もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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※前書き※

この回からはそよ視点ではなく果乃子視点で話が進みます。


悩み、解消された世界
36. 新しいサロン係の日常 【一日目】


die Schatten-Schachblume(ディ・シャッテン・シャハブルーメ)

36裏. 焦らず様子見

 

 10月16日 月曜

 

「果乃子ー、行こー」

「うん、行こっかひめちゃん」

 

 下校の支度ができたひめちゃんが私の席まで来てくれた。私は笑顔で同意して席を立ちリュックを背負う。

 今は放課後。これからひめちゃんとリーベに向かうところだった。

 ひめちゃんの後ろでクラスの人たちに挨拶しつつ教室から出る。

 廊下を歩きながらひめちゃんは昨日のことを話し始めた。

 

「そーいえば昨日って、初めて今のサロン係で遊びに行ったよね? みんなで他所のコンセプトカフェ行くのも新鮮で面白かったなー!」

「ひめちゃん。あのお店のコンセプト理解したの?」

「……なんかリーベと似てるような、違うような……」

「ひめちゃん……それでよく楽しめたね。逆に凄いと思うよ?」

「そんな褒められ方されても嬉しくないよ!」

 

 あいかわらずテキトーなひめちゃんに微笑ましいやら幸せそうやら思ってると、ひめちゃんは楽しそうに話を続ける。

 

「ていうかさ、またみんなで遊びにいく機会があってもいいよね! 夏のときみたいに旅行でもいいし……お店の経費なら尚良し!」

「ひめちゃん。遊びにいくお金を店に出してもらうことなんて本当はありえないんだから、それを当たり前に思わない方がいいよ?」

「わ、わかってるけどさ~…」

 

 ひめちゃんは将来お金持ちと結婚して、玉の輿を得ると言う目標がある。

 つまり山ほど金を得るつもりなので、貯金のために節約なんてしないって自分で言っていた。

 にもかかわらずどうしてこんなガメつくなったんだろう。人の金で遊ぶことに悦びでも覚えたのかな。

 人として心配になっちゃうよ。

 

 学校を出た後もそんな調子で話しつつ移動してたら、リーベのある雑居ビルに着いていた。

 ビルの横手にある非常階段を上がって、2階の従業員用の裏口から中に入る。

 

「おはようございまーす」

「……おはようございます」

 

 バックヤードに入るとリーベの制服を着た純加さんと矢野さんがいた。

 挨拶しながら鞄を置いてると、純加さんたちも挨拶を返してくる。

 

「ごきげんよー2人とも! 昨日は楽しかったよね!」

「ごきげんよう、陽芽、間宮さん。でも純加さん、昨日の偵察はちゃんと意味があったんでしょうか……」

「だから矢野、昨日のはほとんど遊び目的だって言ってるのに。楽しかったらそれでいいですよね、橘先輩!」

「あはは、2人は面白いくらい対照的だねー! 果乃子ちゃんも、楽しかった?」

「まぁ……新鮮ではありました」

「う~ん……あんまりお気に召さなかったみたいだねー」

 

 実はそうでもない。

 コンセプトカフェのキャスト達は、貴族制度が根付く帝国のカフェという設定に即した工夫をこらしていた。

 その工夫が店員どうしで違いがあるところも、物語性を感じて面白いと思う。

 でもそれを口に出してコンセプトカフェ好きに思われるのも癪なので、胸の内にしまっておく。

 

(それより、昨日は久々に純加さんと2人で話せたことの方がよかったかな……)

 

 ()()()が入ってから妙に純加さんと話す気になれなくて、朗読劇以降ろくに話せなかった。

 でも最近彼女へのわだかまりもある程度なくなって。

 おかげで素直になれた私は昨日営業後に外で純加さんを待って、半月ぶりに2人っきりで話せたんだった。

 まぁ、それを言ったら確実に調子に乗るだろうから絶対言わないのだけど。

 

「ごきげんよう」

 

 なんて考えてると、私が妙になったきっかけの人が裏口から姿を現した。

 先月末の朗読劇と入れ替わるように、今月からサロン係に加入した夏八木さんだ。

 明るいベージュ色のロングヘアで前髪は真ん中で分け、毛先は軽く巻いている。

 有名なお嬢様学校の制服にふさわしくお淑やかに微笑む彼女こそ、設定ではなく本物のお嬢様だ。

 そういうお綺麗過ぎるところが、私的には苦手で敬遠しがちになるのかもしれない。

 

「ごきげんよーう、そよちゃん!」

「ごきげんようそよさん」

「おはよー。ねぇ、夏八木さんは昨日みんなで遊びに行ったのどーだった?」

 

 なんだかんだ1週間くらいでサロン係みんなとそれなりに仲良くなれた、社交性の溢れる人。

 最初こそいい子ぶってるようにしか見えなくて怪しんでたけど、今はそこまで斜に構えて彼女を見ていなかった。

 

「…………」

(……?)

 

 一瞬。私と目が合った彼女は、微笑んだまま目だけ笑ってないように感じた。

 でもすぐにっこり笑顔になったから気のせいに思えてくる。

 彼女を怒らせた心当たりもないのでたぶんそうだろう。

 

「——果乃子ちゃんも、ごきげんよう♪」

「……おはようございます」

「それで陽芽ちゃん、昨日のコンセプトカフェだよね? リーベと似たところもあれば違うところもあって面白かったな~」

「だよねだよね! ほーら果乃子! 私の言ってたこともおかしくなかったでしょ? 夏八木さんのお墨付きだよ!」

「別にお墨付きをくれたわけじゃないよひめちゃん」

「??? 何の話してるの~?」

 

 話についていけず苦笑いな夏八木さんに、説明も面倒だから私ははぐらかすことにした。

 

「……気にしなくていいですから」

「そよさん、昨日のコンセプトカフェは結構凝っていたじゃない! あなたまでそんな感想で、遊び気分だったなんて……」

「んー……身分を分かりやすくするために衣装に工夫を凝らしてたのは参考にできるポイントかもしれないよね。同じ身分でも違う工夫がされてるから、結果的に店員1人1人の個性が別れてるところが見てるだけでも面白かったな」

「あー、確かに! ウチでやってもお客さんとの会話のタネにもなったり、小芝居にも使えそうだし。いいアイディアかもね、そよちゃん」

「やっぱりちゃんと見ていたのね。流石そよさんだわ。陽芽と同レベルかと思ってヒヤっとしたんだから」

「ちょっと矢野、それどういう意味!?」

「?」

 

 憤慨するひめちゃんに天然で無自覚にディスっていた矢野さんが頭に疑問符を浮かべている。

 どうやらナチュラルにアホの子認定してるらしい。

 まぁ、どちらかといえば同意せざる得ないところがひめちゃんに申し訳ないのだけど。

 

「……ふふっ、リーベのために一生懸命な美月ちゃんが素敵だったから。私も見習っただけだよ〜」

「むっ」

「もう、すぐそういうこと言ってからかってくるんだから、そよさんは……」

 

 まるで小芝居してるみたいに夏八木さんが矢野さんの隣に寄って妙にクサいことを言い、矢野さんは若干顔を赤くする。

 前から思ってたけど、夏八木さんはよく矢野さんをからかう。

 こんなお堅い人種に好き好んでからかいにいくのだから、私からしたら結構な物好きにしか見えなかった。

 

 (もしかして夏八木さんって矢野さんと一番仲良いのかな? てっきり純加さんかと思ってたけど……そっか。まぁ、どうでもいいけどね)

 

 

「……むー」

 

 そしてひめちゃんは距離の近い2人に分かりやすく顔をしかめている。

 ひめちゃんがムッとすると私もムッてなるから、この流れはあまり歓迎できない。

 いっそのこと矢野さんがひめちゃん以上に夏八木さんと特別な関係になったなら、私も手放しで喜べそうなんだけど。

 

「みなさーん! 仲良いのは大変結構ですけど、そろそろオープンの準備してくれないと困りますよー!」

「うわ、もうそんな時間か! 舞さんすいません、すぐ取り掛かりまーす! 果乃子ちゃんたちも、急いで着替えてね!」

「はい、純加さん」

「……はーい」

「ふふっ、みんなでおしゃべりするのが楽し過ぎて気を抜いちゃったなー♪ 私も着替えよーっと」

「私はサロンの掃除しますね、純加さん」

「よろしくー!」

 

 決して口にはできないことを考えてると、店長がキッチンから出てきて可愛らしく注意してきた。

 その後私たちは着替えたり掃除したりして、それぞれ仕事の準備にとりかかる。

 ただその後も不機嫌そうだったひめちゃんの様子が気になっていた。

 

(ひめちゃん、矢野さんのことになるとすぐ無気になるんだから……)

 

 仕事が始まったら切り替えてることを期待して、私は下手なこと言わないようにしていた。

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