もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
夜。リーベが終わり、
48階という無駄に高すぎるマンションの、無駄に広すぎるリビングのソファに腰掛ける。
誰もいないプライベート空間で、お気に入りの紅茶を堪能し、一息ついたところで。
ようやく、営業前覗き見した光景に思う存分浸れた。
ちょうど1週間前から蒔いた種を丁寧に周到に世話してきて、それが見事に花開いた、あの瞬間。
(上手くいった。出来過ぎてるぐらい、完璧に。これで純加さんとあいつは……お互い離れていくはず……!)
「ふふっ……あはははははっ!」
愉快極まりない気分のまま、高らかに笑い上げてしまった。
でも笑いたくもなる。
あれだけ決定的な亀裂がこんなに早くできるなんて……見届けたときだって、笑いを堪えるのに苦労したぐらいなのだから。
あの2人を致命的なまでに決裂させる計画は、面白いほど大成功した。
といっても、私からしたらさほど難しいことだと思ってなかった。
アクションをかける相手はみんな一か所に固まってるし、働きかける目的もただ人間関係を壊すためだけ。
少なくとも。
バラバラに散ったかつての仲間達を再結集しつつ、余計な存在を自然にフェードアウトさせることに比べれば、まだ余裕があった。
いや、そのときの経験があったからこんなに上手く立ち回れたんだろう。
まさかあんな禄でもない過去を活かせる日がくるとは思わなかったけど。
でも、まだ全てが終わったわけじゃない。
ひとまず大きな成果を出したとはいえ、これからだって処理すべき問題は残ってるんだ。
それを明確にするためにも、ここまでの見事な計画っぷりを軽く整理してみる。
(一番大事で、難しい起点。そこに一番騙しやすくて与しやすい美月ちゃんを選んだのは正解だった)
まず彼女に、ありえそうな嘘を吹き込んで動揺を誘った。
精神的に不安定になった美月ちゃんの行動を制御しつつ、自分が支えになるよう優しく諭して支配下にいれていく。
(すると、連動するみたいに陽芽ちゃんがおかしくなっていく。それがあの女にも連鎖するのが、ホントおかしいよね)
陽芽ちゃんは私以上の外面族。間違いなく裏の意図に敏感だろうから極力私からは作用しない。それなりに弱っていたあのときを除いて。
彼女については起点である美月ちゃんを思った通りにコントロールすれば、ちゃんと影響されると踏んでいた。
告白を振った後もなお傍に居続けるくらいなんだから、2人の関係は下手なカップルよりよっぽど深い。
でも固い絆で結ばれている素敵で綺麗な関係にも、ガラス細工のように脆いところがあると気付いて。
そこを利用できるんじゃないかという私の見立ては、やっぱり間違っていなかった。
思惑通り、その2人は徐々にすれ違っていった。
本来関係の無い陽芽ちゃんたちを仲違いさせたのは、本命のあいつを術中にはめるための布石。
1番めちゃくちゃにしてやりたいヤツなのに、1番警戒心の強いヤツだから。
私からほとんど関わらないで済むように、こんな回りくどいやり方をする必要があった。
その人にとって大事な人がおかしくなれば、その人自身もおかしくなる。
人間の心というのは、こんなに不条理で単純なんだと思いながら。
お膳立てした甘い罠に狙い通り堕ちていくあいつは、醜い小物キャラが悲劇的な末路を辿るみたいで滑稽だった。
(本当に陽芽ちゃんのことが大好きなんだね。ちょっと頼られたぐらいで簡単に転がされてさ)
起点である美月ちゃんに振り回される、可哀そうな相方の陽芽ちゃんへ健気に寄り添う、自己中心的に人生を謳歌してるあいつ。
さぞ気持ちよかっただろう。良い夢見てくれたかな。
(……でも、それで純加さんが本気で嫉妬するのが、唯一面白くないところだったな。そのおかげで分断できたのだけど)
純加さんにしたことといえば、あいつへの不信感を募らせるようさりげなく会話を誘導したこともそうだけど。
だけどそれ以上に重要だったのが、純加さんに陽芽ちゃんたちの仲に介入させないことだった。
2人の喧嘩に第3者が少しでも踏み込めば、すぐにボロが出てバレてしまう。
だから私以外には手出しさせない必要があった。
純加さんも鈍くはないからちょっとリスキーだったけど、2手ほど真っ赤な嘘を忍び込ませた。
危ない橋を渡ったおかげもあって、私の話を信じた純加さんは2人に関わらないでくれた。
ちなみにあいつは思い人である陽芽ちゃんと2人にさせとけば介入してこないって確信してたからチョロかった。
そりゃそうだ。だって2人の仲違いを解決させるってことは、あいつは思い人を独占できなくなるってことなんだから。
そんなこと、あいつにできるはずがない。
そこまでやれば、あとは素知らぬ顔で仲直りを図る自分を演じつつ様子を見てればいい。
妹が意中の人にいつもべったりで、嫉妬心が増すばかりの姉。
その嫉妬心に煽られて絡んでくる姉を、意中の人に付きっきりでいたい妹は邪魔で煩わしく思うだろう。
どっちも日ごとにお互いがストレスになるから、いずれ爆発するって思ってた。
そしてそれは、案外早く成就されたのでした、っと。
片方の姉妹を分断して。それをトリガーに本命の姉妹を壊す。
そのゴールを今日、営業前に見届けた。
思い人に執心な身勝手女と喧嘩別れできた純加さんは。
いかにあの女が醜い自己中心的なやつか、これから気づいていくだろう。
あとはその間に、私が頑張って猛アタックするだけ。
恋愛未経験だから、むしろこれからが勝負所だった。
(まぁ、あそこまで派手に決裂したんだから。お互い近づこうとはしないはず。時間はある、その内に私があいつのポジションを奪うだけ……)
もう少し。もう少しで、私の大切な人をふざけた間違いから救ってあげられる。
あとは、陽芽ちゃんたちの仲も戻さないと。
ここまで仕掛けておいてだけど、関係の無い2人を巻き込んだことは本当に申し訳ないし心苦しくもあった。
とは言えこれが思いついた作戦の中で一番効率的で確実且つ得意だったから、躊躇うことさえなかったのだけど。
せめてもの償いに、雨降って地固まるみたいに前より強く深く結ばれるよう、キューピッド役として頑張ろう。
そして、できるならあいつに全部罪を被せるなり居場所を無くすなり仕向けて、リーベから排除しよう。
でも全部を性急に進めるのは良くない。しばらくは純加さんへのアプローチに専念して様子を見よう。
邪魔者も離れたことだし。
やっと憚ることなく純加さんといれるんだと思うと、明日のリーベが待ち遠しくて仕方ない。
あの頃の私は、壊れていく居場所をただ見てることしかできなかった。
けど今度こそは、大切な人を、そしてその周辺を守るんだ。
(私を選んでください、純加さん。そうすればもう身勝手過ぎる人に苦しむこともなくなりますから)
女の子は計画の成功を確信して、妖しく口元を歪めている。
しかしその目は硬質で、温度を感じない。
自分の行動の結果、怨敵がどんな目に遭おうと知ったことではないと言わんばかりに。
瞳に昏く深い欲望を宿していた。
【崩壊編】 完
*後書き*
実際、そよは裏で各メンバーにどんな働きをしていたのか?
その会話データが収録されてある極秘テープを入手したので次回、公開していく。