もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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38. もしも、そうなったら 【一日目】

38裏. 種まき 

 

「夏八木さん! サロンであんな小芝居仕掛けなくてもいいでしょ! おかげですっごい恥ずかしかったんだから!」

「ふふっ、ゴメンね陽芽ちゃん。でも結果的に美月ちゃんと仲直りできたんだし、よかったんじゃない?」

 

 営業が終わってお店を閉めた後のサロンにて。

 最近夏八木さんに対してほとんど外面を外してるひめちゃんがプリプリと怒っている。

 対して夏八木さんは元凶のくせに、いけしゃあしゃあと返していた。

 

「仲直りって、別に喧嘩してなかったし……」

 

 未だに不自然な態度だったことを誤魔化そうとするひめちゃん。

 そこに、黙って察するという能力に欠ける矢野さんが問い詰める。

 

「じゃあなんであんな態度だったのよ?」

「それはだから……ゴメン、ちょっと勘違いしてたというか……」

「勘違い?」

「あーもう! あとで言うから、今は勘弁して!」

「別に今言えば……」

「はい美月ちゃん、ストップだよ。こういうとき急かしちゃうのはよくないよ?」

「……なら待ってるわよ」

「ほっ……ありがと、夏八木さん」

「どういたしまして♪」

 

 上手く夏八木さんが仲介して変にこじれることもなく話がまとまった。

 こういうフォローに随分手馴れてるように見えたけど、たぶんいつもこんな役回りをしてるんだろう。

 誰かさんと似ている。

 

「それにしてもいいな~姉妹って。みんなを見てるとちょっと憧れちゃうな~」

「お、そよちゃんも姉妹の契り交わしたい?」

 

 夏八木さんの妙な発言に、純加さんが反応した。

 今でも恥ずかしくて困るときが多々あるのに、その機会を更に増やされてはたまったものじゃない。ここはきちんと拒否の声をあげておこう。

 

「……これ以上設定が増えるのは御免です」

「あ、私はお姉さまだけの妹だから!」

「私はそよさんと同学年だから無理ね」

 

 というかみんな既に姉妹を組んでいるのだからそもそも相手がいなかった。

 けど夏八木さんは残念そうにするでもなく、思いついたような顔で純加さんに質問する。

 

「あの、思ったですけど。姉妹みたいな特別な関係って他にもないんですか? 例えば、同学年どうしが組むようなものとか」

「うーん、リーベのモデルになってる『乙女の心臓』が姉妹関係に重きを置いてるからなー。他にそういう関係性があるにしても、舞さんに却下されるんじゃない? 世界観に影響するからって」

「あ、そういえばそうかもですね」

 

 同学年どうしか。もしそんなのがあったら、私は純加さんとじゃなくてひめちゃんとここでも特別な関係になってたのかも。

 

「でももったいないですよね。陽芽ちゃんと果乃子ちゃんっていう、現実でもリーベでも仲の良い同級生がいるのに」

「……確かにねー。ひめちゃんも、それはそれでよかったって思うんじゃない?」

「果乃子と、姉妹みたいな特別な関係ですか? そうですね、果乃子とならやりやすいし、楽しそうかも! 果乃子は?」

 

 幸せな妄想に浸りかけてたらひめちゃんも満更じゃないみたいで、話を振られた私はドキドキして答える。

 

「わ、私も……ひめちゃんが相手なら、いい、かな?」

「だよねだよね! でも店長がダメっていうならしょうがないかー」

「……ははっ、2人は本当に仲いーなー」

「本当ですね、純加さん。学校もバイトも一緒なんですから。陽芽ちゃんたちは中学から一緒なんでしょ?」

「あぁ、そういえば夏八木さんには前しゃべってたね。2年以上の付き合いになるかな?」

「中学2年からだから、そのくらいだよひめちゃん」

 

 あのとき。ひめちゃんに出会って、すくいあげてもらってから。私の世界は一変したんだった。

 ひめちゃんと出会わなかったら、私は誰にも関わらずに生きていたんだろうな。

 大切な思い出を振り返ってると、夏八木さんが嬉しいことを言ってきた。

 

「まさに親友って感じだよね。付き合ってるって言われても納得できそう!」

「流石にそれは言い過ぎでしょ!」

「……うん、そうだねひめちゃん……」

「…………それくらい仲良しに見えるってことだよね、そよちゃん」

「はい、もちろん冗談のつもりでしたよ?」

 

 ひめちゃんに力強く否定され、落ち込みながらも不審がられないよう同意しておいた。

 でもそんな言い方じゃなくてもよかったのに……。

 

「……って、みんなでしゃべってると時間ばっか過ぎちゃうね。そろそろ後片づけしてあがろう!」

「はーい」

 

 いいタイミングで純加さんが話を切ってくれた。

 いつもみたいに私が落ち込んでるのを察して助けてくれたんだろう。

 本当にありがたいけど、もらうばっかりにならないようにしないと。

 

 

 

「お疲れ様でーす!」

「……お疲れ様です」

「ごきげんよう2人とも。ごめん美月ちゃん、もう少し待ってねー」

「ごきげんよう、陽芽、間宮さん。——そよさん、私は急いでないからゆっくりで平気よ?」

「2人とも、ごきげんよー!」

 

 掃除をして、着替え終わった私はひめちゃんと一緒にタイムカードを切って店を出た。

 帰る直前挨拶した純加さんもいつも通りだった。昨日2人で話したんだし、しばらくは残らなくてもいいのかも。

 

 前までは悩んでばかりだったけど。今はそんなこともない平和な日常を送れている。

 ひめちゃんも、純加さんにもおかしいところはない。

 全部上手くいってるこの調子を維持できるよう、明日からも頑張っていこう。

 バスに揺られながらひめちゃんの寝顔を眺めつつ、私はそんな決心を固めていた。

 

 

 

 

 

「お待たせ、美月ちゃん」

「いえ、でも珍しいわね。そよさんが一緒に帰ろうって誘うなんて」

「うん……ちょっと、美月ちゃんに相談したいことがあって……」

「そうだったの? 仕事で何か分からないことでも……」

「違うの、仕事関連のことじゃないんだ〜。ちょっとある事実を知っちゃったんだけど、1人で抱えるのが辛くて……誰かに話したかったんだ〜」

「そう……仕事以外の相談事に私が向いてるか自信はないけど、他でもないそよさんのためなら頑張ってみるわ」

「…………ごめんね

「そよさん? ごめんなさい、聞こえなかったのだけど……」

「ううん、何でもない。それよりどこか落ち着ける場所に行こっか。……もしかしたら、長くなるかもしれないからね」

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