽芽ちゃん。まずは私がどうしたいか、整理してみるよ」

「どういたしまして。同族のよしみだよー♪」

「ふふっ、じゃあ陽芽ちゃんが元気なかったら私が励まさないとだね。んー、でも陽芽ちゃんは美月ちゃんに励まされた方が嬉しいかな?」

「えー、でもサロンならともかく素の矢野はそういう気遣い下手そうだしなー。励ましてるつもりで逆効果そう……」

「……そう。ならアンタが悩んでても私は何も言わないから」

「えっ矢野!? いつから聞いてたの!?」

「ついさっきよ。アンタが私のこと散々こき下ろしてくれてるところからよ!」

「い、いやアレだよ! ほら、サロンの優しい矢野で励まされたら元気になるだろうなーってのが言いたかったっていうか……」

「嘘よ! どうせ私のこと空気読めないとかガミガミ煩い小姑とかそんな風に思ってるんでしょ!」

「小姑なんて言ってないでしょ! お前の被害妄想強すぎ!」

「空気読めないも否定しなさいよ!」

「自分で言っといて!? どんだけめんどくさいやつなんだよ!?」

 

 サロンに来た美月ちゃんといつものように騒ぎ出す陽芽ちゃんにやれやれと思いつつ、私は2人の世界を邪魔してしないようにサロンを後にする。

 

(外面張ってても。逃げちゃいけないときはある、か。……怖いなぁ)

 

 私にまで別人みたいに接してきたらどうしよう。

 それまでを否定されるようで躊躇するけど。

 同族が同じような状況で踏み込まれて良かったって言うんだ。なら、その言葉を信じてみよう。

 私はどうでもよくない相手に向き合う覚悟を胸に、帰り支度をするためバックヤードに入って行った。

 

 

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