もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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34. 名もなき魔女の戯れ

 

 

 コンセプトカフェにて思ったより濃い1時間を過ごした私たちは、仕事も控えてるので延長せずに席を立ち会計を済ませる。

 この後はみんなでリーベに移動する流れだった。

 その前にトイレに行きたかった私は、みんなと店員に断りを入れてお店のお手洗いを使わせてもらう。

 

 お手洗いを出た後、お店の出口へと向かう私は1人の目立つ格好をした女性が目に入る。

 どう見てもウェイトレス等のもてなす側な服装ではなく、コスプレみたいに目元を隠すハーフマスクをしてるから、店員とかじゃないように思う。

 店員でもないのにコンセプトカフェで特徴的な格好をしているその人は、私に気付くと何故か声をかけてきた。

 

「あら、あなたは5人組で来られてた……さっき帰られたと思ったけど、何か忘れ物でも?」

 

 その人はこのタイミングでハーフマスクを外す。ここで外すくらいなら何故つけてたんだろう。

 20代中盤くらいの社会人だろうか。紫がかったロングヘアで、左目の下にある泣きボクロが印象的な女性だった。

 空調に乗ってほのかに香る香水が鼻腔をくすぐる。

 いかにも大人な雰囲気を醸し出していた。

 

「いえ、お手洗いをお借りしまして。あの、あなたは……」

「あぁ、急に話しかけてごめんなさい。私はこの店の立ち上げを手伝った関係者、みたいなものよ。昔の経験を買われてモニターに付き合っていたら、あなたたちが興味深かったから注目していたの。もしかしたら、ここと似たようなお仕事されてるかもって」

 

 純加さんみたいな不敵なものではなく、大人の余裕を感じさせる微笑みで言い当ててくる。

 何か咎められるかもと思って焦り始める。

 

「い、いえ私たちは別に……」

「ふふふっ、いいのよそれは。()()()に話しかけたのは別のことなの」

「別って……」

「さっき恋愛の話をしていたじゃない? あなたは恋愛したことないって言ったけど、あれは本当?」

 

 そんな細かいとこまで聞かれてたんだ。

 すぐ近くにいたとしか思えないけど、途中からはお店の観察もおざなりだったからどこにいたかは分からなかった。

 でも、もうそんなことどうでもいい。

 今は急におかしなことを聞いてきたこの人にちゃんと断言しつつ、質問の意図を問い質さないと。

  

「はい、そうですけど……どうしてそんなこと——」

「あぁ、正確に言うと()()恋愛してないって言える?」

「え……」

「あなた、恋してるでしょう? さっき隣に座っていたあのギャルっぽい子に」

「なっ……!」

 

 ドクンッ! と強く心臓が暴れる。

 私自身でも触れられない部分にいきなり風穴を開けられたみたいで、頭が真っ白になった。

 どう返すべきか何も思いつかず口をつぐんでいると、その女性は口元を歪めて確信したような顔をする。

 率直に言って、嫌な笑みだった。

 

「やっぱりそうだったのね。しかも恋したことないのが本当なら、初恋かしら」

 

 止めどなく勝手なこと言われてるのに何も否定できない。

 認めたくはないけど、まるで図星を突かれてるみたいだった。

 そして自分のことを理不尽に暴かれていることに気付いてから、ようやく恥ずかしさやら怒りがこみあげてくる。

 いくら私が年下とはいえ、初対面でここまで言ってくるなんて非常識過ぎる。

 

(なんなのこの人、なんで急にそんな話を……)

 

「わ、私は! 別に恋なんて……!」

「『その人のことで一喜一憂して、その人のことばかり考えて、その人のことばかり目で追う』……全く心当たりはない?」

 

 あった。

 さっきはその話を聞いた後、純加さんの恋愛事情という別のことに意識を向けていたけど。

 あれは心当たりがあるからこその無意識な逃げでしかなかった。

 

(薄々気づきかけてたから、必死に目を逸らしてたのに……こんな形で突きつけられるなんて……)

 

 初めての恋、しかも同性、それを話したこともない初対面の人に突然暴かれる。

 完全に許容オーバーで今にも取り乱しそうだった。

 それでも私は、動揺を悟られないよう意地をかき集めて必死に目の前の女性を睨みつける。

 

 (こんな不躾に踏み込む人がいるなんて、想像したこともなかった……。怖い、というより危険過ぎる)

 

 この人にだけは心の隙を晒してはいけないと、防衛本能が強く訴えていた。

 そんな私の反抗的な様子すら愉しむように、得体の知れない女性は余裕の笑みで尚も話し続ける。

 

「自覚し始めてるなら、自分を誤魔化そうとしても意味ないわ。さっさと認めた方がいいわよ」

「……どうしてあなたにそんなこと言われなきゃいけないんですか」

「恋には時間制限があるの。あなたはその人とずっと一緒にいれるの? その人はずっとその仕事を続けるの?」

「…………」

「その恋が大事であればあるほど、手遅れになったときの後悔も大きいわ。だからお節介を承知で言わせてもらったの」

 

 純加さんは現実でも高校3年生。今は10月。

 進路は知らないけど、受験のことを考えればいつバイトを辞めてもおかしくはない。

 例えしばらくは大丈夫でも来年は? その先は?

 今の関係のまま、いつか純加さんに会えなくなることを想像する。

 そんな未来なんて、奈落に突き落とされたような絶望感しか沸かず、その先を思うと途方に暮れてしまう。

 

(これ以上ないくらい業腹だけど……この人の言う通りかもしれない。目を逸らしてばかりで現実を見ようとしないで、私はまた取返しのつかない後悔をするところだった……)

 

 私が観念して認め始めたこのタイミングで。

 目の前の女性はさっきまでの柔らかい笑みとは違い、目を細めながら妖艶な笑みを浮かべる。

 

「でも、もし私の言ってることが的外れだったなら謝るわ。もし——あの子を誰かに奪われても、その関係を笑顔で祝福できるって言うなら、ね」

「…………」

 

 その人が今さらのように言ってきたことは、一番私を不愉快にさせた。

 

「急に引き止めて悪かったわね。()()()を待たせてるのでしょう?」

「……失礼します」

「えぇ、それじゃ……」

 

 私は目も合わせずに形だけの挨拶を吐きながら、その人の横を通り過ぎ店の出口に向かう。

 

(トイレに寄っただけなのに、とんでもない人に会っちゃったな……)

 

 くさくさしながらも1秒でも早くここから出たくて早足になる。

 

 そんな私の背中に、客と店員があちこちで談笑してる喧噪の中。

 馴染みのある挨拶が聞こえた気がしてつい足を止める。

 ちらっと後ろを向くと、あの人の姿はもう見えなかった。

 

(……気のせいかな)

 

 この店のコンセプトはお嬢様でも、ご婦人でもない。

 貴族店員ならありえるかもしれないけど、今近くには見当たらない。

 だから、常識的に考えて『ごきげんよう』なんて言葉を聞くはずはなかった。

 私は聞き間違いだと結論づけて、お店から出て行った。

 

 

 

 店を出てみんなに待たせたことを謝りつつ合流した後、リーベに向かい始めた。

 今は前を歩く純加さんと陽芽ちゃんと美月ちゃんがしゃべっている。

 私はそこに混ざる気にもなれず、さっきの女性との会話について整理していた。

 

(私は……純加さんのことが、好き……)

 

 いつかは自分も恋愛して、その先で結婚して、なんて漠然と考えてたことはある。

 でもいざ経験してみると、実際の恋愛というのはいつのまにか始まっていて。

 気づいた今も半分実感がなくて、釈然としないものだった。

 

(でも、あんなこと言われてあんな反応したらもう否定しようがない。純加さんが誰かのものになったなんて聞いたら、いつもの作り笑いすらできる自信がない……)

 

 同性の人相手にこんなこと思うなんて、夢にも思わなかった。

 けど、好きでもない人にこんな風に思わないから、事実として認めざる得ない。

 

(ていうか……純加さんは本当に恋人いないの?)

 

 さっきのコンカフェでは恋愛経験ないような口ぶりだったけど、「今付き合ってる人はいない」とも断言していない。

 

 前を見ると変わらず純加さんたち3人でおしゃべりしていた。つまり果乃子ちゃんは空いてるってことだ。

 いつも陽芽ちゃんにくっついてるのに、今は一番後ろで1人でいる。

 彼女と3人の間は結構距離が開いてるから丁度いい。

 私の頭の中は、今純加さんに恋人がいるかどうかでいっぱいだった。

 

「ねぇ果乃子ちゃん。ちょっといい?」

「……なんですか」

 

 改まって話し掛けられた果乃子ちゃんは当然のように怪訝な目を向けてくる。

 まぁ話に応じようとしてくれるだけマシと思おう。

 そんなことより、だし。

 

「気になったんだけど、純加さんって本当に付き合ってたりしないのかな? さっき純加さんが恋愛について話してたときもおかしくなかった? とってつけたように本の話なんて言って……」

「……どうして私に聞くんです?」

「果乃子ちゃんは純加さんの……妹、でしょ? 純加さんのこと一番知ってそうかなって」

 

 聞きながら少しだけ歯噛みしたくなるような感情に見舞われる。

 恋人ならともかく、どうやら私は妹にまで嫉妬するらしい。

 自分が思ってる以上の心の狭さに嫌になるけど、なんとか無視する。

 

 (この子は仕事で妹やってるだけだしね。前はそういうところに思うところあったけど、今は逆に都合よくてむしろ助かるかな)

 

「別に妹だからって、純加さんのプライベートまで知りません」

「そっか。純加さんって綺麗でいい人だし、彼氏とかいてもおかしくなさそうなんだけどな~」

「……というか、どうして純加さんのことを?」

 

 興味持たれないかと思ってたのに、怪訝そうな色が若干増した顔で意外にも聞いてきた。

 まぁ、こう返されたときの想定は一応してたけど。

 それでもドキリとしてしまう心をなんとか落ち着かせて平静を装う。

 この子相手だと少しの油断が命取りになりそうだから。

 

「だって、サロン係で一番遊んでそうじゃない? ギャルだし、私たちより2年上の女子高生だし。恋愛してるのが普通なくらいなのに、してないなんて怪し過ぎて気にならない?」

「……そう言われても、私は知らないですから……」

「……そっか〜……」

 

 本当に何も知らなさそうだし、これ以上はいいか。

 お互いのことを知り合う深い仲ではないんだ、と再認識して気持ちが少しスッとする。

 

 (まぁ私もそんなに純加さんのこと知ってるわけじゃないんだけど……)

 

 なんだかんだ出逢ってまだ2週間。多少親しくなったとしても親密な関係ってほどじゃない。

 本気で純加さんと恋愛関係になろうと思ったら、まず同性という大きな問題がある。

 初恋ということもあって、また気が遠くなるほど難しそうだった。

 

(それでも、この関係のまま変わらずにいつか別れるのを待つのは嫌だな……)

 

 今道標にできる思いはそれだけだった。

 いっそ、これくらいシンプルな方が迷わなくていいかもしれない。

 

「果乃子ちゃーん、そよちゃーん! ここでタピオカ飲んでいかない? お姉様がおごっちゃうぞー?」

「ご馳走になります、橘先輩♪」

「あんた、とんでもなく自然にたかるのね……」

「はは、2人の分もちゃんと驕るから心配しないでってー!」

 

 いつの間にか結構先に行っていたらしい純加さん達がタピオカ屋の前で待っていた。

 純加さんの快活な笑顔を見てると自然と頬が緩んで、あれこれ悩み考えてたことなんてどうでもよくなってくる。

 

(そうだ、いつか純加さんと2人で遊びに行けないかな? 行けたらいいなぁ……)

 

「ふふっ、お言葉に甘えてご馳走になりますね。純加さんはどれにするんですか~?」

 

 私は3人……というより純加さんの元へ向かいつつ、そんなことを言いながら輪に混ざった。




*後書き*

8月12日はわたゆりに登場する、とあるキャラクターの誕生日でした。
だからこの話はその日に上げれたら綺麗だったんですが、気づくのが遅くれて間に合わなかったので、まぁいいかです。
あの魔女、わたゆりにまた登場したりするかなー?
少なくとも本作品ではもうありません。
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