もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
ここからしばらくそよ視点です。
54.
10月28日 土曜 11時30分頃
「ごめんそよちゃん! 待った?」
「ふふっ、私も今来たところです♪」
私と純加さんはライブハウス Ring の前で待ち合わせしていた。
申し訳なさそうな顔をしてる純加さんは意識してないだろうけど、まるでデートっぽいやりとりに初っ端から私の頬は緩んでしまう。
空は今にも雨が降りそうな曇天模様だけど、そんな生憎な天気も気にならないぐらいウキウキ気分だった。
「そよちゃん、なんだかご機嫌だねー。そんなに今日のライブ楽しみだったの?」
「はい、楽しみで仕方なかったんです。純加さんとのデート♪」
思いっきり笑顔で冗談っぽくおどけてみる。
でも紛い物なしの本音であった。
今日は学校からリーベやバンド全部休みだから、純加さんと2人っきりで遊びに出かけている。
昨日の終業後、ワックで2人になれたときに思い切ってライブに誘ったのだった。
かなり勇気を振り絞った割にすんなりOKをもらって拍子抜けしちゃったけど。
でも、私と2人きりで出かけるのが嫌じゃないと分かっただけでも嬉しかった。
「デートか……うん、そーだね! せっかくそよちゃんが誘ってくれたんだし、私も楽しむよ! でもライブなんて初めてだから、色々教えてね」
純加さんはデート、という言葉に一瞬だけ反応して複雑な表情になったけど、すぐ笑顔になってくれた。
大丈夫ですよ、純加さん。
あんな寄生虫女のことなんて忘れるぐらい楽しい時間に、きっとしてみせますから。
「今日のライブは知ってるバンドが多いですし、紹介は任せてくださいね♪」
胸に手を置いて頼もしさをアピールする。
今日は現役でバンドやってる私がリードするべきだからね。
馴染みのライブハウスでもあるので、おしゃべりがてら案内しながら中で受付を済ませる。
ホールに入るとちょうど時間だったのか、すぐライブが始まった。
「最初のバンドは、Poppin'Partyです。みんな同じ高校の3年生なんですって」
「へー、仲良しグループって感じで、みんな楽しそうだね!」
「去年に大きなバンド大会で入賞した実力もあるそうですよ?」
「お次はAfterglow。今度はなんと、全員幼馴染なんですって! 絆が凄いですよね!」
「そうなんだ! 幼馴染でバンド組むなんて、よっぽど厚い友情なんだねー! というかそよちゃんも良くそこまで知ってるね?」
「ふふっ、ウチのバンドメンバーの1人が大ファンなんです♪」
「あれはハロー、ハッピーワールド。……着ぐるみのミッシェルが凄い存在感ですよね!」
「あはは! 着ぐるみ着てDJしながらボーカルの子の派手なパフォーマンスをアシストして、凄い忙しそう! 色々見てて楽しいバンドだね!」
「聞いた話だと、世界中を笑顔にするために活動してるんですって。本当なら素敵ですね♪」
「最後はモルフォニカ。実はあの人たち、ウチの高校の先輩方なんです!」
「えっじゃあみんなお嬢様学校の生徒なんだ! バンドにバイオリンって珍しいけど……綺麗でカッコいーね!」
「はい。……憧れるくらい感銘を受けた同級生もいたくらいですから」
こんな感じで、私がバンドについて紹介しつつ一緒にライブ鑑賞した。
純加さんはどのバンドもテンション上げてノっていたし、素敵な笑顔で楽しんでくれてる。
そんな純加さんを私だけが独り占めしてることに、歓喜で胸がいっぱいになりながら。
ライブなんかより純加さんと一緒の時間を、想いの限り噛み締めていた。
ライブが終わった後、建物2階にあるカフェに誘う。
そのカフェもライブハウス同様、私の行きつけだった。
純加さんも二つ返事でOKしてくれたので、早速向かっている。
(ライブ鑑賞して、その後お茶して、なんか本当にデートみたい。かなりいい感じ、なのかな?)
自分でも舞い上がったこと考えてるなと思うけど、好きな人と出かけるってきっとこういうことなんだと思う。
友達との遊びにはないドキドキがあって、いつもより世界が輝いて見えて、すっごく非日常な感じ。
純加さんをいつも以上に独占してることが更なる幸せをもたらして、あまりに満たされ過ぎた私はもっともっとと欲が出始めてきた。
(デートっていえば、手を繋いだりしても良いのかな? 距離ももっと縮めれそうだし。いや流石にまだ先輩後輩の間柄じゃ早すぎ? でもなんとか自然に手を繋げるチャンスないかな?)
階段を上りながら純加さんと話しつつ、心の中では私じゃないみたいにはしゃいでいた。
ウキウキ気分で階段のすぐそばにあるカフェに入り、いつも使ってる席を指差して純加さんに向く。
「よくこの辺りに座ってるんです。ここでどうですか?」
「いいね、そよちゃんの定位置でお茶しようよ」
「えへへ、はいっ!」
私はいそいそと下座に座って、純加さんは特になにも考えてる風でもなく私の正面の席に座る。
そしてカウンターの方から私たちに近づいてきた店員さんに注文しようとして——
「……立希ちゃん……」
「そよ。……この人は?」
幸せに満ちていた世界に、ピシッと亀裂が走ったみたいだった。
今日は会うはずないと思っていたバンドメンバーを目にして、私は笑顔のまま固まる。
MyGOのドラム担当であり私と同じくCRYCHICのメンバーでもあった立希ちゃんは、ここでバイトしている。
でも、今日ここで会うのは話が違った。
「……立希ちゃん、今日バイトないみたいなこと言ってなかったっけ?」
「その予定だったけど。店長から急にヘルプ頼まれた。シフトだった人が病欠だからって」
「そうなんだ……」
固まった笑顔のままなんとか立希ちゃんと会話して、不自然な雰囲気を出さずに済んだ。
でも当然心の中はさっきまでと打って変わって穏やかじゃない。
(純加さんと一緒にいるところなんて見られたくはなかったのに……)
それも、バンドの子たちには特に。
だってこの子たちは、私の裏まで——
「そよちゃんの友達? あたしは知花純加! そよちゃんのバイト先の先輩なんだ。よろしくね!」
「あ、はい……椎名立希です。そよのバンド仲間です」
どうあしらうか、面食らって鈍くなってる頭を必死に回転させてる間に純加さんが声をかけていた。
まぁこの辺りまでなら問題ない。
でも2人とも何を言い出すかわからないから、やはり強引になってもすぐ手を打とう。
「あ、立希ちゃん。ライブのことで早めに話したいことあったよね? 今話しちゃお? ——純加さんごめんなさい、ちょっと席外しますね!」
「う、うん?」
「ちょ、おいっ……!」
立希ちゃんの腕を引いて店の奥、お手洗いの方へ無理矢理連れて行く。
拒否なんてさせないレベルで力を込めて。
「痛いって、そよ!」
「ごめんね。立希ちゃんがいると思わなくてびっくりしちゃって〜」
さっきまで純加さんに向けてたモードからすぐには切り替えられず、にっこり外面笑顔の私に立希ちゃんは唖然としたような顔を向けていた。
何考えてるか知らないけど、こっちの要件を済ましにかかる。
「す……先輩が言った通り、今日は遊びに来ただけなの。だから放っておいて欲しいな〜」
「お前……なんで私にそんな笑顔で取り繕った話し方してんの……本当に前までのそよまんま——」
「言い直すね。——余計なこと、先輩の前で口にしないで。私も今日は立希ちゃんに絡んだりしないから」
口角は上げたまま、目つきを鋭くして黙れと訴える。
正直この子は比較的干渉しない方だとは思うけど、妙な勘繰りして余計なこと言い出しかねなかった。
夏からの立希ちゃんは、メンバーみんなと向き合おうとしてたから。
今の私には、煩わしいことこの上ない。
「……分かったから」
「じゃ、改めて注文お願いしまーす♪」
ニコニコ笑顔を作って、一緒に席に戻るよう暗に伝える。
気まずそうに私から顔を逸らしてる立希ちゃんとしてはここで別れたいだろうけど。
私たちは注文しなきゃいけないんだから、ここで仲良く戻らないと私の体裁に関わる。
私は仏頂面の立希ちゃんを連れて、純加さんの元へ軽い足取りで向かって行った。