もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
サロン係のみんなとある程度仲を深め、純加にはCRYCHICの話を受け止めてもらったそよ。
各々との仲を考えると理想の居場所とは言い難いけど、そよにとってリーベはCRYCHICの代わりと言える居場所になりつつあった。
ただ、そんな居場所になったのはサロン係のみんなと仲良くなれたから、とそよは意識していたが。
身も心も抱擁してくれた純加に対して、自覚してる以上に特別な感情を抱いてることの方が大きかった。
そんな自身の気持ちに気づかないまま、そよは果乃子と仲直りした日から数日穏やかに過ごしていた……
31.
10月14日 土曜
今日はリーベがお休みの日。
私はバンド活動のため、ベースを担いで馴染みのライブハウスへ向かう。
ライブハウスに着いて予約されていたスタジオに入ると、楽奈ちゃん以外のメンバーがいた。
私が来た事に気付いたピンク頭の子がテンション高めで声を掛けてくる。
「あ、そよりん来た! 明日予定ある? みんなでカラオケ行こうって、リッキーやともりんと話してて——」
「いや私は行かないって言ってるんだけど」
「ごめんあのちゃん。私も明日はプラネタリウム行きたいから……」
「って感じで、既にこの2人から断れてるんだけどー! ひどくない!?」
(なんだ、いつものことか……)
周りの反応が芳しくなくて1人で騒いでるサイドギターを横目に、私は持ってきたベースを機材につなげて準備しようとする。
面倒だから黙ったまま逃げようとしていたのだけど、そうは問屋が卸さなかった。
「そよりんは来てくれるよね!?」
「悪いけど、私も明日は午前中から予定埋まってるから」
予想していた流れに、用意していた回答をそのまま告げた。
明日はリーベの営業前に、サロン係のみんなと遊びにいくことになっていたのだ。
入ったばかりの頃なら憂鬱だったと思うけど、今の私たちの仲なら楽しみだった。
これを機にみんなともっと仲良くなれそうだし。
……ちなみに本当は昼頃集合なんだけど、午後もバイトなのに午前から予定を入れるなんて御免だった。
(そういえば、純加さんと遊ぶのも初めてだな。やっぱりギャルっぽい服で来るのかな? リーベじゃ見れないような、新鮮な一面を発見したりして……)
最近私の中で特別大きな存在となっている女性のことを想像して、楽しみが増してきたところで。
結局全員からカラオケを断られた哀れな人が、鬱陶しく顔をニマニマさせて面倒くさい絡み方してくる。
「そよりんニヤニヤして、よっぽど楽しみな用事なんだー。もしかしてデートとか!?」
「……そんなわけないでしょ」
「えー? でも確かに、恋愛とか興味なさそー」
最後のセリフについては私をどういう風に見てるのか問い質したくなるほどイラッとしたけど、否定はしなかった。
私は男子禁制のお嬢様学校の生徒で、バンドメンバーもバイト仲間も女性だけ。
そんな環境で忙しくしてる私が、恋愛なんかに興味持つはずない。
持つはずがないのに、今も純加さんの顔を思い浮かべてるのは何故なんだろう。
恋愛に興味ないはずなのに、あの人と恋人みたいになるのを無意識に想像なんてして。
しかも拒絶感が湧いてこないのはどうしてなんだろう。
むしろ心がほんわり暖かくなってくるのだけど、これが意味するところは何なのか無性に気になった。
さっきまでの私の一連の反応を客観的に分析すると、当たり前のように1つの仮説に辿り着く。
(まさか私、純加さんに恋してる……とか?)
ありえない。だって女どうしで恋愛とか、私にそんな趣味はない。
恋愛経験はないけどはっきりそう言える。
だって女性に恋したことなんて一切無かったから。……男性にも碌に無いけど。
だからこの感情は恋愛のそれじゃない、ということになる。
これは多分、私にとって珍しい『頼りになるお姉さん的な存在』に特別意識を向けてるだけのはず。
導き出した恋という仮説を、気の迷いが生んだ誤答とあっさり切り捨てる。
(まぁ……CRYCHICの話も嫌な顔せず聞いてくれて、その上ずっと誰かに言って欲しかったことをくれた純加さんだもん。他の人より特別に思うのは……おかしくはない、よね?)
顔に若干火照りを感じながら純加さんへの特別意識を正当化していると、ボーカルらしからぬ弱弱しい声が話に混ざってきた。
「……でも、さっきのそよちゃんの顔……昔みたいな笑顔、だったよ?」
「えっ?」
裏表もなく嫌味も言えない燈ちゃんの言葉に素直に驚く。
自分がそんな風に笑っていたことは無自覚だっだけど、燈ちゃんに昔みたいな笑顔と言われることに悪い気はしなかった。
だって、それは昔の——あの頃の私に戻ってきてるってことだから。
(そっか。リーベが本当に、私の理想の居場所になりつつあるんだ)
MyGOが再結成されてから、私はここじゃあまり笑えていなかった。
前みたいにニコニコしづらい経緯を辿ってきたから。
だからここでも自然と笑えるようになってるってことは。
やっぱりリーベのみんなとの関係が、私を楽にしてくれているんだと思う。
——いや、それだけじゃないか。
あの人がCRYCHICの話を聞いてくれて、私を肯定してくれたから。
胸につっかえていたものがとれた分だけ、素直に感情を出せるようになったんだろう。
(こんな調子なら、自分自身を少しずつでも受け入れていけるかも。純加さんが言ってくれたように、私自身に優しくできるかは自信ないけど……)
「そよ。今はいいけど、ライブが決まったらこっちを優先して」
先輩との大切な想い出に浸る私へ、気の強そうな声が水を差してくる。
嘆息しながら、相変わらず刺々しいドラムに返事をする。
「立希ちゃん、分かってるから」
「ならいいけど……」
と言いつつ、まだ何か言いたそうにこっちを見てくる立希ちゃん。
釘を刺したらあとは深追いしないのが立希ちゃんだから少し意外で気になった。
「まだ何かあるの?」
「いや……燈の言う通り、なんか前のそよみたいだなって思っただけ」
燈ちゃんだけでなく立希ちゃんまでそう言ってくれるなら本来喜ばしいことだった。
でも立希ちゃんは奥歯に物が挟まったような顔をしていて、あまり快く思ってないように見える。
私はそれが気に入らなくてつい突っかかった。
「前みたいに笑ってた方が雰囲気だって良くなるのに、なんでそんな微妙な顔してるの?」
「前みたいなそよはどこか危なっかしいんだよ」
「……どういう意味?」
つい、冷たい声色で喧嘩腰になる。
でも聞いておきながら、内心朧げに心当たりがあった。
立希ちゃんが何を言いたいのか、なんとなく想像できてしまう。
だからこそ、それを今更絶対に認められなくて無気になっていた。
「だからっ」
そんな私に立希ちゃんも声を荒げて対抗してきたところに、スタジオの扉が開いて楽奈ちゃんが入って来た。
「バンド、やろ」
とお決まりのセリフを言いながら機材の準備をマイペースに始めるリードギター。
そして全員揃った状況でバンドに関係ない雑談を続けるような無駄を嫌う立希ちゃんは
「……じゃ、始めるから」
さっきまでのやりとりが無かったかのように淡淡と練習開始を宣言する。
ボーカルとサイドギターも気まずそうに練習の準備を始め、仕方なく私も黙って合わせることにする。
スタジオに激しい音楽が鳴り響き、さっきまで喧嘩寸前だった緊迫感はすっかり搔き消されていた。
だが1人、ベースの女の子だけは指先で音を奏でながら密かに先ほどの会話を引きずっている。
(大丈夫。もう前みたいなことにはきっとならない。例え何かあったとしても。あの人が助けてくれるなら、あの人さえ隣にいてくれるなら。私は、あんなこと繰り返さないはずだから……)
後々排除することを前提に、上辺だけ仲良しを演じて打算的に利用する経験もした。
狙った展開に誘導するため、相手の本音を引き出して背中を押すような謀も経験もした。
相手の引け目に付け込んで協力させるよう、脅しに近い迫り方も経験もした。
どうしようもないのに、みっともなく縋りついて懇願する経験も、した。
女の子はそんな過去の自分から逃げるために、心の中で一人の女性を必死に頼った。
*後書き*
サイドストーリーはイフのお話です。
なので、この話のそよにはババ抜きや夏祭りなど、サイドストーリー上の記憶はありません。
あくまで純加と出会ってから約2週間しか経っておらず。
純加に抱きしめてもらってから4日しか経過してないそよです。
ややこしいかもしれないですが、よろしくお願いします。