もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
営業終了後。サロンで私以外のサロン係が固まってしゃべっている。
「みんなお疲れー! ひめちゃん、今日も大したミスなくやれてたじゃん? 成長してるねー」
「橘さん、もう半年くらいやってるんですから、褒め言葉にもならないですよー」
「そうですよ純加さん。陽芽にはもっと仕事できてもらわないといけないくらいなのに、簡単に褒めないでください!」
「ちょ、ちょっと矢野、そこまで言わなくてもよくない? 矢野は私に厳しすぎだってー」
「安心してひめちゃん。ひめちゃんは最初の頃よりは成長してるから!」
「いや果乃子、だからそれ褒め言葉になってない……みんなどうしてそう極端なの?」
「まぁまぁ。矢野ちゃんも、ちゃんとそよちゃんをフォローしてくれてありがとね!」
「いえ、純加さん。それこそ当然です。キャラ的に私がその役目を担うのが自然ですから」
「相変わらず真面目だなー矢野ちゃんは。果乃子ちゃんは……」
「……別に私は普段通りですけど」
「まあ 、そうだね。いつも通り——可愛かったよ、果乃子?」
「もう……。そういう小芝居は営業中だけにしてくださいっていつも言ってるじゃないですか、純加さん」
「ゴメンゴメンって♪」
(……同い年の3人、私としゃべっているときとは違う雰囲気だな。知花先輩だけ変わらないけど)
知花先輩が輪の中心になってそれぞれを労って。3人は明らかに慕っている態度ではないけど、みんな先輩を信頼してるようになんとなく感じる。
そして知花先輩の笑顔は充実感に溢れていて、眩しいくらいに輝いて見えた。
(なんか……自分らしくいることに、なんの迷いもなさそうで。心から楽しそう……)
人の顔色伺ってばかりな私なんて、比べるべくもない。
軽薄そうに見えて、あの先輩は人として私なんてとても手が届かないところにいる。
比べてもしょうがないのは分かってるつもりでも、羨望を抱いてしまう。
でも、その羨ましいという感情は。
自分らしく在ることへよりも。
みんなに囲まれながら見せているあの笑顔に対して強く向けられていた。
(あの笑顔……覚えがある。昔の私が一時だけできた笑顔だ……)
心の底からこの場所が好きで、みんなといるだけで嬉しくて自然となる笑顔。
見ているとあの頃の私を思い出す。唯一満たされていた頃の私を。
(私も、もう一度あんな風に……)
「そよちゃん? そーよちゃーん!」
「は、はいっ!」
傷だらけの思い出に浸りかけてるところに、いつの間にか知花先輩に声をかけられていた。
「そよちゃんもお疲れ様! 自己紹介のときから堂々としててかっこよかったよー! その調子で明日からもよろしくね♪」
「——はい! ありがとうございます!」
先輩の中では私も輪に入ってたんだ。
そう思うとナイーブだった心境が晴れ渡って、自然と元気な声が出た。
だけど、せっかくの励ましを噛み締める暇もなく。
せっかく晴れた心にまたも暗雲立ち込めるような展開が待っていた。
「長崎さん、お疲れ様。今日の掃除は私たちでやっておくから、もう上がって大丈夫よ?」スタスタ……
「お疲れ様でーす! ——待って矢野ー! 私もそっち手伝うからー!」タタタ……
「…………お疲れ様です」スタスタ……
他の3人はその場から去って行った。
気のせいかもだけど果乃子ちゃんだけ一瞬、横目で純加さんを睨んでいたようにも見えた。当の本人は気づいてないみたいだったけど。
どうして睨んだかも分からなかったし、今はそんなことどうでもいい。
(掃除くらい手伝うのにな……)
自分だけ掃除を免除されたことに、なんだか除け者にされたような疎外感に陥る。流石にそんなつもりじゃないはずだけど。
営業前のやりとりを引きずってか、どうしてもネガティブに考える自分がいた。
「……私、ちゃんとみんなと仲良くなれるのかな……」
せっかく褒めてもらって元気が出たところに他3人のおかげで早速先が思いやられて、まだ知花先輩がいるのについ本音を零してしまう。
(いけない、この先輩にまで見放されたら、ホントにこの店で孤立しちゃう……)
「な、なーんて、アハハ——」
「いや、分かるよそよちゃん。3人ともいい子なんだけど、ちょーっと難しいところもあるから。不安だよね」
「あ……。す、少しだけ……ですよ?」
「でも、今日のそよちゃんを見てて思ったよ。君ならきっと仲良くなれるって。だって、オープン前に自分から声かけて回ってたでしょ? なかなかできることじゃないよ」
営業前の行動まで見られてるなんて思ってなくて、心底驚く。どこかで見ていたんだろうか。
いや、先輩の姿は最初の挨拶以降じゃサロン以外で見ていなかったはず。
そういえばバックヤードのデスクにモニターがあったのを思い出す。
それで私の動きを知ったのかもしれない。
(……でも、私のそういうとこを見てくれて、しかも褒めてくれる人なんて、あんまりいなかったな)
私の気遣いに感謝されることはあっても、それを見てる人に褒めてもらった記憶はなかった。少なくとも今周りにそんな人はいない。
だから知花先輩みたいな人は私にとって新鮮だった。
「知ってたんですね。でもそれも上手くはいかなくって……」
「まぁ、最初から上手くは難しいよ。それはこれから少しずつ、ね。大丈夫! あたしで力になれることがあるならなんでも協力するから!」
そう言って知花先輩はニカッと快活に笑った。その笑顔に、どんな気分だろうと無条件でこちらまでつられて笑顔になってしまいそうだった。
思えば今日は先輩に気持ちを楽にしてもらったことが多かった気がする。
まるで
私はここに、リーベに救われたくて飛び込んだ。
バンド絡みで溜まっていく、消せない苦痛から逃れるために。
考えても考えても解決の見通しがつかない悩みや過去の苦しみから逃れたい。
ここでお客さんからもバイト仲間からも、全てから受け入れられたなら。
きっとここがあの楽しかったCRYCHICの代わりになる。
辛い気持ちに押し潰されそうな私を救ってくれる居場所が、欲しくて仕方なかった。
(お客さんはとりあえず大丈夫だと思う。とにかくサロン係のみんなに受け入れてもらえれば……)
その道のりは思い描いていたほど簡単にはいかないみたい。
営業中はその険しさを想像するだけで不安で押しつぶされそうだった。
でも、今は知花先輩が味方だと思うと、不思議と不安が和らいで前向きな気持ちになれる。
(初めこそギャルな見た目で引いたけど、この先輩がいるなら。あの3人とも仲良くなってみようって思える。きっとできるって勇気が湧いてくる。これなら、頑張っていけそうかな)
そして、いつか先輩みたいに笑えるようになりたい。
さっきのバイト仲間に囲まれているときの、眩しい笑顔が脳裏に焼き付いていた。
「いつでも気軽に相談してね、そよちゃん!」
「……ありがとうございます。改めて、これからよろしくお願いしますね、知花——いえ、純加先輩♪」
私はこのお店に来て初めて心からの笑顔を送りながら、みんなと仲良くなろうという決意を固めた。
「お疲れ様です舞さん。キッチンはどうでした?」
「うん、なんとかいけたよー!この調子ならしばらく問題なさそう。それにしても……」
「どうかしたんですか?」
「そよさんのことです。部活もしてるって聞いてたのに、結局毎日来てもらうことになってしまって……無理させてないか心配です……」
「そうだったんですか……わかりました。サロンでよく見ておきますよ。無理してそうだったら舞さんに相談しますね」
「ありがとう純加さん! 心強いです!」
「にしても初日から活躍してましたねそよちゃん! 挨拶もバッチリだったし、仕事もできるし!」
「そう……ですね。流石本物のお嬢様学校に通ってる生徒さんです」
「? なんか歯切れ悪くないですか? どこか心配なとこでも?」
「いえ……」
(面接のときから思ってたけど……隙というか、ほとんど本心が見えないのがなぁ。ひめちゃんみたいに、ある意味分かりやすいところがあればまだよかったんだけど。徹底的に隠せる子ってその分爆発したときが怖いんだよね……)
「……いえ、今年度からいろいろあったから神経質になってるんでしょう。気にしないでください」
「そうですか?」
「それよりも、そよさんのこと、見ててあげてくださいね。頼りにしてますよー、純加さん!」
「えぇ、任せてください!このリーベ大好きな純加さんに!」