もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
42裏. すくすく、順調に
10月20日 金曜
学校のお昼休み。私とひめちゃんは2人っきりの屋上でお弁当を食べている。
このランチスタイルは中学から続いていた。
ひめちゃんが学校で唯一外面を外せる、外面休憩時間でもある。
黙々とお弁当を食べながら、チラっと隣を盗み見る。
珍しく言葉少なめなひめちゃんは、どこか元気無さそうだった。
昨日の矢野さんとの話し合いが丸く治っていれば、明るくおしゃべりでいてくれるか自分から昨日のことを話してくれるのに。
つまり、触れない方がいい結果だったのは明らかだった。
だとしても聞かずにはいられない。
こちらから踏み込まなければ、ひめちゃんはずっと1人で抱え込むから。
「ひめちゃん……昨日矢野さんと話して、どうだった?」
「……うん、まぁなんというか……」
ひめちゃんはうーん、と唸りながらしかめっ面になる。
歯切れも悪いし、説明が難しいような話なのだろうか。
「結論から言うと、あれ以上喧嘩になることはなく穏便に話し終わったんだけど……結局分かんないままなんだよね」
「それって、サロンでひめちゃんとの小芝居が減ったこと?」
「ていうか、それ以外でもなんか矢野と話す機会が減ったような、なんとなく避けられてる気がするような……。矢野はそんなことないの一点張りだけど」
「矢野さんが、隠し事してるってこと?」
「私はそうとしか思えないんだけどさー。矢野は割と落ち着いてるんだよ。なんかムリしてるようにも見えないんだよね、夏の頃みたいにさー」
7月にあった矢野さんのバースデーイベントの頃も、彼女はおかしくなっていた。
あのときは感情的で頑な態度だったけど、人手不足でいっぱいいっぱいな状況に追い込まれてたから、と理解できなくもなかった。
その頃と比べると今はなんだか理性的で、ひめちゃん相手に落ち着いて相対する余裕もあって。
でも何も話そうとせず、否定するばかりらしい。ひめちゃんに余所余所しいのは明らかなのに。
「なーんか、せっかく夏八木さんに2人にしてもらったのに本音を聞き出せなかったし。なんだかなー……」
「ひめちゃん……」
はぁー、とため息をついて項垂れるひめちゃん。
気持ちはわかる。
明らかに別の本音があるはずなのに、それを隠し通そうとする人たちには私もやきもきしたから。
「ごめん果乃子。私もよく分かってないからこれ以上話しても意味ないし愚痴にしかならないや。何か分かったら教えるね」
「うん……」
ひめちゃんは笑顔を作って私に気を違う。
無理してるのはバレバレだったけど、何も言ってあげれない。
私が何言っても、慰めにもならない気がしたから。
それ以降ひめちゃんはとりとめのない雑談に話を変えた。
せめて今ぐらいはひめちゃんが平穏な時間を過ごせるよう、私も合わせた。
「おはようござ……あ」
「……陽芽」
リーベに出勤して早々、気まずい空気に直面してしまう。
ひめちゃんと裏口から入ると、バックヤードには矢野さんがいたからだ。
ひめちゃんから話を聞いてたから、2人がこういう空気になるのは納得だった。
どうしてもひめちゃんを心配して様子を伺ってしまうけど。
思ったより平気そうで、戸惑った顔から笑顔を取り繕っていた。
「おはよー矢野」
「えぇ、ごきげんよう」
困惑そうに眉を下げる矢野さんも、口角を上げてひめちゃんに合わせる。
とりあえず、お互いコミュニケーションをとろうとするくらいにはこじれてなくて、最悪の雰囲気じゃないことが分かった。
「……果乃子。私お手洗い行くから、先着替えてていーよー!」
「え……うん」
逃げるようにバックヤードから出てくひめちゃんを見送る。
笑顔は向けれるけど、やっぱり矢野さんと一緒に居づらいんだろう。
「……ゴミ出し行ってくるわ」
さっきひめちゃんに挨拶したときより随分無機質な声で一言断る矢野さんに、心なしか棘を感じた。
別に彼女から好かれようが嫌われようがどうでもよかったけど、もし私に怒ってるなら心当たりはなかった。
(今ひめちゃんと喧嘩してるから、いつも一緒にいる私に嫉妬、というか八つ当たりしてるとか? もしそうなら筋違いというか、逆恨みも甚だしいけど)
と言っても彼女から嫉妬されるのは優越感を感じて悪くない気分だから、気にしないであげることにした。
ひめちゃんが言った通り、今のうちに着替えておこう。
(……そういえば純加さんはどこだろう? ちょっと相談してみてもいいかも)
いつも私たちより先に来てるから、サロンかどこかにいるだろう。
着替え終わったら探して、ひめちゃんに内緒で話してみよう。バレたらきっと不愉快にさせちゃうから。
バースデーイベントの頃、2人の仲のために純加さんを頼ったことを思い出す。
リーベ大好き、みんな仲良し主義な純加さんなら。
あのときみたいに、『あたしもなんとかしたいと思っていた』って言ってくれるのを信じて疑わなかった。
着替え終わった私は、戻って来たひめちゃんと入れ替わるようにサロンへ向かって
(純加さんの声……と、誰かしゃべってる?)
純加さんともう1人の話声が聞こえて、なんとなく通路の本棚に隠れて2人の会話に聞き耳を立てる。
「あはは! そよちゃんのバンドメンバーは個性的な子たちばっかりだね!」
「もう、そんなに笑ったらヒドイですよ~純加さん。でも、みんないい子なんですよ?」
「へー、その子たちとも仲良くやってるんだね」
「……そうですね。あ、今度ライブしようかって話も出てて。正式に決まったら教えますね! オリジナルの曲とかも作ってて気合入ってますから!」
「おー、オリジナル! 思ってたより本格的なんだね! 楽しみにしてるよ、頑張ってねそよちゃん!」
「えへへ……はい、頑張っちゃいます♪」
(……随分楽しそうだな、純加さん……浮かれてる)
あまりの仲良しっぷりに、入ってくのも憚られる。
何より相談する気が、純加さんを頼る気が一気に失せた。
(ひめちゃんたちがすれ違ってるのに。純加さん、全然心配してる風に見えないな……。お気楽でいいですね)
怒りが湧いたのは、リーベ大好きを自称してるはずの姉に向けてだけだった。
夏八木さんは、このところいつも2人の間に入って仲直りを図ってきたから。
それに引き換え、あの人は何かしただろうか。
サロンでは上級生ぶって傍観してただけだし。
昨日だって2人の不穏な雰囲気に何も行動することなく、あの後も何の話か知らないけど夏八木さんに構ってただけだし。
私も何も役に立ってないから偉そうなこといえないけど、今の純加さんみたいに楽しくおしゃべりなんて呑気に構えてない。
(ひめちゃんたちのことより、気にかけてる可愛い後輩が大事ってこと? なんて、まさかね……)
流石に本気で疑ってるわけじゃなかったけど、今の純加さんを頼りにしようとは思えなくなって。
私は足音を立てないよう、静かに踵を返してバックヤードに戻った。