もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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48. 元姉の現妹に世話を焼く元妹

 

 

 

 10月25日 水曜

 

 今日も今日とて、おかしな組み合わせで彩られたリーベも何とか閉店を迎えて。

 片付けも終わり、現在は夜。

 私は1人でリーベを後にしていた。

 用事があって急いでる訳でもない。ひめちゃんの着替えを待てなかっただけ。

 昨日みたいにあの2人の会話を聞き続けるのに、今日は耐えられなかった。

 ひめちゃんに何の断りもいれず、挨拶もせずに裏口から消えるように出て。

 俯いたまま、力なく非常階段を一段ずつ落ちていく。

 何も考えたくないのに、脳が勝手に記憶を遡る。

 

(どうして……なんでこうなったんだっけ……)

 

 正直、私が間違ってるとは思えなかった。

 私が悪い、よりも先にどうしてもあの人が絶対悪い、と結論づけてしまう。

 それじゃ何も変わらないと分かってるのに、それ以外考えられない。

 思考が硬直化してる。

 と言うより、頑なに意地を張る自分を矯正するだけの精神力がなかった。

 いつも当たり前のように支えくれていたものが、今は別のところへ離れて行って。

 バランスを崩し這いつくばってる心の私を、どうしようもなく無様に思う。

 おかしい。今はひめちゃんを独り占めしてる状況なのに。

 それだけでよかったはずなのに、どうしてこんなにダメになってるんだろう。

 

 ビルの非常階段を降り切って歩道に出る。

 いつものバス停方面へ地面を歩く私に、どこからか声がかかった。

 

「あれ、雨宮さん? お疲れ様。今帰り?」

 

 聞き覚えのある声に顔を上げると、今は休みをもらってるキッチン担当の寧々さんがいた。

 純加さんの元妹で、ふざけた女のせいでサロン係からキッチンに転向した人。

 その寧々さんが今どういう状況か、どうしてここにいるかを気にもできず、機械的に対応する。

 

「……お疲れ様です」

「ごめんね、しばらく休んでて。でもなんとか親も回復してきたから、来月からは復帰できそうでさ。それで用事があって近くまで来たから、挨拶ついてに寄ろうと思ったんだ」

「そうだったんですね……」

 

 思ったことを脳死で口にして会話を成立させる。

 そんな私に寧々さんの顔は訝しむような表情に変わった。

 

「どうかしたの? もしかして体調悪い?」

「……いえ、大丈夫です」

「そうは見えないけど。結構酷い顔してる」

「…………」

「純加は休み? 妹をこんな状態で放っておくなんて、純加らしくないけど」

「……………………」

 

 ビルの2階にあるリーベの方へ顔を向けながら軽口を叩く寧々さん。

 そんな寧々さんが横目で私を見てきて、私は目を合わせられず俯いた。

 

「……雨宮さん。この後って少し時間ある?」

「え?」

「ちょっとでいいから、私に付き合ってくれない?」

 

 

 

 場所は変わって、リーベ近くのワック2階。

 寧々さんに強引気味に連れてこられた私は注文したドリンク(いつのまにか驕ってもらってた)をすすりながら、聞かれるままに寧々さんが休んでからのリーベのことを話した。

 

 休業した寧々さんと入れ替わるように夏八木さんが入ってきたこと。

 その夏八木さんがみんな(私以外)と仲良くなったこと。

 ついでにみんなでコンセプトカフェに遊びに行ったこと。

 そのあと、ひめちゃんと矢野さんの仲が悪くなったこと。

 その間、純加さんがどうだったか。

 そして……

 

「……一昨日、純加さんと喧嘩しました。私からクロイツを投げ返そうとして……店長に止められたからうやむやになってますけど。それ以来……一言も話してなくて……」

「……そっか……」

 

 ここまで話すだけでも所々、躓くように時間をかけてしまったから。

 聞いている方も愚鈍な語りに苛立ちが大きかったはず。

 でも寧々さんは最低限の相槌をうち、静かに聞き届けてくれた。

 そんな寧々さんの優しさに心底助けられてか、油断したら涙が出そうだった。

 

「大体分かったつもりだよ。白鷺さんと綾小路さんが仲違いしてるのに、それを放って新人にばかり構ってる純加に怒ってるんだ」

「……怒ってる、というか。いつもの純加さんならとっくに何とかしようと動いてるから、らしくなくて納得がいかないというか……」

「まぁ、それも要は怒ってるのと同じ意味だと思うけど」

「…………」

 

 正直その辺りの細かいところはそっとしておいてほしかった。

 

「思ったんけど、そもそも白鷺さんたちが仲悪くなったのはなんでだろうね」

「……それが、分からないんです。ひめちゃんも心当たりないみたいで……」

「そっか。綾小路さんから話は聞いた?」

「私は聞いてないです。さっき話した新人の夏八木さんが矢野さんと仲良くて。その人なら知ってると思うんですけど……」

「それならその子に聞けば原因はいくらか分かりそうじゃない?」

「そう、ですね……」

  

 私は前みたいに夏八木さんを毛嫌いしてないしどちらかと言えば部分的には信用してる。

 でも手を取り合って協力しようと思うほどじゃなかった。

 それに……

 

(確かに夏八木さんと協力すればひめちゃんと矢野さんの仲を戻せるかもしれない。でもそしたらひめちゃんを独占してるこの状況も終わっちゃう、よね……)

 

 今までも何とかしようと思ったことはあったけど。

 ネックになってる点もあって、結局足踏みしてしまう自分がいた。

 ここまで考えて、純加さんを怒る割に自分は何もできなかったことを改めて思い出す。

 でもそれを素直に認めるにはまだ意地が邪魔していた。

 

「……ねぇ、その新人の子はみんなと仲良くなったんだよね?」

「え? はい……」

 

 私はあんまりですけど、とはなんとなく言わないで置いた。

 

「……まぁ、考え過ぎか」

「考え過ぎ、ってなんですか?」

「雨宮さんも知ってるでしょ? 昔私と純加と……葉子さんの間にあったこと」

「……はい」

 

 詳しくは思い出したくもないけど。

 魔女のような女が2人の姉妹関係を遊びで壊した、という禄でもない話だった。

 

「新人が店に溶け込んだ途端、姉妹関係が徐々に壊れていく……なんて。あのときと似てるなって思ってつい、ね」

「…………」

 

 それはありえないはずだった。

 五影堂さんがそれをしたのは、恋愛を楽しむため。

 夏八木さんは純粋にみんなと仲良くなろうとしてたはず。

 あの魔女のような邪さがあったら、私やひめちゃん、純加さんの誰かしらが気づく。

 でも私とも仲良くなろうとした彼女からは、欠片も悪意や裏の思惑を感じなかった。

 夏八木さんはあの女とは違う。あんな、人を弄ぶように笑わない。

 そもそも、納得のいく理由が思いつかない。なんで姉妹の関係を壊そうとするのか。

 そのためにあれだけ必死に仲良くなろうとした、相応の理由が。

 

「やっぱり、流石にないと思います」

「だよね、ごめんごめん。純加がまた妹と喧嘩別れになるかもって考えたら……どうしてもあのときのこと考えちゃって」

「寧々さん……」

「あんなこと、そうそうないよね。その新人が純加のこと好きならありえるかもだけど」

「純加さんのことを……?」

「だって今、雨宮さんと純加は喧嘩別れ寸前なんでしょ? もしその子が純加のこと好きなら、今の状況は絶好のチャンスじゃない?」

 

 寧々さんの恋愛脳な一説を聞きながら、私は彼女が入った当初からのことを思い返す。

 そもそも夏八木さんが最初から仲良かったのは純加さんで。

 そして、遊びにいったときには呼び方も変わるくらいの仲になってて。

 今は純加さんとほとんどずっと一緒にいて、昨日も今日もとびきり()()()()()していた。

 サロン係が彼女の嫌う不和だらけで、いい気分のはずかないのに。

 目を逸らそうとしてたことが、もしかしたら重要なサインかもしれなかった。

 

(あ、あれ? でもひめちゃんたちが仲違いし始めた頃は矢野さんと一緒にいることが多かったし。今だって営業中矢野さんと絡むことも……いや。それも今は純加さんとほどじゃ、ない……?)

 

 一貫性があるような、無いような。

 微妙な関係性の変化に彼女の立ち位置が見えづらい。

 そもそも純加さんと結ばれるためだけにどうしてここまでするか、が謎過ぎて説明がつかない。

 私達の関係を全部知ってたならまだ分からなくもないけど、つい最近入ったばかりの新人がそんなこと知るはずない。

 

 でも仮に。今の段階だと馬鹿げた妄想にしかならないけど。

 もしその動機で、夏八木さんがこの異常を画策した張本人だと仮定すると。

 納得できる部分もありそうだった。

 

『気になったんだけど、純加さんって本当に付き合ってたりしないのかな?』

 

 極めつけに、コンセプトカフェに行った日の会話を思い出す。

 普段からあまり話す仲でもないのに、わざわざ純加さんの恋愛事情を私から聞き出そうとしてきた夏八木さん。

 あのときは彼女を不自然に思わなかったけど。

 今思うと、寧々さんの勘繰りもあながち的外れじゃない可能性がある。

 ここまで考えて、彼女に抱く印象、信頼の色は少なからず変わっていた。

 

「……みやさん……雨宮さん?」

「え……あ、ごめんさない、考え事してました…」

「……まだ私はまだしばらくは戻れないし、事情もよく分かってないからこれ以上は踏み込めないけど……」

「いえ、寧々さんのおかげで少し整理ができました。ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 感謝の気持ちを、弱々しくもなんとか笑顔で示す。

 すると寧々さんも安心したように頬を緩ませていた。

 なんとなく、9月にホテル前で優しく励ましてくれた寧々さんを思い出す。

 

「……また、寧々さんに助けられちゃいましたね」

「もしかして、あのときのこと言ってる? 私は何もできなかったでしょ? 今日だって、話を聞いて思ったことを言っただけだし」

「それでも、今日は私を放っとかずに強引にでも話を聞こうとしてくれました。そこまでしてくれたから、今は少しだけど気持ちが楽になりましたし」

「……まぁ、元姉の現妹だしね。自然と構いがちにもなるよ」

 

 あのお姉様ほどじゃないけどね、と付け加えた寧々さんは澄まし顔でウィンクする。

 寧々さんらしいクールな振る舞いだなって思って、私も顔を綻ばせた。

 

 

 

 その後私達はお店を出てから別れて、今度こそ私は家に向かう。

 

 ひめちゃんの特別な友達であり、一応腐ってもあの人の——ブルーメ様の妹という立場で省みて。

 一昨日の酷い失言を償うためにも。少しはあの人に報いるためにも。

 ()()()()()()はなんとなく分かっていた。

 でも、もしそれが上手く行ってしまうと今の人間関係が元に戻ることになる。

 そう思うと、まだ()()()()()の決心がついてなかった。

 それでも。明日の放課後、それもリーベに着く前までには。

 ()()()()()()、腹を括らなきゃいけない。

 

(ひめちゃん……)

 

 先月、ひめちゃんにまっすぐ向かっていくと決めたはずなのに。

 この期に及んで、自分に都合良くひめちゃんと共存している世界を惜しく思ってる。

 

(……やっぱり、このままが続くなんて嫌ですよ……)

 

 でも、そんな甘い夢に溺れられるのも明日の放課後までだ。

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