もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
私の勝手で1人にさせてしまった純加さんの元に、立希ちゃんを連れて戻る。
席に座りながら、申し訳なさそうな顔で適当に作った言い訳をスラスラ吐いた。
「純加さん、お待たせしました! ライブの大事なところの打ち合わせなので、あまり人に聞かせれなくて……」
「あ、分かる! ライブってやっぱサプライズ感大事だよね! さっきのライブ見ててめっちゃ思ったよー!」
「そうですね、盛り上がりに凄く関わりますよね! あ、立希ちゃん
「じゃあたしも同じので!」
「……アールグレイホット2」
これだけのために付き添わせた立希ちゃんは、仏頂面でオーダーを繰り返すとカウンターへ戻って行った。
バンドメンバー以外の人もいるのに振る舞いのなってなさ。接客が苦手なのは相変わらずらしい。
でも今は立希ちゃんのことなんてどうでもいい。
さっきのライブの話題から話を盛り上げて、次のデートに繋げる突破口を探さなきゃ。
そんな算段で口を開きかけたところで、先に純加さんが話し始めた。
「ありがとね、そよちゃん。今日誘ってくれて」
「いえ! 私が純加さんと来てみたかっただけなので、そんな気にしないで——」
「分かってるよ。最近のあたしが不甲斐なくて、元気づけようとしてくれたんでしょ?」
「……え?」
眉を下げて力無く微笑む純加さんは、なんだか自分を情けなく思ってるみたいだった。
たぶん純加さんは陽芽ちゃんたちの仲違いに何もできず、それどころか自分達姉妹すらサロンで絡まなくなったことを言ってるんだと思う。
リーベの人間関係を大事にする純加さんとしては、解決どころか問題事を増やす自分が許せないんだろう。
対して私が純加さんをライブに誘った口上は
『ライブ見に行きませんか? 結構人気のバンドが揃ってて、盛り上がること間違いなしなんです。きっと純加さんも気にいると思うんです♪』
だった。
私は純加さんの心境を慮るつもりて誘ったわけじゃない。
でも確かにいきなりといえばいきなりだし、純加さんがこう勘繰るのも当然かもしれなかった。
(……でも私は、そんな気を遣って誘っただけみたいな余所余所しい理由じゃなくて。本当は純加さんともっと仲良くなりたくて……)
「……あはは、純加さんにはやっぱり敵わないですね。これで本当に元気出てくれればいいんですけど……」
やっぱり本音を言えなくて、ずるい私は純加さんの勘違いに甘んじて乗っかってしまう。
「もっちろん! めっちゃアガったしさー、また行きたくなったよ!」
「本当ですか!? よかったー、また良さそうなライブ見つけたら誘いますね!」
「そーだなー、今度はそよちゃんのライブが見たいかも! リーベのみんなで見に行くよ!」
「……えー、恥ずかしいですよ〜」
純加さんの中では私と2人じゃなくても良いらしく、内心ガクっとする。
実際純加さん含めてリーベのみんなにライブ来てもらうのを想像するのは気が引けた。
——今の状況だと、特に。
「いいじゃん! バンドしてるそよちゃん、絶対カッコいーって! 楽しみにしてるから!」
「……純加さんがそう言ってくれるなら、頑張りますね♪」
後ろめたい気持ちに襲われかけたところを純加さんの明るい笑顔が吹き飛ばしてくれた。
つられるように私も微笑む。
この人にそんなこと言われたら、断れないな。
照れるような嬉しいような、くすぐったい気持ちに浸っていると立希ちゃんがお盆を持ってこっちに来てるのが見えた。
顔が緩み過ぎてる自覚がある私は、表情に意識を走らせて見栄えの良い笑顔を作る。
「お待たせしました。アールグレイ……」
「ありがと! 立希ちゃん、だっけ? 今度のライブ、応援してるね!」
カップを置く立希ちゃんへ、純加さんがフランクに励ましてくれた。
なのにせっかくの純加さんの応援を、立希ちゃんはガン無視していつまでも返事しないのが私の気に障る。
立希ちゃんに向き直り、笑顔のまま圧をかけにいく。
「立希ちゃん? 好意で応援してくれてるのに無視するのは流石に——」
「……なんであいつが、あいつらが……」
立希ちゃんが驚愕の表情で固まったままカフェの入り口の方を向いていた。
彼女をここまでびっくりさせる存在に私は驚いて、立希ちゃんに倣ってカフェ入口に顔を向ける。
「今日はライブ会場の下見に来ただけと、言ったはずでしてよ」
「たまにはいーでしょー親睦会ってことで! にゃむちが奢ってしんぜよー」
「そうですか。ゴチになります、にゃむち」
「清々しいほど躊躇ないね、海鈴ちゃん……」
「…………」
私たちと同い年くらいの5人組の女の子たちがカフェに入って来てる。
その中で立希ちゃんが誰のことを言ってるのか、すぐに分かった。
私たちは——私と立希ちゃんは、中心にいる水色のロングヘアーで左右をリボンで結んでいる子が、この建物にいることが信じられない。
だから私も、立希ちゃんと同じ台詞が口をついていた。
「なんで……さきちゃんが、ここに……」
たぶん、私はこの子を色んな意味で一生忘れられないんだろう。
私たちを集めてCRYCHICを作った張本人で、やがて壊れるきっかけになった、張本人。
そのさきちゃんも私たちに気づいたみたいに目を見張った。
その瞬間即座に踵を返して無言でカフェから出て行く。
「え、さきちゃん急にどうしたの? 待って……!」
残った4人の内、サングラスをかけた1人が慌てて追いかけて、紫髪と黒髪の2人も顔を見合わせた後追いかけ始める。
残ったのは、さきちゃん以外で私たちと唯一顔見知りの女の子。
CRYCHIC崩壊の、最後の決め手になった子だ。
あれからも色々噛み合わなくて、今ではどうしても許せなくなってしまった子は、さきちゃんを追わずに何故かこちらに寄ろうとした。
「そよ——」
「睦ちゃん。さきちゃんのこと心配でしょう? 追いかけてあげて?」
どういうつもりか、なんて関係ない。
一瞬でも早く、自然に去ってもらうために笑顔で優しく突き放した。
純加さんの前でなければ、こうして話したくもないほどだから。
「…………」
相変わらず感情の読めない、リーベのあいつ以上な無表情を終始貫いてた睦ちゃん。
少し私を見つめてきた後、無言で店から出て行った。
「あの人数でライブハウスに来るなんて……まさか祥子のやつ、あんなことしといて——」
「立希ちゃん。仕事に戻らなくて大丈夫?」
自分からバンドを壊してまでやめたのに、なぜ集団でライブハウスに来たのか。
状況から当然予想できる可能性を聞きたくもなくて、私は反射的に立希ちゃんを遮った。
何か言いたげに私を睨んだあと、しかめっ面のまま黙ってカウンターへと戻って行く。
「そよちゃん……」
明らかに普通じゃなかった一幕に、心配そうに声をかけてくれた純加さん。
ずっと純加さんを置いてけぼりにしていたのは分かっていたけど、それを気にしている余裕もなかった。
気を遣わせないよう、誤魔化さないと。この張り詰めたような空気をどうにか変えていかないと。
私はとにかく笑顔を取り繕って、無難に濁そうとする。
「えっと、今のは私たちの知り合いがいて……」
「もしかしてだけど、昔の……CRYCHICの……?」
でも結局純加さんに勘づかれて、強がれなくなってしまった。
その隙を突くようにドロドロとした何かが湧き上がり、顔を見られないよう俯く。
時間と共に様々な感情が混ざって、もはや正確には言葉にしづらい胸のわだかまりを、ギュッッッと圧縮して吐露する。
「……勝手にCRYCHICを壊して、勝手に去った……元、メンバーたちですっ……!」
1年以上煮込んで濁った想いは、思っていた以上に毒のある発言になってしまった。
おまけに純加さんの前なのに歯噛みしてる自分を隠そうともしてないことに気づいて、ここまで私の内面を曝け出してることに自分で驚く。
こんな嫌な態度、いつもなら誰にも見せないのに。
私は前から純加さんにCRYCHICをはじめとして色々吐きだしてきた。
だから、甘えるのに慣れて素直になり過ぎたかもしれない。
恨みがましいこと言って純加さんに嫌な印象持たれたくなかったのに。
なのにその理性に反して、きっと純加さんなら許してくれるからって。
受け止めてくれる優しい人だからって寄りかかりたい私もいた。
(この人は……純加さんは、どのラインまで甘えても受け入れてくれるんだろう)
好きな人にどこまで優しくしてもらえるのか知りたくて。
もっと言うと。
純加さんの優しさを体感していって、いずれ同じ優しさを手に入れて、そして純加さんにもっと近づきたいから。
私は伺うように純加さんの反応を待っていた。