もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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53. 種を暴く

 

 

「夏八木さんが傍に寄り添ってくれたから、ひめちゃんと喧嘩したままでもやっていけた。そうですよね?」

「…………」

 

 慣れないカラオケの密室で、隣に座るひめちゃんと歌うわけでもなく。

 正対して座っている矢野さんも含めて、誰もがカラオケなんて気分になれるわけもなく。

 本当にカラオケ部屋かと疑うほど、緊迫した雰囲気が漂う中。

 

 私はついに個人名を上げて、容疑者の真偽を確かめにかかる。

 名前を出したからにはもう後には引けない。

 疑う余地はそれなりにあるのに確証が無くて密かに不安な私に、矢野さんは何も答えない。

 

「果乃子、どういうこと? なんで夏八木さんが出てくるの?」

 

 流石についていけなくなったのか、ひめちゃんがついに沈黙を破って聞いてくる。

 一旦話を整理するためにも、丁度いいかもしれない。

 

「うん。ひめちゃんたちがすれ違う頃から、夏八木さんと矢野さんの2人はよく一緒にいるようになったよね? その頃から夏八木さんは、矢野さんの言う隠し事とやらについて相談に乗ってたんだと思う。そうして矢野さんは夏八木さんを信用して頼るようになったんだよ」

 

 時系列順におさらいする体で、私の推測を話していく。

 こう言って矢野さんの反応を見たかったのもある。

 

「確かにそよさんに話を聞いてもらったり頼るようになったけど、それがどうしたというの?」

 

 矢野さんは否定してこなかった。とりあえず滑り出しは順調らしく、内心ホッとする。

 けど向こうは話が見えないらしいので、もう一歩踏み込んでいく。

 

「昨日も言いましたけど、その夏八木さんを頼って何か事態が好転しましたか? むしろより悪くなりましたよね?」

「それは彼女のせいじゃないでしょう!」

「直接的には夏八木さんのせいじゃないですね。じゃあ……もしこの状況が彼女の思惑通りだとしたら?」

「何、言ってるの……?」

 

 本気で言ってるのかと、哀れみの目を向ける矢野さん。

 私の想像通りなら、この人こそ一番憐れな被害者だと思う。

 だって、この人がおかしくなったことから始まったということは、1番最初に、それも一番酷く作用されたのはこの人だろうから。

 

「まさかそよさんが私と陽芽の仲違いを望んでいるとでも言いたいの!? そんなことあるわけないじゃない!」

「か、果乃子……流石にそれは、私も飛躍しすぎてると思う…」

 

 ひめちゃんまで夏八木さんのことを疑えないらしい。

 分からなくもない。彼女はサロン係全員と仲を深めてきた。

 その相手を今さら悪女のようには思えないんだろう。

 

「……でもねひめちゃん。この状況を一番なんとかできるのは唯一原因を知ってる夏八木さんなのに、矢野さんに話を聞くばっかりでひめちゃんに話聞いたりは一切無かったでしょう? それって本気で仲直りを望んでたらおかしくない?」

「……私に果乃子を頼るよう勧めたぐらいだから、自分は矢野に集中しようとか考えたんじゃないの?」

「例えそうだとしても、2人の仲が悪化するばっかりなのにあの夏八木さんが一切話を聞こうとしないのは違和感あるよ。私達みんなと仲良くなるために、あんなに自分から行動した夏八木さんを考えると」

「……それはそうかもしれないけど……」

 

 こう言って同意を得られたということは、やっぱりひめちゃんと仲良くなったときも私のと似てたんだろう。

 夏八木さんはきっと、愚直で一心に仲良くなろうとしてたんだ……そのときは。

 

「あのときの夏八木さんなら不格好でも、もっと足掻こうとしたはず。でも実際そんなに行動を起こしてないのは、仲直りさせたいのは上辺だけだったから、で説明がつく」

「……果乃子はそこまで疑ってるんだ」

「うん。というかね、もっと言うなら2人が喧嘩するよう仕組んだのも夏八木さんだと思ってる」

「……え?」

「間宮さん、いくらなんでもそんなはずないわ!」

 

 この状況じゃ強引気味に聞こえてもやむを得ない私の発言に、当然矢野さんは待ったをかける。

 

「そよさんが最初からこの状況を意図して作り上げるような悪い人なわけないでしょう!? 大体、仮にそうだったとしてもそよさんがそんなことする理由がないわ! 何が目的だというのよ?」

「……それについては、推測できなくもないですけど」

「一体どんな理由なら説明がつくと言うの?」

 

 友人を悪く言われることに怒り心頭なのか、明らかに納得する気配のない矢野さんに嫌なところを突かれる。

 

(……あんな恥ずかしい推測、当たってたとしても言えるわけない。しかもひめちゃんの前で……)

 

 分が悪いのは百も承知で、強行突破するしかなかった。

 

「それについては、2人の喧嘩に関係がないからここでは何も言いません」

「……馬鹿馬鹿しい。そこまで言っておいてはぐらかすなんて、どうやって信じろというの? こんなふざけた話なら来るんじゃなかったわ」

「なら、最後にこれだけは教えてください」

 

 ソファから立ち上がろうとする矢野さんへ最後の切り札を突きつけにかかる。

 できれば他にも情報を得て私の推測に説得力を持たせたかったけど。

 こうなったからには賭けに出ざるを得ない。

 間違っていたら、立て直す術は何も思いついてなかった。

 

「……何は聞きたいというの?」

 

 納得はいかないけど、これで最後とまで言われて仕方なく付き合う感じの矢野さんに、祈りを込めて問を投げる。

 

 

 

「そもそも、矢野さんの言う隠し事って夏八木さんから聞いた話なんじゃないですか?」

「…………」

 

 

 

 沈黙したまま答えない矢野さん。

 疑うような表情から、考え込む表情に変わったのを見て。

 賭けには無事勝ったんだと確信する。

 

「やっぱり、夏八木さんから吹き込まれて始まったんですね」

「吹き込むって……そよさんの言ってることが嘘と決まったわけじゃないでしょ!?」

「そう言うなら、なんて言われたのか教えてください。まさかこの期に及んで誤魔化したりしないですよね?」

「別に、誤魔化してきた訳じゃ——」

「矢野……」

 

 このタイミングでひめちゃんが口を挟んでくる。

 私的にはベストなアシストだった。

 

「夏八木さんに、何て言われたか教えてよ。……約束、覚えてるよ。私たちは、本音を言い合う姉妹であろうって」

「陽芽……」

 

 ようやくまっすぐひめちゃんを見る矢野さん。

 しばらく黙ってから、意を決したようにふざけた事を抜かしてきた。

 

 

 

「……あなたたちがバスの中でキスして、親密そうにしてるのを見たって。2人は……間違いなく恋人同士だ、って……」

 

 

 

 …………………。

 

「……はぁああ!?」

 

 私とひめちゃんの怒声が、完璧にハモった。

 言うまでもないけど、そんな夢すぎることした記憶は一切ない。

 つまり、真っ赤な嘘だ。

 ついでにひめちゃんも顔を真っ赤にして矢野さんに詰め寄っていた。

 

「急に何言い出してんの!? てかお前こそ急にキスしてきたヤツじゃん! よりにもよってそのお前が言うのかよ!?」

「わ、私だってあれ以降してないじゃない! あのときはその……舞い上がってしまった勢いというか……事故よ!」

「その言い訳は苦し過ぎるだろ!」

 

 

 必死にツッコむひめちゃんと同じくらい赤くなって馬鹿げた反論をする矢野さん。

 久しぶりに2人らしい言い合いを目にしてつい和みかけた自分に情けなくなる。

 

(あーあ……私、本当になにやってるんだろうな……)

 

「矢野さん。私たちは一度もそんなことしてませんよ? もちろん一方的にキスしたりもしてません。どっかの誰かさんじゃないんですから」

「わ、悪かったわよ! というか、本当に? だって、最近はサロンですら私より間宮さんと一緒にいたじゃない……」

「それはお前が私を避けたからだろ! 勝手に勘違いしたお前のせいじゃん! だいたい、私と果乃子をなんだと思ってんの!?」

「…………」

 

 ひめちゃんの全力の反論に、ベコっと凹みかける私の心。

 そんな私達を見て、向こうもどうやら嘘ではないと思ったらしい。不本意極まりないけど。

 矢野さんの表情は安堵する、ことなく混乱一色に染まっていた。

 

「う、うそ……だって、それが嘘なら、私達はどうしてこんなことに……それに、そよさんは……はっきり見たって断言してて、間違いないって言ってて……でもそれが嘘なら……」

「矢野……」

 

 信頼していた人に根本の所で嘘をつかれていた意味を考え出したんだろうか。

 俯いてぶつぶつ呟いてる矢野さんは明らかに取り乱していた。

 そんな彼女を、ひめちゃんは心配そうに見つめている。

 

 私はその間に、スマホのメッセージアプリを起動して連絡を送る。

 原因は分かった。私の推察が合っていたことも確認できた。

 あとは向こうからの返信が来るまで、こっちも諸々整理しておこう。

 

「ひめちゃんゴメン、急に用事入っちゃった。私はこれで帰るね?」

「えっ果乃子!?」

 

 ここで放置されるとは思わなかったらしいひめちゃんの抗議をスルーして部屋から出ようとする。

 扉の取っ手に手をかけたとき、迷いに迷った私は結局お節介を焼いてしまった。

 

「……言った通り、仲直りのためにできることはしましたから。あとはあなた次第ですよ」

 

 言い切った瞬間、同情の余地がなくもない相手を見ずに扉を開けて部屋を出て行った。

 

 ひめちゃんを部屋に残しながら廊下を1人で歩く。

 手には携帯を握っている。いつでも件の相手からの返信に反応できるように。

 

(よくもここまで散々引っ掻き回してくれましたね。これ以上は思い通りにさせませんから……夏八木そよさん)




※後書き※

次回から数話ほど、そよ視点になります。
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