もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
コンセプトカフェで紅茶を飲みながらおしゃべりをしていると
「矢野さん? 矢野さんじゃん!」
「しいちゃん、邪魔しゃ悪いって……」
私たちの輪の外から、美月ちゃんを呼ぶ誰かの声が聞こえてきた。
「椎名さんと渚さん?」
声の方を見ると私たちと同じくらいの女の子2人組だった。どうやら美月ちゃんの知り合いらしい。
1人は美月ちゃんに会えたことに笑顔だったけどもう1人は浮かない顔で、その対照的な様子が気になった。
やはりというか、陽芽ちゃんが最初に反応して美月ちゃんに尋ねる。
……今となっては若干懐かしくもある、他所行きの振る舞いで。
「矢野さん、知り合いの人ですか?」
「えぇ、同級生よ」
「初めまして! 椎名です。こっちは渚」
「……どうも」
「2人とも偶然ね」
「ホントだねー矢野さん! あ、近くの席空いてるしお邪魔でなかったら私たちもご一緒していい?」
椎名さんがそう言い出して、浮かない顔だった渚さんが更に顔を曇らせる。
(これは、あの子……渚さんとってあんまりよくない流れみたいだけど、どうしようか……)
そこに1人の店員が割り込んでくる。
ちなみにさっき大胆な絡み合いをしていた店員たちの片割れ、私たちを席に案内してくれた平民さんだった。
「お客様、申し訳ございません! ちょうど予約席ができてしまいまして……。こちらの席をまとめて使用したいので、差し支えなければ奥のお席へご案内させて頂きたいのですが……本当にすいません!」
椎名さんと渚さんに何度も頭を下げながら、必死に謝意を伝える平民さん。
こういう飾らない振る舞いも、平民っぽさを演出しているために徹底しているのだろうか。
「あ、そうなんですね……残念だなー」
「仕方ないよしいちゃん。せっかくだけど店員さんの言う通りにしよ?」
「そうだね。それじゃ矢野さん。また学校でね」
「矢野さん。またね」
「えぇ、2人ともまたね」
2人は奥へと案内する平民さんについて行った。
最後は渚さんの顔は柔らかくなっていたように見えて、なんとなく私は安堵する。
「……あのお2人、なんだか見ていて微笑ましいですわね。あの子もいい機転を利かせたものだわ」
いつの間にか近くにいた別の店員さんが、私たちと同じように見送りながら話しかけてくる。
例によって、さっきの平民さんと熱烈な絡みをしていた貴族さんだった。
こちらは貴族キャラを徹底したいのか、上品な言葉遣いをしている。
「えっと、ただ仲のいい友達みたいに見えましたけど……そうじゃないって言いたいんですか?」
純加さんが貴族さんの絡みに応える。私も純加さんと同じ所感だった。
さりげなく2人の知り合いである美月ちゃんを見ると、きょとんとしている。
顔を見た感じ、2人の仲を断言できるほど知ってるわけじゃなさそう。
「私の勘ですと、関係を結んではいないですけど……片方は確実に好いてらっしゃいますね。特別な意味で」
「えー、でも同性同士、なのに……そんな簡単に断定しちゃうのはどうなんですかね……?」
歯切れ悪くも、貴族さんの暴論気味に聞こえる推察に付き合う純加さん。
美月ちゃんは困惑した顔になって、陽芽ちゃんも同じような表情で口を挟めずにいる。
果乃子ちゃんはあまりいつもと変わらない顔で聞いていた。
まぁ十中八九どうでもいいんだろう。
「あくまで勘、でしてよ? 少なくとも、私には同性同士の恋に抵抗がないもので」
では失礼させて頂きますわ、と言い残し貴族さんは去って行った。
私たちは全員浮かない顔になって、しーんとした空気になってしまう。
(同性同士で、好き。恋愛……)
空気的には話題を変えるべきだと分かってはいた。
なのに私は、その判断を無視して話を引っ張ってしまう。
「あはは、あの店員さんの話がホントならびっくりだよね〜。私は恋愛とかしたことないからよくわかんないんだけど……みんなはしたこと、あったりする?」
「…………」
予想通り皆の反応が鈍い。というか誰も反応してくれなかった。
それでも聞くのを止められない。
昨日から妙に意識し始めた恋愛について、深掘りせずにはいられなかった。
「ごめんね、言いたくなければいいんだけど……みんなのことを知りたい、ていうより。私が恋愛のことちょっとでも知りたいと思ったの……」
ちょっとでもこの場に合うよう取り繕ったことを並べる私。
でも思いつきで言ったそれは、真っ赤な嘘でもなかった。
その悪あがきのおかげか分からないけど、陽芽ちゃんが反応してくれる。
「私は……ないけど。でも異性とか、同性とかでその人の好きを否定したくはないな、って思うな」
陽芽ちゃんは最初こそ難しい顔で切り出したけど、途中からいつもの笑顔で言い切った。
「陽芽……」
そこでどうして美月ちゃんが複雑な顔で微笑むんだろう。
あとここで陽芽ちゃんが顔赤くするのおかしいよね?
ここまであからさまだと、流石に2人の関係を勘繰ってしまう。
(もしかしたら、美月ちゃんにそういう経験があったりして。それを陽芽ちゃんは知ってる、とか? まさか2人が付き合ってたり……しないよね?)
2人の裏側を邪推してると、今度は純加さんが口を開いた。
「そよちゃんそよちゃん。こんな人がいっぱいいるところで恋バナなんてしづらいって」
「あ、そ、そうですよね。すいません変な話振って……」
「でも、そうだね。その人のことで一喜一憂したり、その人のことばかり考えたり、その人のことばっかり目で追ったり。恋って、そういうもんなんじゃない?……小説とかでよくある話だけどね!」
「って結局本の話ですか~?」
具体的な話だと思ったら、取ってつけたように本からの情報と強調してヘラッと笑う純加さん。
私はツッコミをいれつつ、
(そういえば純加さんはギャルなんだった。ギャルって恋愛とかそういうのに奔放だよね? なら純加さんだって恋愛しててもおかしくない、のかな……?)
でも純加さんに彼氏がいると想像してみると、形容し難い不快感につい奥歯を噛み締めそうになる。
別に、私にとやかく言う権利も何もないのに。
頭で分かっていても心が納得してくれない。
(……失敗した。こんな話、手出さなきゃよかった……)
湧き上がる後悔ごと、意識から消すために一秒を惜しんで頭と心を空っぽにしようとする。
でも一番消し飛ばしたかった
最近色んな場面で、馴染みのない気持ちに見舞われることが多々あって、いい加減気になっていた。
その原因に繋がるヒントを、昨日のバンド練習を機に勘づいた。と、思っていた。
そう、せいぜいヒント止まりだと思ったんだ。
まさかそのまんま答えに繋がらないはずだって。
だから自分をおかしくしていたものをはっきりさせようと、何の躊躇いもなく踏み込んだのに。
今は
自分から踏み込んでおいて、みんなも巻き込んでおいて、なんて無様なんだろう。
でも仕方なかった。今はギリギリ曖昧なラインで踏み止まったまま、なんとか目を逸らしているような感じだけど。
これ以上気づいてしまったら、誤魔化しようもないくらい自覚してしまったら。
何かが変わって、もう後戻りできない気がしたから。
それが怖かったから、この話を終わらせて色々仕切り直しにかかる。
「……恋バナはここまでにしときましょうか。みんな経験ないみたいですし。ギャルの純加さんですら♪」
「あー! ギャルはみんなオトコアソビしてるって偏見だー!」
「でも橘さんって確かに見た目ほど中身ギャルっぽくないですよね。遊びよりリーベの方が好きそうですし、ギャルの割に真面目だし」
「ひめちゃんもめちゃくちゃ言うし!」
「私もリーベのサロン係になってから純加さんがギャルって知ってとても驚きました」
「あー、そういえば矢野ちゃんはあのとき舞さんが店長ってことにも驚いてて大変だったよねー」
「…………」
無事に話が逸れ始めてくれて、空気的にも私個人としても助かった気分になる。
純加さんをネタに笑いで話が盛り上ることで、私は次第に意識したくないことを忘れていけたのだった。
果乃子ちゃんがこの時に限って純加さんを見つめてたのは、単なる気まぐれだろうと決めつけた。
*後書き*
念の為の注意書き。
椎名とありますが、立希ではありません。
わたゆり原作に登場するキャラクターです。