もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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32. お嬢様たちのお茶会 出張編

 

 

 10月15日 日曜

 

 バンド練習の翌日。

 お昼の12時に駅前で、サロン係みんなと集合の予定だった。

 5分前に着いた私が最後だったらしく、4人とも既に揃っている。

 

「お。そよちゃんごきげんよー!」

「ごきげんよう、純加さん。リーベじゃなくてもその挨拶なんですね」

「純加さん! 今日は偵察目的でもあるんですから、目立つ言動は控えるべきです!」

「矢野は遊びにいくときも真面目だなー。もっと気楽に楽しめばいいのに」

「そうだね。楽しみだねひめちゃん」

 

 4人らしい会話に出迎えられ、慣れ親んだ雰囲気に安心する。

 美月ちゃんの言う通り、今日の遊びは一応偵察の名目も兼ねているのだった。

 

 

 

 先日、みんなでどこか遊びに行こうか、という話が上がったとき。

 チラシを片手に店長が話に混ざってきた。

 

『ならみんなでこのお店を偵察してきてください! そして盗めるものは遠慮なく盗んできてくださいね!』

 

 チラシを見るに、そこは最近できたコンセプトカフェらしい。しかもリーベから程近いところにお店を構えている。

 同業が近場に現れたのなら、店長としては無視できないのだろう。

 他に行きたいところの案も特になかったので、異議なしということで敵情視察が決まり、今に至る。

 

 

 

「5人揃ったし、早速行こっか!」

 

 純加さんが年長者らしく先導する。

 件の店は駅のすぐそばだから、お店に入るのに数分もかからなかった。

 

「お帰りなさいませー! ご予約されてた橘様ですね、5名様ご案内します!」

 

 コンセプトカフェらしい挨拶に出迎えられながら、私たちは予約席に案内される。

 オープンしたてのお店だけに、席もほとんど埋まっていてかなり盛況していた。

 

(ていうか純加さん、わざわざリーベの偽名で予約しなくても……。まぁリーベ大好きな純加さんらしいか)

 

 リーベの外だろうと構わずリーベ愛を貫く純加さんに、私は苦笑いしつつ席に座る。

 ちなみに円形のテーブルに私、純加さん、果乃子ちゃん、陽芽ちゃん、美月ちゃんの席順で並んでいた。

 別に偵察を意識してじゃないけど、お店の雰囲気を眺めつつ事前に軽く教えられていたコンセプトを思い出す。

 このお店は、貴族制度のある国のカフェで貴族の淑女と平民の小間使いが入り混じって給仕している、という設定らしい。

 今案内してくれてる人の衣装は簡素なものだから、この人は平民設定なんだろう。

 髪を三つ編みにして下げているのも田舎っぽさを演出していて、キャラの作りこみ具合に本気を感じる。

 周りを見てみると、貴族出身をアピールするためか比較的華美な服装で上品さを主張させてる店員もいた。

 そうやってキャストを観察してるだけでも、結構面白みがある。

 

(リーベみたいに統一してるのもいいけど、キャストによって服装が違うのも新鮮かも)

 

「初めてのご利用とのことでご説明させていただきます! 当店1時間制となっておりまして、それ以上のご利用は延長料金がかかりますのでご了承ください!」

「はーい、分かりましたー」

「それではご注文をどうぞ! ちなみに、ただいまのおすすめはケーキセットです!」

 

 純加さんが代表として受け答えしてくれながら、私たちは勧められるままにケーキセットを注文する。

 ちなみに5人とも違うケーキを選んでいた。

 

「見ている感じ、キャストとお客さんとの絡みが多いねー」

「リー……ウチとは違う趣きですね」

「というかコンセプトカフェって普通こういうものなんじゃないのかな?」

 

 純加さんと美月ちゃんの分析に私が思っていたことをツッコむ。

 2人の言う通り、店員が話す相手はお客さんがほとんどだった。

 私たちみたいにキャスト同士で絡んでお客さんに見せるようなパフォーマンスを見なくて、ふと思う。

 

(やっぱり、リーベのノリがおかしいんじゃ……)

 

 別にリーベのスタイルが嫌なわけじゃないけど、今日は一般的なコンセプトカフェを楽しもう。

 何事もスタンダードを知っておくのは大事なのだし。

 私たちが偵察らしい会話をしてるよそで、陽芽ちゃんはお店ではなくメニュー表を興味津々に眺めていた。

 

「ていうかさ、ケーキセットがおいしそうで楽しみだよね!」

「ひめちゃん、ケーキ一口交換しよう?」

「あなたたち……流石に遊び気分が過ぎるわよ」

「まぁまぁ矢野ちゃん! 半分以上遊びで来てるんだから固いこと言いっこなしだよ?」

「それに美月ちゃん。そんなに固く構えてると店員さんに怪しまれちゃうよ?」

「そ、それもそうね……」

 

 そんな話をしてると注文したケーキセットが来た。

 みんなでケーキと紅茶を楽しんでると、陽芽ちゃんが何かに勘づいたように言い出す。

 

「ねぇ、あの店員たちなんかするつもりみたいじゃない?」

「陽芽? なにかって…」

 

 美月ちゃんが反応しつつ、みんなで陽芽ちゃんの視線の先を追う。

 すると2人の店員が対面していた。

 1人はさっき案内してくれた平民さん。

 もう一人は綺麗で上品な衣装の貴族っぽい女性。この際、貴族さんと呼ぼう。

 2人は急に抱き合ったかと思うと、キスするくらい顔を近づけて何か話をしていた。

 最初から聞いていたわけじゃないのでよくは分からないけど、どうも貴族と平民という立場の違いが2人の邪魔している、とかなんとかだった。

 

(って、結局リーベみたいな小芝居もあるんだ……)

 

 なんとなく騙された気分だった。

 1人で勝手に裏切られてる私をよそに、フロア中の客たちが色めきだっている。まるでウチの来校者様みたいだった。

 そして純加さんたちも

 

「あんなことまでするなんて、やるな〜」

「……客との絡みだけじゃなくて店員同士でもああいうことするんですね。それにしても……」

「距離近すぎじゃない!? もうキスする距離じゃん!」

「そうね。お客さんの前でかなり大胆なことしているわ」

 

 (いや、サロンでのみんなの距離間も大体あんなものだけど……)

 

 自分たち姉妹の絡みを棚上げして驚愕する4人。

 もしかしてあの小芝居の距離感に無自覚なのかもしれない。にわかに信じられないけど。

 と思ってたら少し純加さんが顔を赤くして小芝居から顔を逸らしていた。

 よく分からないけど、もしかしたら純加さんには自覚があったから恥ずかしくなったのかもしれない。

 

「純加さん? どうかしたんですか?」

 

 そんな純加さんに果乃子ちゃんが気づいて顔を覗き込む。

 珍しく陽芽ちゃん以外を気にかける果乃子ちゃんに、純加さんは少し慌てた様子で誤魔化すように返した。

 

「い、いや。あたしたちも負けてられないと思ってさ! ——これからはもっと遠慮なくいくからよろしくね、果乃子?」

「こんな場所でやめてください」

 

 席が隣なのもあってひっつこうとする純加さんをいつも通り引き剥がしながら、果乃子ちゃんは席を立った。

 どうやら逃げるついでにお手洗いに行くみたい。

 

「ちぇー、相変わらずつれない妹だこと……」

 

 心なしか本気で寂しそうに見えた純加さんに、つい私は口を挟んでしまう。

 

「あの……そういうのって、姉妹でしかダメなんでしょうか?」

「えっ?」

 

 つい勢いで言い出してしまった私に、素で驚いたような反応を返す純加さん。

 私はいつもより強くなってる心拍に耐えながら、意を決して言い切る。

 

「た、たまには妹じゃないサロン係とそういう小芝居しても盛り上がるかなって思って……ど、どうでしょう?」

 

 コスコスコスコス……

 私は言い切った後も机の下で爪を擦り続けて止められない。

 今はこれをしてないと、痛いくらい激しい心臓の鼓動に耐えられなかった。

 

 (やばい。私絶対変な目で見られてる……)

 

「……そっか、そよちゃんだけ姉妹いなかったもんね。疎外感あるよね。よーし! おいで、そよ?」

「は、はい。では失礼して……」

 

 何か勝手に察してくれた純加さんが隣の私に体を向けて両手を広げてくる。

 自分から言ったからには引き下がれない私は、素直に純加さんに体を寄せて純加さんの腕に抱かれた。

 

「よしよし。成りたてのサロン係として、いつも頑張ってくれて頼もしいわ。ありがとう、そよ」

「あっ……す、純加さん……えへへ♪」

 

 純加さんの胸の中で、純加さんの匂いを感じつつ、純加さんの声が耳元で私を肯定してくれる。

 前に抱きしめてもらってから特に意識してる人が相手だからか、距離感のせいなのか。

 胸のドキドキがうるさくて、頭のてっぺんまでゾクゾクして、何がなんだかよく分からない。

 

(なんなのコレ……前に抱きしめてもらったときといい、純加さんと密着するとどうしてこうなるんだろう……)

 

 よく分からないけど、ずっとこの時間が続いて欲しかった。

 そう思うってことは、今が幸せってことだから少なくとも悪いことじゃないんだろう。

 何だかズレた考え方をしてるけど、それもきっとこのよくわからない感覚のせい、と決めつけて考えるのをやめた。

 

(……せっかくなんだし、もうちょっとだけこのまま……浸っていたいな)

 

「あ、ありがとうございます、純加……お姉様、なんて……」

「……あの、そよさん……?」

「夏八木さんって、意外と甘えん坊?」

 

 美月ちゃんと陽芽ちゃんの声で、ようやく2人に見られてたことを自覚する私。

 急に恥ずかしさが込み上がってきて、勢いよく純加さんから離れた。

 離れた瞬間に感じた名残惜しさや寂しさを無意識に追いやって、この場を取り繕うことに集中する。

 

「え、えーっと……たまには姉妹ペア以外でこういうのもどうかなって……。ね、2人から見てどうだった? お客さん受けしそうかな?」

「どう、って言われてもなー……」

「私も陽芽と姉妹になる前はよく純加さんと小芝居していたし、なくはないかもしれないけど……」

 

 2人はなんだか答えずらそうだった。もう大至急この話から逸らした方が良さそう。

 私は手元の紅茶を飲みつつ口を開く。

 

「そっか。でもこの紅茶、おいしーね〜。お店のオリジナルらしいけど」

「そうね。甘いケーキと相性のいい紅茶だと思うわ」

「……そうだねー。夏八木さんにしては急な話題転換だけど」

「ははっ、そよちゃんにしては珍しく余裕ないみたいだねー」

「ひ、陽芽ちゃんに純加さんまで、もういいじゃないですか~!」

 

 珍しくイジられてしまった。

 とにかくこの流れを変えたいと思ってたとこに、丁度果乃子ちゃんが帰ってくる。

 席に着くなり、陽芽ちゃんに笑顔を向けて話しかけていた。

 

「おまたせひめちゃん、ケーキ交換しよ?」

「あ、果乃子おかえり! うん、交換しよっか。てゆーか矢野も交換してよー」

「しょうがないわね……」

「…………」

「か、果乃子ちゃん、あたしとも交換しy——」

「ひめちゃんと交換する分しか残ってないのでお断りします」

「そ、そっかー。数も多くないし、仕方ないよねー……」

「あの、純加さん……私と交換しませんか?」

「いやーそよちゃんは優しいーなー!」

「……夏八木さん、純加さんを変に気遣うと余計面倒くさくなるので程々にしてください」

「いやー我が妹は厳しーなー!」

 

 

 そんなこんなでケーキの一口交換し合いっこ1つ穏便に済まないサロン係だった。

 

(……うん。やっぱり仲良しグループ、ではないかな)

 

 改めてグループの仲を認識する。

 でも決して悪くは……ない、はず。今のバンドも似たようなものだし。

 これからに期待しよう。もし万が一こじれそうになったら私が動くし、純加さんもいる。

 

(純加さんさえいてくれたら、どんな状況もなんとかできそうな気しかしないなぁ)

 

 先輩さえいてくれれば、今の私には怖いものなんて思いつかなかった。

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