もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
夏八木さんへの疑惑が深まっただけの話し合いの後。
今日もおかしなリーベのお仕事がなんとか終わってくれた。
明日は休みだ。
リーベから1日離れる休日が、これほど待ち遠しかったこともあまりない。
そんなことを思いながら、ひめちゃんと一緒に帰りのバスに揺られている。
「夏八木さんにも話を聞いたけど、結局何も分からなかったよ」
今日もひめちゃんに報告することにした。
ひめちゃんはまだ私が動いていたことに驚いたのか、呆気にとられた顔をしている。
「そ、そうなんだ……で、何て言ってたの?」
「原因は知ってるけど、本人のプライベートに関わるから言えない、って」
「……へー」
「別に私達は矢野さんがひめちゃんのこと……好きって知ってるのにね」
ちらっとひめちゃんの顔を盗み見る。
ひめちゃんは無表情で吐き捨てるように言った。
「その私たちにも言えない話を2人だけで抱えてるんでしょ? ならもう知らないよ、勝手にすれば」
2人だけの秘密に嫉妬してるらしいひめちゃんを見てるとこれ以上話を続けるのは心苦しいけど。
それでも聞きたいことがあった私は、少し遠慮がちに尋ねた。
「……それでねひめちゃん。矢野さんとのことで夏八木さんに何か言われたことって、あった?」
「夏八木さんに? うーん……矢野と大喧嘩してからはとくに何もないと思うけど……」
「大喧嘩してからは?」
予想してた通り、何か言われてたらしい。
ひめちゃんは言いにくそうにしながら私の方に向き直って改まった。
「……あの喧嘩する前から果乃子に愚痴らせてもらってたでしょ? あれ、夏八木さんのおかげなんだ。大事な友達が1人で悩みを抱えて話してくれないのは悲しいって。確かに私も果乃子に悩みを秘密にされるのキツいから、その通りだなって」
「…………」
(……上手くいってると思ってたら誰かに唆されてできた紛い物だったなんて……頭では違うって分かってるのに、裏切られたみたいなショックだよ……。 あのときの純加さんも、こんな気持ちだったのかな……)
朗読劇前に純加さんと恋人関係を結んだときのことが思い出される。
もちろん結果的に純加さんを裏切っていたそれと、今の話じゃ全然違うことくらい分かってる。
それでも裏の目的があって2人を結びつけた人間がいる、という点は同じだろう。
それは腹立たしくも情けないことに、私たちの喧嘩に繋がった事実が証明してる。
(……結局、馬鹿な私がまた勝手に裏切ってたんだ……ごめんなさい……)
「私は果乃子に愚痴聞いてもらってる立場だから、こんなこと馬鹿正直に言うのも違うと思ってたんだ。だから隠し事のつもりじゃなかったんだけど……」
「……分かってるよひめちゃん。私も頼ってもらえて嬉しかったよ?」
これは本心からの言葉だった。
ただし、それとは別に考えてることもある。
「そっか。ありがとね果乃子」
「気にしないで。それよりひめちゃん、明日学校もバイトもないし遊びにいかない?」
「え、いいよ! ていうか果乃子から誘うなんて珍しいね?」
「そ、そうかな? たまにはいいかなって思って……そうだ、集まる時間と場所はまた後で連絡するね?」
「うん、分かった! また明日ね果乃子!」
「……うん、また明日」
かなり脈絡がなくて不自然な切り出し方だったけど、ひめちゃんが快諾してくれてよかった。
そのうち降りるバス停が来たのでひめちゃんと別れてバスを降りる。
明日のお出かけは、こんな状況でなければ楽しみで仕方ないイベントなのに。
今回は憂鬱で気が重くなるイメージしか浮かんでこなかった。
家に帰って、自室で考え事に耽る。
ひめちゃんたちのすれ違いから始まって、それが私と純加さんの喧嘩のきっかけになったこと。
思えばあの人は私達の大喧嘩辺りから露骨に純加さんと一緒にいるようになったこと。
矢野さんの言う隠し事とやらは彼女以外把握してないこと。
表向きは仲直りのために、要所要所2人の諍いに介入してたこと。
決定打として、タイミングを見てひめちゃんを私に近づけさせたこと。
ここまで情報が揃ってれば、あとは明確な証拠さえあれば犯人を追い込むことはできる。
その証拠を掴むための計画は決めていて、既に走らせていた。
今頭を悩ませているのは、彼女がなぜそんなことをしたか、という動機についてだった。
回りくどくも私と純加さんを引き離したということは、やっぱり寧々さんの恋愛脳な発想が一番しっくりくるように思う。
事実、リーベの人間関係が壊れてるこの状況で、不仲を嫌うあの人があんなに
ただ。その動機も、彼女の取った方法も。
リーベの人間関係を裏まで知り尽くしてないと実行し得ないのだけど。
入って1か月も経たないあの人がどうやって知ったのかが分からない。
でももうその点は最悪捨て置く。
それより大きな問題は。
私と純加さんの関係を全部知ってるなら、私の立場は相手を糾弾するにはかなり弱い、と言うことだった。
(ひめちゃんが好きなのに、純加さんを振らずに恋愛を続けさせた私に責める資格なんてあるのかな……。でもこんなやり方、無関係なひめちゃんのためにも、何よりもリーベの人間関係を大事にする純加さんのために認めるわけにいかない! ……でも、こんな私じゃ……)
確証を得てからひめちゃんか、純加さんに全部話して後を託す、という選択もあるんだろう。
むしろそっちの方が合理的かもしれない。
でも——
(……やっぱりダメ。ここで逃げ出したら、私は……胸張って純加さんと一緒にいられない。自分の手で決着をつけなきゃ。また身勝手に裏切ってしまった償いとして。何より、馬鹿な私自身にけじめをつけるために……!)
疑う理由は十分。あとは、最後のピースを引き出すだけだ。
メッセージアプリを開いて、今まで送ったことのなかった人物とのトークルームを開き、メッセージを送る。
「明日、12時にこのカラオケに来てください。部屋番号はまた明日伝えます」
「どういうつもり?」
「来ないならもう勝手にしてください。ひめちゃんとあなたの仲直りのために関わるのはこれで最後にしますから。どうぞそのまま喧嘩別れしてください。ひめちゃんの元特別さん」
少し間が空く。
「私だって気持ちを整理しようとしてる。そよさんに付き合ってもらって。あなたに余計なことしてもらう必要ない」
「その人が本当にその気なら、確かに可能性はありますね」
「何が言いたいの?」
「ずっと夏八木さんに付き合ってもらってるのに、悪化するばかりじゃなかったですか? それともひめちゃんとの関係で何かよくなりました?」
返信がない。
「もうこういうやりとりも明日で最後にしましょう。あなたが本当にひめちゃんと仲直りしたいなら、逃げずに来てください」
返信はない。
本当に逃げられたら、今度こそできることがなかった。
もの凄く渋々、最後にメッセージを送る。
「来るまで待ってますから」