もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
10月28日 土曜。
今日の天気はどんより曇り空。午後から雨が降ってくるらしい。
せっかくのひめちゃんとのお出かけに水を差す……こともなく、むしろ私の心境に近しい曇天模様だった。
「お待たせ果乃子! 待った?」
「ううん、今来たところだよ」
私服のひめちゃんとしょっぱなからデートっぽいやりとりをしても、あまり気分は踊らない。
なぜなら自分の思惑通りに運べば、必ずひめちゃんの機嫌を損なうことになるから。
「ていうか結局どこ行くか決めてなかったね」
「ひめちゃん、今日はカラオケ行かない?」
「カラオケ!? 果乃子からカラオケのお誘い!?」
驚愕の表情でつっこむひめちゃん。
その驚きようは私をよく知る人なら当然の反応なので、私も文句は言えない。
「た、たまにはいいかなって……」
「どうしちゃったの果乃子? もしかして熱ある?」
「……病気じゃないし、どこもおかしくなったわけじゃないから心配しないで?」
と言ってもまだ心配するような表情のひめちゃん。
上手いこと納得させるのも面倒なので強引気味でも連れて行くことにしよう。
「ほら、最近のひめちゃんストレスたまってそうだから、いい気分展開になるかなって。予約もしてあるから、遅れないように早く行こ!」
「あ、果乃子! 背中押さなくても行くから!」
目的地は集合場所のすぐ近くにあった。
そこへスムーズに行くために私が指定した集合場所なのだけど。
店に入って受付を済まし、飲み物を持ってカラオケルームに入っていく私達。
着いた途端私はスマホでメッセージを手早く送る。
それから私達は部屋にあるデンモクをいじったり、ドリンクを飲んだりしたいた。
しばらくしてひめちゃんがしみじみしながら言ってきた。
「カラオケかー、2人で行くにしても、まさか果乃子から誘われることになるなんてなー」
「そんなに言わなくてもいいのに……」
「……ちなみに果乃子は何か歌いたい曲とかあるの?」
「ないよ?」
さも当たり前みたいに答えた。
この通り、私は歌うつもりなんて1ミリもない。
心の底からそんな気分じゃない。
「……やっぱりおかしい。果乃子、何か企んでない?」
「…………」
メッセージを送って10分といったところか。
時刻は11時55分。あの人の性格上、もうそろそろ来てもいいと思うのだけど。
「果乃子?」
「……ひめちゃん、あのね——」
本腰を入れて疑い始めたひめちゃん相手にどうやって時間を稼ごうか迷いながら口を開いたとき。
ようやく部屋の扉が開いてくれた。
「間宮さん……と、陽芽?」
「え、矢野、なんで……」
「座ってください。話し合いを始めましょう」
驚く2人をスルーしながら今日の本当の目的にかかろうとする私に、当然どちらも黙って従わなかった。
「間宮さん、どういうこと? どうして陽芽までいるの?」
「別に私と矢野さんの2人で話すなんて一言も言ってませんでしたよ?」
「……騙したのね?」
「何も騙してないですし、そっちが勝手に勘違いしただけです」
「果乃子! 私のは完全にだまし討ちだよね!? なんで事前に教えてくれなかったの!?」
「だってひめちゃん。本当のこと言ったら来なかったでしょ? 前みたいに逃げちゃうかなって思ったの」
「……だからって……」
双方の怒りに冷静に対応していく。こういう騒ぎになるからカラオケという密室を選んだのだった。
この3日間。本当に私らしくない行動ばっかりで、もうたくさんだ。
もうこれ以上続けないために、そして今までの苦労が水の泡にならないように。
ここで最低でも確証を得るまではやり切ると、決意を固くして本題に入った。
「まず矢野さん。事の発端はあなたがひめちゃんに対して態度が変わったからだと思います。それはなんでですか?」
「……また同じことを言わせる気? 陽芽が私に隠し事をするからって、前も言ったじゃない!」
「だから! 隠し事なんてしてないって、何度言えばわかるんだよ!」
矢野さんは予想通りワンパターンな反応を返し、対して隣に座ってるひめちゃんは当然怒る。
擁護してあげたいところだけど、目的の為にも腰を据えた話し合いになるよう、場を整える方が先決だった。
未だに扉付近で立たれたままの矢野さんに、いつ逃げられるか分かったものじゃないし。
「ひめちゃん。一旦矢野さんから話を聞くから。少しだけ待ってて?」
目的の証言を引き出すため、私の話にできるだけ説得力を持たせたい。
そのためには公平さを徹底しなければいけなかった。
「果乃子……?」
味方をしてもらえると思っていたのか、驚き半分ショック半分といった感じの表情のひめちゃん。
その顔にこっちまでショックに打ちひしがれそうになったけど、心を鬼にして矢野さんに向き直り話を続ける。
「なら言い方を変えます。どうして最初っからそれくらい怒らなかったんですか?」
「……どういう、ことよ?」
矢野さんも困惑した顔のまま、ソファに座って聞き返す。
きっと矢野さんも私がひめちゃんの味方に徹すると思ってたんだろう。
その虚を突くことで、少しでも落ち着かせることも狙いの1つだった。
「私の記憶だと、あなたの態度は徐々に変わっていきました。最初っからそんな風にひめちゃんを拒絶してないですよね? それはどうしてですか?」
「それは……そのうち陽芽の方から話してくれるって信じていたから……でも結局——」
「分かりました」
矢野さんの悪いサイクルがまた始まりそうな予感に私は話を遮って止める。
「でも今はひめちゃんにその隠し事とやらを問い詰めようともせず、それどころか避けてさえいますよね? それはどうしてですか?」
「……もう疲れたからよ。いくら待っても話してくれないし、はぐらかすし。姉妹の約束まで忘れて私から離れていくなら、他にどうしようも……」
「違いますよね」
「……何ですって?」
矢野さんが怒りをにじませながら睨んでくる。
それを受け流して私は続けた。
「あなたの味方をしてくれる人がいたからじゃないですか? ひめちゃんよりも都合のいい言葉をくれる、優しくて良き理解者みたいな人がいたから。ひめちゃんと仲違いしたままでもいられたんじゃないですか?」
「……それは……」
図星を突かれたんだと思う。矢野さんはさっきの怒りをすぼませて俯く。
(ここかな……)
決定的な証拠だけはなかったあの人の名前を出すなら今だ。
私の推測が外れてたら、矢野さんだけでなくひめちゃんにも非難されるとは思う。
それくらいあの人はリーベのみんなと打ち解け、仲を深めてきたから。
最悪軽蔑させるかもしれないと覚悟した上で、私は賽を投げた。